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RE:スタート

*今作から読んで頂いてもこれまでの話に追い付けるように製作しておりますので、今作から読み始めて頂いても一向に構いません。よろしくお願いします。

………………………


何とかフェイズ2まで移行することが出来た…これも全て”ボス”のおかげだ…


全て予定通り…扉は開き、もう閉じる事はない…


もう少し…もう少しで、”1O N1”が体現される…



______________________________




『きゃーーー誰か〜誰か助けて〜』


ここは、ハムバス大陸に存在する巨大な街『ミコット』…この街はハムバス大陸の中でも指折りの防塞が備わった巨大な街である。しかし…たった今、1匹の魔物によってこの街が壊滅的寸前にまで追い込まれていた…


勿論、この街に暮らす多くの兵士・冒険者がそれぞれ強力な武器を手に取り、その魔物に挑んでいった…しかし現実は残酷で、その殆どの人間がその魔物によって返り討ちに合ってしまった…


返り討ちにあった全ての人間は最初にその魔物を目にした時、誰もが自身の脳内のその言葉を頭に過らせた。それは…



『なんだ!ただのスライムじゃないか!』



そう…このミコットの街を崩壊寸前まで追い込んだ魔物の正体は1匹のスライムであった……



ー スライムとは、この世界の魔物の中でも特に下級に分類される魔物の種族である。スライムは、ゼリー状で軟体な体を持ち合わせ、可愛らしい容姿と闘争心の少ない魔物とし有名であった…


そんな誰もが脅威に感じていなかったスライムに、この街は壊滅状態にまで追いやられてしまった…


”凶悪なスライム”は、最大の特徴である軟体な体を最大限に利用し、この街の防壁に存在する小さな隙間に入り込みそのゼリー状の体を『ニュルっと』潜り込ませた。その後、人間の頭ほどの大きさののスライムは、この街に溶け込みながら最後まで警備隊に見つかる事なく鉄壁であった街の防塞を難なく突破して見せたのであった…




そして、難なくミコットの街の防塞を突破した”凶悪なスライム”は、東側の広場でこの街で最初の人間と遭遇する事となった…




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『!?』


「あら、スライムじゃない!もしかして偶然この街に紛れ込んだの?…ほら、君!さっさとこの街から出て行かないと、この街の屈強な男達にコテンパンされちゃうよ!」


…スライムを見つけた女性の対応は決して間違ってはいなかった…そう…そのスライムの瞳の色を確認するまでは…


『ゴゴゴ……』


「あら?なんかこの子…私の知っているスライムとはちょっと違うかも知れない…そもそも、スライムってこんな瞳の色してたかしら…こんな真っ赤な瞳をしたスライム見た事ないわ…」




街の住人が偶然居合わせたスライムの素性に違和感を覚えた時、事件は起きた…突如、真紅の瞳を持ったスライムは、高温かつ激しい炎をこのミコットの街に放ったのであった!



『ブォォォォ………』



『きゃーーー誰か〜誰か助けて〜』



なんと”凶暴なスライム”によって放たれた炎のブレスがミコットの街を一瞬で火の海へと変化させてしまった…



ー 突如発生した街のトラブルに、ミコットの警備を任されていた兵士やこの街で休養していた冒険者達が炎のブレスが放たれた現場に続々と集まってきた…



「一体何が起きているのだ…鉄壁の街と呼ばれたこのミコットの街に炎が放たれるなんて、これは何かの間違いでは無いのか?」



ミコットの街に関わる人間はこの街の防塞に絶大な信頼を置いていた…そんな安全が約束されたミコットの街に”凶暴なスライム”の潜入を許してしまった事案をキッカケにこの街、もといこの世界の防塞に自信があった街や国に恐怖を植え付けさせたキッカケとなった出来事となった。



「一体誰がこんな酷い事を…ん?…あんな所にスライム…ま、まさか…あのひ弱なスライムがこんな事をするんて考えられない…そもそも水の魔属を所持したスライムが水魔と相性の悪い火の属性を持った特技を披露するなんて聞いた事ない…やっぱりこの街に火を放ったのは別の魔物なんじゃないか…」


『ザワザワ…』


この街に集まる手練れの兵士達は、既に能力の全貌を解き明かされているスライムの情報を元に、このミコットの街に火を放った犯人が目の前にいるスライムでない事決めつけてしまっていた…その後、一人の屈強な大男がこの場に集まった人間達の先導を切るように、大声でこの場に集まった手練れ達に指示を促した。


『ガッシャン!ガッシャン…』


「まず判明した事は、この場所には我々が探し求めている犯人は存在しない!しかし、目の前にはこの街に存在してはいけない魔物が居るのは事実…まずはこの私…ミコットの街の防衛団団長『ユージーン』がこのスライムを討伐して見せよう!そして、見事私の勝利が確定したその時…この場に集まった勇敢なる人間は私の指示の元、この街に火を放った犯人を一緒に見つけ出し、私と共に犯人を討伐して欲しい!さぁ…一緒にこの街を救おうではないか!!」


『うぉぉ!!』


鋼の甲冑を身纏った街の防衛団長を名乗る兵士『ユージーン』は、所属がバラバラな手練れ達をまとめ上げる為に、まずは彼らの目の前にいるスライムを討伐する事により、この街に火を放った犯人への宣戦布告の狼煙を上げよう考えていた。


『スタスタスタ…』


「迷子のスライムよ…悪いが、我らの目的意識を一つにする為の犠牲になって貰うぞ…では!」


スライムに対して勝利を確信していたユージーンは、不本意に真紅の瞳を持ったスライムに近づき過ぎてしまった…その結果、ユージーンはこの街で発生した大混乱の引き金を引く役割となってしまった…


『バッカ……バック……ムシャムシャ……』


『!?!?』


「う…嘘だろ…ま…丸呑みにされた」


『…ペッ!』


何と真紅の瞳を持つスライムは、一瞬で大柄なユージーンの丸呑みにしてしまった…その後、スライムはユージーンが被っていた鋼の兜だけを吐き出すと、その兜を器用に自身の頭に装備して見せた…


『シャキン!』


「スライムが人間のアイテムを装備しただと…一体あのスライムは何者なのだ…もしやこの街に火を放ったのはあのスライムなんじゃ…」



『ザワザワザワ…』


突飛な行動を行ったスライムを目の当たりにした手練れ達は、一斉にスライムに対して緊張感を持ち始めた…そんな中、一人で冒険者がスライムの瞳の色が真紅である事に気がついた。


「ちょっと待てよ!あのスライム…瞳の色が真っ赤じゃないか?」


『ガヤガヤガヤ…』


「もしかしてあのスライムは、噂に聞く”凶暴化”した魔物なのか?」



予想外な行動を繰り返すスライムの正体が、今この世界で徐々に増えてきている魔物の凶暴化である事にやっと気づく事が出来た…時はすでに遅し…この場に集まっていた多くの手練れ達は、そんな凶暴化したスライムの真の力をこの身で味わう事となってしまう…


『シュゥゥゥ………』



スライムは突如、大きく息を吸い込むと、その強力な吸引力によって辺りに集まった手練れ達を一気に自身の体内に吸い込んでしまった…


『うあぁぁあ……』


「う…嘘だ…あんな大柄な男達が8人もあのちっちゃなスライムに吸い込まれてしまった…何なんだあの化け物は……」



『グググ…』


大量の人間を取り込んだスライムは、人間の魔力も同時に吸収し、自身の体力やMPを回復していた。その後、先程よりも広範囲かつ高出力の炎のブレスをもう一度ミコット街へ解き放ち、残っていた手練れ達を一瞬で焼き払ってしまった…



『ブオォォオオオーーーン』


凶暴化したスライムは、自身の放った最大出力の炎のブレスによってこの場に集まっていた全ての人間を一掃した後、何かに導かれる様にまだ侵略が進んでいないミコットの街の西エリアに移動を開始した…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



避難する住民の怒号や悲鳴が鳴り響くミコットの街…そんなミコットの街の中でもまだ凶暴化したスライムの魔の手が伸びていない西エリアの武器屋の前で、顔を隠した謎の二人組が『クローズ』と書かれた看板が取り付けられた武器屋の扉を何回もノックしていた…


「おーい!開けてくれ〜」


『………』


「中に店主がいることは分かってるんだ!」


『……………』


「金ならいくらでもあるぞ〜!」


「…」


「しょうがない…この扉をぶっ壊すした手段はないか!」


フードを被った二人組の内の一人である、若めの男性が応答のない武器屋の扉を蹴り飛ばそうとしたその時…


『ギィぃぃ…』


『!?』


「おっとっとっと…」


『ガッシャン!』


突然、武器屋の扉が開放された…青年は扉を蹴り飛ばそうとした勢いそのままに武器屋の中に転がり込んでしまった…


「イテテて…ったく、扉を開くならもっと早く開いてくれよ!こっちは客だぞ!」


武器屋の中で倒れ込んだ青年は、目の前に立ち尽くす武器屋の主人に小言を言いながらゆっくりとその場から立ち上がった…


「!?…アンタこの前、別の武器屋でもお会計をしていなかったか?そもそも武器屋の店主は君であってるのか?」


青年は武器屋の店主である女性の顔を見るなり、別の街の武器屋の店主の顔を思い出していた。


「それは私とは別の姉妹の事ですね!そもそも私達姉妹は、この世界で武器やアイテムを製造している『ウェロー社』から全世界の武器屋に派遣され、各地の武器屋の管理を任された一族の人間なのです」


『………』


武器屋の店主から武器屋の形態についての解説を聞いた青年は、何か思う事があったのか、急に黙り込んでしまった…


「所で、お客様!今買い物をされている余裕など無いと思います!…今この街に、強力な魔物が出現したとのニュースが入って来ました。失礼ながらお客様達は普通の旅人…買い物よりもこの街から早く避難した方が賢明だと思われます…丁度、私の荷造りも完了した所だったので、もし宜しければ一緒にこの街から避難しましょう…」


武器屋の店主のごもっとも意見を聞かされた青年は、先程まで黙っていたのが嘘の様に流暢に自身の見解を武器屋の主人に説明した。


「それなら話は早い!俺たちは丁度その魔物を討伐しに行こうと思っていたんだ…しかし、敵と戦うにも今の俺たちが所持しているアイテムの数じゃ強力な魔物と対峙するには心許無い…だから、ひとけのあったこの武器屋を発見した時は、自分達の運の良さに歓喜していたんだ!」


今まさに魔物の脅威に晒されているこの街の手助けをしてくれと言う青年の主張に感銘を受けた店主は、ひとまず青年達に詫びを入れると、自身の武器屋で販売している武器の在庫についての説明を申し訳なさそうに説明してくれた…




「なるほど、貴方様は冒険者様でしたか?先ほどはただの旅人と勘違いしてしまい申し訳ありませんでした。ですが…冒険者様ならご存知でしょうが、今この世界では武器が不足しております…理由はわかりませんがこの世界の民達が突如、武器屋で販売されている武器を買い占めるという衝動に駆られてしまったからなのです…」



『ニッコ』


「あぁ、勿論知っているとも…でも大丈夫!俺たちが欲しいのは、剣でも盾でもないんだ!俺が今一番求めている道具は………だから!」


店主は青年の口から飛び出した”その”道具の名前を聞くと直ぐにとある人物の名前を思い浮かべていた。



「……ですか?もちろん在庫はございます!誰も手を付けないあの様な珍しい道具を買われるという事は、もしかして…お二人の正体は…」


「シーー!」


『!?』


「そうです、その通りです!しかし、我々には特別な使命があります!その為、我々がこの場所に訪れた事は内密にお願いしますね…」


突如、今までずっと黙っていた冒険者の一人が徐に喋り出した。そして、自分達がこの場に現れた事を口外しない様にと武器屋の店主に口止めをした。



その後、武器屋の店主は正体が判明した謎の人物の助言を素直に聞き入れ、青年が指定した道具を在庫分の全てを青年に受け渡した…


『カランコロン…』


謎の二人組が武器屋を後にしたその後…武器屋の店主は二人組の正体を知り得た事により、街から逃げ出す事を撤回する事を心に決めた…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ー 凶暴化したスライムがミコットの街を破壊し始めて20分後…街が夕暮れに染まり出した頃、スライムは街の西エリアに存在する噴水広場に辿り着いていた…



噴水広場には、既にスライムを待ち構えていた手練れ達で溢れかえっていた…



「これだけの戦闘員が居れば、凶暴化したスライムなんて怖くも何ともないぞ!」

「これ以上この街を侵略されてたまるか!」



大勢の手練れ達は、失った仲間達の想いを受け継ぎ、これ以上凶暴化したスライムにこの街を破壊されまいと一致団結していた。


そんな手練れ達の目の前に、とうとう鋼の兜を被った1匹のスライムが姿を現した…


「あれは、ユージーン団長の鋼の兜…クソ…舐めにやがって…敵の大将の男の首をとったつもりか!」


鋼の兜を装備したスライムは、大勢の手練れ達を見つけた瞬間、途轍もないスピードで手練れ達の群れに突っ込んでいった。


「スライムが攻めてきたぞ〜」


スライムはその小さい体と驚異的なスピードを活かして多くの手練れ達を翻弄していた…


「何というスピードだ!しかも、ジグザクに動きながら、俺たちの中に侵入して来やがった!後衛の皆んな気を付けろ!敵はどこに潜んでいるか分からないぞ」


何とスライムは戦略的に敵の軍勢の中に侵入し、敵の目を誤魔化しながら敵の内部から一気に攻め落とすといった作戦を遂行していた。


『ドカン!ドカン!』


手練れ達は、スライムの想定外のスピードと仲間が近くに集まり過ぎている事が悪い方に転じてしまい、ただただ何もする事が出来ないまま凶暴なスライムに倒されて行くしかなかった…



そんな中、手練れ達相手に無双を繰り返していたスライムの動向を噴水広場の近くのとある建物の屋上で、謎の二人組がこれから手合わせをするであろうスライムの戦い方をじっくりと観察していた…



「あのスライムは直ぐに頭を働かせ、密集した敵に突っ込んだ…その結果、敵が味方に攻撃を当たらない様に気を遣いながら攻撃しなくてはならない、という行動を意図的に演出させた…その後、スライムによって攪乱された手練れ達は、スライムに一度も反撃する事なく、あっという間に凶暴化したスライムに殲滅させられた…」



「あのスライムは、元々のスライムが所持している”軟体ボディ”というスキルに驚異的なスピードとスライム覚える事のない火属性の炎のブレス攻撃が使用出来る、世にも珍しいスライム…そしてあの戦略…まさしく敵も進化している…そんな真紅の瞳を持ったあのスライムは、現時点で”最強のスライム”と言っても過言でない…敵ながら奴の存在は驚異でしかないな…」



「だが俺たちはあのスライムを倒さなくてはならない…そう、誰でもない俺たちであの最強のスライムを倒さなくてならない…まさにこれは天命だ!」


ただならぬ決意を固めた謎の青年は、自身の隣で明後日の方向を眺めている謎の人物に合図を送ると、謎の人物は何の躊躇も無く建物の屋上から地上に向かって飛び降りていった…


建物の屋上から謎の女性が飛び降り事を確認した青年は、徐に自身のポケットから謎の白い端末を取り出すと、端末の画面を器用に左手で操作しながら、謎の女性と同じ様に建物屋上から飛び降りていった…


『ヒューードン!!』



『…………』



地上から約20メートルほどの高さの場所から飛び降りて行った謎の二人組は、何事もなかったかの様に地上に着地してみせた。


「丁度、終わった所か…そしてコイツが、実物の最強スライム…小さい見た目に反して、奴からはただならぬ覇気がビンビン感じられる…」


地上に降り立った青年は、スライムによって崩壊された噴水広場に人間がひとっこひとり居ない事を確認すると、自分達を敵として認識したばかりのスライムに対して睨みを効かせていた。


『ポチポチ…』


その後、謎の青年は自身が操作していた白い端末の先端から手のひらサイズの異次元空間を出現させた。そして、青年は徐にその異次元空間の中に自身の右手を突っ込みながらゆっくりと瞼を閉じた…


『パッチ』

『スッ!』


それは一瞬の出来事であった…青年が瞑っていた瞼をあっという間に見開くと、それと同時に異次元空間に突っ込んでいた自身の右手をガンマンの早撃の様に引き抜いて見せた…


『ゴロゴロゴロ……パッりん!』


青年が”とある”何かを異次元空間から取り出すと、崩壊した噴水広場を含むスライム・謎の二人組を取り囲む様に無数の雷が出現した。その後、青年が取り出した何かは一瞬のうちに粉々に砕け散ってしまった…


『バリバリバリ…』


雷で出来た牢獄の様なフィールドに閉じ込められたスライムは、周りに張り巡らされた雷に少し怯えている様な素振りを垣間見せていた…


「どんなにお前が最強でも、お前がスライムである事に変わりは無い…そう…お前の弱点は雷魔だ!」


青年の指摘通り、どんなにスライムの能力が強化されたとしても、敵が生まれ持った種族には大きな変化は起きていなかった。


「水族のお前は、弱点である雷属性の魔力が籠ったこの『サンダー・プリズン』によって、弱体化と共に常に雷魔のダメージを負いながら俺たちと戦わなくてはならない…残念ながらお前も自分の限界を越える事は出来なかったんだよ…」


辺り一面に無数の雷が飛び交うフィールドが出現した事により、先程まで無双状態が続いていたスライムの高速移動に制限をもたらす結果となった。そんな弱体化した凶暴化スライムに対して謎の青年は敵であるはずのスライムに何故か感情移入をしていた…


「『サンダー・プリズン』の影響によりお前のステータスはすべで減少した筈…後は、お前に雷魔法を何発か喰らわせればこの戦いは終わる…」


真紅の瞳を持つスライムは、辺りを飛び交う雷の影響により思う様な動きが出せずにもがいていた…しかし、弱ったスライムはまだ諦めてはいなかった…ピンチに陥ったスライムは自身のゼリー状の体を上下に動かして、体の内部を操作しながら反撃のチャンスを窺っている様だった…


「ん?…もしかして、何かを企んでいるのか?」



『モコモコモコ…』


…青年の悪い予感は的中してしまう…スライムは自身の上下運動がひと段落すると、一旦大きく息を吸い込み、自身の口から無数の”雲”を出現させた。


『!?』


「雲魔法だと!アイツ、体内で水魔と火魔を融合させ雲魔法を生成する事ができるのか?…だとすると、マズイぞ!」


スライムから放出された無数の白い雲は、周囲に張り巡らされた無数の雷を受動的に吸い寄せ、青年が発生させたサンダー・プリズンをかき消そうとしていた…


『モクモクモク…』


「サンダー・プリズンによって発生した雷達が雲に存在する水分に引き寄せられている…」



サンダー・プリズンから放たれた雷を吸収し終えた白い雲は、徐々にその見た目を変化させ、最終的には全ての白い雲は黒雲へと変貌を遂げていた。


「やられた…まさか雲魔法によって雷をすべで吸収してしまうとは…敵は予想以上に頭がキレるスライムだったみいだな…」


臨機応変にその場のドラブルに適応してくるスライムに対して、改めて青年は自分の言葉を撤回した。


「やられたよ…お前に限界はない…何よりお前は自由だ!」



「…だが、お前の結末は変わらない……それは俺がお前よりも自由だから…そう、勝つのは俺だ!」



謎の青年は、スライムの未来を切り開く能力を賞賛した上で、自分はその上を行く存在のなのだと高らかに宣言した!


凶暴化したスライムは青年の言葉が理解できるのか、自身を挑発してきた生意気な青年に対して、その真紅の瞳を突き刺す様に睨みを効かせた。



その後、怒りを露わにしたスライムはその場で大きく息を吸い込むと、自身の体をブルブルと震わせながら、先程吸い込んでおいてミコットの街から誕生した膨大な量のガレキを青年達に向けて吐き出して見せた。



『ドバドバドバ』



『!?』



それは一瞬の出来事であった…スライムが放出した大量のガレキによって、謎の二人組を一瞬の内にガレキの下敷きとなってしてしまった…しかし、謎の二人組はスライムの予想外の上の予想外を既に仕掛けていた。


「やっぱり、凶暴化に恥じない暴れっぷりだな!でも、何ら予想外じゃ無い!俺たちが本当の予想外を教えてやるよ!」


『!?』


何と、ガレキの下敷きとなった筈の謎の二人組が山盛りとなったガレキの上に立ち、地上にいるスライムを見下すように挑発を繰り出していた。


『シュッツ』


凶暴化したスライムが謎の二人組の行動に呆気に取られているうちに、ガレキの上に立っていた筈の謎の青年が一瞬で姿を消していた。


『!?』


消えた謎の青年は、無謀にも凶暴化したスライムの目の前に姿を現した。


謎の青年も脅威的なスピードを披露したスライムに引けを取らない圧倒的なスピードを披露し、スライムとの距離を一瞬で縮めると、左手には白い端末・右手には謎の魔石を持ち、謎の魔石を持った右手を無防備となったスライムに突きつけた…次の瞬間!



『ザッン!!』



青年とスライムの間に大きな獣の様な腕が出現した。その後、獣の腕は鋭い爪を剥き出しにし、真紅の瞳をしたスライムに向かって大きく振り下ろされた…


『スッ』


スライムも自慢のスピードを活かして青年の攻撃を間一髪で避けて見せたが、予想以上に青年による爪の攻撃のスピードと威力が絶大で、スライムの被っていた鋼の兜を容易く切り裂いてしまった。


「人間ごっこのつもりで被っていたその兜が無かったら今頃お前は消滅していた…お前は、本当に運がいい…いや、もしかしてそれも計算のうちか…ふん、そんな事はもうどうでもいい。既にお前は積んでいる!俺の攻撃はもう最終段階に到着している…」



予想外の行動を連発しているスライムであっても、実は自分がどれだけの行動を取れるのか自分でも理解出来ていなかった。そう、敵の行動はすべでぶっつけ本番であった…


一方の青年はというと、自分が行える行動・使用できる魔法や技を全て理解していた。そんな彼は誰よりも自分の長所・短所を理解した上でこの場にあった最適の行動を選択し現実にする力と経験が備えていた。


勝利を確信し自身に満ち溢れた青年は、凶暴なスライムに最後の一手を繰り出した。それは、先程スライムに突きつけた魔石を使用した大技であった。


『ドドド……』


青年の目の前には大きな水色の魔法陣が出現し、その魔法陣の中から徐に狼の様な姿をした謎の魔獣の顔が姿を現した…その魔獣は息を吸いながら自身の口に魔力を集中させると、謎の青年の号令の下、その獰猛な顎から強大な魔力を開放して見せた。


「凍りつけ!ダイヤモンドブレス!!」





『パキパキパキ』



顔だけの魔獣が放ったその強力かつ広範囲の氷属性のブレス攻撃が最強のスライムを一瞬の内に氷漬けにしてしまった。


『パッキン!』


あっという間に氷漬けになってしまったスライムは、全く動く事が出来ずに徐々に意識を失っていった…


しかし、明らかに勝負が決まったスライムのとの戦いも、当事者である青年は全く満足していなかった…


「流石に見飽きたよな…この光景。どうせお前はこの氷の牢獄から抜け出すんだろ?お前達、真紅の瞳を持った魔物は何回も蘇る…だから俺は、お前達の先の先を行ってやるよ…」


『ピッピピッピ…』


青年は、改めて左手で握り締めたままであった謎の端末を片手で操作し、もう一度、異次元空間を自身の目の前に出現させた…その後、謎の魔石を掴んでいた右手ごと異次元空間に突っ込んでみせた…そして、先程と同じように自身の瞼をそっと閉じた…


『パッチ』


青年は、魔石と取り出した時と全く同じ様に、瞼を開くと同時に異次元空間から右手を引き抜いた…


『カチャ!』


異次元空間から取り出した青年の右手には、銀色に輝くリボルバー式の銃のような武器が携わっていた。青年は異次元空間ら右手を引き抜いた勢いそのままに、リボルバーの銃口を氷漬けとなったスライムに向かって構えていた。



「俺は、不純なるバグ…そして、お前を束ねる存在…よく覚えておけ!」




『バン!………バン!バン!バン!!』



謎の青年は、せっかく氷漬けとなり、全く動く気配の無かったスライムを閉じ込めていた氷塊に対して四発もの銃弾を打ち込んだ…しかしそれはただの銃弾では無かった…



『バリ!バリ!バリ!バリ!』



銃口から放たれた銃弾は、スライムが閉じ込めらた氷塊に着弾すると、凄まじい音と共に弾数と同じ数の稲妻を氷塊の中に浸透した。


『パキパキパキ……パッかん!!』


次の瞬間、氷塊の中で発生した四つの雷が、スライムを閉じ込めていた氷塊の中から外へ向けて一直線に飛び出していった。その後、スライムもろとも氷解を貫通させた雷攻撃によって氷塊の中に閉じ込められていたスライムは真っ二つに割れて行った…


「さあ…お前はゼロかイチどっちだ?」


真っ二つとなり消えて行く筈のスライムは突如、黒い光を放ち、その光が上空に向かって勢いよく飛び出していった。


『!?』


スライムが倒れていた場所には何も残っておらず、謎の光だけが上空に打ち上げられた…その後その光は、上空で4つに分かれ、四方八方に飛び散っていった…


「何だこれは…こんな光、俺は知らない…」


謎の青年も知り得ていなかった謎の光が一つ、青年の仲間でもある謎の人物が佇んでいた広場の上空で解き放たれた。


「何なんだあれは!」


何と、謎の人物の真上にあった黒い光の中から無数のガレキが一気に放出されたのであった!



『ドドド……」



凶暴化したスライムの屍から放出された黒い光の正体は、スライムがミコットの街で吸収してきた街のガレキであった。


予期せぬ出来事の影響により謎の人物は、ガレキを回避する事が出来ずにガレキの下敷きになってしまった。


「まさか、こんな事になるとは…」


謎の人物の安否を心配する青年は、その人物がいた場所に直ちに駆け寄ってみた…するとそこには、何と…


『ひょっこり!』


「た…助かった…」


何とガレキの中から数多くの人間達が姿を現したのであった。



「生きていたのか…」


次第にガレキの山から一人…また一人と、多くの街の住人や兵士・冒険者が閉じ込められていたスライムの体内から一斉に解放されたのであった。




『わー』『奇跡だ…奇跡が起きたんだわ』『俺たち生きているんだ』『やったー』




ガレキの中から次々の生還を遂げる人間がいる一方、謎の青年は自身の仲間である謎の人物の姿を確認出来ずにいた…



そんな中、スライムに取り込まれていた女性の一人が、自分達を吸収していたスライムを倒した人物について考察を始めていた…




「しかし…誰が私たちを助けてくれたのかしら。誰の手に負えなかったあのスライムを倒して、私たちを開放してくれた神様の様な存在は今どこにいるの?」


次第に旧噴水広場で、自分達を助けてくれた人物にお礼を言いたいと言う人間達の声で溢れかえった時、旧噴水広場の上空に一筋の光が差し込んだ…


そんな光は、崩壊した広場の中でも特にガレキが山積みとなった場所に差し込んでいた。


『ぴっかーー!』


突如、戦いの終幕を知らせる様な神々しい光の演出がガレキの山に降り注いだその時、徐にガレキの山の頂上がガタガタと動き出したのであった…


「何だ!?もしかして、あのスライムがまだ生きていたのか?」

「いや、きっとアレは神様に違いない」


不安や期待が入り混じる中、ガレキの山からとある女性が姿を現したのであった…



『ドン!!』



「お〜!何と神々しい女性なのだ!まるで女神様だ」


ガレキの山から姿を現したのは、勿論謎の青年の仲間である人物で間違い無かったのであったが、その女性が被っていたコートは上空から降り注いだガレキにぶつかった事により破けてしまっていた…そんな謎の人物の顔を隠していたフードが取り除かれた事により、この広場にいる全ての人間に謎の人物の正体が女性である事を知れ渡る事に繋がってしまったのである…


「ダメだ俺…あの美しい瞳に吸い込まれそうだ」「何と華やかな女性なのだ…」


彼女が持つ元々の華やかさに、奇跡的な天候の演出が加わった事により、彼女の神々しさが最高潮に達していた。


そんなある時、一人の兵士が彼女の正体に気づいてしまったのであった…





「…ん!?…あのゴージャスなブロンズヘアーにブラウンの大きな瞳…そうだ!思い出しぞ!彼女は勇者だ!」




「彼女の正体は、太陽の勇者『ジエル・インヘリット』様だ!」


『うぉーー!勇者様だ!』『彼女こそ、この世界の危機に現れるとされる伝説の勇者様だ!』『わーー』





「まずい事になった…このままじゃ俺の計画は台無しになってしまう…」


謎の女性の正体が勇者である事がこの場にいる全ての人間にバレてしまった事により、この状況を一番望んでいなかった勇者の仲間である謎の青年は、勇者の周りに集まった人だかりをかき分けながら、彼女が立ち尽くすガレキの山に向かって突き進んでいた。



「………』



「勇者様ありがとう!貴方のおかげで私達は救われました」「貴方こそ本当の救世主です』『どうか我々に祝福の言葉を…』


『……ピック』


終始無言を貫いていた勇者であったが、鳴り止まない歓声に心が揺らいだのか、無意識に姿勢を正し、自身の中に駆け巡ったとある感情を自身の唇を通してこの場にいる全ての民に伝えるを選択した…



『サッ!』


「皆さん初めまして!私は名前は勇者ジエル・インヘリット!!私は、この世界に誕生した新たなる魔物の脅威から皆様の様な人達をお救いする為に信頼する仲間と共に旅をしておりました。

我々、勇者パーティー『新生エース・ハインド』は旅の途中でこのミコットの街に凶暴化した魔物が出現したとの情報を耳にした為、急遽この街に足を運ぶ事にいたしました。そして、この街で暴れ回る凶悪なスライムを討伐する為、仲間と共に凶暴化したスライムに立ち向かいました…

結果、我々『エース・ハインド』は凶暴化したスライムを討伐し、皆様を救出する事に成功したのです。ですから、もう心配は入りません。もう、このミコットの街には皆さんに恐怖を与える魔物は存在しないのです!」




『わーー』『さすが勇者様!』『やはり我々をお助けくださったのは貴方様でしてか!?」


「……」


突如、演説を始めた勇者の姿を目の当たりにした謎の青年は、何故かその場で立ち止まり、演説する勇者の顔をじっと眺めてしまっていた…



「ですが、覚えておいてください…これからも瞳を真紅に染めた凶暴な魔物は増え続けるでしょう…」


『ザワザワザワ…』


「でも大丈夫!どんなに辛い時も苦しい時もこの世界には私達がいます!だから希望を捨てないで!」


『ふっわ…』


「皆さんの願いは必ず私達の元へ届いているから…だから、どうか自分自身に絶望しないでください!必ず恐怖の裏には、我々勇者やエースハインドが皆さんの力になるべく全力を尽くして戦っている事を忘れないでください!」


「……ジエル」


「何より、恐怖は魔物に力を与えてしまいます…魔物に打ち勝つ為の最大の魔法は皆さんの心に勇者を宿す事です。勇者は決して選ばれた人物だけがなれる職業ではありません…そう、本当の勇者とは”勇気ある者”の事を指します。辛い時、どうしようもない時、自身の胸に勇気を宿しましょう。そして、私と同じ勇者として共に恐怖に立ち向かって行きましょう!さすればこの世界が闇に堕ちる事は絶対にありません!!」




『ジ・エ・ル!ジ・エ・ル……』


鳴り止まない歓声…ミコットの民に大きく手を振る勇者ジエル…それなジエルを物悲しい表情で見つける謎の青年は、今一度自身に課せられた宿命と罪を再確認していた…




(俺は、必ずあの人の笑顔を取り戻す…そう…俺が俺で無くなったとしても…)





謎の青年、アルマ・インヘリット…又の名を『新堂 康二』…これから自身に待ち受ける数多くの地獄と向き合いながら、彼はこのゲームの完全クリアを目指す事となる…

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