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end Of END


蚯蚓 <ミミズ>


…環形動物に属するその生き物は、目がなく…手足もない…そんな『目見えず』が彼らの名前の由来だと言われたいる…

そんな蚯蚓は一見下等な生物に思われがちだが、実際はその複雑・柔軟な肉体を活かし、幾度となく進化を遂げてきた生物なのである…

そして現在では、不可能とされていた『分裂と再生』が可能な蚯蚓まで出現したのである…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



敵よって左手首を切り落とされてしまった奴隷の青年<アルマ>は残された右腕を使用しながら、崩壊寸前のダンジョンの地面を掘り進めていた…



何度も何度も…立ち上がっては地面を掘り…立ち上がっては地面を掘るを繰り返し…爪の隙間に土か挟まる程にひたすらに地面を掘り進めていた…徐々に握力が無くなり、しまいには、大量の出血で意識が遠のく始末…


何が彼をここまで突き動かすのか…彼は何を求めて地面を掘り進めるのか…答えはすぐに結果として現れた…




「…醜いな…我をここまで追い詰めた奴隷が、最後はこんな惨めに死んでいくか…?ショックのあまり、気が動転して馬鹿にでもなったのか…?」


もがき苦しみながら何かを求め、取り憑かれた様に地面を掘るアルマ…それを憐れみの眼差しで見つめる影の魔物『ダーク・シャドー』がアルマに抱いていた戦意を喪失させながら、ただただ土に塗れる青年を眺めていた…


滑稽に見られたアルマの行動には、実は規則性が存在していた…


「…した…」「右…」「した…」「…右右…した…」


アルマはダーク・シャドーに聞き取れないほどの小声で、何かを呟いていた…


「牛の壁画…」「壁画から…下…右…」


ダンジョンの地面を這いつくばりながら動き回っていたアルマの体力はとうに限界を超えていた…そして、出血の影響も相まって徐々に視線も定まらなくなってきた…薄れゆく意識の中で、アルマは”それ”を口ずさむ…


『ズズ…ズズズ』


『…ビッタ』


とある地点で、うつ伏せに倒れ込む青年…その手は土に塗れ爪も剥げていた…

体力も精神力も限界だった…しかし、青年は最後にはそれを右手に何か掴んでいた…


「…死んだか?」


急に動かなくなりその場で倒れ込む青年の姿に、彼の死を悟り彼を追い込んだ張本人である影の魔物がゆっくり死にゆく彼に近づいた…


次の瞬間!!影の魔物ことダーク・シャドーは自身の背後から光を放つ人間の姿に驚愕する事となる…


『ピッカーー』


『!?!?』


「なにごとだ?」


振り向いたダーク・シャドーの目に飛び込んできたのは、死亡が確定している一人の女性『勇者ジエル』の体が白く輝き出した…



「何が起きている?一体何なのだ?これは?」


予想だにしない光景を目の当たりにしたダーク・シャドーは動揺を隠せずにいた…しかしそれは偶然ではなく必然だった…


そんな、白く発光したジエルを注視していた矢先に魔物の背後からまたしても何がか動き出した…


『ピッカッ!!』


先程よりも大きな違和感を無意識に察知した魔物は、違和感を放つそれに看取せざるを得なかった…



ダーク・シャドーが感受した違和感のその先には、先程まで屍の様に倒れ込んでいた青年が一人…正気を取り戻してそこに立ち尽くしていた…


しかも、魔物が自らの手で欠損させた筈の左手首も完全に修復されていた…


「馬鹿な…あり得ない!死に損ないが急に復活しただと…」


完全復活を遂げた青年の姿を目の当たりにした事により、現実を受け止められずにいたダーク・シャドーは、すぐさま青年と同じく白く発光した勇者ジエルの容態を確認するべく彼女の遺体を直視してみた…


「…コイツもだ…コイツの傷口も修復している…だがしかし、息を吹き返した訳では無さそうだ…」





波乱に次ぐ波乱を目の当たりにしたダーク・シャドーの脳内に一つの魔法の存在が浮かび上がってきた…それは『リストレーション』である!




ー リストレーションとは、光魔法に属する回復魔法の一種で、その効果が付与してから15分後に対象者の生死や記憶以外の全てを復元させることが出来る。そんな強力な魔法効果の一方、魔法を付与した後の経験値や新たに覚えたスキルなどは、全てリセットされてしまうのだ…


「奴ら、事前に自身の体にリストレーションを掛けていたのか?そんな高度な光魔法…あの未熟な勇者に扱えるとは到底思えない…そうか…やはりあの『バグ』の仕業か…」


ダーク・シャドーの予想通り、今回の『リストレーション』も青年が発起させた事例である。そんな高度な光魔法を青年が扱えた要因は、やはり彼が事前に取得していたアイテムにあった。


そんな青年がリストレーションの効果が付与されたアイテムを獲得する事ができた場所とは、このダンジョンに転送される寸前まで自身のレベルアップとアイテム収集を主な目的てして訪れていたエヴォルの森の存在に他ならない。


青年は、自身が所持しているこの世界の裏技の一部が記されている『赤い本』を読解し、エヴォルの森の隠された秘密の場所を造作もなく侵入する事に成功していた。その結果青年は、リストレーションの効果が付与された液体状のアイテム、『女神の涙』を隠しエリアで二つ入手することに成功していた。


その後、熾烈を極めるであろう戦いに備えて、壁画が存在するこのエリアに突入する前に、青年の判断により勇者ジエルと奴隷の青年は女神の涙を事前に内服していた…


しかしながら、見事に復活を遂げた筈の青年アルマの表情は浮かないままだった…


損傷した傷や手首が修復され、完璧な状態で戦場へ舞い戻ったアルマは何故か既に戦意を喪失していた…そんなアルマの右手には見知らぬアイテムが握られていた…


謎の行動が目立つアルマに対して、ダークシャドーはある一つの懸念を抱いていた…


(勇者と奴隷の傷が修復したの理由はリストレーションの効果で間違いない…しかし…奴隷が右手に持っている謎のアイテムは何処から湧いて出た…)


「…」


ダーク・シャドーがしばらく奴隷の青年アルマについて考えを巡らせていると、ダーク・シャドーの中で青年が取った行動に”謎”の答えが隠されている事に気がついた…



「…お前はバグだった!我も知り得ぬ世界の情報を知り得る存在!先ほど、地面を他内回っていたのはこの場所に眠る秘宝を探し出す為の行動だったのだ!」


ダークシャドーは自身の推測を踏まえた上で、もう一度アルマの手に持たれた何かを凝視した…



『!?』


「…それは魔石?…いや、ただの魔石では無さそうだ…」



ダーク・シャドーは青年が所持している魔石から放たれる強烈なプレッシャーを感じ取った結果、謎の魔石の正体を導き出す事に成功した!


「…そうか!そうだったのか!?やっと理解できたわ…この場所に隠されていたのか…?そう!これこそが歴史に抹消されしの召喚魔石…」



「裏召喚魔石!!」



アルマが見つけ出した魔石がこのゲームの2周目でした手に入れることが出来ない特別な召喚魔石である事を察したダーク・シャドーは、裏召喚魔石が持つ特別な力を認識した事により、自身がこの戦いに敗北する事を悟っていた…



「ぐぬぬぬ…流石の我も裏召喚獣を呼び出されては、一貫の終わりだ…」



格下であるアルマに対して自信過剰な程の勝利を確信していたダークシャドーであっても、強力な力を秘めた裏召喚魔石の存在を目の当たりにした事により、今まで抱いていた勝利への自信が一瞬のうちに消え去っていた…


「…我の負けだ…いっそ、その召喚獣で我を消し去るがいい!伝説の存在に殺されるなら本望だ!さあ!やれ!我を殺めるのだ!!」




未来を見据えた布石『リストレーション』…未知の魔力を秘めた『裏召喚魔石』…勝利への鍵が二つが揃った今、アルマが勝利へのその一歩を踏み出す筈…だった…




ダーク・シャドーを倒す為の準備が順調に整ったアルマは、何故か天を仰いだきりピクリとも動かなくなってしまった…


「…」


「一体何が起きたのだ…」


静まり返るEXフロアに無気力なアルマの擦り切れた一言が虚しく空気を揺らした…




「MPが足りないんだ…」



アルマの発言により状況が理解できずに一瞬、時間の概念を忘れてしまったダーク・シャドーは、自身に訪れた逆転のチャンスをものにする為にすぐ様現実に舞い戻った…


「お前という奴は…お前ほど神に嫌われた人間は見た事がない…やはりこれが本来のバグの末路だったのだ!」




ー アルマは、これですべが終わってしまったのだと悟っていた…愛するジエルの敵を打てず過去へと引き戻されるのだと…アルマは自身の心が折れる音が聞こえた…そんなアルマは、親愛なるジエルが倒れる今場所で精神的敗北を誓おうとしていた…


(…ジエルごめん…俺…君の仇を打てそうにないや…でも、また会えるから…だから、その時に謝らせてくれ…)


敗北を悟ったアルマは、最後に地面で仰向けに横たわるジエルの姿を身に焼き付けてからダーク・シャドーに殺される事を望んだ…


そんなアルマが地面に横たわるジエルの姿を横目で覗いてみると、そこには死人が横たわっているとは思えない程の美しさを放っていたジエルの姿がそこにはあった…


『……』


そんな神々しいジエルの姿を目の当たりにしたアルマの脳内に、一筋の光が差し込む事になった…


「…そうか?…そうだったんだ…」




ー 一方のダーク・シャドーはというと、アルマに訪れた不幸な出来事が自身への養分となりダーク・シャドーの生きる活力となっていた…


「…たかが奴隷がここまで我を追い詰めるとは…いや…うまく行き過ぎたのだ…お前の様な得体のしれないバグは、ここで殺す!それは世界の為なのだ…」


「…」


「乗っ取るのはやめだ!お前の肉体が存在しつつければ、近未来に霊界王様にとって不都合が生じるはず…その芽を摘む為にもこの場でお前を消滅させる!我の生存の為に必要な肉体ではあるが…この際、肉体の事は諦めよう…そして、我の存在の消滅を甘んじて受け入れよぞ!」


消滅への決意が固まったダーク・シャドーは、アルマの心臓に狙いを定め、得意の影魔法『ダストネイル』の準備に入った…



数秒後…攻撃の準備が整ったダーク・シャドーは、自身の魔力を込めた右腕をアルマの心臓に向かって飛び出すようにセットした…


「悪いが、命乞いはさせないぞ!戦いから目を逸らした人間の悲鳴ほどつまらぬ物はないからな…では!一思いに殺してやるぞ…」


命乞いをせずにただただ目を瞑っているだけのアルマに対して、ダークシャドーは一切の慈悲を感じないままアルマに死の宣告を告げた。


「では…しねーーーい!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ー ダークシャドーの爪先が伸びる1秒前…突如この世界を縛っている秩序が崩れ去った…それは一瞬の出来事で、”それ”は誰にも予知出来なかった…この世界の秩序は今日というこの日から姿を変える事になる…しかし、”それ”は目で見える何かでは無い…何より”それ”はこの世界のしがらみそのものであった…




この世界の秩序を変えることの出来る唯一の存在…それはこの世界の住人ではない…そう…それが可能な者が今この世界には存在している…



それが、『不純なるバグ』である…



『シャーー』


世界の秩序が改変された後、ダーク・シャドーが放ったダストネイルがアルマの心臓目掛けて一直線に伸びて行った…


すると突然!先程まで目を瞑り、何を考えているのか見当もつかなかったアルマが突如、瞼を見開きとある魔石をダーク・シャドーに向かって突き付けた!


『!!』


「いでよ!フェンリル!!」


『シューー』



アルマから告げられた予想だにしなかった一言が放たれた瞬間…アルマの目の前に水色の魔法陣が突如出現し、その魔法陣の中から狼のような生物の顔だけがその姿を曝け出した…


『パキパキパキ…』



この世界の誰にも立ち入ることの出来ないアルマだけの世界…『精神世界』でこの世界の秩序は上書きされた…




____________________________




ー アルマは、ダーク・シャドーによる攻撃を受ける寸前に精神世界という名のメニュー画面に避難していた…


アルマは、外の世界で目を瞑ったジエルの姿を目の当たりにした事によりとあるアイディアを閃いていた…そんなアルマは気が付くと無意識に瞼を閉じ、自身のステータスを確認する事ができる精神世界という名のメニュー画面へ移動する事となった…



ー メニュー画面とは、ゲームの世界であるこの世界でアルマが唯一、自身のステータスや身に纏っている道具・アイテムの詳細を確認する事が出来る言わば精神世界の事を指す。精神世界は外の世界の時間の流れに干渉しない為、どんなにメニュー画面で時間を消費したとしても、外の世界に戻った時はメニュー画面を開く寸前の時間軸に戻る事が出来るのだ。




(無意識にこの画面に飛んできたけど、どうやってこの絶望的な状況を打破すればいいんだ?)




外の世界で発生した心を抉るような出来事の影響により、アルマの精神状態は極限にまで追い詰められていた…その結果、後先の事など度外視したアルマのがむしゃらな行動が、自身の首を絞める結果になってしまっていた…


(失った左手首を補う為に見つけ出した召喚魔石は、俺の許容範囲を超えていた…もう俺には、ジエルの仇を打つ為の武器もない…裸そのものだ…そう…今の俺には何もない…ただただ殺されるのを待つしか無いんだ…でも…本当は諦めたくないし、ジエルの仇を打ちたい…でも…戦う術ないないんだ…残されたのは、謎の魔石のみ…)


自問自答を繰り返すアルマはふと先程でに入れた召喚魔石の詳細をステータス画面で確認する事を思いついた!


(…冥土の土産で手に入れた魔石の詳細でも確認してみるか…)


アルマは自身の精神世界内のメニューからアイテムのカテゴリーを選択した。


(よし!一番上に表示されているのが一番最新の入手したアイテムだ!どれどれ…)



< フェンリル…召喚魔石(裏) 消費MP:200 効果:敵全体に氷属性のブレスダメージを与える>


(に…200!?消費MP200だと!魔法が使用出来なくて使い道のなかった俺のMPが60だから…どう考えても俺が扱える品物じゃなかったんだ…ふざけやがって!このクソゲーー!初心者に優しくなさすぎだろ!そもそも、何で俺が魔法の使えない奴隷なんだよ!普通なら主人公だろ…)


(…主人公…?…そっか…!!)


(主人公が変わっちゃたら、このゲームの存在意味がなくなってしまう…ゲームとは主人公のために存在するモノ…なら、主人公じゃない俺はどうやってこのゲームを進めればいい…そっか…それなら方法はまだある…)


アルマは、このゲームのシステムについての自問自答する事のより、このゲームを遊び易くする攻略のヒントを掴みかけていた…



(アイテム…選択…あれ?今更気づいたけど、所持しているアイテム欄にアイテム拡張袋が見当たらない?あれってアイテムに含まれないのか?…ん!?…やっぱりない!…ここじゃないのか?…カテゴリーが違うのか?…思い出せ!ゲームをプレイしていた時の、メニュー画面のインターフェイスを…)



(…)


(そうだ!思い出したぞ…R1だ!…R1でアイテム内のカテゴリーを変更できるんだ!)


アルマは、今現在の戦いの前にセーブクオーツの間でジエルに見せてもらった、コントローラーの操作方法を思い出していた…


(確かR1は…”構える”のポーズが出来るボタン…で構え!ってどうするんだ?うーーん!分からん!けど…やるしかない!…俺に残された選択肢はそれしか無いんだ!)


(…イメージ…イメージ…構える…構える…)


(……)


アルマは、自分自身がゲームのキャラクターを操作する人物なのだと客観視する事により、今現在プレイしているこのゲームを優位に進める為の作業、『コントローラーのボタンの一つである”R1”を押す』という課題に立ち向かっていた。


(違う…これも違う…う〜ん構える!のイメージだけだと、範囲が広すぎ…ん?確か構えるの背後に何か付け加えられていたな?…!?…そうだ!パチンコだ!!パチンコならイメージしやすいぞ!パチンコ!よしこれか…違う!パチンコ…引っ張る…撃つ!)


(…)


『スッ』


<大事なもの>


(!?…か…変わったぞ!アイテムメニューに拡張アイテム袋の文字が映し出されているぞ!)


アルマは”構える”という行動のイメージを試行錯誤しながら繰り返す事によって、今まで導き出せなかったアイテム欄に隠れていた『大事なもの』と書かれたカテゴリー欄を発見することが出来た!そして、高ぶる感情を抑えながら新たに発見したカテゴリー欄から拡張アイテム袋を選択した…


ーーーーーーーーーーーーーーーー


なんと!アルマがアイテム拡張袋を選択した途端、目の前が一瞬暗転し、背景にうっすらPMと書かれた画面に移行していた…



(…この画面見覚えある…そうだ!ジエルにPSを覗かせてもらった時のPSの画面のフレームと同じだ!…そうだったのか?拡張袋の中はPS内のメニュー画面と繋がっていたのか!?)


新事実が発覚した喜びも束の間、早速アルマは拡張アイテム袋内のとあるアイテムを探していた…)


(ここには無い…じゃあR1だ)


最初に映し出されたPS内のアイテムメニューには、アルマが探し求めていたとあるアイテムが見当たら無かった…その為アルマは、もう一度パチンコを構えるイメージを脳内で繰り返す事により、PS内の『大事なもの』のカテゴリーに移動する事を試みた…その結果!


(よし成功だ!…ん?もしかしてこれが”赤い本”の正式名なんか?…)


アルマは『レッドブック』と書かれた裏技本らしきアイテムを選択し、レッドブックの中身が確認出来るのかを試す事にした。


(レッドブックを選択っと…どうだ!?……よし!ちゃんと中身も確認できぞ…)


アルマはやっと見つけたレッドブックで、今の状況に最適な裏技を懸命に探し出していた…


(あの赤い本ってレッドブックって言うのか…ゲームデーターの中に侵入すると本当に新しい発見が多いな…)




ー 今までのレッドブックの使用方法はいうと、外の世界で拡張アイテム袋から直接レッドブックを取り出してから裏技の方法を確認していた。しかしこれからは、いつどんな時でも一旦瞳を閉じてしまえば時間の概念が存在しないメニュー画面でゆっくりと裏技を確認する事が可能になったのだ!



アルマは、急な事態に備えて事前にチムニー洞窟で使用出来る裏技を脳内に暗記していた。その一つが裏召喚魔石を入手した時に使用した裏技の方法であった。暗記には多少自信があったアルマでも、複雑な裏技の方法は毎回レッドブックを取り出して必要な裏技方法を確認していた。


この度アルマが、自分の行動範囲を広げる為に行おうとしている裏技は2周目にしか使用する事が出来ない特別な裏技であった…



(あった!赤文字の裏技!)


ー アルマが見つけた赤文字の裏技とは、エンディング後の二周目以降にしか使用できない特別な裏技で、アルマが以前タイトル画面使用した赤文字の裏技もゲームの秩序をガラリと変える程の強力な効果が秘めていたのであった…


(…って事は、これも相当強力な裏技に違いない…一番最初に使った赤文字の裏技は、ストーリーの順番を破壊する『ストーリーアンロック』。本来このゲームは順番通りにしかストーリーを進む事しか出来なかった…けれど、ストーリーアンロックの影響で、このゲームのストーリーシステムがまるでフリーシナリオのようなシステムのゲームに生まれ変わってしまった…確かに一回このゲームをクリアした事のある人間にとって、このゲームの面倒なしがらみが無くなる胸熱な裏技だな!)



(…とりあず今回の裏技で世界が改編させるか未知数だが、ジエルの仇であるアイツを倒すためには絶対に避けては通れない裏技の筈だ!…もしも、この世界の秩序が乱れたとしても、どの道!復讐を終えたら俺は死ぬ…だから、未知のトラブルも何の怖くもない!だって最初っからやり直せるのだから…)


アルマは、手に入れた裏技の情報を暗記し、一番最初のメニュー画面に戻ってきた…



(この精神世界ではイメージが全て…キーとなるコントローラーのボタンと俺が想像するイメージが一致した時にそれが初めて成立する…)



(この裏技に必要なコマンドは、□・R1・L1・十字キー・そして、セレクトボタン!)



(今まで理解に苦しんだコマンドも、戦いの前にジエルのPS内で確認した説明書のおかげでほとんどが理解出来るようになった…準備は全て整った!あとは実際にイメージのボタンを押すだけだ…)


この世界の秩序を破壊する事を決心したアルマは、不安を飲み込みイメージしたコントローラーのボタンを押す事にした!



(□はPM画面を表示させる事だから、背景がPMと表示されていた画面をイメージする。具体的には、先程移動したポータブル・ステーション内のアイテムメニューをイメージする…)


(R1は、パチンコを構えるイメージ。L1は、ダッシュのイメージ…何といっても、最難関なのはセレクトボタン…)



アルマは以前一度だけ使用した事のあるセレクトボタンに関する情報を引き出す為に、自身の記憶の扉をこじ開ける事にした…



<俺は以前、仲間3人で訪れたグシップの街で開催されている『バザー』にて、フェノフェロウ以降に出現するジャンク屋でとある裏技を使用した…

それは制限時間内にランダムに出現する中身が見えない黒い箱、通称『ブラックボックス』に隠されたレアアイテムを意図的に選択する事が出来るという内容であった…

そんな裏技の方法はというと…『制限時間30秒前にセレクトボタンを三秒間押し続ける』と言うものだった…当時の俺はその裏技を無意識に成功させる事ができた。その後の俺は、自宅にある自身の部屋で熟読していた裏技本によりバザーで偶然裏技を使用していた事に気がつく事になる…

偶然使用する事が出来た裏技の方法と裏技本に乗っていた裏技の方法を照らし合わせ俺は、セレクトボタンの発動条件を解読する事に成功した…それは無心である…>


全てのピースは揃った…あとはそれを枠に嵌めるだけであった…


(よし!始めるか!…『メニュー画面』、『セレクトボタン3秒押し』)


(……………)


『パッ』


アルマは邪念を捨て、呼吸のイメージを脳内で作り上げた後、3秒間の考える事をやめた…その後、心の目を開き、メニュー画面を確認して見るとメニュー画面全体がゆっくりと点滅していた…



(やったぞ!セレクトボタンの課題はクリアした!よし!次だ!10秒以内に『左左右』『R1□R1』『右L1□L1』を押す!)


(最後に…セレクト!)


『!』


『…………………』


『ピッかん!!』


(…?…成功したのか?)


あまり実感が湧かなかったアルマは、とりあえず自身が所持しているアイテムを確認してみた所…あるアイテムの説明文の一部が『?』の文字に上書きされていた…その内容というのは…



< フェンリル:召喚魔石(裏)消費MP:? 効果:?>



(変わってる…確実に召喚魔石の説明文が変化している…)


(…)


(もしかして…これも…これもか…)

アルマは、手元のアイテム…アイテム拡張袋の中身…その全ての説明文を隅から隅まで熟読した…


(…これだ…これが、俺の求めていた世界そのもの…)


アルマは、自身に起きた革命的変化に興奮を抑える事が出来ずにいた…そんな裏技を使用した事により、アルマが所持している重要なアイテムに関する説明文が大幅に修正せれていた…

鎖に繋がれていたこの世界が、鎖という名の柵・秩序が今!アルマの裏技によって壮大に解き放たれる事となった…



アルマのプレーヤーである『新堂康二』が破壊したその二つの鎖が、このゲーム世界の安定と均衡を裏返した…



アルマは、全て妄想を飲み込み、この世界に想像力を持ち込んだ…そして彼は自身のイメージする『こうなればいいのにな』や『あれが出来たらもっと楽しい筈なのに』といった妄想が現実にする為の手段を手に入れる事となった…


そんなアルマは、新しくもあり混沌に成り代わった、裏返りし現実へ舞い戻る決意をした…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



外の世界に戻る為、アルマはゆっくりと自身の瞼を見開いた…


すると自身の目の前には既に自分に襲い掛かろうとしているダーク・シャドーの姿があった…アルマはすぐさま

自身の右手に握られたフェンリルの召喚魔石に適度なMPを流し込み、ダーク・シャドーに向けた攻撃を開始した…


『ワォォォン…』



次の瞬間、アルマが翳したその召喚魔石の先に水色の魔法陣が出現し、その魔法陣の中から狼に似た魔獣『フェンリル』の首から頭にかけての部分だけがこの世界に召喚された…召喚された『フェンリル』は直ぐ様遠吠えを上げ、目の前にいるダーク・シャドーを威嚇した。


早速、魔法陣から出現した召喚獣『フェンリル』の頭は自身の口の中に大量の魔力を生成すると、すぐ様その魔力を自身の必殺技である氷属性のブレス攻撃『ダイヤモンドブレス』に変換し、アルマに襲いかかってきたダーク・シャドーに向けて放った…



『パキパキパキ…』



フェンリルの頭部から放たれた『ダイヤモンドブレス』は一瞬でダークシャドーの爪先から全身に掛けてを包み込み、一瞬でダークシャドーを氷漬けにしてしまった…


ダーク・シャドーの凍結が完了したと同時にアルマが呼び出したフェンリルの頭部は、頭部を召喚する為に用いたMPが切れた事により、この世界で体を維持する事が出来なり、煙のように消えていってしまった…



「やった…やったぞ!俺は成し遂げたんだ!この世界に存在したアイテムの縛りを俺が塗り替えたんだ!」



「…それはそうと、肉体の一部だけの召喚でも、それなりのMPが持ってかれたな…だとすると、今後フェンリルを召喚する時は、MPがどれだけ残っているか確認した上で使用した方がいいな…」


パチンコを使用しない新たな攻撃方法を身につけたアルマは、『アイテム・アンロック』によって書き換えた新たな世界の秩序にご満悦であった。





ー アルマの裏技によって改変されたこの世界では、召喚獣はその体の全てを人間界に召喚しなくても良くなっていた…そもそも召喚魔石とは、この世界に概念とし存在している魔獣や精霊を実物として召喚する為の道具である。元々の召喚魔石の使用方法は、その召喚獣を召喚する為のMPを召喚魔石に全て付与した時に、初めて召喚獣を召喚できるという仕組みとなっている。


今回アルマが行った裏技『アイテム・アンロック』の影響によりこの世界に存在する全てのアイテムの使用方法が書き換えられる事となった…元々勇者や勇者パーティーの一員でしか扱う事が出来なかった装備品などの使用が今現在から解任され、人間・魔物・敵・味方に関係なく誰もが武器や防具を装備する事が可能になった…




ー アルマはダーク・シャドーを氷漬けにした直後、チムニー洞窟に発生していた崩壊現象が勢いを増している事に気がついた。


『ドドドド…』


「…ん?」


一瞬でダークシャドーとの勝負を決めてしまったアルマは、召喚獣フェンリルの体の一部を召喚する為に要した召喚魔石を一旦アイテム拡張袋へ収納し、崩れゆくダンジョンの中で美しくもあり儚く眠るジエルの元へ駆け寄って行った…


「…やっぱり復活出来たのは肉体のみか…一瞬ジエルから正気を感じ取れたら、奇跡が起きて復活してくれたんだと淡い期待を込めてしまったが、やっぱりただの勘違いか…本当…綺麗すぎて死んでないみたいだ…」


アルマは、短い時間ではあったがジエルと一緒に過ごした日々や念願だった生身の彼女に触れられた数日間を思いだし、物思いに吹けていた…


『ポタポタ…』


緊張の糸が切れたのか、アルマ自身が驚くほどの滝のような涙が自身のまなこから流れ落ちていた…アルマは泣きながら子供の頃に彼女を操作してこの世界をジエルと一緒に飛び回った思い出が走馬灯の様に脳内に駆け巡った…


『ゴシゴシ』



泣いても泣いても止まらぬ涙に終止符を打つべく、アルマは自身の左腕で何回も何回も自分の涙を拭き取った…


「よし!一旦お別れだ!」


気持ちの整理が済んだアルマは、”今回”のジエルとの決別する決意が固まった。そして、仰向けで倒れ込むジエルの右腕をそっと自身の両手で包み込見込んだ…


「…もうすぐ俺は死ぬ…けど、また直ぐに君と会える…今度は君を死なせたりなんかしない…約束する!だから、やり直した俺ともう一度俺と仲良くなってください…」



「…愛してるよ…ジエル!」



子供の頃から今現在に至るまでのジエルに対する”愛”が本物だっと事に改めて気付かされたアルマは、死亡したジエルに最後の別れを告げる事になる…


しかし、アルマが行った『アイテム・アンロック』が意外な形でジエルの今後を左右する事となった…


『……』


『…ドックン!』


『トトトットト…』


『パッチ!』




突然それは目覚めた…今まで止まっていた時間が一気に加速した様に、それは動き出した…



『バッサ』


屍と化した筈のジエルの遺体が急に正気を取り戻し、上半身だけが起き上がった!!


『!?』


「嘘だろ…まさか!」


急に動き出したジエルの屍にアルマの脳内に一つのトラウマが蘇った…


「またお前か!何度死者を愚弄すれば気が済むんだ!」


復活したジエルの姿を目の当たりにしたアルマは、ダーク・シャドーがまたしてもジエルの肉体を利用して復活を遂げたのだと思い、すぐさまアイテム拡張袋にしまっていたフェンリルの召喚魔石を発動する為にアイテム拡張袋に手を入れた…



「いでよ!フェンリル」


ー アルマは、ガンマンの早撃ちのように素早く召喚魔石を復活したジエルに向けた。そして、召喚魔石に自身のMPを注入すると、魔法陣が出現しその中からフェンリルの頭部が姿を現した。フェンリルは自慢の氷のブレス攻撃をジエルに向けて放つと、何故かあたり一面に氷の花が咲き乱れた…



『パキパキパキ…』



「光魔法…オフコース!!」



『ピカピカピカ…』


フェンリルからブレス攻撃が放たれた瞬間とほぼ同時タイミングでジエル?を包み込む光の壁が出現した。光の壁はフェンリルの放った氷属性のブレス攻撃を全て受け流し、あたり一面に氷の花が咲き乱れる事となった!


「…これは一体?…もしかして光魔法?奴が扱う影の魔法と全く違う…お…前は一体何者だ?」



光の壁に守られたそれは、アルマの問いかけにそっとその唇を振るわせた…


「…」



「…ワシの名は…召喚獣カーバンクル!!」



「…か…カーバンクル?」


アルマは、自身がプレイしたこのゲームの記憶にカーバンクルと言う名の召喚獣に関しての情報がない事から、カーバンクルと名乗る存在の是非について考えを巡らせた…



「人間の姿をした召喚獣なんて聞いた事ないぞ?…一体どうゆう事だ!召喚獣は概念そのものの存在、何よりこの世界に長時間形を維持することはできない筈…そんな召喚獣が、どうやってジエルの形をしてこの世界に降臨したって言うのか?」


混乱が混乱を呼ぶ一連の事件にアルマの脳みそのキャパシティが破裂しそうになっていた…


そんな動揺を隠せないアルマの連続質問に見兼ねたカーバンクルは、アルマと同じくらいの熱量でアルマに説教を垂れ始めた…


「1000年ぶりに現世に舞い降りたと思ったら、召喚獣に召喚獣をぶつけおって〜!ワシが、カーバンクルじゃなかったら、今頃この寄生木は跡形もなく吹き飛んでいたぞ!」


眩いオレンジ色の瞳を宿したカーバンクルと名乗る召喚獣?は、一人称・年寄りの様な喋り方・瞳の色…違いを多いが、それ以上に見た目がジエルそのものであった…そんなカーバンクルの登場に圧倒的驚きを与えられたアルマは、空いた口が塞がらなかった…


「…」


「おいお前!この寄生木に感謝するんじゃな!此奴が我に干渉してきた理由は、お前とイノリスと呼ばれる人間を此奴の代わりに守護する為じゃ」


一向にカーバンクルに対する謎が解けないアルマは、カーバンクルに向けていた殺気を一旦解除し、召喚獣との対話を望んだ。


「…もしかしてお前が存在している理由は、ジエルが自ら望んだ事なのか?」


「あーそうじゃ!此奴が死の間際に、自身の懐に収めていた我の召喚魔石に此奴の光魔法を流し込み、我に干渉・そして交渉してきたのだ!此奴も我も光魔法の守護者である共通点から、速やかに『転生召喚』を成功させる事が出来たのじゃ!」


「…」


またしても聞き馴染みの無い『転生召喚』と言う言葉に、アルマは相変わらず脳内がスクランブルエッグの様にグチャグチャになっていた…



「ちょっと待てよ!お前が嘘を付いていない事は何となく理解出来た…しかし、今はまだ完全にお前の存在を認める訳にはいかない…何故なら、お前が見ず知らずのジエルと合体する理由がない…お前たちの様な強力な力を得ている存在が、人間と言う弱い存在と合体するメリットが俺には思い付かないんだ!…なのに、お前ときたら初めて会ったジエルをあっという間に信用して、人間としてこの世界に転生した…そんな事、普通は思い付かないし、お前に何の得も無いだろ?」


「…」


「俺は腹を割って話した!今度はお前の番だ!お前の真の目的を聞かせろ!」


正当性を含んだ理論をカーバンクルぶつけたアルマは、ゆっくり呼吸を整え、カーバンクルの動物的返しを期待した。


(どうコイツは、人間に興味があったとかそう言う理由に決まっている…)


「…」


「どうした?本当は理由なんか無かったんだろ?」


挑発的なアルマの問答に当のカーバンクルは、アルマの嫌味などを一切気にも止めず淡々と自身の信念を打ち明けたのでった…


「答えは一つ…愛じゃ!」



「…愛?本当にそれが理由か?ジエルの何も知らないお前が、ジエルの愛を感じ取って転生を決めたのか…ふん…笑わせるなよ…馬鹿かお前は!」



「ワシは光の使者…魂に干渉した人物の全てを瞬時に理解出来る…そう…何もかも…」



「此奴が生まれてから今に至るまでの人生全て…此奴が何を考えて日々生活を送っていたのかも、我は全て理解できている!我は此奴と意識を共有したその瞬間…此奴の全てが我に流れ込んで来た!そして我は、それを理解し・飲み込み・咀嚼した…」



「その結果我は、此奴の生き様…此奴の人間性…何より愛に共感した…勿論お前ともう一人の子供に対する愛も理解する事が出来たのじゃ…最終的に我は此奴自身に召喚される事を了承し、此奴が果たせなかった自分の子供達を真っ当な道へ導いてほしいという清らかな心に惹かれ、転生召喚される事を承認したのじゃ…」



アルマはカーバンクルとジエルの二人を見誤っていた…カーバンクルはその特殊な能力を活かし、ジエルの潜在意識を受け継ぐ事に成功していた。その結果、基本の人格はカーバンクルではあるものの、ジエルのマインドを投影して誕生したほぼジエルと呼んで良い程の人物であった…



「…」


「…すまない…今の説明で全て理解出来た…今のお前は、ジエルと同じ人間だ…何より、俺よりもジエルの事を理解した人物だ」


「けど…」


「…けど?なんじゃ?」


アルマは、ジエルと同化したカーバンクルがこの世界に誕生したという事実が何を意味しているのかやっと理解できた。しかし、アルマはそんなカーバンクルを受け入れる訳にはいかなかった…



「本心を伝えるのなら、お前をジエルの肉体から追い出して、ジエル本人は復活させたい!」



「…ほう!それは面白い考えじゃな?」


一瞬、攻撃的な発言にも捉えかねないアルマの心の叫びも、カーバンクルは動揺など一切せずに、アルマの答えを飲み込んだ…


「別に構わんよ!」


「!?…本当か?」


「あぁ!本当だとも!それが成功すればの話じゃがな…」


「それって難しい事なのか?」


「あぁ!とても難しいぞ!」


「教えてくれ!ジエルを復活させる方法を」


「…よかろう」


「その前に一瞬話を打線させるが良いか?」


「あぁ!構わない」


「よし!…今この体には、此奴の魂は存在しない!此奴の魂は今霊界にある…そう!先程からお前達と戦っていた影の魔物の親玉が住む世界じゃ!何よりそいつらの目的は何じゃった?」



「…霊界王の復活…」



「そうじゃ!結論から言うと、お前がこれからやろうとしている事は、お前の親代わりでもあるジエルを殺した魔物の手助けをする事に他ならない…」


「そんな事できる訳ない!!」


アルマは、ジエルを復活させる事がジエルの仇である魔物に手を貸す事になるという事実を飲み込む事が出来ずに、ただただ威勢だけを張る事しか出来なかった…



「その通り…此奴もそれを望んでいない…だかそれを決めるのはお前だ!別に我は光の使者であって善人ではない…我の目的はあくまでもお前を導くこと…厳密に言うと死なせない事じゃが…」



ジエルを復活させる為の方法を解説したカーバンクルの言葉を聴いたアルマは、カーバンクルがどういった思考していいるかある程度判断出来た。


(コイツの考え方は、とてもシンプルだ!そして今の俺には心地いい…けど、その思想はジエルには無い考え方だ…そう…コイツはジエルの考えを理解出来る、ジエルとは別の存在…)



「…」


「なぁいいか?俺はお前ほどじゃ無いが、ジエルの事は表面的ではあるが誰よりも彼女の事を理解出来ているつもりだ…それを踏まえた上で、彼女の復活の答えはまだ出せない…その復活の方法以外に彼女を蘇られる方法を俺は知り得ている…だから…その答えは保留にしてくれないか?」


「あぁ!お前が望むのなら…」




アルマはこの残酷すぎる世界線を一旦リセットする気でいた。その考えはカーバンクルが誕生した今も変わらない…もう一度ストーリーをやり直した末に、またしてもこの結末に辿り着くのなら、それも致し方無いと納得するであろうと…


今現在のアルマの目的はあくまでも、ジエルの仇を撃つこと。彼の中でそれが全てで、それが最善であった…


そんなアルマは、アルマなりに悩み抜いて結論を出していた矢先…何か違和感を覚えていたカーバンクルが自身の髪型をいじり出した。


「よし!これで落ち着くぞ」


「…お前何やってんだ?」


カーバンクルの一連の挙動に流石のアルマも理解に苦しんだ。


「ワシは、カーバンクルじゃぞ!この見た目…全くしっくり来ないのじゃ!だからほら!耳じゃ!」


「は?耳ならあるだろ?」


「人間の耳じゃ無いわい!動物的な耳が欲しいのじゃ!これが無いと生きた心地てしないのじゃ」


いい意味で緊張感の無いカーバンクルが掲げている自身のアイデンティティを押し付けられたアルマは、何とも言えない無の感情が込み上げていた…


そんな無表情のアルマであったが、カーバンクルが体現さた”耳”と言う名の猫耳型のお団子ヘアーを目の当たりにした途端、悲壮感が漂っていたアルマの表情に活力が戻ろうとしていた…



「…おい!ジエルの体で遊ぶんじゃない」


(…と言いつつも!メチャクチャ可愛いな!おい…いかんいかん!コイツは、ジエルじゃない!多分魔物と同じ類の生物だ…だから俺!トキメクんじゃ無い…)



強い口調でカーバンクルの奔放さに釘を刺したアルマたが、実際は自分の理性を失わない様に必死にもう一人の自分と戦っていた…そんな自分と葛藤しているアルマを他所に、カーバンクルはフラフラとその場を歩き出していた…


「地に足が着く感覚…実に面白いものだ…人間になって見るのも悪く無いものだな!」


緊張感が欠如したカーバンクルに、死んだと思われたダーク・シャドーの魔の手が忍び寄っていた…



「ビキビキビキ…」


『バッりんー』


アルマが召喚したフェンリルの氷属性のブレス攻撃の影響により、先程まで氷漬けになっていた筈のダークシャドーが氷漬けになった原因を作ったアルマに復讐する為に、自身の動きを封じ込めていた凍結を何とか克服して見せた!



「よくもーー…よくもコケにしてくれたなー!お前らをこの手で殺さない限りは、我も死ねぬわー」


何度もアルマに打ちのめされたダークシャドーは、頭に血が登りすぎてしまい本来の冷静さが失われてしまっていた…


興奮の余りターゲットであるアルマの事よりも、まずはただ目の前に居たと言うだけの理由で、ダーク・シャドーは怒りの矛先をカーバンクルへ向ける事にした…



「死ねーーい。ダストーーー」



ダークシャドーの足元から太い影が一本、カーバンクル目掛けて一直線に飛び出してきた…


ダークシャドーに狙われてしまったカーバンクルはというと、気が緩んでいたとは思えない程に一瞬でダークシャドーから醸し出せれた悪意を察知し、素早く防御魔法の準備を整えていた…


そんな用意周到であったカーバンクル目掛けて一つの人影が彼女を救う為に行動を開始していた…そう…それがアルマその人である!


「え…なんで」



「もう二度と死なせない!今度こそ俺が貴方を守ります!」



考えるよりも先にアルマは行動を起こしていた…その行動は無意識で、ジエルの見た目をしたジエルでは無いカーバンクルであったとしも、彼は潜在的に芽生えたジエルを助けたいと思う願いが彼を突き動かしたのであった。


『ドン!』


『グッサリ!』


『ゴロゴロゴロ…』


咄嗟の行動に出たアルマは、ダークシャドーに狙われたカーバンクルを突き飛ばし、カーバンクルの代わりに影魔法を喰らってしまった…


ダークシャドーの攻撃をモロに受けしまったアルマは、ダークシャドーに背を向けた状態で四つん這いになりながら蹲ってしまった…


そんな傷ついたアルマを心配し、すぐさまアルマの元へ駆け寄ったカーバンクルは、得意の光魔法による回復魔法で瞬時にアルマの傷を修復してあげた。



「何であんな無茶をしたんだ?ワシが防御魔法を扱える事をお前は確認している筈?なのに何故…」


心配そうにアルマの病態を気遣うカーバンクルに対して等のアルマは、自身も予期しなかった行動に驚いている事を当の本人に伝えた。



「俺だって好きでお前を助けた訳じゃない…でもお前は、ジエルだ!…年寄りの様な喋り方をするが、見た目はまんまジエルそのものだ!助けない訳にいかないんだ…例え本当のジエルがもうこの世には居なかったとしても…これ以上お前が傷付く姿を見たく無いんだ…」



「…どうしてそこまで…お前達人間の考えている事はさっぱり分からん…」



「分からなくていんだ…俺はきっとジエルじゃなきゃこんなに執着しなかった」



カーバンクルはアルマがジエルに向けている感情が”最愛”である事を汲み取った上で、ジエルが思い描く”最愛”の人物がアルマでは無い事を、ジエルと共鳴した時に知り得ていた。


「確かに此奴は、お前の事を自分の子供様に愛していた…しかし、お前が此奴に抱く感情は別の感情…」



「やめろ!!…それ以上俺の私情に首を挟むな!」



アルマの怒号が崩れ落ちるEXエリアに響き渡る中、ダークシャドーにやられたアルマの傷がカーバンクルの回復魔法のお陰で完全に修復し終わった。しかし、カーバンクルが放ったその問いかけだけが、アルマの心に回復魔法では修復出来ない深い傷を与える事となった…



(わかってるさ…分かってるよ…でもその顔で…その瞳でその答えを俺から聞き出さないでくれ…これ以上ジエルの事で傷つきたく無いんだ…)



「ダスト!」


「ダストーー」


そんな中、倒れ込むアルマとそんな彼を介抱するカーバンクルに対して、狂気に身を委ねたダークシャドーがなりふり構わずアルマ達に目掛けて影魔法を連続投入していた…


『カッキン!カッキン!』


そんな狂気に取り憑かれたダークシャドーとは裏腹に、カーバンクルは表情を一切崩さずに光属性の防御魔法『オフサイド』を詠唱無しで披露していた。しかも、アルマに与えていた回復魔法と同じタイミング且つ同時にそれらの魔法を披露するカーバンクルはまさに光魔法のスペシャリストであった。




「所でお前へ、この後どうするつもりじゃ?そろそろこの防御魔法の効力が切れ頃…言っとくがワシは、攻撃魔法は一切使えんのじゃ?…何よりこの世界に転生して既に3回、強力な光魔法を使用している影響でワシのMPは殆ど空っぽじゃ!新たな魔法を使用するにはもう少し時間がかるぞい」



冷静沈着な対応を見せるカーバンクルは、まだ四つん這いの状態から立ち上がることが出来ずにいたアルマに対して、防御魔法が消失した後のダークシャドーに対抗する為の手段や案の有無を問いただした。


一方のアルマはと言うと、自分に残された攻撃手段を正直にカーバンクルに伝えた…



「何もないんだ…」



「もう打つてはないんだ…今の俺には…召喚獣を呼び出すために必要なMPが残されていない…尚且つ最悪な事に、攻撃アイテムも回復アイテムも既に底を付いている…所持しているアイテムと言えば、赤の他人が映る写真と他人の武器のみ…」


これまでの激闘によりアルマは全てを出し切っていた…メインの攻撃手段であった魔石による魔法攻撃も…傷を癒す回復アイテムも…このフロアに隠された未完の隠し召喚魔石とその解錠方法も…今のはアルマには、死ぬ以外の方法でこの危機を脱出する術は持ち合わせていなかった…


アルマは全てを使い切り、残させれているのは己の五体のみ。現時点で役に立ちそうなこのゲームの裏技は存在せず、アルマは裏技を持て余していた…



「本当の本当に限界かも知れない…やれる事は全てやった…全て出し尽くしたんだ…もう武器はない…」



「武器なら無限にあるぞ」


『!?』



下を向き、地面に頭を擦り合わせるアルマに、ジエルの様なカーバンクルが救いの助言をアルマに差し伸べた。



「この世界の想像力とは創造力でもある!魔法が当たり前のこの世界に真の当たり前は存在しないのだ!全てが非現実・非日常である!人間は壁を感じた時に自身に壁を作る!その壁を壊したいのに壊せないと…決めつけるのはまだ早い…」


「勇気が出ない…一歩踏み出すだけの余力もない…と!それも壁なのだ…お前が壁を打ち破りたいと願った時に、その壁の打開策が壁自身に存在している事に気づくのだ…答えは初めから見えている…そこに辿り着くまでに皆諦めてしまう…諦めるのは勿体無い。何故ならその答えは簡単だからじゃ…」



「その答えとは…応援だ!」


「応援…?」


「応援とは”声”である!声には力が備わっている…他者へのエールが他者の限界を越えさせる鍵となる!鍵は声…声は力に変わる…さぁ!お前は何を望む…その声で!その口で!願いを言え!」


「…」


ー カーバンクルは全てに絶望をしたアルマを奮い立たせるにはジエルの力が必要だと判断した…その結果カーバンクルは自身が知り得る情報を元に自身に宿るジエルを憑依させた…


ジエルを憑依させたカーバンクルの言動を目の当たりにしたアルマは、偽物である筈のカーバンクルの背後に本物のジエルの姿が重なって見えていた…



「あと一歩…あと一歩を俺に踏み出す勇気をくれ…俺はジエルの一言があれば本当のアルマに生まれ変わる事が出来る筈…」



アルマではなくプレーヤーである『新堂康二』としての孤独や葛藤がこのEXフロアに響き渡った時、カーバンクルの背後に現れたジエルの面影がカーバンクルと一つに重なった…


「…」




「アルマ!君の最大の武器はその着眼点にある…君に限界など存在しない…自分の未来を想像しろ!そして、今の自分を肯定しろ!さすれば”それ”は己の武器となる…さぁ我が息子!アルマ・インヘリット!想像を超えろ!壁を打ち破れ」




『!!!』


そこには間違いなく死んだ筈のジエルがいた。そう…それはアルマの知るジエルそのものであった…


アルマはジエルの激励を全て受け取り、その激励を最強のエネルギーへと変換した。それは全ての人間に備わり、殆どの人間が見落としている最強のエンルギーそれは『愛』だ!


人間がそれを愛と認識した時に初めてそれを具現化する事が出来る。愛は概念であり召喚獣、ましてや神も概念である…そう!愛は神と同等の力を作り上げる事が出来る最強のエネルギーなのである…





ー カーバンクルの防御魔法『オフサイド』の使用時間が切れたその時…完全なる無防備となったアルマとカーバンクルがダーク・シャドーの目の前に姿を表した…


アルマは四つん這いの状態のまま嗚咽を繰り返し、一方のカーバンクルは嗚咽を繰り返しているアルマには目をくれずあさっての方向を見続けていた…



見るに耐えないアルマの言動に、先程まで怒り狂っていたダーク・シャドーはすでに冷静さを取り戻したいた…




「見苦しい…実に見苦しい!お前の最後がそれか…まぁいい…お前も我も、もう限界…さぁ一緒に死のうではないか…」



『ガチャ!』


「死ぬのお前一人だ!」


『!?』


突如、四つん這いになっていたアルマが四つん這いの状態のままダーク・シャドーに死の宣告を告げた…


「今更何を…先程まで嗚咽を繰り返していた人間に今更何が出来る?」


ダーク・シャドーの攻撃が一旦制止した事を確認したアルマは、その場からゆっくり立ち上がり、自身が取り戻した勇気と力を胸にダーク・シャドーにもう一度立ち向かう決意を固めた。



「今の俺は自分の力で立ち上がっているんじゃない!今の俺を突き動かしているのは愛そのものだ!」


「愛?愛などに何が出来る!そんな物、戦いに一切関係のない感情!むしろそれは己の足を引っ張る非力な概念」


「…」


「愛を知らないお前に、愛によって生まれる無限の力の事など理解出来ないだろう…さぁ!真のフィナーレだ」




現時点で最強の敵であるダークシャドーにそう告げたアルマは、何処からともなく持ち出した魔力の籠った銃『魔銃』の銃口をダークシャドーに構えていた…


『ガッチャ』


「そんな武器今の今まで何処に隠し持っていたのだ!?…しかし、その様な武器はお前の様な奴隷に扱える品物でもあるまい…その武器は限られた人間のみが扱える至高の武器!身分を弁えろ!一般奴隷!」



そんなダークシャドーの痛烈な罵倒にも一切表情を変えるとなく、アルマは魔銃のトリガーに指を掛ける…




ー 『魔銃』それはこのゲームにおける勇者パーティーの一人『ブルータス』の初期装備であるリボルバー式の銃型の武器である。本来の魔銃の所持者である『ブルータス』には秘密があった…それは主人公と敵対する帝国軍のスパイであった…

将来的には勇者パーティーを裏切るブルータスであったが、限定的ではあるものの実際にプレーヤーがその手で操作し主人公と共に旅をする事が可能であった…いわゆるゲストキャラである。

そんなブルータスはというと、そのビジュアルやプレミア感により一部のゲームユーザーからは、熱烈な支持を受けているキャラクターであった。何を隠そう、アルマの現実世界の姿『新堂康二』その一人であった…




一方、魔銃を突き付けられたダークシャドーはと言うと、アルマの威嚇に対して一才物怖じをしてはいなかった…それには理由があった…


「分かる…分かるぞ…その武器…弾が入っていないだろ?その武器には魔力が感じられない…」



ダーク・シャドーの見解通りアルマが構える『魔銃』には弾が一発も挿入されていなかった…



ー ブルータスが扱う『魔銃』の最大の特徴は、弾丸を発射する銃としての役割よりも魔法の力が籠った特殊な弾丸『魔弾』を発射する事が出来る点である。何を隠そう、ブルータスもアルマと同じく魔法を使う事が出来ないキャラクターであり、魔法が使えないアルマがパチンコを使用して様々な種類の魔石を敵にぶつけるという方法もブルータスから着想を得ていた。



「ふん!そんな子供騙しの脅しなど我には無意味!ここまで我を苦しめておきながら、最後の最後で脅しとは…まさに滑稽…もう語ることもあるまい…これで終いだ」


「…」


ー この世界のほとんどの理を理解していると自負しているダークシャドーが、伝説として認識してる現象が存在した…それは人間だけが扱うことの出来る必殺技『神技』である…



「…信じられない…我の眼は奇跡を捉える眼であったのか…この”得体の知らない光”は…もしや『神技』…何故お前へごときがそれを扱える…お前はただの奴隷では無かったのか…」


突如、死に際を探していると思われたアルマから”得体の知れない光”が放たれた…その光は次第に小さくなり、アルマが構える魔銃のシリンダーへと吸い込まれていった…その一連の現象を目の当たりしたダーク・シャドーはその光の正体が自身が認識していた神技を使う事が許された人間のみが放つ事が出来る黄金の光であるとすぐに理解する事が出来た…


ダーク・シャドーは、次第に使用出来る技が増えていくアルマの姿を目の当たりにする事により、アルマはこの世界に存在してはならない『バグ』その者だと改めて実感した…


「…そうだったお前は『バグ』だった…この奇跡とも捉えれる一連の偶然は…全てお前が仕組んだ必然だったのだな…」



魔物の達に伝わる『神技』についての伝説には続きがあった…それは、『得体の知らない光を見たものは今後この世に生きていく事は許されない』と言うものであった…ダーク・シャドーは今まさにその伝説の光を目の当たりにし、自身の死を確信したのであった…



「覆せ!リノベイト!」


「バキュン!』



死を覚悟したダークシャドーに放たれたアルマの”それ”は、見事影であるダークシャドーに直撃した。



本来、影であるダーク・シャドーが所持するスキル『シャドウ・ボディ』には実弾のダメージが与える事が出来ないのであったが、”得体の知れない光”によって作られた魔弾は、最も簡単にダークシャドーの『シャドウ・ボディ』を貫いて見せた…しかし、神技によって生まれてこの魔弾の効果は”貫通”によるものでは無かった…


「うっ…いや……痛くない」


なんとアルマが放った神技はダークシャドーにダメージを与える事は出来なかった…



「ははは…脅しよって…伝説は伝説…実際に受けてみれば、それが噂話かどうかくらい直ぐに分かるは…」



しかし、アルマが放った神技の正体は攻撃によるものではなく、標的にとある変化を与える事の出来る能力を秘めていた…そんな中、早速ダーク・シャドーの体にとある変化が現れた…



『!?!?』


「嘘だ…我の身体が消えていく…」



足先から徐々に消えゆくダークシャドーは、アルマが発生させたこの事案がどのタイミングで発生したのかを自身の短い記憶の中から手繰り寄せる様に自身の記憶を繋ぎ合わせた…


「一体いつからだ…何処から変わったんだ……そうか…もしかするとあの時か?…お前が嗚咽を繰り返していた時に、お前は神技を手に入れたのか…」


頭がキレるダーク・シャドーは直ぐにアルマが神技を身につけたタイミングに辿り着けた。


「あぁ、その通りだ…俺が飲み込んだアイテムは『過ぎ去りし思い出』と言う名の写真だ」



「写真だと!まさかあの時!お前は写真を飲み込んでいたのか?やはりお前は狂ってるな!はははっは…」


消えゆくダークシャドーも驚くほどのアルマの暴挙も、実はとても理にかなったアイテム習得方法であった…


「あの写真はエヴォルの森の中での入手出来るアイテムの中でトップのレア度を誇るアイテムなんだ…『過ぎ去りし思い出』というアイテムは一見するとただの写真…しかし、とある人間がこれを手にする事でその写真が『最恐』の神技に生まれ変わるんだ…その人間というのは…この魔銃の持ち主ブルータスその人だ」




ー ブルータスが取得出来る神技は二つ。『シングル・コンビネーション』と「リノベイト』に分かれる。


一つ目の神技は初期から扱える『シングル・コンビネーション』…これは、1ターンに3回連続で攻撃する事が可能になる、ブルータス専用のアビリティである。



ー 本来このゲームの戦闘はターン制を採用しており、1キャラクターは1ターンに1回までしか攻撃参加する事は出来ない。


ブルータスは神技『シングル・コンビネーション』を披露している間は、1ターンに3回まで攻撃する事が出来るのだ…しかしながら、ブルータスは物語の中盤でその責務を全うする事により、この神技を披露する機会がそれ以降なくなってしまう。

何より、アルマが以前ダークシャドーの進化体であるオーロクスに披露した『テラ・ファイヤ』もブルータスの『シングル・コンビネーション』にインスパイアされたアルマが”一人連携”と言う名の『シングル・コンビネーション』で3回連続で火魔法を使用して完成させた隠し技であった…



そして二つ目の神技『リノベイト』…この神技は、ブルータスが存命の内では披露する事が叶わない幻のコマンドアビリティなのである。ざっくりと説明すると、『オマケ要素』である。『実際にこんなすごいアビリティがあったんですよ』的なニュアンスで用意された神技である。





一見、披露する場面が無いこの『リノベイト』も、とある方法を駆使すればどのキャラクターでも使用可能になるのだ…それが!今回アルマが使用した裏技『アイテム・アンロック』である。

一周目をクリアし、エンディングを迎える事でプレイ出来る”二週目”以降で初めて使用出来る裏技『アイテム・アンロック』…これを使用する事でどのキャラクターにも『過ぎ去りし思い出』を使って『リノベイト』を習得させる事が可能になるのだ。



そもそもこのゲームの評価に賛否が分かれる要因として各キャラクターの育成やストーリーに自由度が無い事である。一人のキャラクターが扱える武器や防具の種類が圧倒的に少ない事や取り返しのつかないイベントが多い事がこのゲームの評価を低下させている要因である…しかし、一見自由度が少ないゲームに思われがちな『チェーン・ブラッド2』も二周目以降に使用出来る裏技を組み合わせる事により、全く別のゲームへと化ける事となる…




製作者の意図はこうである…一周目はこのゲームのストーリーを単純に味わってほしいと…二週目以降は各種裏技を組み合わせて、ストリートの自由度を上げたり、好きなキャラに好きな装備品や他のキャラクターの技を習得させる”自由”を味わってほしいと…周回を重ねる事により様々な顔を見せてくれる『チェーン・ブラッド2』もそもそものゲーム難易度の高さから、二週目をプレイする前の一週目で挫折してしまうプレーヤーが続出した…このゲームがヒットしなかった最大の理由は、ライト層のユーザーを取り込めなかった事と今の様にインターネットが普及しておらず裏技の使用方法を知る術が少なかった事が挙げられる…





ー 話は戻り、EXエリアでは『アイテム・アンロック』の裏技を使用して誰でもアイテムを自由に扱える事になったこの世界で、どうやってアルマが神技『リノベイト』を取得出来たのかを消えゆくダーク・シャドーに説明していた…


「俺が飲み込んだこの写真正体は、ブルータスの神技『リノベイト』の習得に必要なキーアイテムだ!実際どうやってこの神技を習得するか悩んでいた俺は、自分の頭に写真をくっ付けてみたり、写真に念を送ってみたり、少ない時間で色々試してみたが、結果は全て失敗…悩んでる時間が勿体無いと判断した俺は、思わず『過ぎ去りし思い出』を飲み込むことを決断した…」


「その後、偶然か必然か俺はリノベイトの習得に成功した!そして今…俺はやっとの思いでお前に一泡拭かせる事に成功した…そう…写真を飲み込む事も恥をかく事も結果が付いてくれば安いもんだ…」



「…」


アルマの解説を全て聞き終えたダークシャドーは、自身の完全消滅を改めて受け入れた。ダークシャドーは自身の消滅の瞬間が一刻一刻と迫る中、宿敵であったアルマに対して一つの置き土産を差し出した…


「…なるほど…これでよく分かったぞ…全ての因果は一つに交わる事を…」


『!?』


「消滅する前にお前にとって重要な秘密を教えてやる…我主人!冥界王こと魔王シバルバは何を隠そうお前と同じ『不純なるバグ』なのだ…」


「なんだって…」


「お前と我が出会えた事はきっと運命…そして、シバルバ様とお前が出会う事もそれもまた運命…さらばだ不純なるものよ…冥界で会おう…」


「…」


『…シュ…』


この発言を最後に、ダークシャドーは完全に消滅した…



「…やっと終わったんだ!ジエル…仇は打ったぞ…ふぅ…これでやっと死ねる…」



ダーク・シャドーの遺告とも取れる発言にアルマは頭を悩ませた反面、彼が求め続けた物語の結末に辿り着いた事により、自身が背負ってきた重荷から解放される事の喜びが勝っていた…


そして、現場にはアルマの物語の終末と謎の黒い箱が残された…


『コロン…』


ダーク・シャドーが消滅したと同時にダーク・シャドーが立っていたその場所に突如、黒い箱…通称「ブラックボックス』が異質な存在感を放ちながらこの場に姿を現した…



「これはブラックボックス…?」



神技『リノベイト』とは:ほぼ全ての敵に使用可能であり…一定の確率で魔物を『ブラックボックス』に変化させる事が可能な唯一無二の凶悪なアビリティである…



(このブラックボックスはジャンク屋で手に入れた”それ”と同じ者なのか……でも今はもう何も考えたくない…ただただ…無に帰りたい…それが全て…)




ジエルの仇を打った喜びはすでにアルマから消えていた…彼の心に残されたのは達成感でもなく、哀愁でもく虚無感であった…そんなアルマは、何故かダークシャドーが消滅したこの場所から動く事が出来ずにいた…死に場所を求め崩壊寸前のこのダンジョンで自身の死をただ待ち続けるのもアリなのでは無いかと悟っていたからである…



ー アルマの気持ちとは裏腹に彼の死に場所はここでは無かった…それは神の悪戯か?それとも混沌を引き起こした末路か?運命はアルマの死を否定した…



『テクテク…』


「…オイお前!せっかく手に入れたブラックボックス!要らないならワシが貰ってやってもいいぞ!」


「…」


「…なんだお前!急にダンマリを決め込みおって!…それにしてもこのダンジョンはもう持たんな!」


「…」


「…なぁ?うんとかすんとか言えんのか?お前は…」


「…」


「…はぁ…しょうがない!今回だけ特別じゃぞ」



『ドドドドッド…』


アルマがいるこのEXフロアが完全に終滅する寸前にカーバンクルがとある魔法と唱えた…



「ほれ!掴まれ!」




カーバンクルは無理やり戦意喪失したアルマの腕を掴んだ!次の一瞬…アルマとカーバンクルはこの場所から一瞬で姿を消してしまった…




『シュン…ドドッド…』

『…』

『ドッカーーん!!!』



二人が姿を消して直ぐ、チムニー洞窟はシンボルでもあった煙突も含めて全て建物が崩壊した。チムニー洞窟が崩壊して三日後…世界地図からチムニー洞窟名前が消された…




ー ダンジョン崩壊から3日後…チムニー洞窟から姿を消したアルマは、とある空間に閉じ込められていた…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なぁお前?そろそろ自殺する事考え直したか?」


『……』


「…なぁそうやって不貞腐れるのも飽きたじゃろ?この異次元空間では死ぬ事は愚か、ワシの許可なくこの空間から脱出する事すら許されないぞい!」


「ちなみにこの空間じゃ腹も減らんし年も取らん…餓死する事すら許されないのじゃ!ちなみに歳は取らんと言ったが、外の世界ではしっかりと時間は経過しておるぞ」


カーバンクルは、回復した自身の全てのMPを消費し、死にたがっていたアルマを説得する為に崩壊寸前だったチムニー洞窟から殺風景な異次元空間へアルマを連行していた…


「ワシは此奴と誓ったんじゃ…お前を死なせないと!お前は生きなくてはならない…此奴の分まで!それが此奴からお前へ託された太陽の意志じゃ」


「………」


「…」


『…シクシク』


「お前…いい年こいて、シクシク泣くな!みっともないな!ははははぁ…」


「…」


「でも…それでいい…それでいいんじゃ…お前はやり切った!何より自分の信念を曲げずに己を突き通した!そして、自由を手にした…もしも、ワシがジエルだったら目標を失ったお前にこう背中を押すだろう…」


「……」



「君は自由を手にした。そして、これは君の物語だ!誰の事も気にせず…私の事は気にせず…自分の人生を謳歌しろ!アルマの体は君のものだ!!」




ジエルと意識を共有したカーバンクルは、自身の受け皿であるジエルが思いつく全ての事柄を理解できていた。

そして、それを迎えたうえで傷付くアルマにジエルとしてエールを送った…


「…ヒクヒク…」


「…」


泣き出したアルマは、この世にもう居ないジエル遺言を聞き入れ、短いがけれど大事な一歩を踏み出すことを決断する事が出来た。


「分かった…もう死のうとは思わない…俺は俺の物語の歩みを止めない…それが、最愛のジエルとの約束だから」


三日間にひたすら自分自身と向き合ったアルマは、一つの答えを導き出した。




それは…<アルマとして生きること>


それがジエルの願いであり、アルマが導き出した答えであった…



「…」


「よし!やっと納得したな!じゃあ我の家に帰るとでもしようか?」


「…家ってどこの家だよ!また変な空間に連れて行かれるんじゃないよな?」


「なーに言ってるんじゃ?我らの家と言ったらあそこしかあるまい」


「…でもどうやって帰るんだ。直通で家に帰る方法なんて…」


『…』


「あ!あった!」



「そうの通り!この耳飾りじゃ!これを使ってこの空間から抜け出すんじゃ!」


「そっかその手があったか、あの家もずっと放置しておくわけにも行かないしな!あの家にはジエルの思い出が沢山詰まっているからな」


「あぁその通り!早速帰るとしようかのう…ああそうだ!お前に一つ言い忘れておった事があった」


「なんだよ急に」


「急じゃないのじゃ!この三日間暇すぎてこれを考える事しか楽しみが無かったのじゃ」



「で!何だよ!その決めた事って」


「名前じゃ!」


「…名前?カーバンクルでいいだろ?」


「ダメじゃ!長いしワシの名前は世間に知れ渡りすぎている!余計な混乱を生むだけじゃ!だから、この世界で生きる為の新しい名前は思いついたんじゃ」


「…で何だよ!その名前?」


「そう!ワシの新たな名前は…」


「…」


「ボタンじゃ」



「…ボタン…まぁ悪くないんじゃないか」


『ニカッ!!』


「じゃろ!じゃろ!ワシはこれからボタンじゃ!よろしくなアルマ!」



「…ふん…勝手にしろ…」



ー カーバンクル改め『ボタン』は自身が身につけていた転移魔法が付与された右耳のイヤリングに願いを込め、とある言葉を発した…



「ではいくぞ…ワーム!!」


『デュっぃいん』


ボタンが『ワーム』と叫んだ途端、ボタンとアルマの周辺に黒い落とし穴様な魔法陣が出現し、二人をとある場所へ導いた…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『…』


「…こ…ここは」


「玄関?」


二人が戻ってきたのはジエルの実家でもあり、アルマとイノリスの家でもある小高い山の一軒家であった…


「帰ってきたんだな…俺たちの家に…」


「なあボタン?PSを使って家の鍵を取り出してくれないか?」


「おう!任せとけ!」


アルマは拠点である家に入るための家の鍵をボタンに探させていた…すると…



『ギィいい…』



『!?』


(ん?…扉が開いている?もしや泥棒か?そうだった…留守の家に侵入するなんて、泥棒の専売特許みたいなもんだよな〜ここは、戦闘に不向きなバタンより俺が先に家に侵入して、家の様子を伺うしかないな…)


「おいボタン!ちょっと用事が出来た!俺が合図するまで、この場所で待機しておいてくれ」


「おぉそうか?気をつけて行ってこいよ」


「あぁ任せとけ」


アルマは戦闘タイプでは無いボタンに配慮し、自らが先陣を切って負のオーラを纏った家へと侵入を開始した…



『…ピ…ピピ…』



鍵が開いた扉からゆっくりと忍足で家の中に侵入したアルマ。玄関を通り抜け、物音を立てずにリビングの扉まで足を運ぶ事に成功した…



(!…やっぱり誰かいるぞ…)



扉の先に生物の気配を感じ取ったアルマは、緊張感を持ってリビングのドアのぶに手をかけた…


そして、ゆっくりとリビングの扉を開けてみると…そこにフード付きのマントを羽織った人間らしき人物が確認できた…


(やっぱり泥棒だったか?逃げずに待ち構えているとは、よっぽど腕に自信があるやつに違いない)


一気に緊張感が張り詰めるリビングでアルマが謎の人物にコンタクトを取ろうと試みた…




「おいお前へ!よく人様の家に忍び込んでくれたな!ここはお前なんかが入って来ていい場所なんかじゃないんだぞ!痛い目に遭いたく無かったら、とっとと出てってくれ!なるべくなら争いはしたくは無いんだ!」



『ブッチ!!』


アルマの説得も虚しく、泥棒は何のアクションも仕掛けてこなかった…


「…無視かよ…まあいい…返答がないって事は、そういう事だよな…強制的に出てもらうしか他ならないな」


謎の侵入者と対峙する事を選んだアルマであったが、部屋の外からボタンの声が聞こえてきた…



「おーいアルマ!全然戻ってこなから心配になって見に来てやったぞ!」


『バタン!』


アルマの指示を無視し、リビングの中へバタンが唐突に侵入してきた。


すると…



「…う…ウソ…嘘でしょ…!?」


先程で無言を貫いてきた泥棒が明らかに動揺も見せた…


「…」


だがしかし、泥棒は直ぐにの動揺を収束させ、ゆっくりとアルマに近づいて来た…


「何だよ急に…?」


余りに等々な泥棒の態度にアルマは泥棒との距離を取ることを見誤ってしまった…するとアルマの真正面に立ったフードの人物がゆっくりと自身の右手でフードに手をかけた…


「…」


『…クンクン』


(何じゃこの匂いは…初めての匂い…そして、ワシの匂いもある…ん?…匂いが二つ…いや三つ…?)


鼻がきくボタンは、泥棒から醸し出された複雑な匂いからとある人物の姿が脳裏に映し出された…


「…まさか」


泥棒の正体に気づいたボタンよりも一歩遅く、アルマは泥棒の正体に気付かされる事となる


「…嘘だろ」


アルマは泥棒が被っていたフード付きのマントに見覚えがあった…


「このマントって…」


『!?!?』


「このマント…忘却のマント…?」


「…」




「…もう遅い…」



アルマが泥棒の正体に気づいた瞬間、アルマに対する苛立ちが最高潮に達していた謎の人物は、一瞬で愛用のマントを脱ぎ捨てた!!



次の瞬間!


「アルマ危ない!」


『グサッ!!』


ボタンの助言も虚しく…フードの人物が繰り出した炎を纏った左拳がアルマの心臓が一瞬で貫いた…



「生き…ていたのか…何で…連絡してくれなかったんだよ…俺たち…家族だろ…」



『イラ!!』



「お前など兄弟でもなんでもない!!この裏切り者!!!」


「…ご…ごめんよ…」



「…イノリス」



「ここはお前の居場所じゃない…僕とジエル様だけの家…お前などもう要らない…とっと死んでこい」


『ドッサッ』


『……』



平行線:互いに一定の距離を保ち、距離がどの点においても同一の値を持つ線…どこまで延長しても交わらない…互いの主張・意見がどこまで行っても妥協点が見出せない…





           プレイ時間:192時間44分 アルマ・インヘリット…死亡 



 第一部:完

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[良い点]  正にゲームの世界観ですね。RPGとか好きなので、勇者、魔法、ドラゴンなどが出てくるとワクワクします。主人公は、ゲームのプレイヤーとしてストーリーを進めて行きますが、勇者ではなくそこら辺に…
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