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リレーション

◎説明書(電子版):PSポータブル・ステーションに掲載されているこのゲームの操作方法…



『スキル』…この世界に存在する”特殊能力”全般の事を指す。主にキャラクターやアイテムなどに備わっている。


『アビリティ』…そのキャラクターに元々備わっている・今後目覚めるであろう”特技”の事を指す。魔法もアビリティの一端である。


『コマンドアビリティ』…戦闘時にのみ使用可能。ex:戦う・逃げる・各種アビリティなど…


神技しんぎ』…特定の条件下で発動は可能なコマンドアビリティ。この世界の主要キャラクターのみが扱える固有アビリティ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



初恋だった…


小学校の同級生に、好きな人を問いただされた時…ふとあの人の名前が脳裏に浮かんだ…

俺は素直にその人の名を叫んだ!しかし周りの人間はその名前を聞いた途端、俺を拒絶した…

その後の俺は、そんな現実を呑み込む事が出来ずにいた…


この告白を機に俺は変わり者のレッテルを押しつけられた…その後、俺はこの世界を拒絶した…


時が過ぎ、俺は無意識に初恋のあの人の事を記憶から消していた…そして気づいた頃には、俺は自身は俺を隠すように世界に溶け込んだ…『出る杭は打たれる』俺の嫌いな言葉だ…


今想う…初恋のあの人へ…

あの時叫んだ君の名を、直接君に言えたなら…俺は本当の俺を取り戻すだろう…


会いたい…本当の君に…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ドドドド…』



マイルストーン鉱山に出現したチムニー洞窟の先の先…EXエリア


地下六階層のチムニー洞窟の最深部に出現した時空の扉の抜けると、フェノフェロウ以前では訪れることの出来なかった特別なフロア…EXフロアへと足を踏み入れる事が許される。


そして今まさに、EXフロアを含むチムニー洞窟全体が音を立てて崩れ落ちようとしていた…



「グッは!い…いつからだ?いつジエルの体を乗っ取った?」


EXフロアの終着点で一人の青年が血反吐を吐きながら地面に倒れ込んでいた…そして、そんな青年の体の上に一人の女性が青年の背中に腰掛けるように座り込んでいた。


「偉そうに…死に損ないが我に質問とは…まぁいい!せっかくだ、お前の死に際に花を持たせてやろう…」


「影魔法を使えば影から影へと移動する出来る…我は手にしたばかりの肉体を捨て、コヤツの身体に巻き付いていた我の”影の切れ”を辿ってコヤツの身体に移動していたのだ!その後、弱っていたコヤツに我が主人”冥界王”から授かっていた闇魔法の禁術・闇堕ち《レクイエム》を施した事によってコヤツの体を乗っ取る事に成功したのだ!!」


ジエルの体を乗っ取り命拾いをした偽ジエルは、自身を追い詰めた謎の青年に非常に興味を示していた。


「…しかし、お前の訳の分からん魔法のせいで、せっかくこの世界に受肉出来た我が肉体をすぐさま捨てる事になろうとは…お主!一体何者だ?」


「…奴隷…ただの奴隷だ!」



レイピアで貫かれた傷により衰退の一途をたどるアルマだったが、彼の心は折れることは無かった!むしろどうやってこのピンチを乗り越えるべきを懸命に模索していた


(俺は、こんな所でイノリスとの約束を果たせずに死ぬ訳には行かない…必ずジエルを生かしてこのダンジョンから脱出しなくてはならないんだ…)


『…」


しかし、彼の発言をただの強がりとしか認識できなかった偽ジエルは、自身の瞳を大きく見開いて彼を罵った…



「ワッハハハ…奴隷だと…あのクソの役にも立たない奴隷が、この我をここまで追い詰めたというのか…はっはっはっは!くだらない冗談も休み休みにしろ!」


「…」


「…まぁいい!もう時期このダンジョンは役目を終え、もう直ぐ完全に消滅する…」


『!?!?』


「お前の様な雑魚には勿体無いくらいの豪勢な墓になってしまうがな…まぁ!我をここまで追い詰められるのは1000年振りか…まぁいい…雑談はもう飽きた…さぁ!終焉を迎えようか!」


『サッ!!』


偽ジエルは、すでに構えていたレイピアをもう一度アルマに向けて突きつけようとしていた…


「死ねぇいぃ!」


「…」


『…ピッタ』


突如動かなくなった自身の体に驚きを隠せずにいる偽ジエルは、すぐに状況を飲み込むことが出来ずにいた。


「…く…こ…これは…」


「はぁ…はぁ……やっぱりだ…乗っ取りが完成したとは言いつつも、真の意味で乗っ取ることは出来ないみたいだな…」


「はぁ…はぁ…意味が分からん…一体、我の体に何が起きているのだ…」


体の自由が気がずに次第に地面に片膝を付くまでに至ってしまった偽ジエルは、自身の体が呼吸困難を起こしている事にやっと気づく事が出来た…


「…やっぱり…まだ克服できていないじゃないか?なぁジエル!?…」


呼吸が出来ずにその場でしゃがみ込んでしまった偽ジエルは、しゃがみ込んだ際に自身の鎧に絡み付いた謎の葉っぱを発見する事となる!


「なんだこの植物は?」


偽ジエルはいつの間にか自身の鎧に紛れていた謎の葉っぱをむしり取ろうと試みてみるも、新たに発症したシビレの影響により謎の葉っぱに触る事もできな程の体の不調に嫌気がさしていた。


シビレと呼吸困難を発症している偽ジエルを姿を近くで観察していたアルマは、自身の傷を抑えながらゆっくり立ち上がり、偽ジエルに対して自慢げに質問の答え合わせを行った…


「はぁ…はぁ…やっぱりお前は?何にもジエルのことを解っちゃいない!これは…」


「これは、彼女のアレルギー反応だ!」


「何?アレルギーだと!?」


「それはコリアンダー!!彼女が世界で一番苦手な食べ物!ジエルは、このコリアンダーの香りを嗅ぐだけで、ひどい蕁麻疹と呼吸困難に陥る程の重度のアレルギー持ちなんだ!」



「何故…ナゼそんな事を赤の他人のお前が知っている!?」


身動きの取れないもどかしさに苛まれた偽ジエルは、ただただ何も出来ずに地面に頭を擦り付け、この場で叫び散らかすしかなかった…



「エヴォルの森で見つけたコリアンダーを捨てずに取っておいてよかったよ…解毒薬としての効果がある一方で俺のアイテム拡張袋の収納制限を一つ減らしてまでこれを収納するか迷っていたが、たまたま捨てずに取っておいてよかったよ…お前が俺に接近した時にコリアンダーをジエルの鎧に忍ばす事に成功したのだから…」


身動きの取れない偽ジエルに対して、攻撃の為の魔石を装填したパチンコを突きつけたアルマは、何故か苦虫を噛む潰した様な表情で惨めに倒れ込む偽ジエルに、自身の中に芽生えた悶々とした感情を吐露していた…



「…」


「…やっぱり無理だ…」


「…なぁ?どうしたら彼女の体を解放してくれるんだ?」


「…正直この後お前をどうしたらいいか分からないんだ?…やっぱり…どうしても…俺はお前を殺せない!」



正直すぎるアルマの告白に、偽ジエルは嫌味なほどの高笑いで情けをかけたアルマを痛烈に批判した!


「ぎゃっははは!お前って奴は!本当の馬鹿なんだな?この状況でこの我を殺さない?しかもコイツの体も返してくれだ〜?」


「…あ〜胸糞悪い!お前の様なお人好しは、今すぐにでも我がなぶり殺しにしてやりたい所だ!!ぎゃっはははは…」


怒りの力なのか?アレルギーを克服したのか?偽ジエルの動悸は少しずつ回復に向かってゆき、徐々にではあるが立ち上がれる程まで回復していった…


その後、アレルギーを克服し完全に立ち上がった偽ジエルと目が合ったアルマは、目を疑うほどの光景を目の当たりにする事になった…


『!?』


「…何で!?…何でお前が泣いているんだ?」


「…へ?」


『ポロポロ…』


アレルギーを克服し今からアルマをなぶり殺しにしようと企んでいた偽ジエルが、何故か右目だけに大粒の涙を流していた!


「一体何が起きているというのだ?コイツの精神力が我の秘術を打ち破ろうとしているのか?」



無識に涙を流す自身の姿に動揺を隠せずに狼狽える偽ジエルに対して、アルマの疑心は確信に変わっていた…




「やっぱり…やっぱりだ!ジエルこそ真の勇者だ!どんな時でも希望を捨てない、勇敢な魂の持ち主なんだ!」


偽ジエルの中に眠る真のジエルの魂を感じ取ったアルマは、不毛だと思われたこの戦いに大きな風穴をかけるキッカケとなったジエルの涙が、この戦いの悲惨な結末の始まりだったとはまだ気付くよしもなかった…


「…」


『…アルマ?…アルマ聞こえる?』


「ハッ!?もしかして本物のジエルか?」


『…やっと奴の呪縛を掻い潜る事に成功したわ!そして、何とか君に私の最後の遺言を伝える事ができた!』



「え!?今!なんて言ったんだ?最後?」



『…これは、私から君に送る最後の願い…』


『…』




『…アルマ!お願い!私を殺して!』




『!?!?』



「な…何言ってるんだ!ジエル!?俺にそんな事が出来る訳ないじゃないか!?…そうだ!思い出した!このエリアには隠しアイテムが存在するんだ!これまでの経験上、特別な場所に存在するアイテムはその場所や今発生しているストーリークリアの効率を上げるための重要なアイテムが眠っているはず…だからそれを使えば、きっとジエルを助け出す事ができるはずだ!だから早まらないでくれ!」




「だから…殺してなんて言わないでくれ…そんな事したら…そんな事した俺…イノリスにどうやって顔を合わせればいいんだよ」



『…ポタポタ…』


「うぅ…」


『…』


特殊な魔法によって自身の願いをアルマの脳内に送信していたジエルは、失意のアルマが見せた初めての涙に、今すぐにでもアルマを抱きしめて彼を安心させたいと願う事が精一杯の抵抗であった…


ジエルは、偽ジエルに徐々に肉体の主導権を取り戻されている事を肌で感じ取っていた…その為、改めて自身の決意を解く事はしなかった…



『…もう決めた事なの!それにこの秘術は完全に解けないわ!私…気づいてしまったの…奴にこの体を奪われた私にはもう自由は残されていない事を…もう少しで、私と奴は完全に同化してしまう』



『だからその前に…私の意識が存在する前に、愛する貴方に抱かれて死にたいの…どうかお願い…私を困らせないで…』


『…ポタポタ…』


ジエル自身も感情の高ぶりを抑えることが出来ずに、我慢していたはずの涙が両目からこぼれ落ちていた…




「絶対に出来ない!!…ふざけるなよ!…できる訳ないだろう、そんな事…」



改めて八方塞がりになってしまった今の状況に対してやけを起こしてしまったアルマは、自身の最大の秘密をジエルに打ち明ける事になってしまった…


「もういい!解ったよ!正直に話すよ…俺!死ねないんだ!死んでも!死んでも!また他の場所で蘇るんだ…そして、何回も死ぬたびに、この世界を始めっからやり直せる事が出来るんだ!」



「なんとなく理解はしていた…今の状況が覆らな事を…だからと言って俺がジエルの命を奪う事なんて考えられない…そう…逆に俺を殺してくれ…」



「そして、もう一度やり直すんだ…もう一度と初めから君と出逢って、君が死なないルートを選択して見せる…だから、ジエルが死ぬ必要なんて無いんだ…死んでいいのは俺だけなんだ…」



一見意味不明にも捉えられるアルマの言葉も、彼が行ってきた奇跡のような出来事を加味すれば、アルマの言っている事が真実なのだと今のジエルにはすぐさま理解する事が出来た。


しかし、今のジエルにはその答え合わせを飲み込む事は許されなかった…



「全然何言ってるか分からないよ…」


「……」


「あぁあ!やっぱり最後はこうなるんだね…分かっていたの!アルマが私を殺せない事を…ごめんなさい。最後の最後に君の本当の言葉が聞きたくて…やっぱり君は優しすぎるよ…あーあ!やっぱり最後は君の手で死にたかったな…」



『グッサリ!』



『!?!?!?』


「嘘だろ…!?」


決意が固まったジエルは最後の力を振り絞って自身の愛刀『アメイジング・セージ』で自身の心臓を貫いてしまった…



「おいジエル?お前何やってんだ!おい!死ぬな!!俺より先に死ぬんじゃない!こんな結末望んで無い…」


「やめてくれ!やめてくれー」



アルマの怒りと哀しのが入り混じった悲鳴がエリア全体に響き渡った…


『ドドド…ドド…ド』


大規模に崩れ落ちるチムニー洞窟…ジエルの血で真っ赤に染まったレイピアが彼女の心臓に突き刺さる…仰向けで倒れ込むジエルの側からアルマは一向に離れようとはしなかった…


衰退していく自身の命を理解したジエルは、最後の力を振り絞り、アルマが見せた自身への対応が変化した理由をアルマの口から聞き出そうとしていた…


「さ…最後に…君の…秘密教えて…よ」


「……」


「あぁ…わかったよ…けれど…お願いだから…気持ち悪いなんて思わないで聞いて欲しい…」



____________________________


ー 俺はあの時…全て思い出した。君が纏った『アルゴスレイヤー』を目にした時から…



俺は何でこんな大事な事を忘れていたんだ…俺の青春…俺が一番人生を楽しんでいた小学生の頃…俺が初めて誰かを好きになった時!その瞬間を…



そう!君は俺のすべだった…ジエルこそが俺の本当の主人公だったんだ…


俺は大事な事を忘れていた…このゲームには主人公が二人いた事を…



一人は男の主人公!もう一人は女の主人公の『ジエル・インヘリット』…俺が選んだのは正真正銘君だった!


最終的には君を選んだシナリオで全クリする事が叶わなかったけれど…それまでの君を操作してこの世界を巡った大冒険は、俺に”生きる”とは何なのか?正義とは何なのかを教えてくれた…何より君を好きになれた事がこのゲームをプレイ出来た真の喜びだった…




実は…君は俺の初恋の相手だった!




俺は、君を操作して解った事がいくつもある…君の好きな紅茶この事…君が苦手なコリアンダーを克服しようと奮闘していた事も…何より亡くなった両親の事…育ての親である祖母が帝国軍に殺されたことも…


君がオーロクスに死者を蘇らせてやろうかと持ちかけられた時に、怒りを露わにした理由は死者を弄ぼうとした奴に対しての怒りがそうさせたんだと今になって理解出来る…


それだけじゃない。本当は知っていた…本音は知りたくなかったんだ…君が心その底から愛している人がいる事を…そう!



それは…もう一人の勇者『ラッシュ・クロスロード』



君は初めて奴と出会った時から、直ぐに君は奴に心を奪われた…でも現実は残酷で、そんな奴と学園を代表する勇者候補生を決める戦いで、奴と争わなくてはならなくなった事を…


後々知る事になるんだ…結果は選んだ主人公で勇者になれる人物が異なっていた事…君を主人公に選んだ俺のシナリオには、君が勇者で奴が勇者なれなかった人物だった…勇者に対する君の想い・葛藤全て俺の大事な思い出だった…本当に一緒に冒険している様だった…楽しかったな〜


子供だった俺は、ゲームをクリアすると、もう君に会えないんじゃ無いかと本気で思ってた。その結果俺はこのゲームを途中で投げ出した…そのあと思春の影響もあり、俺は君の事を記憶の引き出しの片隅にしまい込んでしまった…



回り回って今…あの時本気で好きだった君に直接会えるなんて夢の様だ!でも…そんな時間も長く続きそうにない…あの子供だった時の様にもう一度俺が君を助け出せたら良いのに…



______________________________



「本当にごめんなさい…助けてあげられなくて…弱くてごめんなさい…」


『ポロポロ…ポロリ…』


「…」


『…ギュっと!!」



『!?!?』


「…ハッ!…嘘だろ…」


今まで言えなかったジエルへの想いを泣き崩れながらも最後まで語り抜いたアルマに対して、先程まで瀕死状態であったジエルが急に起き上がり、泣き出していたアルマをそっと抱きしめた…



「…もう泣かなくて良いい…自分の子供をあやし付ける事なんて母親にとっては何の苦痛にもならないの…」


「一生懸命頑張ったアルマの事、誰も責めたりしないわ…何があっても…私はあなたの味方…」


「…ずっとそばにいるから…これからも近くで君を見守り続けたい…だから…死なないで!私も決して…死なないから…」


「イノリスと仲良くしなさいよ…愛してるわ…私の大切な二人の子供達…」


「……」


「…」



「ジエルーーーーー!!」


皆から愛された勇者ジエル人生は、最愛なる息子アルマの腕の中でそっと終わりを告げる事になった…


「…何でこうなるんだ…彼女が一体何をしたていうんだ…この怒りにも似た悲しみは、一体何処にぶつければ良いんだ」



虚無感の中に生まれし怒りと悲しみがアルマを悪い方向へ導いてしまった…


アルマは抱きしめていたジエルの遺体をそっと地面に下ろすと、ゆっくりとジエルの心臓に刺さったレイピアを彼女から抜き取った…


『シャン!』



そして、次の瞬間!そのレイピアを自身の喉ボトに突き付けた!



「俺も貴方と一緒に死にます…そして、もう一度貴方に会いに行きます…」


アルマは自身の死をトリガーにもう一度このゲームを始めからやり直す決意を固めた…


「イノリス…一人にして悪かった!今度は一緒にジエルを助けよう…」


『グッ!!』



『ボァボァボァ…』



『!?』


アルマが自身の死を覚悟した次の瞬間!!崩れ落ちるEXフロアの上空に黒いモヤが大量発生していた!


「…何だあれは?」


アルマは自身の自決の為に突きつけたレイピアを一回解き、EXフロアの上空を凝視した。



「…やった…やったぞ…これで…」


『ニヤリッ』


「…これで復讐ができる!」



大量の黒いモヤは徐々に一塊に纏まっていった…そのモヤは次第に肉眼で認識出来る様に、徐々に姿を変化させていた…数秒後にはその物質は生命が宿る物体へと切り替わっていた。そんな生命体の正体は、漆黒の魔石を取り込む前の『影の魔物』であった。



影の魔物はジエルの肉体を乗っ取った矢先に、彼女の自決により何とか手に入れた肉体までも失う事になってしまった…その結果、影の魔物は初期の姿にまで戻る羽目になってしまった…全ての計画を悉くアルマとジエルによって潰されてしまった影の魔物は、自身を死の寸前まで追い詰めたアルマに最上級の殺意を向けていた…




「…殺してやる…殺してやるぞ〜!…跡形もなく、骨の髄まで殺してやる!」



不完全ではあるが、復活を遂げた影の魔物はアルマに対する怒りを一旦飲み込み、これからの自身の野望について淡々と語り始めた…



「…と言いたいところだが…器を無くしたまま我は、このままでは消滅してしまう…封印を解くという役目を終えた身とはいえ、霊界王の眷属としての立場ゆえに我の消滅は許されない…屈辱だが、お前の体!貰い受けてる」



アルマにとっては今後の人生の最大のトラウマになりなり得る闇魔法の禁呪『レクイエム』。この魔法により、愛するジエルを失い…アルマは全てを失った。そして今度は、その禁術がアルマ自身にも襲い掛かろうとしていた…



「おい!お前へ…我が目を離した隙に、随分顔つきが変わったな…その憎しみの籠った冷たい瞳…まさに同族よ!そんなお前なら、新しい我の器にピッタリだ!」


「…」


「…御託はもいいか?」


「…何!?」


「お前が生きていてくれて本当によかった!!初めてだ…神に感謝したのは…」





「ほぉ?どういう風の吹き回しだ!素直にその若い肉体を差し出す気になったのか?お前がどうしてもいうのなら、新しい我に生まれ変わった後にお前の精神を少しだけ残して置いてやっても良いぞ!そして、霊界王様がこの世界に降臨した暁には、褒美としてこの世界の一部を霊界王様から分けて頂こう…」


先程まで妙に冷静だったアルマは、みるみる内に影の魔物への憎悪が膨れ上がり…一瞬のうちに彼の怒りが限界を超えた…



「お前の畜生な未来予想図なんてどうだっでいいんだ!!!勘違いするな!!お前の生死は俺が握っている!ジエルの未来を奪ったお前なんかに未来なんて存在しない!あるのは、屈辱に塗れながら俺に殺される以外道はねぇ」


「さっさと俺と戦え!クソ野郎!!!」



『………』


オーロクスは見下していた筈の人間に、唐突に荒々しい口調で罵られた結果、怒りを通り越して笑いを抑えきれなくなってしまった…


「ははは……そんなに早く死にたいのなら、お望み通り今すぐ殺してやる!!」



「…何か勘違いしてないか?もちろん俺が死ぬのも確定だ」


『!?」


「…何言ってるのか理解出来ぬな!?」


「…」


「もしかしてお前!我と刺し違える気か?…なるほど…死を覚悟して我に挑み、あわよくば勝利してやろうと考えているのだろ!?その考え、あさはかなり!はぁははは!」


突拍子も無いアルマの発言に、オーロクスはまたしても笑わずにいられなかった。


しかし…アルマなりの一本芯の通った言動目の当たりにする度に影の魔物は何かを察し、表情が次第に曇っていった…




「俺は死なない…いや死ねないんだ…」




「お前がどんなに暴れても・どんなに俺を痛め付けても、俺の過去は変えられない…けれど…俺は’今’のお前を許さない…そして、この怒りも悲しみも決して過去に持ち越さない…もしもお前に復讐できずに死んだら、あの時のイノリスとの誓いも…ジエルからの愛も…過去に戻ったら全て消えてしまう…それは…’今’を懸命に生きたジエルとイノリスに失礼だ…だから今回の因縁はこの週内で蹴りをつける」



「そして、お前を殺した後に俺も死ぬ!これが俺なりの弔いだ!…異論は認めない」



一見、意味不明にも捉えられるアルマの主張が、影の魔物に眠る古の記憶を呼び起こす事になった!




「もしかしてお前の正体は…不純なるバグなのか?」




(…バグ?それって、ゲームによくあるバグの事か?俺ら現実世界の人間が認識しているバグと、こいつらゲームの住人が認識しているバグはそもそも同一のそれなのか?…とりあえずこの世界の秩序を守る為にも、ここは知らないフリをするのがベターだな)


「…何だそれ?何と勘違いているんだ?」


惚けてみせるアルマに対して、明らかに何かを確信した影の魔物は、アルマにある提案を持ちかけた。


「…お前は嘘をついている…お前はバグで間違いない!」


『!?』


「…そうだとも…お前のような異物がこの世界の平穏を脅かす存在なり得るのだ!何より、この世界の住人である我がこの世界の代表としてお前を駆除してやる」



「平穏だと…」



アルマは、影の魔物が発した意味深な発言よりも、奴が発した何気ない一言にアルマは深く心を痛めた…そんな些細な一言が最終決戦の火蓋を切る合図になろうとは…そして、アルマに僅かながら残されていた敵への慈悲の感情を捨て去る覚悟を決めさせた…




「…世界の平和を願ったジエルを亡くなったことも、お前は平穏と呼ぶのか?お前の様な純粋な悪が蔓延するこの世界に平穏なんて存在する訳がないんだ…そうだ!そんな悲しみが生まれる続けるこの世界に、俺は終止符を打つ…俺がこの世界の秩序の鎖を俺が断ち切る」


『サッ!』


傷つきながらも決闘の決意を固めたアルマは、今現在の彼を象徴する相棒であるパチンコをオーロクスに向けて構えた…



「もうその攻撃は見飽きたわ…」



アルマの攻撃パターンは何回も拳を交えた影の魔物には既に読まれいた…


「ダスト・ネイル!」


…影を模した生命であるオーロクスは、自身のフアフアした肉体の先端…手に相当する部分を伸縮させつつ、さらに指先を硬化させた。その後、ダーク・シャドーが放った鋭い爪はパチンコを握る左手首を一瞬で切断してしまった…


「ぐぁぁぁあ…」



オーロクスは青年の一連の動きを既に見切っていた…何よりそれは、奴の距離だった…そして敵の攻撃は必然だった…






ー 影の魔物の主体は『ダーク・シャドー』と呼ばれる冥界王の影の一部から生まれた影の生命体である。



ダーク・シャドーには同じ容姿を持つ個体が12体存在する。その後、多くの人間を襲い12体がそれぞれが別の肉体を得た後に、霊界王と共にこの世界で破壊のかぎりを尽くしていた…


その後のダーク・シャドー(オーロクス)は古の時代に行われた冥界王と勇者との聖戦に敗れた後、当時の人間達のよってチムニー洞窟に存在していた今のEXエリアの壁画の中にEXエリアと共に閉じめられた魔物であった…


当時の霊界王は死亡し霊界に…霊界王の眷属であった12体のダーク・シャドーはそれぞれ別のダンジョンのEXエリアに封印され、霊界王と勇者による聖戦は幕を閉じた…

 



影の生命体であるダーク・シャドーには『シャドウボディ』はスキルを得ていた。『シャドウボディー』は自身の形を自在に変化させたり、自身の体に魔力を付与し影の体を硬化させる事も可能であった。そんな一見、強者の様なダーク・シャドーにも欠点が存在した…それは影の体を維持するためには常に膨大なMPを消費する事であった。


人間界では、影魔法の源である闇魔のマナを作り出す媒体が存在しない事が大きな要因であった。ダーク・シャドーが生まれた霊界では常に闇魔のマナが空気中に漂っていた為、意識せずとも自身の体を保つ事が可能であった…そんなダーク・シャドーが人間界で生きて行くためには、人間界に適した体が必要不可欠であった。



しかし、今のダーク・シャドーには人間界で生き抜く為の肉体は存在せず、このまま無闇に時間が経過すればMPが底をつき、HPを使って活動しなくてはならなくなってしまう…最終的にHPも底をついてしまえば自ずとダーク・シャドーには死が待ち構えている…


ダーク・シャドーは何としても最短時間でアルマとの戦いを終えなくてはならなかった…自身の体力が尽きるまでに…





ー 一方のアルマは、一人切断された腕の痛みに耐えていた…いや…耐えるしかなかった。




(ぐっ…大量の出血で目が眩む…もしこのまま出血が進んだら、俺の死因はショック死だな…ははははぁ…)


(意外と余裕そうじゃん俺…アドレナリンがドバドバで、今は意外と何とか持ち堪えてる…はぁ!きっとあと少しだ!もう少しでこの痛みはなくなる…それまでに新しい武器を手に入れないと…このまま仕返しができないまま死ねないぜ…絶対持ち堪えて見せる…だって俺は…この俺は…)



「俺は…勇者ジエル・インヘリットの子供!アルマ・インヘリットだ!!」


「このままじゃ終わらない!」



アルマは実感していた…この世には血縁よりも心の結び付きが人間に生きる原動力を与えてくる事を…



そう!彼は意識的にジエルの魂を引き継ぐ事に成功していた!!


そして、アルマの戦いは最終局面を迎えようとしていた!

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