解放②
ー ここは、チムニー洞窟地下?階の隠し部屋…
『ゴロン…』
「…ん?…イ…イタタ…」
「…こ…ここは何処?…イノリスは何処かしら?」
何もない殺風景な正方形のブロック部屋に、勇者であるジエルは寝返りを取った瞬間にブロックの床に体をぶつけた痛みで目が覚めた。
「…ここは何処?牢屋?いや…そうじゃなさそうね」
周りを見渡してみると、扉が見当たらないブロック部屋に複数の宝箱が点在していた。
「もしかして私が居るのは隠し部屋?…それにしても、扉が無い部屋にどうやって?…」
ジエルはダンジョンの特性を理解した上で、鋭い洞察力で自分がおかれている現状を瞬時に飲み込んだ。
「…目の前には宝箱が三つ…もしかしてミミックじゃ無いわよね?でも…せっかくだから中身を確認してみましょうか…もしここが本当に隠し部屋だったのなら、私の目の前に存在する宝箱の中身ってレアアイテムよね!?」
ジエルは、宝箱の中に魔物が潜んでいる可能性を加味したうえでも、宝箱の中身が無性に気になっていた。彼女は、彼女に眠る冒険者としての血が騒ぎ出していた事により、一旦宝箱の中身を確認す事にした。
『ゴックり…』
(宝箱が私を呼んでいる気がする…)
恐る恐る宝箱を一つずつ開けて行くと…
『パッか!』
「!?…よかった!ミミックじゃなかった!」
宝箱の中身が魔物では無かったことにホッと胸を撫で下ろしたジエルは、一回の成功体験を元に勢いのまま全ての宝箱を次々と開いていった…
1個目…「10万G!結構な当たりね」
2個目…「魔法のカギね!今のところはまだ使い道は無さそうだけど、手に入れて損はなさそうね」
3個目…「こ…これは…」
『ドドド…』
ジエルが隠し部屋で三つ目の宝箱を開けた瞬間…隠し部屋の扉が突如出現した。
『!!??』
「…宝箱が開放された事によって隠し部屋の扉が開いのかな?…そんな事より、すぐにイノリスと再会しないと…」
偶然か必然か、閉ざされた隠し部屋の扉が開かれた事により、ジエルの脳内には離れ離れになったイノリスの顔が瞬時に過ぎった。気掛かりだったイノリスの安否を心配したジエルは、今すぐに隠し部屋から脱出する事を選択した…宝箱の中身を全てPSに収納し、三つ目のアイテムだけは直感的に胸ポケットにしまったジエルは隠し部屋に出現した鉄の扉を開く事にした…
(…この扉の先に、何か途轍もない悪意を感じる…)
ジエルは、目の前の鉄の扉の先から、おどろおどろしい悪意が放出している事をすぐさま感じ取った…
「さあ!ここが正念場よ!」
決意の固まったジエルは、激戦が約束された戦場へと一歩を踏み出す事を瞬時に決断した…
『ギィぃぃ…』
ジエルが閉じ込められていた隠し部屋とは、地下6階層しか存在しない筈のこのダンジョンの更にその先に存在するダンジョン内の別の空間…EXフロアの隠し部屋『混迷の間』であった。
鉄の扉を解放し、『混沌の間』から飛び出したジエルの目の前に突如、羽織った幽霊のような魔物が待ち構えていた…
「……あれはナイトメアローブ!?しかも、初めっから凶暴化しているわ」
ジエルが自身の目の前に現れたナイトメアローブを注視していた間に、先程まで開かれていた『混沌の間』の扉は役目を果たしたのか、ジエルが振り返ると隠し部屋の扉はもうこの部屋には存在していなかった…出口が無くなり密室となったこの部屋にはジエルとナイトメアローブの二人っきりになっていた。
(もう後には引けないわね…この場所でナイトメアローブを倒さない限りは私はこの密室から抜け出す事は出来なそうね…)
ジエルEXフロアで、瞳を真紅に染めた『ナイトメアローブ』と呼ばれる大鎌を携えたアンデット族の魔物はその半透明の体をユラリユラリと空中を漂いながら、ジエルに強い悪意を向けていた…
(あの魔物は、幻覚を見せる特技を扱えると聞いた事がある…もしかして、ダンジョンに細工を施してたのも、私とイノリスを分断したのもあの魔物の仕業?その他にもあの魔物にも特別な何を感じるわ…他の凶暴化する魔物と同様に情報収集をしながら慎重にことを進めていくしか無さそうね…)
ジエルは腰に巻いたソードベルトから愛刀であるレイピア『アメジストセージ』を抜き取り、新手の敵に警戒しつつも敵の強さを見極めんと戦闘の準備を整えようとしていた…
(流石にこの状況では、時間と集中力を要するチェンジレイヤーを発動する事は困難…しかし私は勇者…この場を収め、私の帰りを待つ彼の元へ帰らなくてはならない…)
ジエルは困難な状況下である今の現状を打破する為に、自分の帰りを待っていてくれているであろう青年とイノリスの顔を思い出し、自分自身を鼓舞した。
「どんなに得体のしれない敵であろうとも、私は恐れない…私の中にある光が私を導いてくれる限り!」
勇者ジエルは自身のレイピアの先から光魔法の基本であるルクスをナイトメアローブに放った。
「喰らいなさい!ルクス!」
ナイトメアローブは瞬時にルクスから放出される光の属性にを嫌悪を抱き、ルクスをうまく回避しながらそれを放ったジエルから距離を置いた…
そんなナイトメアローブの行動にジエルは直ぐ様敵の弱点を見抜く事に成功していた!
(やはり光魔法が弱点みたいね!悪魔族やアンデット族の一番の弱点は光魔法!…なるほど、どんなに凶暴化しても種族弱点は変化できないのね!)
この世界の秩序に精通しているジエルは、魔物に存在する弱点の項目の一つである種族に関する知識を心得ていたジエルは、ここぞとばかりに敵の弱点である光魔法の基本であるルクスをナイトメアローブに目掛けて連射して見せた!
『ドドド…』
ジエルの連続攻撃を致命傷を負わずに間一髪の所で避け続けたナイトメアローブは、気づいた頃にはEXフロアの端まで追いやられていた…
「もう逃げ場はないわ…これで終わりよ!喰らいなさい…ルクス!!」
ナイトメアローブに対しジエルの気合いのこもったルクスが襲いかかった…次の瞬間!
『…スルリ…』
『!?!?』
「何ですって!?」
何と!ジエルの放ったルクスを避ける為にナイトメアローブがダンジョン内の壁をすり抜けてその場から消えてしまった…
「き…消えた…」
『ザッ!』
『!?!?』
「…地面から鎌?」
ジエルは間一髪でナイトメアローブが所持していた大鎌の攻撃を間一髪で回避する事に成功した。
「奴は壁や地面に透過できるの?」
「くっ…」
『ザン!…ザン!…』
ナイトメアローブはジエルに魔法を使わせる前に、自身の大鎌をジエルの死角になる様な地面や壁から出現させながら、連続攻撃を畳み掛けて来た。
『スッ…クルリ…ピョン…』
ジエルは、ナイトメアローブの意表を突いた連続攻撃を自身の身軽さを活かし、何とか擦り傷程度で済ます事が出来た。
(…私を隠し部屋に連れて来たのはきっとナイトメアローブの仕業ね!きっと奴が所持しているスキルは”透過”…透過は自分自身や自身の体に触れた物や物体も透過する事が可能だった筈!…奴が何故私を殺さずあの場所に閉じ込めたかは全く想像が付かないけど、奴が現在進行形で私を殺そうとしているのは確か…)
ジエルは敵の攻撃を避けつつ、冷静かつ的確に敵の能力を分析しつつ反撃の糸口を見つけようとしていた…
(奴の透過の能力を理解出来た今、あとは奴の弱点である光魔法を奴の本体にぶつけるだけ…さっきも奴の体にはルクスを当てている筈だけど、致命傷を与えられていない…それは私が奴の本体にルクスを当てていない証拠…立ち止まって奴の本体を見極めたい所だけど、止まったら確実に奴に狙われる…何より動き続けながら魔法を放つにも限界があるわ…広範囲攻撃をしても壁の中に逃げられたら意味がない…一体どうしたらいいの…)
考えても考えても透過する敵に対しての攻略法が見つからないジエルは悩みに悩み抜いていた…そんな彼女の脳裏に黒髪の青年の顔を思い浮かんできた…
(はぁはぁ…こんな時に彼がいたら…)
『…』
(…私ったら何故彼のことを思い出すの…彼は今、自宅で私とイノリスの帰り待っていてくれている…彼がこの場に居たらなんて考えてどうするの…私…)
『……さん…』
(…はぁ…何故だか無性に彼に会いたいたくなって来た…)
『…どこ…に…』
(…せっかく考えた彼の名前…直接呼んであげたかった…)
『た…け…きた…』
ジエルが考え事をしている時に生じていた隙をナイトメアローブは見逃さなかった。ナイトメアローブは地面に透過し、彼女に気付かれない様に気配を消しながらジエルの足元まで急接近していた!
次の瞬間!
『ガッシ!』
ナイトメアローブは自身の透過のスキルを自在に操作し、彼女の左足を掴んだまま彼女を地面に引き摺り込もうとしていた…
「い…いけない!?足を掴まれた!…マズイわ!このままでは地面に引き込まれる…」
一瞬の隙をつかれ、地面に引き込まれたジエルはあっという間に肩まで地面に引き摺り込まれてしまった!
「まずい…両腕も両足も地面に閉じ込められた…だめた…殺される…」
地中に引き摺り込み動きが取れなくたったジエルを確認したナイトメアローブは、必要最低限の体を地面から取り出すと、自慢の湾曲した大鎌でジエルの首根っこを切り裂こうと大きく振りかぶった…
『俺を…でくれ…俺の…俺の名前を呼んでくれ!』
先ほどから聞こえてくる幻聴のような声に導かれる様に、ジエルは自身の脳裏のに真っ先に浮かんだ黒髪の青年の顔を頭に思い浮かべた…そして、ジエルは気づいた頃には無意識に青年の名前を大声で叫んでいた!
(…助けて…)
「…たすけて!!アルマ〜!!!』
『バリバリバリ〜』
ジエルの魂の籠った叫び声に同調するように、突如!ジエルの目の前に時空の歪みが出現し、ジエルの脳内に思い浮かんでいた黒髪の青年が時空の狭間から飛び出してきた!!
「ウソ…何で!?どうして君がここに…」
颯爽とジエルの前に現れたアルマと呼ばれた青年は、ジエルに軽く挨拶を済ませると、青年の登場に驚いたナイトメアローブを逃しまいとこの場に応じた臨機応変の立ち振る舞いをジエルに見せてくれた。
「勿論!助けに来たに決まってるじゃないですか!!…それよりも奴の弱点は何ですか?」
「…え!?どうして?」
「いいから早く!逃げられてしまいますよ!」
青年の助言通り、青年の出現に驚いたナイトメアローブは構えた大鎌を一旦取り下げ、地面へ逃げ隠れようとしていた…
ジエルは気が動転していたのも相まって、最初は青年の言動に理解が追いついていなかったが、直ぐ様青年の声や表情に感化され、青年の言葉の意味が理解できる様になった。
『光よ…光魔法!」
「分かりました!光魔法ですね!」
「…って君!?光魔法はそんなに簡単に扱える魔法じゃないんだからね!?」
ジエルの当然とも言えるツッコミも、自信に満ち溢れていた青年は当然にように謎のアイテム袋から光の魔石らしきアイテムを取り出した。
『シューー』
『ドン!』
青年は目にも止まらぬスピードで、手に取った光のカケラを思われる魔石を瞬時にパチンコを使ってナイトメアローブに直撃させてみせた。
『ギー〜ーー』
ナイトメアローブは、体の半分下を地面に透過させていたこともあり、青年の放ったルクスによっての完全消滅は免れていた…しかし青年の一撃によって大ダメージを負ったナイトメアローブは、勝ち目がないと悟ったのか一目散にこの場から逃げ出していった…
「くそ!逃したか?…それより、大丈夫ですか?ジエルさん?」
『ギュ!』
「死ぬかと思ったよ…本当に!本当に君なの?敵の罠じゃ無いわよね〜」
「ちょ…ちょっと!?ジエルさん?」
突然半べそを掻きながらジエルに抱きつかれた青年は、一瞬動揺を見せたがすぐに冷静さを取り戻した。
「勿論本物ですよ……早速ですが、先ほど取り逃した敵をすぐに追いかけましょう」
「俺たちには時間が限られていますから…」
「…分かったわ。聞きたいことは山ほどあるのだけど、ここは君の言う通り先を急ぎましょう」
何かを思い出したかの様に直ぐに暗い表情へと変化を見せた青年に、ジエルは抱きついた腕を一旦解き、この場は青年の指示に従う事が適切なのだと本能的に理解した。
その後、ナイトメアローブが撤退し事により密室だったEXフロアに次元の扉が出現していた。青年は特に警戒する事なくその次元の扉へと突き進んでいった…イノリスも青年の後を追う様に急いで次元の扉へ飛び込んでいった…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『キラキラキラ…』
「ジエルさん!この場所って…」
次元の扉を抜けた先で二人を待つ受けていたのは、地面から剥き出しとなっている透明なクオーツが印象的な巨大な鍾乳洞であった…
「これは…セーブクオーツ!」
「チムニー洞窟の先にこんな場所が存在していたなんて驚きね…そうだ!この場所で休憩を取りましょう!なぜならセーブクオーツが存在するこの場所なら、ナイトメアローブも含めた魔物達が近づく事が出来ないからよ!
それにセーブクオーツがあれば別空間に存在するアイテムボックスとPS内のアイテムを入れ替える事により足りないアイテムの補充もできるわ!大きな戦いの前に準備を整える事も大事よね…ね!そうしましょう」
心に余裕のない言動が目立つ青年に対してジエルは、このダンジョンで一番安全な空間であるこの場所で心と体のバランスを整える目的も含め休憩をとる事を青年に勧めた。
『…』
「…すみません…やっぱり休むことは出来ません…」
尊敬するジエルの勧めであっても、’ある理由’を背負った青年はジエルの提案を聞き入れる事を拒否した。
「…君!?……何があったの?」
「今の君は明らかに以前の君とは能力もマインドも変わってしまった!まるで別人の様…一体今の君に何があったのか、私にも分かる様に説明しなさい!」
「…いや…」
「嫌じゃない!」
『!?』
「君と私はパーティーであり家族でもある…そう!君とイノリスは私の子供なの…」
『…』
「改めて言わせてもらうわ…アルマ・インへリット!!私の言うことを聞きなさい!」
「…」
アルマはジエルの一言で迷いが吹っ切れ、強張っていた表情が見る見るうちに砕けていった。
「…分かりました!話しますよ!話せばいいでしょ!?…でも心して聞いてくださいよ…」
「…分かったわ…何があっても取り乱したりしないわ!」
ジエルは、アルマが心を開いてくれた事の喜びと同時にその後のアルマの言葉が無性に心を騒つかせた。
そして、全てを受け入れたアルマが神妙な面持ちで語り出した…
「俺はジエルさんが残した手紙を読み終えた後、貴方の力になる為に独自でトレーニングを開始したんです……」
________________________________________________
<俺が目覚めた日…家のリビングで見つけた一枚の手紙と貴方が愛した家の合鍵…その全てに貴方の愛が詰まっていた…>
拝啓君へ…
君に挨拶なしで出掛けたこと、申し訳ない思っています。
実は、君の痺れを治す薬を私は所持していたの。もしも、痺れが治った君が私達について来たらどうしようと不安になって私は君の痺れを治す事を決断出来なかったの…本当にごめんなさい。もしも最後に君に会っていたのなら、私は迷わず君を連れ出していたわ…だって…君が隣にいてくれる時の安心感は何者にも代え難いものなのだから…
私は時々怖くなるの。この世界は本当に実現するのかと…自由がある様で自由が無いこの世界に…そんな、鎖に巻き付かれた様なこの世界に君の様な型にはまらない自由な発想の人間が必要なのだと私は思うの…もしも、私がいなくなった後の世界に君が居てくれれば世界は変われる。そう、君は私が求めていたこの世界の革命者になり得る存在…
そんな君にお願いがあるの…もしも私達がこの家に帰って来なかったら、君には私の意志を引き継いで欲しいの…私の子供として…
言っとくけど、もしもの話だからね!まだ死ぬとは決まっていないわよ。もし私達がダンジョンの攻略を終えて戻ったきたら、まずこの手紙を君から奪って燃やしてあげるわ!
あ!そうだ!大事な事忘れてたわ…前から頼まれていた君の名前…やっと決まったわよ!
本当ずっと悩んでたんだからね!結果、君にこの手紙を書いているこの瞬間にやっと思い付いたのよ!こんな無理難題を押し付けられるのは二度とごめんよ!
名前を決めてあげたって事は実質、君は私の子供よ!勿論イノリスも同じ!二人は似たもの同士だから、双子って事でよろしくね!勿論君がお兄ちゃんよ!
私たちは3人家族!それは誰が欠けても覆らない…それは絶対!だって私が決めたんだから!よろしくね!
そんな大切な私の子供…今日から君の名前は…『アルマ・インヘリット』
最後に…私の口から君の名前を呼びたかった…
_______________________________________________
<俺はこの手紙の内容を読み終えた時、無性にジエルさん会いたくなった…もしも彼女に会うことが出来たのなら、今俺よりも強い俺になって、彼女の手助けをしたいと心に誓った…>
「貴方の手紙を読み終えた俺は、俺は強くなる為に家の近くに存在する『エヴォルの森』を修行の拠点に選びました。俺は、ジャンク屋で手に入れた超体力剤を使用して寝ずに12時間動き続ける体を手に入れました。超体力剤を使用した俺は、12時間動き続けながらエヴォルの森で多くの魔物の命を奪い大量の経験値と魔物を倒した時に手に入ったアイテムを獲得する事に成功しました…」
<大量の魔物を討伐した事より、奴隷である俺は自分の限界値であるレベル30をカンストする事に成功した…多く魔物を討伐した事により、経験値以外に魔物産の魔石を大量に取得する事にも成功した…
しかし、俺がこのエヴォルの森で成し遂げたかった事はレベル上げでもなく魔石の入手でも無い…俺がこの森を訪れたかった本当の理由は、このゲームの裏技が載っているCTブックの一つ『赤い本』に掲載されている『エヴォルの森』内で使用可能な『女神の泉で使える裏技』を実行する為だった!
裏技を求めてこのエヴォルの森にやって来た俺は、この場所で裏技を使用して起こるであろう出来事を全く理解していなかった…しかし、あの時の俺にはこの裏技しか頼るものが無かったのだ…>
<普通にエヴォルの森を散策していても入ることの出来ない隠しマップの『女神の泉』をCTブックを確認しながら探し当てた俺は、裏技を駆使し女神の泉で獲得出来る12種類のアイテム全てを手に入れる事を達成した。
その12種類のアイテムの中で特に実用的であったのが、採取する事以外で手に入れることが出来ない五大元素以外の魔石のカケラを3種類を手に入れる事にも成功していた。何を隠そうその内の一つが先程ナイトメアローブにぶつけた光魔のカケラだった>
ー 尊敬するジエルから『インヘリット』という名を受け継ぎ、尚且つ『アルマ』という名前を名付けて貰った元”名もなきクロコの青年”こと『アルマ・インヘリット』は名付け親であるジエルに自身が身に付けた強さの秘密を出来る限り解説した…
「…敵意のない魔物を討伐した事は褒められた事では無いけれど、この短時間で自身の短所であった経験不足を克服した事に関しては、流石としか言いようがないわ…」
アルマは気づいていた…ジエルが敵であろうと無駄な殺生を嫌っていることを…そのことを理解した上でアルマは、あえて魔物を討伐した事を濁しながら自分の成長理由を説明した。
「所でどうやってエヴォルの森からこの場所まで移動して来たの?君はこのチムニー洞窟の場所を知らないはずよね?」
アルマのレベルアップに秘密について聞き終えたジエルは、アルマがエヴォルの森からこのチムニー洞窟までどうやって移動して来たかを問いかけた!
「俺はエヴォルの森でトレーニングをしながらとある人物の連絡を待っていました…」
「…とある人物?」
「はい…」
先程まで表情が明るくなっていたアルマであったが、とある人物の話が出た瞬間、またしても表情が曇ってしまった…
「…そのとある人物の連絡というのが、イノリスからのSOSなんです…」
「イノリスからのSOSですって…」
「ジエルさんはご存知ではないでしょうけど、二人がダンジョンに旅立つ前日に俺の部屋にイノリスが一人で現れたんです…」
「…」
______________________________
ー チムニー洞窟探索前夜、ジエルがアルマに対してダンジョンへ同行させるメンバーからアルマを外した事を告げた数分後、チムニー洞窟の探索に参加する事が決定したイノリスが一人、体の痺れで動けなくなっていたアルマの部屋へ訪問していた…
『試験に合格したのは僕だけだったな…とても残念だよ…勘違いするなよな!別にお前の事を心配した訳じゃないからな!」
『所で、お前は僕達奴隷の目的を見誤ってはいないか?僕達の本来の目的は、死んでも主人を守り抜く事だ…自分の保身を優先するなど言語道断だ!なぁ…お前には自己犠牲の心と覚悟はあるのか?』
『……』
『…悪い…そうだったな…今のお前は痺れて口も聞け無かったんだた…会話が出来ないんじゃしょうがない…要件だけ伝える!これをお前にやる!…これはジャンク屋で僕が手に入れて最後のアイテム…そう!』
『転送アイテムだ!』
『僕の手元に置いておくのが受信機である本体、お前に渡すのが送信機だけだ!このアイテムの主導権は本体を所持している僕だ。このアイテムは僕の願いに反応して、送信機を持っているお前を僕の元へ転送することが出来るんだ…何よりお前を転送する権限は僕にある。本来お前は、ジエル様の判断によりダンジョン攻略には同行出来ない…けれど僕の導き出した答えは、ジエル様とは逆だった』
『僕がお前をダンジョンに導くという事は尊敬するジエル様を裏切る行為に等しい…しかし、僕達奴隷は主人であるジエル様の盾になって死ね事が本来の使命…主人であるジエル様に命の危険が訪れる時、僕はジエル様の気持ちを踏み躙ってでもあの方のお命を死守しなくてはならない!どんなにジエル様を失望させたとしても、あのお方の命には変えられない…
もしもお前がダンジョンへ転送されたのであれば、それは僕自身でジエル様をお助け出来ない時だけだ!もしもお前が、ジエル様の命よりもお前の安っぽい命を優先する臆病者なら、その送信機を捨てるがいい…そして、二度と僕の前に姿を現すな!これは、僕が出来る最後の優しさだ!この先どうするかはゆっくり考えるがいい…』
______________________________
「………これが、あの日イノリスが俺に残した叱咤激励に言葉です」
ジエルは、アルマが当時の自分とイノリスとが交わした約束についての説明を聞き終えると、アルマがイノリスの存在の有無を隠している事に気がついた…
「なるほど…という事はイノリスがアルマをここに転送したのね…それならイノリスは今どこで何をしているの?早くイノリスと合流して、先ほど取り逃したナイトメアローブを3人で討伐しましょう!?」
この場にいないイノリスの所在を問い詰めるジエルに対してアルマは、必死に震える唇を押さえ込みその重い口を開いた…
「イノリスは敵にやられました…」
「…え!?」
「嘘…嘘よ!イノリスがやられるんなんて」
アルマの発言で愕然とした態度を取るジエルに、アルマは救いの一声をかけた。
「…大丈夫です。奴は生きています」
「ちょ…ちょっと!!驚かせないでよアルマ!…しかし…アイツはもう戦えません」
「え!?何ですって!?」
「…アイツは…イノリスは貴方へ向けられる敵意を事前に防ぐため懸命に凶暴化したオークソルジャーと戦い抜きました…その結果、右腕でを失い…右足も使い物に状態に陥ってしまいました…」
__________________________________________________
『ズズズ…』
ー 瀕死のイノリスは自身のポケットに忍ばせておいて転送魔法が使用出来るアイテムを使用し、エヴォルの森で修行していたアルマを強制的にチムニー洞窟まで呼び寄せた。
「…ここは一体?」
『!?!?』
「イノリス!その体?誰にやられたんだ!?」
「はぁはぁ…お前を…呼び出すなんて…したくなかった…一生の不覚だよ…だって、それは僕が僕を弱いと認める事に他ならないからだ…」
「おい!この状況で強がりなんてするなよ!これを飲め!回復薬だ!どこまで効くか分からないが飲んでくれ!」
『ゴクゴクゴク…』
アルマはエヴォルの森で手に入れていた回復薬を使用し、瀕死のイノリスに強制的に飲ませ、彼女の体力を回復させた。しかし、彼女の欠損した右腕と右足の痛みは軽減する事は無かった…
「イテテ…ダメだ…体力は回復しても体の痛みは酷くなる一方だ…だから、もういい…僕はもう使い物ならない…お前が僕の代わりに奴を倒すんだ…」
「奴!?」
「あぁ…奴は僕が倒せなかった魔物、オークソルジャー!奴がジエル様に目をつける前に…お前が僕の代わりに奴を討伐するんだ…異論は認めないぞ」
アルマはイノリスが負傷した事とこの場にジエルがいない事から、瞬時に彼女らが離れ離れになってしまったことを理解する事が出来た。
「あぁ!もちろんだ!必ず…必ず俺が”お前”の仇を打つよ!」
「ふぅ…やはりお前は何も分かっていないよ…」
「はぁ?どういう意味だ?」
「僕達奴隷は、どんなに惨めな姿に変わったとしても…本質は変わらない…僕の意志とか、僕の代わりにとか、そんな偽善は奴隷対して必要のない感情だ…」
「…」
「お前がなすべき事はただ一つ!僕とお前の主人であるジエル様を絶対に死なせないことだ!!」
「…」
「分かった!必ずジエルさんを守り抜く!だから、お前も一緒に来い!俺がお前を担いでジエルさんの元へ連れて行く!」
「ふん…そんなお節介は必要ない!何の役にも立たない僕を連れて行くなんて、本当お前は馬鹿でお人好しだよ…」
「はぁ〜?馬鹿は余計だ…分かった…お前の意思を尊重して、お前をここに置いていく!でも…戦いを終わったら必ずジエルさんと一緒にお前を助けに行く!それが約束出来ないのであれば、お前をここに置いてはいけない…」
「ふん…勝手にしろ…」
瀕死状態でも自身の信念を貫き通すリノリスは、自身で掲げていた最重要事項である『ジエルの命を守る』という願いを義兄弟であるアルマに託した。
「…最後に約束しろ!命に変えてもジエル様を…僕の太陽であるあの人を…守り抜く事を!もし約束を破ったら…僕は一生お前を許さない…」
「…あぁ約束する…俺は、この命に変えてもあの人を守り抜く!だからお前も絶対にくたばるんじゃないぞ」
「ふん!減らず口を…」
「…そうだ!そんなお前に何かあったら困るから、これをお前にやるよ」
「…これは?」
徐々に体力を消耗し、弱っていくイノリスに向けて彼女の生存率が少しでも下がらぬ様にと、兄弟でもありライバルでもあるアルマからとっておきのアイテムがイノリスに送られた。
「これは、俺がブラックドラゴンとの戦いで使用した炎とブレス攻撃防ぐ事の出来る『忘却のマント』だ!これをお前にやるよ!コレがあれば、お前の体温の低下も抑えられるはずだしな…」
「だから、お前の体に被せておくよ…じゃあな…絶対死ぬなよ」
「…ふん、当たり前だ…」
__________________________
「こうしてイノリスと別れた俺は、オークソルジャーと遭遇する事なく地下6階層まで辿り着きました。その後、地下6階の終末で謎の次元の穴に遭遇しました!俺はその穴から貴方の気配を感じ取り、迷わずその次元歪みへと足を伸ばす事を決断しました…」
「その後の俺は、次元の穴の先から聞こえてくる貴方の声を頼りに、出口のない次元の穴の中を捜索していました…最終的に貴方の声が一番響いていた次元の扉へと辿り着いた俺はその扉を無理矢理こじ開け、貴方の元へと舞い戻ることが出来たのです」
「私の知らない所でそんな事が…」
アルマは自身がこのダンジョンに転送されてから、今現在に至るまでの気持ちの浮き沈みやダンジョンの先へ急ぐ理由は全てジエルに話し終えると、それを聞いたジエルがとある決断を心に誓っていた。
「二人には辛いの事を思い出させて悪かったわ…イノリスの事もアルマの事も二人の親である私の責任…二人が責任を背負い込む事は一切必要のない事…」
「君がイノリスの容態を知っていた良かった…そのお陰で私、やっと決断出来た…引き返しましょう!!引き返して、イノリスを救助する!その後の事は、イノリスを救出した後にでも考えればいい!」
(やっぱりだ…あぁ…やはり貴方なんて慈悲深い人物なんだ…けど…)
「…ダメです!俺は貴方をイノリスの元へ戻す事を認めません!」
「え!?何で…何で君はそんなに冷静で居られるんだ!家族が傷つき、助けを求めているのに手を差し伸べないんだ?…悪いけど、君の人間性を疑わせてもらうわ!!」
アルマは、自身が予想していた通りのジエルの判断に改めて彼女の慈悲深さに感銘を受けるも、ここは家族を愛するジエルの判断よりも、この後発生するであろう魔物による災の方が強大である事をジエルに説明した。
「…出過ぎた真似をしてすません…けど、今現在このダンジョン内には、2体の凶暴化をした魔物が何処かで息を潜めています!それを見過ごして大切な時間を消費するなんて無謀です!俺たちが無駄な時間を過ごしているうちに、いつ凶暴化した魔物がこのダンジョンから外の地上へ解き放たれるか分からないのに…」
「…けど…家族を見殺しには出来ない…」
隔靴掻痒のジエルを目の当たりにしたアルマはその心を鬼にして、パーティーリーダーでもあり勇者でもあるジエルを激しく鼓舞した。
「……!!…冷静になれ!勇者ジエル!!
「俺のしている勇者はそんなそんな無謀な人間じゃない!何よりイノリスは絶対に死にません!今はイノリスの事よりもこの先世界で起こり得るであろう、凶暴化した魔物の脅威を阻止する為の行動を取るのが勇者としての貴方の使命の筈です…
それに、イノリスはそんなに弱い人間では無い筈ですよ!傷付いてはいますが、心は折れていません!そんなイノリスを貴方は何で信じてあげられないんですか?」
『!!』
『…』
「…分かったわ…君の…アルマの言う通りね!私の娘であるイノリスがこんな事で倒れるわけないものね!」
アルマの必死の説得によりジエルは自身の使命を思い出し、今自分が取るべき最善の行動を改めて認識した。そして、ジエルはアルマに説得された事実を飲み込んだ上で、アルマから発せられた意志の強さに感服していた。
「…本当にアルマって凄いな〜年齢は私より年下そうなのに、時々すごく大人と喋っているみたいに思える時があるわよね」
『ギックリ!』
(…ヤバい、俺の中に眠るおじさんが時々目を覚ます事を忘れていた…)
多少の言い争うは起きたもののお互いの本音を曝け出した事により、二人は今向かわなくてはいけない最善の道へ舵を戻す事に成功した。
ー すれ違っていた二人がもう一度結束するに至った後、パーティーリーダーであるジエルが名前が付与されたアルマについての情報を確認する為の”とある行為”についてをアルマに尋ねた。
「そう言えばアルマのステータスってまだ確認した事無かったわね?」
『…』
(ん?自分のステータスって他人が見る事って可能だったのか?ステータスについては知っているけど、ここはあえて知らないふりをした方が賢明そうだ!)
危機回避の能力に長けていたアルマは、余計な事を言わずジエルの口からステータスの知識を聞き出そうと頭を捻らせた。
「それはどうやって確認できるんですか?」
「…そうだった!そうだった!君はセーブクオーツを利用した事が無いんだったわね!?」
アルマは、実際にこのゲームをプレイしていた時には気にも求めていなかった『セーブを行う』という行為ついて何の疑問も持っていなかった…実際は、このゲームの主人公でなければセーブを行う行為をする事が出来なかった…アルマは、このゲームでセーブが出来ないことにより、死亡する度にゲームのタイトル画面に戻される行為がどれだけ心が折れる事だと痛いほど思い知らされていた。
「あれ?そもそもセーブクオーツって勇者じゃないと扱えないって言ってませんでしたっけ?」
「ごめん!ごめん!説明が不足していたみたいね!実際はセーブクオーツの機能を利用出来る者として認められているのは勇者パーティーのメンバーもそれに含まれているの!そもそも勇者パーティーとは私が所持しているPSに仲間にしたいメンバーのデーターを入力するとその人物が勇者パーティーとして登録する事が出来るの!!その後、PS内の勇者パーティーのデーターをセーブクオーツに転送しておけば、勇者でない者もセーブクオーツに触れ、体力の回復や自身のステータスを確認する事が可能になるの!
ちなみに、セーブクオーツ間を瞬間移動する為の行為は、光魔法を扱える人物じゃないと発動する事は出来ないの!あと、セーブクオーツ内のデータとPS内のデータを同期させる事も可能だったりと、セーブクオーツが存在する事により私たちの冒険がより快適になっているの!」
アルマは改めてセーブクオーツの存在が冒険をこなす為には必要不可欠である事を再認識する事となった…アルマはその上で、セーブクオーツの次にこのゲームで重要である携帯端末『PS』についての新たな疑問をPSの所持者であるジエルに問いかけた。
「なるほどですね!…それと新たな疑問なんですが、PSも勇者じゃなくても扱えるんですね!?」
アルマはPS自体の事はある程度は認識出来ていたが、主人公以外にも扱えると言う新事実には興味を惹かれた。
「俺もPS欲しいです…」
「そうよね…本当はアルマみたいな柔軟な人間がPS手にした方が、この子の能力を最大限に活かせるのは間違いないと思うわ…」
「…と言うことは…」
「…そうね…難しいわね」
「…このPSもこの世界の殆どの武器も限られた人間のみが扱う事が出来る…これって一体どういう事なのかしら?今までそんなこと考えた事もなかったのに、アルマと出会ってからこの世界の理不尽さに私自身驚いているの…例えば、明らかにPSを所有している人間の割合が少ないのに、PSを使ったタッチ決済が出来るお店の数が多すぎるのよね?何故かしら?」
(…それはこの世界が主人公の為の世界だからですよ…なんて言えるわけないよな〜)
アルマは心の片隅では特別なアイテムであるPSをクロコである自分が使用出来るのではないかと願っていたが、案の定それは叶うことはなかった…アルマは改めてこの世界のしがらみを解放する事が本当の自由に繋がるのでないか考える様になっていた…
PSが使用出来ない事に関してはすんなりと受け入れたアルマであったが、自身の行動範囲を広げるための『裏技』を使用する為に必要な特別な用語『P・M』についての情報を一か八か裏技とは無縁なジエルに問い掛けてみよと思い立った。
「ちなみに何ですけど、PMってなんだか分かります?」
アルマはアイテム増殖の裏技に必要な『P・M』と言うワードがずっと気になっていたため、PSとの関連性が高そうなこのワードについてPS使いのジエルに投げかけてみた…
「P・M…うん〜」
「そうですよね!?知るわけないですよね〜」
(俺は一体何を聞いているんだ?『P・M』はこのゲームの住人には縁のないプレーヤー目線のゲーム用語なんだぞ…)
突拍子もないアルマの発言にもジエルは真摯に自身の記憶と向き合ってくれていた…そんな中、ジエルは自身の記憶に埋もれていた『P・M』についての記憶を呼び起こす事に成功した!
『…ハッ!』
「思い出した!それきっとエニグマのことね?」
「エニグマ!?何か知ってるんですか?」
アルマは無理だと思っていた『P・M』に関するヒントがジエルの口から聞けた事に驚きつつも、新たに耳にした聞き馴染みのないワードも飛び出した事により、頭の処理が追いつかずにいた。
「そうよね!知らないわよね!?…そうね、エニグマって言うのは、君がジャンク屋で手に入れた『赤い本』のようなこの世界の人間には読み書きが困難な文章やそれが記された書物やアイテムの事を指すのよ!」
『!?』
「それです!それが必要なんです!その書物は、一体どこにあるんですか?」
アルマは『赤い本』と同じようにこの世界を攻略する為に重宝するであろう『エニグマ』についての情報をいち早く手に入れたいウズウズしていた。
「ちょっと待ってね」
エニグマの存在を知り、高揚が隠しきれないアルマに少々驚きつつも、ジエルは自身のポケットからPSを取り出し、アルマの為に素早くPSの画面を操作してくれた…
『…ポチポチ』
「…それってきっとこれの事よね?」
ジエルがアルマに見せてくれたPSの画面には、アルマが知りたがった『P・M』と同じ文字が彼女のPSに表記してあった!
「これです…これが知りたかったんです」
(ん?これ…もしかして説明書か?しかも電子版?この世界にもペーパーレス化を推奨しているなんて驚きだな!そもそも古いゲームなのに、時代を先取りしているのか?テクノロジーの進化を予言が的中してるのか不明だが、このゲームは現実世界に近い設定が随所に散りばめられていたんだな…)
アルマは偶然裏技に必要な手がかりを見つけ出すことに成功し、驚異的な集中力を発揮させPSに記された裏技の手がかりを一瞬で脳内に焼き付けた!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
略式…) P…ポータブル・ステーション(PS) M…メニュー T…タッチ(決定) D…ダブル
非戦闘時) ○…決定・話す ✖️…キャンセル ■…PM開閉 ▲…ソート R1…構え(パチンコ) L1…ダッシュ R2… 無し L2…無し スタート…メニュー画面 セレクト…ポーズ
PSの使い方………
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アルマは、ジエルから見せてもらった説明書に心震わせた…
(現実世界では説明書なんて全く目を通さないけど、今この時ほど説明書のありがたみを感じた事はないよ!でも説明書を読んでも分からないことはまだ複数あるが、こんだけ理解できれば今の所は十分すぎる収穫だ……)
「…大丈夫アルマ?ずっと画面を見てニヤニヤしてるけど、何が書いてあるのか理解できるの?」
『…ハッ』
(つい嬉しさのあまりニヤニヤが止まらなくなってしまった)
「そ…そうですね…少しだけですけど読めました」
「赤い本を解読した時も驚いたけど、今回も驚かせてくれたはね!…やっぱり君は只者じゃないわね…所でなんて書いてあるんの?」
確実にエニグマを解読しているアルマの姿を目の当たりにしたジエルは、アルマの存在に違和感を覚えつつも、彼の人間性を考慮した上で、今のところは彼の存在について深入りする事をしない方が良いと判断した。
(ど…どうしよう…どうやってこの世界の住人に、コントローラーの使用方法を説明すればいいんだ〜?…ん?もしかしたら…)
「そ…そうですね〜PSの使い方が載っていただけですよ!?」
「…」
『…ゴックリ』
「なるほどね〜やっぱりそれしか無いはよね…」
「そう…そうなんですよ!はははは〜」
(ふぅ…何とか深入りされずに済んだぞ!ラッキー)
ジエルは、アルマにエニグマを解読出来る才能がある事を一旦飲み込み、彼の才能を使いPSに対して抱いていた謎をアルマに解いて欲しいとお願いした。
「所で、そのエニグマにPSのアップデートの仕方について記載されていなかった?」
「この前、このPSを製作している会社『ウェロー』からPSにメールが届いていたの!そのメールによるとアップデートをするとオートセーブっていう機能が追加されるらしいの!でも、メールの内容に記載されてあったエニグマが多すぎてそのアップデートの仕方が全く理解出来なくて困っていたの!だからアルマには、アップデートの仕方が記載されたメールの中に含まれるエニグマを解読して欲しいの!」
「えぇ!全然構わないですよ…」
(あ〜今の状況、本当の親子みたいだ…実際実家に帰った時に、母親にスマホの使い方レクチャーしたっけな〜母親元気してるかな〜)
ー 5分後、アルマの指示によりPSのアップデートが完了していた。
『…』
「はい!あとは、セーブクオーツに近づいてデーターを受信出来れば数分後にはアップデートが完了します」
「流石ねアルマ!私機械に疎いから、君みたいに機械慣れしている人って憧れちゃうのよね〜ははは〜」
ー さらに5分後…
『……ピピ』
『ピッカン』
「…はい!アップデートもオートセーブも完了しました」
「ありがとね!これで、セーブクオーツに10メートル以内に近づくだけで、オートセーブやセーブクオーツとPSが自動で同期出来るようになったの!今までは同期するのに一回一回手動でやってたの!これからどんどん便利な機能がアップデートされるらしいから楽しみよね!」
「ホントですね…」
『…』
「…所で、僕のステータスってどうやって確認できるんですか」
「はあ!いけない…そうだった!そうだった!すっかり忘れてたわ!ごめんなさいね!まずは、ステータスを確認する為のプロフィールを作ることから始めましょう!最初は自身の記憶や記録をセーブクオーツに読み込ませる事が必要なの!」
「それはPSを手動でアップデートする方法と同じでアルマの頭をセーブクオーツにくっつけるの!その後は目を閉じるだけよ!じゃあ、ちょっとやって見てくれる?」
「りょ…了解しました…」
アルマは恐る恐るセーブクオーツに近づき、自身の頭をセーブクオーツに委ねた!
『…新規でセーブデータを作成しますか』『はい・いいえ』
『…』
突如アルマの脳内に流れ込んできた聴き馴染みのある音声が、セーブクオーツに自身のデーターを新規で作成するかを促してきた…
(ここは『はい!』が賢明だな…)
『…』
『…データ作成完了』
迷わず『はい』を選択したアルマは自身のセーブデータを作成し終わった事を確認すると、ゆっくりと目を開けジエルに状況を説明した。
透明なセーブクオーツがアルマのデータを作成した瞬間、一瞬クオーツ全体が赤く染まった…その後クオーツは何事もなかったかの様に元の透明なセーブクオーツに戻っていった。
「お疲れ様!早速セーブクオーツ内の君のデータをPSに受信するわね」
『…ピッかん』
「はい!データーの受信完了ね!これでアルマのプロフィールが私のPSで確認出来るようになったわ」
『…………』
(本当、現実とほとんど変わらないな! PSも現実世界のスマートフォンと操作方法も変わらないし、そもそもタッチパネルなのが凄い親近感湧くよな〜データーの受け渡しも、殆ど無線だし!なんかゲームの世界じゃ無いみたいだな)
アルマが脳内で考え事をしている間に、ひと足さきにPSでアルマのプロフィールを確認していたジエルは、プロフィールをじっと凝視したまま動かずにいた…
「名前:アルマ・インヘリット…年齢:17歳…身長:176cm…ふむふむ…名前もしっかり変わってるわね!年齢もやっぱり一個下だったわね…」
「ふむふむ……ん?…これって…もしかして…」
ジエルがアルマのプロフィールの一部を確認している時に、ジエルは一つ気になる文面を見つけた…
次の瞬間!!
『ボアボア〜』
『!?』
「ハッ!いったい何が起きたんだ!?」
ジエルとアルマは隣の部屋から放たれた”何か”に途轍もない不気味さを肌で感じ取った。
「ジエルさん!」
「うん!君も感じ取ったみたいね」
「はい」
「隣から膨大な悪意を感じるわ」
二人は一旦気持ちを切り替えて、隣の部屋から感じる悪意に対して戦闘態勢を整えた。
「…そろそろタイムリミットみたいね!準備は良いかしら!アルマ!」
「はい!勿論です」
「きっとこれが最後の戦いになるわ!気合を入れて挑むわよ」
この戦いでの最後になるであろう休憩を終えた二人は、イノリスの思いを胸に最終決戦の場所へと歩みを進める事にした!