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解放①

「照れせ!太陽憑依ソルフレイヤー



太陽の勇者ジエルは、新たに再構築した魔属の影響により、自身の見た目を華麗に変化させていた。


普段の彼女は、鋼を用いた彼女専用の装備品を、胴体・腕・脚に装着していた。そんな変化後の彼女は、従来の装備品の上に重ね着をする様な形で、新たな魔属によって生み出された魔法で出来た装備品『魔装』を装備してみせた。


装いも新たになったジエルの見た目は、マントを羽織り白と赤を基調とした華やかな衣装へと変貌を遂げていた。そして、何と言っても印象的なのは、普段何も身に付けていない頭部に、新たに付け加えられた燃える炎をイメージしたティアラである。



そんな変貌を遂げたジエルに相対するサラマンダーは、本能的に感じ取っていたジエルの魔属が劇的な変貌を遂げた事により、より一層警戒心と殺意をジエルへ向けていた…



「あら、だいぶお怒りみたいね…それにしても…その赤く染まった瞳…やはりアナタも凶暴化するのね!そして、この鉱山に存在していたベースキャンプを消滅させたのはアナタの仕業ね…先ほど、イノリスに向けて放たれた魔法と同じ魔法でこの地域一体を焼却した…脅威的な存在であるアナタも、ブラックドラゴンと同じでチムニー洞窟から聳える煙突を通ってダンジョンからこの場所へ移動してきた…チムニー洞窟に関する問題は増える一方だけど、まずはこの凶暴化したアナタを倒す事が最優先事項みたいね!そんな未知の存在であるアナタには、私のとっておきである”あの”武器が必要不可欠…」


『ハァァ…』


サラマンダーの討伐を心に決めたイノリスは、戦闘を優位に進める為に自身の腕を上空に掲げた…



「おいで!魔法剣フレイムタン!!」



ジエルが翳した手の先から赤い魔法陣が出現し、その中から並々ならぬ魔力を秘めた真紅の魔剣が姿を現した!!


ジエルは、自身で召喚したフレイムタンと呼ばれる魔法剣を手に取り、ジエルに熱い視線を送るサラマンダーに向けて戦意を送っていた…


とうとう対峙した一人と1匹の魔物は、お互いの体から発せられるオーラの様な魔力を放出しながら互いの力量を図っていた…その後、ジエルとサラマンダーはほぼ同時に攻撃を開始した…


『ドドドド……』


戦いの最中、一人と1匹は自然と空中へと戦いの場を移した…


『ドン!ドン!』




一人と1匹の衝突から生まれた衝撃波と爆音が上空からこだましていた頃、戦場から少し離れた場所で、ジエルの戦いを見守る一人の女性の姿があった…


「ジエル様負けないで…」


その女性の正体は、勇者ジエルの部下であり彼女を崇拝するクロコの女性『イノリス』であった。彼女は自身が手も足も出なかったサラマンダーを上司であるジエルに託し、彼女の邪魔にならい程の距離を取り、両手を合わせ神妙な面持ちでジエルの勝利と帰還を願っていた…


「凄い…僕は、物凄い戦いを目の当たりにしている様だ…何より、ジエル様はあの凶暴なサラマンダーを相手に一方的に攻撃を仕掛けている!」


イノリスは初めて目の当たりにした魔装を身に纏ったジエルの姿に驚きつつも、その勇敢で強大な魔力を秘めた彼女の姿に惚れ惚れするイノリスであった。



ー 戦いが白熱する中、ジエルとサラマンダーにイノリスは”ある”違和感を覚えていた…



「ジエル様の様子がおかしい…近くに寄るだけで火傷を負わされてしまうサラマンダーの熱波に、苦しそうな表情を一切せずに戦いをこなしている…」



イノリスの見立て通り、サラマンダーと激闘と繰り広げている筈のジエルの身体には、火傷は愚か傷一つも付いてはいなかったのだ!



「お互いに確実にダメージを受けている筈なのに、ジエル様だけが無傷…ん?…傷ついているはずなのに、傷ついていない…これは、もしかすると…」



イノリスは、ジエルに対する違和感を判定する為に彼女だけを凝視して観察してみた…


「え?嘘でしょ!?」


イノリスが驚くのも無理は無い。何とジエルの身体に傷が付いた直後に、すぐさまジエルの傷付いた身体が一瞬で修復していることが判明したからである!




「…もしかして、ジエル様はサラマンダーの炎を吸収している!?吸収した炎を元に、傷付いた自分の体力やMPを瞬時に回復しているのかも…もしそうならジエル様の見た目が変化した要因も傷を瞬時に修復しているのも火魔法の影響なの?…いや…それにしては、ジエル様と同じ火属性持ちで火耐性のあるサラマンダーだけダメージを受け続けている証明にならない…」




イノリスは自身の疑問が解決しないまま、ジエルとサラマンダーの戦いの終焉を見届ける事になる。



「そろそろおしまいにしましょう!…そうね…今の私が扱える最上級の魔法を最後にこの戦いを締めるとしましょう!」



ジエルは、明らかに弱っているサラマンダーを認識し、この戦いの勝敗を左右する大技をサラマンダーにぶつける事を決心した。



「はぁー…」


「ハッ!!」




「これで終わりよ!!極大魔法…サン・シャイン!!」




『ギュギュギューーー』


ジエルから放たれた、白く発光した放射状の魔力レーザー砲が炎を纏ったサラマンダーの炎の鎧を貫通して、鎧の中心に存在するサラマンダーの本体であるトカゲの魔物を炎の鎧ごと貫いた。




『……ボロボロ…』



ジエルの強力な極大魔法により一瞬で体を貫かれ、灰のように消滅していくサラマンダーに対してジエルは何か違和感を覚えつつも、サラマンダーに勝利した事を確信し、自身が纏っていた魔装を解除した。


戦いの終焉を見届けたイノリスが満面の笑みを浮かべながら、大急ぎでジエルの元へ駆け寄って行った。




「…ふぅ…」


「ジエル様〜!?」


「!?…あらイノリス!?この場所から逃げていたんじゃないの?」


「…いや〜その〜結局ですね…ジエル様の勇姿を近く拝見したくて、岩場で身を潜めながらジエル様の戦い方を勉強させてもらっていました」


「ふーん…まあ良いわ!とりあえず貴方に被害が及ぶ前に勝利が出来てよかったわ!」


イノリスは終始戦闘を優位に立ち回っていたジエルにある質問を投げ掛けた。



「所で、先ほど披露していたあの形態は一体?」


「あ〜アレね!?あれは、魔装といって空気中の点在している魔素を媒体に、自身の鎧や体に能力を向上を目的とした魔法の鎧を付与する魔法よ!しかも、私が使用した魔装は勇者だけが扱える特別仕様なの!」



「…そんな事が可能なんですね!?何となく炎を纏って戦っている事は理解出来たのですが、明らかに僕の想像の超えた戦い方をなさっていたので、ずっと頭の中が混乱状態でしたよ!それと、何より一番驚かされた事は…戦いの最中、傷付いたジエル様の身体がみるみるうち回復して行った事です」


ジエルは、自身の事を応援しながら戦闘の状況を常に把握していたイノリスに、より一層自身の側近としての評価を上げていた。


「流石イノリスね!あの混沌とした状況下の中で、勇気を持ってあの場所で見学していた成果ね!」


「お褒め頂き嬉しい限りです…所で、ジエル様が使用したあの特別な魔装の正体をお聞きしても宜しいですか?」




「ええ!構わないわよ!私の魔装の正体は…私自身に備わっている火属性の魔属と勇者の試験で取得した第3の魔属である光の魔属とを掛け合わせて、誕生させた新たな魔属…『日魔』の影響よ!」


(日魔?聞いた事ない魔属だわ…)


「私は、そんな火と光の両属性の性質を兼ねた特別な魔属『日魔』によって生成出来る魔法を『日魔法』と名付けたの!サラマンダーとの戦闘中には、日魔に含まれる火魔の耐性で相手の火属性攻撃を無効化しつつ、日魔法に含まれる光魔法でダメージを与えたの!」



イノリスは自身が魔法を使用できない事も相まって、魔法に関しての知識が足りない事は理解していた…しかし、特別な人物にしか使用出来ない魔法の説明も加わった事でより一層脳内でパニックを起こしていた…


「…ちょっと待て下さい!?知らない用語が飛び交って頭が混乱しています!一旦僕から質問させてもらっていいですか?」



「ごめん!ごめん!一回余白を挟みましょう…どうぞ!質問してちょうだい!」



「…はい!そもそも光魔法とは何なのでしょうか?」



魔法についての知識がある程備わっていたリノリスでも、ウワサ程度でしか耳にしていた光魔法の存在を実際に生で目の当たりにしてみると不思議なほどに謎が深まる光魔法についての詳細をジエルに投げかけてみた…


「そうね!光魔法の説明が足りな過ぎたわね…そう、光魔法の最大の特徴は闇魔法以外の全ての魔法属性に”干渉”できる事なの!そんな光魔法の特性を”干渉”を活かして誕生したのが『日魔法』よ!」


「そんな日魔法を纏って誕生した特別な魔装が『太陽憑依ソルフレイヤー』なの!そんな太陽憑依ソルフレイヤーは、再構憑依チェンジレイヤーと呼ばれる特殊な魔装で、勇者の試験で出会ったこの世界の最高神の一角『ノヴァ』から授かった勇者の切り札なの!」


「この世界に存在する勇者は、それぞれが取得している魔属の魔法と光魔法と組み合わせてオリジナルの魔法を扱う事が出来るの!もちろん他の勇者も再構憑依チェンジレイヤー中じゃないとそのオリジナル魔法を扱うことが出来ないけどね!」


「なるほど!勇者が扱える特別な魔属『光魔』によって使用出来る光魔法はもちろん単体でも扱える強力な魔法なのだけれど、光魔以外の魔属と組み合わせる事でより強大な魔法を使用する事が出来る魔属を作り出す事が出来るのが、光魔法の最大の強みなんですね?」



ジエルは、物分かりの良いイノリスに感心しつつ、この世界に存在する自分以外の勇者についての話を始めた。



「その通りよ!何よりそんな強力な再構憑依チェンジレイヤーを取得している勇者がこの世界には私以外に6人は存在しているらしいの!」


「らしいとは?」


「そもそも勇者とは、この世界の節目節目に現れ、世界を混沌に導く存在である魔王の抑止力になる様にこの世界の最高神である『ノヴァ』によって、本来の人間の能力を超えた力を与えられた存在が勇者と呼ばれている…しかし、今現在もこの世界には魔王が存在していない為、勇者として選ばれたもののその力を発揮する前に寿命でなくなる勇者や好敵手がいない事により廃業する勇者も数多く存在しているの」


「私が今現在認識している勇者は、学園の同級生であり惑星聖戦を終わらせたラッシュ・クロスロードと、勇者でありながら世界一の大富豪でもある『黄金の勇者』の二人だけ…何より勇者ラッシュは今現在行方不明…全世界でフェノフェロウによって凶暴化した魔物を討伐するのに私と黄金の勇者だけでは手に追えない…是非とも行方不明である他の勇者達も世界の危機を救う為協力して頂きたい限りよ…」




「成る程ですね!あんな強力な再構憑依チェンジレイヤー扱える人間が増えてくれれば、今起きている魔物の凶暴化も何とかしてくれそうですね!もし行方不明な勇者達が見つからなかったとしても、あれだけの強さを秘めたジエル様なら、お一人でこの世界の危機を食い止められそうですけどね!」



「だと嬉しいわね…」


イノリスは、他の勇者達の動向を気にしつつも、見事に凶暴化したサラマンダーを討伐したジエルに対して純粋な気持ちでジエルを誉めた讃えた。



「私の光魔法についての説明がひと段落したところで、ベースキャンプが消滅した原因について私の見解を披露させてもらうわね…先ほど討伐したサラマンダーがイノリスに対して使用した後に、地面が燃えていた事と、私達がこの場所に訪れた時に発見した現象の『燃える地面』が同じ事から、ベースキャンプを消滅させた犯人はサラマンダーで間違い無い筈よ!」



「原因が判明したからと言って私たちの任務が終了した訳でない…今現在チムニー洞窟内で凶暴化する魔物が複数誕生している…以前このダンジョンは旧エース・ハインドがこのダンジョンのダンジョンマスターを討伐していて、攻略済みだったと私の耳には入っている…前回私がこのベースキャンプに訪れた時には、特に魔物の気配が感じられなかった…ブラックドラゴンがこの場所から飛び立った後に、何者かがこのダンジョンのマスターとして君臨したのでは無いかと私は睨んでいるわ…」




「イノリス…改めて問うわ…私と一緒にダンジョンへついて来てくれる?」


ジエルは途轍もない力を見せ付けたサラマンダーやブラックドラゴンの様な凶暴化する魔物が存在するであろうチムニー洞窟への潜入を、サラマンダーの脅威が記憶に新しいイノリスに改めて問い掛けた…




「愚問です」


「…イノリス!」


ジエルはイノリスがついて来てくれると信じていたが、一抹の不安から彼女を疑った自分に恥ずかしさを覚えていた…そんなジエルは、イノリスの芯の通った決断により、ジエルの心の迷いは完全に吹っ切れた!


「ありがとう!イノリス!必ず二人でダンジョン攻略を成し遂げましょう…勿論です」


ジエル達はPS内から回復アイテムを取り出し、体力を完全回復した状態で新たなダンジョンマスターが待ち構えているであろうチムニー洞窟へと足を踏み入れた…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ー チムニー洞窟突入から3時間後…



「ハァハァ…」


「ここは一体何階層目なんだ?フロアを降っても降っても終点が見えない…」


イノリスは先の見えないダンジョンの終着点に心が折れ掛かっていた…しかしそんなイノリスを鼓舞する様にパーティーリーダーであるジエルが、冒険者の先輩としてリノリスへアドバイスを送った。


「イノリス!決して心を挫いてはいけないわ!心が折れたその瞬間、このダンジョンに引き込まれてしまうわ!きっとこのダンジョン自体がダンジョンマスターと意識を共有し、私達が弱る事をじっと待っているの違いないわ!」


「何故なら、本来のチムニー洞窟は地下のフロアが6階層で構成されており、初級冒険者向けの魔物が多く出没することで有名なダンジョンなの!しかし、今のチムニー洞窟は弱い魔物は疎か一切の魔物が姿を見せない…そもそもダンジョンマスターが消滅した後のダンジョンに魔物が居なくなるといった報告は聞いた事は無いわ!それよりも、新たなダンジョンマスターの出現により、そのダンジョンに新たなる魔物が加わるといった報告は耳にしているわ!出口のない迷路の様なダンジョン・新たなダンジョンマスターの出現により加わる筈だった魔物が存在しない…むしろ魔物自体が姿を現さない事から、私たちが彷徨っているこの場所はダンジョンマスターによる幻術の様な魔法の影響に違いないわ!」


『…………』



ー ジエルとイノリスがダンジョン潜入から更に2時間後…一向に姿を現さない謎のダンジョンマスターの存在を警戒しつつも、消耗し切った自分達の体力を考慮して、パーティーリーダーであるジエルは苦渋の決断を取る事にした。


(まずいわね!このまま闇雲に進んでも体力と精神力を消費するだけ…ここは一旦休息が必要だわ…)


「イノリス!聞いて頂戴!危険を承知で言うわね!一旦ここで、休息を取りましょう!これだけ変化のない状況が続くのならば、何かしらのアクションがこのダンジョンを動かすキーになっていると私は睨んでいるの!」




イノリスはこの5時間の中で、常に緊張感を保ったままのダンジョン探索の難しさに直面していた。尊敬するジエルより先に根を上げてはいけないと心に誓っていたイノリスは、ジエルから先に休憩すると言う判断が聞けた事に対して内心ホッとしていた。



「分かりました…けれど、条件があります!…5時間のうちに魔物とは一回も遭遇はしてはいませんが、常に何かの視線は感じていますので、交互に休憩しながら何かの事態に備えましょう! 何より先にジエル様が休んで下さい。その間に僕がこの周辺を見張っていますから」



イノリスの冷静な状況判断にジエルは事あるごとに救われていた。やせ我慢ではないが、回復薬を摂取したとはいえ先程のサラマンダーとの戦いにより精神的な疲労の蓄積は解消されてはいなかった。その為、イノリスの粋な判断にジエルは素直に甘える事を決断した。



「ありがとう!イノリス!1時間だけ仮眠をとらせて貰うわ!今回はあなたの優しさに甘えさせて貰うわ」


「では早速休憩の準備をしましょう!」


ジエルはPSにしまっておいたキャンプ道具を取り出し、心身のリセットを目的とした空間を演出した休憩スペースを作り上げた…


そんな休憩スペースで質の良い仮眠演出するために、愛してやまない紅茶セットを使用して極上のティータイムを二人で満喫した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ー 休憩開始から3時間後…


イノリスは、とある開かれた場所でふと目を覚ました…



『はっ!』



「イケナイ!僕は一体何時間寝てしまったんだ?…クソ!ジエル様はどこに?」



壁に寄り掛かりながら、気づいた頃には意識を無くしていたイノリスは、この場所で共に休憩を共有してたジエルを真っ先に探した…


「どこだ?何処におられるんですか?ジエル様?」


イノリスの懸命な捜索も虚しく、この場所からジエルらしき人物の痕跡は見当たらなかった。


「僕とした事が、主人であるジエル様をこの命に変えてもお守りすると”奴”と誓ったばかりだと言うのに…このままでは、ジエル様にも奴にも合わせう顔がない…」


「…」


「…何かいる?」



イノリスは数時間前のこの場所と今いる場所の空気感の違いやこのフロアから漏れ出す複数の殺気を瞬時に感じ取った。


「…ここはきっと地下一階…本来一番最初に訪れるべきダンジョンの入り口…元々この場所に居たのか・この場所に飛ばされたのか定かでは無いが、敵の精神攻撃により長時間幻覚を見せられていたのは確かみたいだ…)


イノリスは思い立ったように腰に備え付けていたナイフを取り出し、突如その場からとある方向へ走り出していた



『ダダダ…』



「邪魔だ!」


『ぎゃーー』


走り出したイノリスは、自身の目の前に飛び出して来た複数の魔物を一気に蹴散らし、離れ離れになってしまったジエルの行方を探す為に、鬼の形相で突き進んだ。




「…低レベルのゴブリン2匹…これはきっとジエル様の説明にあったこのダンジョンに元々生息している魔物…やっぱり僕だけが本来のチムニー洞窟に取り残されている…とりあえず片っ端からこのダンジョンを捜索するのみ!…ジエル様!僕が必ずあなたを見つけ出します…だからどうか…どうか!ご無事で!」


 

ー 驚異的なスピードでダンジョン内を駆け巡るイノリスは、あっという間に地下5階の大広間まで到達していた。そんなイノリスの行手を阻まんとする謎の存在が彼女の目の前に姿を現そうとしていた…



(…あっという間に地下5階まで辿り着けた…ここまで凶暴化する魔物の出現は無し…僕の感だが、離れ離れになってしまったジエル様はきっとこの先に囚われている気がする…なんとしてもジエル様を助けてみせる…僕の命に代えても…)



『ドスン…ドスン…』


『!?』


急遽イノリスが立ち止まった地下6階へ続く階段から、巨大な何かが階段を豪快に駆け上りながらイノリスの元

へと近づいて来た…


「…地下6階から巨大な何かがコチラに近付いてる!?」


『ドン!!』


なんと!イノリスの目の前に現れたのは、3mを容易に超えるほどの巨体を持ち合わせたオークが、自身の身長と等しいほどの巨大な斧を携えて、イノリスの前へ立ちはだかって来た。


「もしかしてコイツはオークソルジャーか?」


イノリスがオークソルジャーと呼んだその魔物は、魔物でありながら自身で鋼の鎧を装備して戦う攻撃に特化した戦士型のオークである。


「コイツ明らかに僕をこの先に通さない気だな!?やはりこの階の下にジエル様が囚われているに違いない…僕は何としてコイツを倒さなくてはならない!そうだとも…ジエル様をお助けする事が僕の存在理由だ!決してこんなところで足止めを喰らっている場合じゃ無い!」


イリスは自分よりも巨大なオークソルジャーに対して一切怯む事なく自身のナイフ突きつけた。



「かかって来い!デクノボウ」



ー 戦闘タイプの奴隷であるイノリスは、普段は右利きで生活を送っている。しかし、戦闘戦術の幅を広げるために幼い頃から利き腕では無い左手でも精密な動作を行う様に訓練を受けていた。そんなイノリスは奴隷である為に魔法は使えないがその代わりに体術と剣術に関しては学園のクロコ達の中ではトップの実力を備えていた。

そして、今現在のイノリスの戦闘スタイルはと言うと、右にメインウエポンである鉄のナイフ。左手にジエルから譲り受けた複数の魔石のカケラを駆使して、体術・剣術・魔石による魔法攻撃を瞬時に使い分けて戦う万能戦士として成長を遂げていた。そんな急成長も見せる、イノリスがまず先制攻撃を仕掛けた。




素早い動きを活かし、難なく敵との距離を縮めたイノリスは、自身のナイフ攻撃でオークソルジャーに複数の攻撃をヒットさせた…


しかしながら、鉄のナイフによる連続攻撃が強靭な肉体と重厚な鎧に阻まれ一切ダメージを与える事ができなかった。


(全くダメージを与えられなかった…けど、スピードなら圧倒的にこちらが有利。まずは、あの邪魔な鎧をどうにかしないと…)


イノリスは、ナイフによる接近戦をスパッと諦め、バックステップにより敵との距離を一旦空けた。


(魔石の力によって一時的に魔法を扱える今の僕には、怖いものは何もない!…今まではスピードを活かしたナイフによる攻撃が僕のウィークポイントだった…けれど今の僕は以前の僕とは別人だ!そう…奴との出会いが、クロコとしての僕の価値観を180度変えさせた…そう!今の僕は、奴の魂も引き継いで戦っている…)


「…そんなこの僕がお前なんかに負けるはずは無いよ!!」



イノリスはこの場に居ないとある人物の事を意識しながら、自身のアイテム袋から3種類の魔石のカケラを取り出し、器用に順々に使用した。



『ポン!』

『ドドド…』

『ボワっ』



まずイノリスは、自身の真下へ土魔のカケラを放り投げ、自身の足元の地面を隆起させ空中へ舞い上がった。急に舞い上がったイノリスに対して驚きの表情を見せたオークソルジャーは、動揺でその場に立ち尽くしてしまった。大きな隙を見せたオークソルジャーに向かってイノリスは空中で大量の魔石を敵に降下させた。


『水・雷・雷・火・火』


『グォぉぉぉぉ…』


魔法効果を上昇させる為に構成した順番通りに魔法攻撃を連続して与えた事によりオークソルジャーは悶絶を繰り返していた…悶絶と同時に装備していた鎧が一瞬でオークソルジャーから吹き飛び、無防備な肉体が顕になった…魔法攻撃を終わり空中から落下するイノリスであったが、彼女は攻撃の手を緩めなかった…



『グッサリ!!』



自慢のナイフ捌きで的確に無謀になった敵の肉体へナイフを突き刺し、確実に敵の内部へダメージを与えていった…イノリスの攻魔一体の連続攻撃により膝から崩れ落ちるオークソルジャーであった…強力な敵に致命傷を与える事に成功したイノリスであったが、彼女は一切喜びはしなかった…その理由はオークソルジャーの真の姿を知っていたからであった…



(魔法の相性を利用して強力なダメージは与えたけれど、まだ終わりじゃない…奴にはもう1段階ある…)


そんなイノリスの悪い予感は的中してしまった。


『ぐおぉぉぉん』


両膝を突いて項垂れていたオークソルジャーが叫び声をあげながらゆっくりと立ち上がりその交戦的な瞳を赤く染め、もう一度自身の巨大な斧を強く握り返した…



「やっぱり凶暴化したか!豚野郎!!こうなる事は、はなから予想済みだよ!そんな事もあろうかと休憩の前にジエル様から頂いた大量の魔石のカケラを身体中に仕込んでおいたんだ!…まだまだ僕の攻撃は鳴り止まないぞ!覚悟してけよ!」


今まで自身が魔法を扱う事など想像もしていなかったイノリスは、水を得た魚の如く魔法攻撃を巧みに戦闘に活かしながら戦場を自由に暴れ回っていた…


「息を吹き返したところで、消耗した体力はそのままなんだよ!だから、まだまだこちらが有利だ」


イノリスが続け様に、オークソルジャーに火魔のカケラを投げつけた。


「これでも喰らえ」


『ヒューー』


『ピッタ!!』


『!!??』


「どうして?…魔法が通用しない?」


なんとイノリスの魔法攻撃を魔法耐性が少ないオークが食い止めてしまった。


「どういう事?…何が起きているの?」


驚きを隠せなかったイノリスであったが、すぐさま冷静さを取り戻し、オークソルジャーに何が起きたか自身の脳をフル回転し、敵が無傷である要因を突き止めた。


「…何かがある!?奴の目の前に何か薄い壁がある…ウソ…もしかして…マジックアーマー?」



ー マジックアーマーとは一時的に魔法耐性を上げることが出来る無属性の補助魔法なのだ!


「なんで魔術師タイプでもないアイツが補助魔法を扱えるんだ?」


イノリスはすぐ様自身が知り得るマジックアーマーの知識を呼び起こした…するとマジックアーマーに備わっている魔法耐性を上げる効果には反面マイナスな側面も備わっている事を思い出した…


「確か…マジックアーマーには制限時間がある筈…」


『ドドドド…』


「ヤバイ!奴はマジックアーマーの効果が切れる前に勝負をつける気だ!」


瞳が赤く染まったオークソルジャーは、イノリスの魔法攻撃を警戒した結果、本来扱えないはずの補助魔法を元々使用した事のあるかの様に戦術に活かしていた。そして、自身の魔法耐性が切れる前にイノリスに特攻を仕掛けて来た…


『ドン!』


『…カン』


『ザッン!!……グシャリ…』


『…』


『グォーーー』


勝利か確信した赤目のオークソルジャーは、その場で大きな雄叫び上げイノリスとの戦いの勝ち名乗りを上げた…そんな中、イノリスはというと…




そのか細い右腕はオークソルジャーの巨大な斧で切断され、右足は今まさにオークソルジャーに踏みつけられ、骨が粉々に粉砕させられていた


「…こんな…こんなはずじゃ…」


ー そう…この出来事はこれから始まる絶望の始まりにしか過ぎなかった…


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