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短編集【ホラー】

神様さえ匙を投げた男

作者: ポン酢
掲載日:2023/01/03

「うおおぉぉぉぉっ〜っ!!」


突然、友人が雄叫びを上げた。

初詣でごった返す境内。

周囲の人がビクッと固まり、ヤバイものを見たと目を逸らした。

当然だよな。

俺はため息をついた。


友人は感極まったようにガッツポーズでエビ反りになり、ぷるぷる震えている。


何なんだよ、新年早々うるせぇな…。

念願の「小吉」でも出たのかよ??

おみくじの紙を握り締め、興奮しているバカを冷めた目で眺める。


「聞いてくれ!!スゲーの引いた!!」


キラキラした目で話しかけてくる。

いや、こっち来んな。

お前の知り合いだと思われたくない。

だがヤツは素知らぬフリをしようとした俺の服の袖を掴んでグイグイ引っ張った。

あ〜、知り合いが見てない事を願うばかりだ……。


「……何?小吉通り越して大吉でも出たのかよ?」


「ちっげーよ!!もっと凄いもんだよ!!」


喜びすぎて踊りだしそうなそいつを、俺はただただ怪訝な目で見るしかない。

もっと凄いって何だよ?

大吉より上なんてねぇぞ??

だいたいお前は…どんなに強い神様が頑張ってくれても、「末吉」が限界なんだから「吉」だって引けたら奇跡みたいなもんだ。


「とにかく落ち着けよ。恥ずかしい……。」


「これが落ち着いていられるかってんだよ!!見ろ!!」


そう言ってバカが自慢げに見せてきたおみくじには、はっきりこう書かれていた。


「大凶」


俺は絶句した。

そしてチラリと友人の背後に目をやった。


あ〜、可哀想に……。


その姿に御愁傷様としか言えない。

友人は大凶のおみくじを空に透かし、宝物を見るように眺めている。


「お前さぁ……それ、何だかわかってるのか……?」


「わかってるよ!大凶だぜ?!スゲー!噂には聞いてたけど!凶より下がまだあるとは思わなかった!!スゲー!俺、スゲー!!」


大凶を手に、めちゃくちゃテンションの高い友人。

人は何をどうしたらここまでポジティブになれるのだろう……?


「やっべー!!俺、今年の運、使い果たしたかも!!」


「大凶を引くのに運気を使い果たすのはお前だけだよ……。」


「でもよ!でもよ!!大凶って大吉より出る確率少ないんだぜ?!それに一番下じゃん?!」


「どん底だな。」


「そうなんだよ!とうとうどん底まで来たぜ?!俺は!!」


「何がそんなに嬉しいんだよ、万年「凶」男……。」


そう、友人は基本的に凶しか引かない。

物凄い不幸体質なのだ。

一度だけかなり偉い神様が気の毒がって「末吉」を出してくれたが、友人の不幸体質に飲まれたせいで、その日境内でボヤが出で全国ニュースになった。

あれは気の毒で仕方なかったなぁと思う。


しかし当の不幸体質男は、大凶と言う戒めのご神託を小躍りして喜んでいる。

社からこちらを覗き見ている神様も目が点だ。


「とうとうこの日が来たぜ!!」


「は??」


「今までずっと俺が凶だったのは!まだどん底じゃなかったんだよ!!俺はとうとう!地獄の底までたどり着いたんだよ!!」


「はぁ……?」


地獄の底にたどり着いて、何がそんなに嬉しいんだよ、オイ。

俺はそいつの思考についていけなくて呆れていた。


「つまり!!ここより下はないんだよ!!後は俺!登るだけじゃん!!いやぁ〜!!底にたどり着くまで長かったなぁ〜!!」


なるほど、そうとも言える。

そうとも言えるのだが、それは普通の人の場合だ。

お前には当てはまらない。


「……このまま一生、どん底から動けないとは思わないのか??」


俺は思わず言ってしまった。

ハッとして友人を見たが、本人は聞こえていないのかにこにこ笑っている。


だがその後ろ。

青い顔で「しー」っと口元に指を当てている何かと困り果てて声も出ない何かが、まさにどん底ですって顔をしていた。


「どん底ぐらしも慣れれば楽しいぞ〜!!」


「ふ〜ん。」


「なら俺!!大凶、連続記録を目指すぜ!!」


何なんだよ、コイツは……。

松岡○造かよ……。

まぁ、お前の場合は逆に悪天候をもれなく引き寄せるんだがな……。


けれど友人は気に求めない。

ポジティブ過ぎて何を言っていいのかすらわからない。


「あのな…それは「神託」なんだよ……。」


俺はヤツの周りのモノがあまりにも気の毒でつい言ってしまった。


「神託??」


「そ、神様がな、お前にもっと落ち着いて平常心を心がけて生きろって言ってんだよ……。」


「ふ〜ん??」


俺の言っている事がわかっているのかいないのか、友人はぼんやりとした返事しかしなかった。

まぁ、神様たちがいくら言ってもわからないんだ。

俺が言ったってわかる訳ないよな。


「確かに俺、落ち着きないかもしれないけど、常に平常心だぜ?!」


「お前の平常心は騒がしすぎるんだよ!それを言ってんだよ!!」


「そっか!!いい事教わった!!」


「だからそれな?!」


目から鱗だ〜とか言いながらゲラゲラ笑う友人。

俺はため息をついてヤツのそばでオロオロするおじいちゃんを眺める。

常にこの人が言ってても聞かないんだから、俺が教えたって今更だよな…本当……。


「ありがとな!!よし!今年は神さんからのご神託を心に刻んで!前向きに行くぞ!!」


「は?!お前、俺の話、聞いてた?!」


「聞いてた聞いてた!!大凶はご神託!!俺はとうとうどん底にたどり着いたんだ!!落ち着いた行動を心がけ!来年に向けて登っていくぞ〜!!」


「お前なぁ……。」


どこまでも底抜けに明るくどこまでもポジティブな友人を見つめ、俺はため息をついた。

嫌な意味じゃない。

仕方ないやつだなって、コイツはこういう奴だよなって、諦めながら笑うしかないのだ。


「ふふふ……っ。」


すぐそばで笑い声がした。

俺は驚いて勢い良く振り返る。


「ああ、驚かせてすまないね。何か面白そうな気配があったから見に来たんだけど…ふふふっ。」


そこに居たのは神主さんだった。

この賑わいでは神主さんだって忙しいだろうけれど、この人は普段着の白衣に青袴。

浅葱の袴ですらない。

でも俺はその人が高位の神職だとわかったので、丁寧に頭を下げた。


「いいよ、もう引退したような者だ。」


「……へぇ。」


そして配られていた甘酒を通りがかりの人に引っ掛けられて慌てている友人を二人で眺める。


「難儀な子だね。でも、あんな清々しい子も珍しい。だから放っておけないんだろうねぇ〜。」


「まぁ…飲まれて落ち込むよりはいいんでしょうけど……。見てて申し訳なくて……。」


「ふふっ。大丈夫だよ。何せ神様ですからね。たとえ苦労をかけられても、ずっとそばにいらっしゃるのは…そういう事だよ。君も同じなんじゃないかい?」


そう言われ俺は神主さんを見つめた。

その人はただ穏やかに笑っている。


「見えてるんだろう?君は?」


「ええ……。」


「ふふふっ。長くこの仕事をしてきたけど、あんな顔をされる神様を見たのは初めてだよ。うちの御神体も目を見開いてあんぐりしてたし。」


「すみません……。」


「いやいや、不謹慎だけど…ふふっ。ちょっとそれが面白くてね。」


そんな話をしていると、友人がこちらに走ってくる。

そして神主さんに気づくと不思議そうな顔をした。


「こんにちは??」


「はい。こんにちは。あけましておめでとうございます。」


「あ!そうだった!あけましておめでとうございます!!」


新年の挨拶をされ、友人は今思い出したと言ったように笑いだして神主さんに挨拶した。

そんな友人を見つめ、神主さんは少し悲しそうな顔をし、そして穏やかに笑いかけた。


「難儀な事も多いでしょう。太陽や光と同じく、あなたの笑顔と明るさはたくさんのものを引き寄せます。…いい事ばかりではない。でも、その中にいい事も隠れています。」


「そうッスね!!知ってます!!」


「おい!!」


「ふふっ。そうですね。」


「ヤバイ事とか多いけど、何とか生きてっし!友達も離れていく事多いけど、大吉はずっといてくれてんもんな?!」


明るく笑ってそう言われる。

思わず言葉に詰まった。


「……いつまでも俺が愛想をつかさないと思ってんのか?お前??」


「え?!マジ?!勘弁しろよ?!」


「それはこっちのセリフだ。」


「待って?!何?!悪い所があるなら謝るし?!」


「だから!その騒がしいのを何とかしろ!神様にだって落ち着けって言われてんだろうが!!」


思わず言い合いになる俺達を、神主さんはにこにこ見ていた。


神主さんだけじゃない。

こいつについている守護者の祖先のおじいちゃん、守護神の神様、氏神様、土地神様、ここの御神体、皆、困り果てながら笑ってこいつを見ているのだ。


友人は不幸体質だ。

いや、正しくは不幸喰い体質だ。

それも恐ろしく強力な。


不幸喰いは周りの不幸を喰う。

だから喰われた方は幸せになれる。

他人の不幸を肩代わりしてしまうのだ。


だが、こいつの不幸喰いの力は強すぎる。

社会の不幸を喰ってしまう。


普通、不幸喰いの周りは幸せだ。

本人はとことんついてないけれど、周りは幸せになれるからむしろ人が集まる。


だがこいつの不幸喰いは強すぎて、世界の不幸を喰ってしまう。

それがあまりにも大きいので、その身からこぼれ落ちて周りにも影響を与えてしまうし、その力に引き寄せられて不幸をばら撒く奴が寄ってくる。


「大吉〜!!これからも仲良くしようぜ〜!!」


「ウザい!!よるな!!それからその名で呼ぶな!!恥ずかしいんだよ!!」


結局、俺の脅しなんて忘れて友人はゲラゲラ笑っている。

俺はちょっとその明るさがムカついた。


何がそんなに楽しいんだよ?!

両親は事故で亡くなって、引取ってくれた親戚には財産奪われて、虐待されて、不幸のテンプレかましている癖に何がそんなに楽しいんだよ?!

仲良くなってもすぐに物理的に離れるか、不幸になるか、騙してくるかすんのに、何がそんなに楽しいんだよ?!


「あははっ!!俺ってついてるよなぁ〜!!」


「はぁ?!」


「だって!たとえどんなに凶とか大凶とか引いてもさ〜!!常に大吉持ってんだもんよ〜!!」


「……俺はお前の持ち物じゃねぇ!!」


どんなどん底にいても、こいつはポジティブだ。

底抜けにポジティブだ。


こいつの不幸喰い体質は神様にも止める事はできない。

ただずっと、浄化装置のように世の中の、世界の不幸を喰っていく。


なのに、クソ馬鹿にポジティブなんだ。


神様やご先祖様がいくらもう少し落ち着けと言っても、聞きゃしない。

何だって明るく前向きにテンション高く笑い飛ばしてしまう。


もう、笑うしかないんだよ。

俺も神様も。


こんなにも恐ろしい世界規模の不幸喰いなのに、本人、笑ってんだもんよ。

そんなこいつだから守護者も、神様も……そして俺も、呆れ返りながら変わらずに側に寄り添ってしまうのだ。


「お前……マジでいい加減に人の話、聞かないと、各所から見放されるからな?!」


「あはは!またまた〜!!」


「またまたじゃねぇ!!」


「それよか聞けよ!さっき甘酒かけられてさぁ〜!!俺!いい匂いなんだぜ?!嗅いでみ?!」


「やめろ!!馬鹿野郎!!」


甘酒をかけられて謝りもせずに相手は消えたと言うのに、こいつは甘酒の香りになったと喜んでいる。

バカと天才は紙一重というけれど、こいつは馬鹿だ。

底なしの馬鹿なのだ。


どこにいったい、不幸のどん底に暮らしながらここまでポジティブな奴がいる?!

ご先祖のおじいちゃんも守護神の神様も、呆れて脱力してんぞ!おい!!


「……大吉ねぇ、なるほど…。」


神主さんがぽそりと呟き俺の肩をポンッと叩いた。

おそらく神主さんには見えているんだと思う。


この馬鹿は世界規模の不幸喰いだが、そんなこいつと神様でも仏様でも何か修行を積んだ訳でもない俺が長年友人関係を続けられるのには訳がある。


俺は他人の運気に影響を受けない。

何でそうなのかはわからないが、周りの気に影響を受けないのだ。

だから物凄く気の淀んだ所に行こうが何も起らないし、逆にパワースポットというような場所に行っても影響されない。

良くも悪くも何も影響を受けないのだ。

だからこいつに会っても何もない。


ちなみに神様とかが見えるのはこいつのせいだ。

こいつの側以外は見えない。

神様もあまりにこいつが色々酷いんで、誰かにその衝撃を知って欲しいんだと思う。

俺もあまりにこいつが馬鹿だから、一緒に呆れ果ててため息をついている神様達を見ると、自分だけじゃないんだと思えてほっとする。


「今年もよろしくな!大吉!!」


とても世界規模の不幸喰いとは思えないポジティブな笑顔。

俺は友人にそう言われ、新年早々げっそりする。

くっついてる神様たちも同じ表情だ。


それを神主さんが面白そうに笑って見ていた。

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