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人魚無双~幼女になって転移した先で推しの幸せのために私は生きる~  作者: 景華
第4章 そして少女は王になる(前編)

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アレンの不安



「あ、レイヴン!!」

「んぁ?」

 実践向き魔法の授業をすることになって、私が聖・闇・水・風魔法を、レイヴンが炎、雷、土、氷魔法を教えるように分担した私たち。


 夕方まで続けられた授業の終わりに「あー疲れた」と肩をトントン叩きながら訓練場を出ようとするレイヴンを、私はすぐさま呼び止めた。


「アレンは……、元気ですか?」

 しばらく会っていないうえ、昨日もバタバタしていて会えなかったし、少し心配だ。

 私が尋ねるとレイヴンは少し表情を曇らせてから、

「あぁ……まぁ、元気、ではねぇな。顔色が悪い」と答えた。


 やっぱり……。


「ヒーラーに治癒魔法をかけてもらってもダメなんだ。顔色は良くなるわけでもなく毎日フラフラで……。よく倒れては医務室に運ばれてる」


 悪化してる……。

 ヒーラーの弱い魔力じゃ抑えられるはずがない。

 なんてったって魔王なんだから。

 急いで聖魔法で抑制しないと。


「ありがとうございます!! ちょっと行ってきますね!!」

「あ、おい!! あいつなら今自分の部屋で休んでるぞー」

「はぁーい」


 後ろ手にレイヴンへと手を振り返事をしてから、私は急いでアレンの部屋へと向かった。



 この学園の教師は大体グローリアス学園の一部に部屋を構えている。

 家庭のある人は自宅から通っている人もいるけれど、それ以外は大体学園で暮らしているみたい。


 先生の部屋は学園向かって右側、第1棟の1番上、4階の一番奥。

 レイヴンは一個下の3階。

 アレンは反対の第2棟の2階、図書室の隣だ。



 私は教室のある中央棟から渡り廊下を渡って、第2棟へと渡る。


 過去ではシリル君と毎日のように通っていた図書室なのに、妙に懐かしく感じながら、私はその隣のアレン部屋の扉を軽く叩いた。


「ヒメです。アレン、少し良いですか?」

「──ヒメ? どうぞ、入って」

 張りのない声が扉越しに聞こえ、私は「失礼します」と言って部屋へと入っていった。



 中の広さは先生の部屋と同じくらい。

 先生の部屋はグレーの壁紙を基調とした大人っぽい部屋で、入ってすぐの部屋の隅にベッドが置いてあるけれど、アレンの部屋はライトブランを貴重にした落ち着いた部屋で、そこにベッドはない。

 ソファとローテーブルという応接セットと、端の方に簡易キッチンや戸棚があるくらい。


「奥だよー」

 どこにいるんだろう、とあたりを見渡していると、正面の扉の奥から声がかかる。


 あ、続き部屋。

 奥の部屋が寝室なのね。

 そうか、先生の部屋の寝室部分は元は開かずの部屋。

 今は私の部屋になってるから、先生は入ってすぐの部屋にベッドを置いてるのね。

 突然に突撃してくる人がいるにもかかわらず。


 なんか申し訳ない。

 なんならもう一緒に寝るように提案してみようかな。

 ……いや、やめよう、目で射殺される。


 先生には鍵をかけることを覚えてもらおう。


「失礼しまーす」

 躊躇いつつも寝室の方へ進むと、ベッドの上で青白い顔をしたアレンが、身体を起こして迎えてくれた。


「あ、アレン!! 寝ててください!!」

 顔色悪すぎる……。

 やっぱり前にかけた聖魔法が薄れてきたんだ。

 継続してかけなきゃ、聖女ではない私にはずっと押し込めることはできないか……。


「大丈夫だよ。ヒメの顔を見たら元気になったから」

「そんな青白い顔して何言ってんですか!!」

 私はアレンに駆け寄って彼を布団の中へと押し戻す。


「ごめん、せっかくヒメが初めてここまできてくれたっていうのに」

「大丈夫です!! すぐ帰りますんで!! うちの先生が嫉妬しちゃうので!!」

「ふふ、相変わらずだね、君は」


 いつものアレンのようだけれど、やっぱり声が弱々しい。

 早くしないと。


「ちょっと失礼しますね」

 私はベッドの脇に座り込むと、アレンの細い手を両手で握った。


「ヒメ?」

 不思議そうに私を見るアレン。

 大丈夫。

 すぐに楽になるから。


 私はアレンの手に向けて、自分の中の聖魔法をゆっくりと流し込んでいく。

 サラサラとした魔力の水が注がれていくけれど、奥に行くにつれて流れがゆっくりになってきた。


 きっと奥の方がすでに闇に侵食されてるんだ。


 私は聖魔法をさらに注ぎ込み、少しずつアレンの奥の闇を溶かしていった。

 1番流れが悪い場所が貫通すると、また流れは一定の速さを取り戻し、彼の中の悪いものを一時的に押し込めることができたようで、アレンの顔色もみるみるうちに血色を取り戻していった。


「なんだか楽になってきた……!!」


 驚きながらゆっくりと起き上がり、先ほどまで私が握っていた自分の手をまじまじと見るアレン。


「これで大丈夫。また定期的に治癒させてくださいね」

 じゃ、私はこれで、と立ち上がったその時、

「待って!」

 とアレンの細く冷たい手が私の腕を掴んだ。


「アレン?」

「僕は……何なの?」

 不安げに揺れる、エリーゼと同じアメジストの瞳。


「声がするんだ。時々。何か誘うような……。そちらに行ってはいけないって、本能ではわかっているのに、抗えなくなる。僕の中は、いったいどうなっているの?」


 必死で抵抗しようとしていても、限界だったんだ。

 不安も当然か……。

 でも、ここで本人に、あなたの中に魔王が入ってます、なんて言えるわけが無い。

 私はせめて安心させるように、ふにゃりと笑って「大丈夫です」と答えた。


「アレンは少し頑張りすぎているから、身体の中の魔力が安定できていないんだと思います。だから、私に時々こうやって流れを良くさせて下さい。時が来るまで…。大丈夫。もうすぐですから。それまで、もう少しだけ、待っていてください」


 耐えろ、というのは酷な話だ。

 でもそれしか道がないのだから、私はただ耐えろと言う。

 必ず何とかしてみせるから。


「…………わかった。ありがとう、ヒメ。お世話になるよ」

 そう言っていつもの穏やかな笑みを見せてくれたアレンに、私も微笑み返して、彼の部屋を後にした。



地味に人気なアレンさんのお話でした!!

景華は最近、彼こそ真のヒロインなんじゃないかと疑っております。笑

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― 新着の感想 ―
[一言] 体内に魔王を宿してるとも知らないまま自分が変わっていくようだなんて、それは不安で仕方ないですよね……。 ヒメはそんなアレンも救えるのか……? 続きを楽しみにしています!
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