私と一緒に──
「!! ──ヒメ・【カンザキ】──……」
驚きに満ちた表情。
偶然だと思うだろうか?
よくある名前だと?
私はとどめに、魔力を一点に集中させ、気持ちを昂らせる。
次第に瞳に熱が灯っていき、それとともに眉間に皺を寄せながらアイスブルーが大きく見開かれた。
「!!……まさか……そんな……」
「ヒメ・カンザキ・ヴァス・セイレ。私の本当の名前、だそうです」
大きく見開かれたままのアイスブルーに、私の赤く染まった瞳が映し出される。
シリル君は、私を私として受け入れてくれた。
でも先生は?
少しだけ不安が過ぎる。
刹那、私の頬に再び先生の手が添えられ、先生の美しい顔が近づいてきた──!!
へ!?
ちょ、待って!?
先生のくせにいきなりそんな!?
ゆっくりと私の顔へと近づき、そして──すぐ近くで停止した。
「プリン──シア──? 生きて──?」
あぁ、顔を寄せたのはよく見るためね。
うん、先生だもんね。
キスとかそんなんじゃないよね、うんわかってた。
私は心の中で苦笑いして、彼を見つめ返す。
「はい。心配かけて──ごめんなさい」
その瞬間──。
「っ……!!」
先生が私の腰に回した右腕に力を入れ、私は再び先生の胸板へと押し付けられる形で抱きしめられた。
「せん……せい……?」
「……っ……」
震えるくぐもった吐息が頭上で鼓動する。
シリル君に抱きしめられた時よりも身長差が大きくなって、今私を抱きしめているのは紛れもなく先生だという事実に、胸の奥が熱暴走を起こしそう。
ていうかもうすでにショート寸前。
「…………よく……生きて──!!」
それから私はしばらく、先生に抱きしめられるがまま、その逞しい胸にくっついていた。
耳に心地良い鼓動を感じながら──。
──どれだけの間そうしていただろう。
強い力で抱きしめられたままの私がもぞりと身体を動かすと、
「っ!! すまない、急に……」
と我に帰ったようにバッと身体を離した先生。
目が少しだけ潤んでる。
泣いてた……?
「い、いえ、大丈夫です」
見てはいけないものを見た気がして、少し視線を逸らす。
「先生、もう少しだけ、私の話、聞いていただけますか?」
そう尋ねると先生が無言で頷いた。
私は先生に、セレーネさん事件で起きた出来事について、彼に言っていなかったことを話した。
瞳の色が変わったこと。
学園長との話で自分の出生を知ったこと。
頭の中がグチャグチャになって、そんな時過去へと学園長が私を転移させたこと。
先生──シリル君との事故チューや、シリル君とガッツリ関わったうえ気持ちが通じ合ったことは伝えず。
この部屋で過ごしながら、毎日シルヴァ様と会っていろんな話をしたということ。
そしてその中で、自分の親のことを知ることができたこと、彼の転移の力がこもったブレスレットで、王と王妃は私を死の間際に日本へと転移させたことを話した。
「…………父上が……。そうか……」
「はい。とっても素敵な方でした。かっこいいし優しいし強いし爽やかだしあんな美丈夫この世にいるんですね!! さすが先生のお父──」
「ほぉ……?」
低く地を這うような声が降ってくる。
見上げれば鋭い眼光を宿して無表情で私を見下ろす先生の美しいお顔。
ひぃぃ!! 何で!?
何で怒ってるの!?
そして先生は、私の腰から右腕を離すと両手で私の両頬に触れ、ぐにぃ〜っと引っ張った。
「ふぃぇ!?」
予想もしていなかった事態に、変な声が漏れる。
「カンザキ。父上と楽しんできたようで何よりだったな。人が行方を気にしている間に父上とずいぶん親しくなったようで」
嫉妬!?
嫉妬ですか!?
そんなにパパっ子だったの!?
「だ、大丈夫!! シルヴァ様は先生のこと大好きでしたから!! 先生からシルヴァ様を取ったりなんてできませんよ!!」
「────はぁ……」
私が言うと私の頬を引っ張っていた両手が動きをとめ、同時に降ってくる深いため息。
何故!?
でもこの感じ、何だか懐かしい。
私のことを知っても、やぱり先生は私を私として扱ってくれる。
そのことがたまらなく嬉しくて、私はふにゃりと笑って彼の胸に抱きつくと、先生は慌てたように私の両肩を両手で掴み「くっつくな」と引き剥がした。
「さっきまで抱きしめてたじゃないですかぁっ!!」
「それとこれとは別だ!!」
なんだそれ。
解せぬ。
「とにかく、だいたい話はわかった。……カンザキ。あの日、君の話を聞くことなく、私も君から逃げ出してしまった。私のしたことを知って、君の私に対する態度が変わってしまうのが、関係が変わってしまうのが怖かった。……すまなかった」
あぁ。
先生も同じだったんだ。
私たちはどっちもお互いに関係が変わってしまうことを恐れていた。
変わるはずがないのに。
やっぱり話をするって大切なんだなぁ。
少しずつ解けていくみたいに、心が軽くなる。
「はい。私もごめんなさい。……先生」
私は先生を見上げて、伝えたい言葉を短く紡ぐ。
「私────王位を継ぎます」
告げた言葉に息を呑む先生。
「それは……エリーゼのためか?」
「それもあります。でもそれだけじゃない。私が、この世界のことが──ここで生きる人たちのことが、大好きだからです」
そして私は、真っ直ぐに先生の目を見つめて続けた。
「──先生。私と一緒にこの国を守っていっていただけませんか?」
自分で紡いだその言葉に少しばかりの既視感を覚える。
私、どこかでこんなことを先生に言った?
言われた本人も驚きの表情を浮かべて私を見ている。
「っ……!! 覚えて……? ……いや、何でもない。私はクロスフォードの人間だ。とうの昔から王族を守る覚悟はできている。それに何より、私は君の保護者だ。君が妙なことをしないよう、監視する責任がある」
監視!?
思考が……!!
思考が危険です先生!!
「レイヴンやレオンティウスにも、このことを話すべきだろう。奴らも一応、3大公爵家。王族の事情を知るものたちだからな」
「はい。そのつもりです」
そこでふと時計が目に入り、今がもう夜が明けるほどの時間になっていることに気づく。
私の視線を辿った先生が「あぁ、随分話してしまったな」とつぶやいた。
瞬間、先生は私を横抱きにしてから、自身の整えられたベッドの方へと歩き出した。
「!?」
お姫様抱っこ!?
も、もしかしてこの流れ……!!
期待と不安に鼓動がうるさいくらいに高鳴り、それが最高潮に達した後。
「君はここで寝ていなさい」
ゆっくりとふかふかのベッドに降ろされる私。
ですよね。
先生ですもんね。
期待した私が馬鹿でした。
それでもやっと触れた先生の温もりが離れ難くて、もう1秒たりとも離れたくなくて、私は身体を起こし、離れようとする先生に思わずぎゅっと抱きついた。
「……カンザキ……」
戸惑ったような、少し掠れた声。
「離れたくない……」
やっとの思いで紡ぎ出した言葉に、先生の喉がごくりと鳴る。
そして──ぽん、と私の頭に大きな手が触れた。
「大丈夫だ。そばにいるから、安心して少し眠れ」
これ以上ないほどに優しい声色で宥めるように言うと、先生は再び私をベッドへと沈め、自分はベッド脇に座り、私の頭を優しく撫でた。
暖かくて安心感があって、どんどん瞼が降りてくる。
もっともっとこのアングルから先生を見ていたいのに、瞼はすぐに私の視界を奪っていった。




