私と彼の1週間ー7日目ー国王と【ヒメ】ー
「おはよう、ヒメ嬢」
朝の爽やかに澄んだ空気の聖域で、彼は今日も待っていた。
「おはようございますシルヴァ様」
彼に会えるのは、今日が本当に最後。
だって──未来に彼はいないから。
魔王との戦いの際に命を落としたってゲームでは書いてあったけど、詳しい時期や何が致命傷だったのかもわからない。
せめてそれがわかっていれば、救うこともできるかもしれないのに──。
「さて──今日はあなたに会える最後の日だ。だから、お互い腹を割って話そうか────姫君」
いつものように他愛のない話をして、普通のさよならをするものだと思っていた私に、予想外の言葉が降りかかる。
「っ……なんで……!!」
なんで知ってるの?
私、そんなこと話してないのに。
「そうだなぁ、会ったその日に気づいた。あなたはロイド──国王陛下によく似ているから」
国王様の名前。
ロイド、っていうんだ。
自分の父親の名前なのに、初めて知った。
「おいで。座って話そう」
私は手招きされるがままに彼についていき、二人揃って、湖の前の水晶へと腰掛ける。
周りには真っ白なセレニアの花が咲き乱れ、上品な香りが私たちを包み込む。
「あなたは騎士の誓いを知っていたな。では、我がクロスフォードの役割は?」
「えっと、三大公爵家として、王を助けていく、っていう?」
そのためにも騎士の誓いがいるのよね、確か。
あ、でもそれはクロスフォード家だけじゃないか。
私の自身のない返答に、シルヴァ様はゆっくりと頷く。
「そう。だがクロスフォードはもう一つ大きな役割を持つ。特に強い力を持つクロスフォード公爵家は代々王の護衛騎士となると決まっているのだ。それゆえに筆頭公爵家とされている」
「護衛……騎士?」
私の頼りない呟きに、シルヴァ様が深く頷いた。
「王の側に控え、共にある唯一の騎士。私はそれゆえにあなたの父君、ロイドへ忠誠を誓い、護衛騎士をしていた。まぁ、彼は王家の人間らしくとても強い力を持っていたから、あまり私の出番は無くてな。私は城に執務室を頂き、そこで騎士団長の仕事も兼任していたが」
そういえば、王位を継いだら必然的に強い魔力を得るって前に聞いた。
やっぱり国王様も強かったんだ。
でも護衛騎士と騎士団長の兼任って……過労死フラグ立ってるのは親子で同じなのね。
もしかしてシルヴァ様の死因って過労死なんじゃ……?
「ロイドと私は幼馴染なんだ。私の方が三つ上だが、よく一緒に遊んだし、剣術もジゼル先生に一緒に教わったし……。そして彼が成人してすぐ前国王陛下が崩御され、彼が王位を継ぐ際に、私は彼に騎士の誓いを行った」
懐かしげに朝日が浮かび揺れる湖を見つめるシルヴァ様。
ここにもきっと、たくさん思い出があるんだろうな。
「国王は──どんな人でしたか?」
今まで知ることを拒否してきた本当の親のこと。
知ってしまったら、私がお父さんとお母さんの本当の子どもではないと認めてしまうようで怖くて、私から知ろうとはしてこなかった。
「ふむ、そうだな……、……破天荒?」
少し考えるように唸って、出てきた言葉に私はポカンと口を開けたままフリーズした。
──へ?
はてんこう?
「それともわんぱく坊主、だろうか?」
わんぱく坊主!?
何それ思ってたんと違う!!
威厳は!?
王様でしょ!?
「彼の父君である前国王陛下が、一部でしか知られていないが異世界人だったからだろうな。『季節のイベントがないのはつまらん!!』とか言って、学園の意思を味方につけて気に妙な形にくり抜いたカボチャを飾り付けてパーティーをしてみたり」
あ、それハロウィン。
私もやった。
「大好きな王妃、当時は婚約者だったリーシャ・クリンテッド──レオンの父の妹に毎日花とともに変態じみた詩を送ってドン引きされたり」
変態じみた詩って……。
そういえば私も先生に先生の素晴らしさ讃える推し本書いて読み聞かせたっけ。
決して変態じみてはいないけど!!
「魔物が出たと聞けば我先にと飛んでいって、生態系を確かめながら討伐していたし、時には狩った魔物をその場で捌いて焼いて食べてたな」
何それ私じゃん!?
純度100%の私じゃん!?
シルヴァ様から発せられる真実に、私はダメージを負って胸を押さえてどんどん俯いていく。
これ客観的に考えたらヤバくない!?
まぁまぁ変人よ!?
はっ!!
まさか私も皆からそんなふうにみられて……?
「ぁー……大丈夫か?」
「うぅ……はい。あまりにも私と同じことをやりすぎていてダメージを受けただけです……」
「やったのか……あなたも」
驚きながら尋ねるシルヴァ様に、私は胸を押さえたまま、黙って頷くしかなかった。
「ふっ。やはり遺伝か。ロイドは変な奴だったが、誰かのために動くことを苦にしない強い男だった。それも、あなたと同じだな」
ふわりと微笑んで告げられた言葉に、胸が熱くなる。
私の知らない親のことを知るのは、なんだか少しだけむず痒くて、それが自分とよく似ていると知るのは、とてもくすぐったい。
でもとても──嬉しい。
「ヒメ嬢。あなたのその名前をつけたのはロイドだ」
「私の名前を!?」
驚きの声をあげて思わず立ち上がる。
立ち上がった衝撃で足元のセレニアはらりと葉を散らせ、私は慌ててまた水晶へとゆっくり腰を下ろした。
「【ヒメ】というのは、前国王陛下が言っていた言葉なんだ。『いつかお前にも愛しい【お姫様】が現れる。その時はその子を全力で守ってあげなさい』とね。それがこの世界で言う【姫君】という意味だと知った彼は、王妃の後押しもあって、自分の娘に異世界の言葉をつけたんだ。自分の大切な【お姫様】であり、誰からも愛される愛らしい【お姫様】になってほしいという意味を込めて、【ヒメ】と──」
胸が苦しくなった。
今まで当たり前に名乗ってきた名前にも、ちゃんと意味があること。
愛されるようにと願ってくれていた人がいたこと。
思ってもみなかった。
『お父さん、お母さん、私のこと、好き?』
『私の名前って何で【ヒメ】っていうの?』
聞くことなんてできない環境で生きてきて、ただ心の中で願っていた。
『私を愛して──』
『私を嫌いにならないで──』──と。
【大丈夫よ───……愛しているわ──……】
今度はクリアに聞こえた。
私がこの世界で目覚める前に聞こえた朧げな声。
あれはきっと、私の本当の親。
──あぁ、私、ちゃんと愛されていたんだ。
その真実が、ストンと胸に落ちて染みていく。
この物語の最初へ続くANSERでした^ ^(忘れた方は1話を見てね♪)
皆様いつもご覧くださりありがとうございます!!
もうすぐ三章も終わります。
悩みながらも楽しく執筆させたいただいているのは、皆様からの応援があるからだと思っております。
本当に、ありがとうございます( ´ ▽ ` )
四章前に一度数日リフレッシュ休みをさせていただきます。
何日から何日までかは、また三章最後の後書き、活動報告、Twitterなどでお知らせいたします。
これからも人魚無双を、どうぞよろしくお願いいたします。




