私と彼の1週間ー6日目ー過去のコルト村にてー
過去のあの子が登場!!
さほど気まずさを引きずることなくシリルくんとゆったり朝食を食べてから、彼はレイヴンやレオンティウス様に発見され、慌ただしく授業に連れて行かれてしまった。
本当、仲良いな、あの3人。
大人になってもなんだかんだ連んでいられる仲って素敵だなぁと思う。
私が育ってきた世界では、両親のこともあってなかなか友達を作ることができなかったから……。
私も叶うことなら、メルヴィやクレア達と、ずっと仲のいいクラスメイトでいたかったな。
王位を継いだら私は20歳に戻るし、クラスメイトっていうのは無理があるもんね。
色々我慢も必要だろうし、うん、今のうちにしっかりと先生──シリルくんを補給しておこう!!
推しの幸せのために私は生きるんだからっ!!
決意を新たにフラフラと木陰を選って歩いていると、どうも騎士団本部の様子が慌ただしく感じて、私は聞き耳を立てる。
「団長が来てくれたけど、苦戦しているらしい!! どうも伝説級の魔物が出たとか……!!」
「4番隊も5番隊もそれぞれ任務で出ることはできないし……」
騎士達の会話が聞こえる。
苦戦!?
シルヴァ様が!?
伝説級の魔物って何!?
彼がこんなところで亡くなるわけではないとは知っているけれど、それでも心配。
……よし。
私は踵を返すと、風魔法を身体に纏わせ、コルト村の方角の空へと舞い上がった。
村に近づくにつれ焦げつくような匂いが漂ってくる。
きっと魔法を駆使して戦ってるんだ。
それにしても、魔術師隊である2番隊や1番隊の一部まで応援に駆けつけてもまだ苦戦してしまうほどの魔物って一体……?
コルト村に着くと村の中には人っ子一人見当たらず辺りはシン……と静まり返っている。
それでも注意深く家々を見渡せば、カーテンの隙間からじっと外の様子を伺う村人達の姿。
皆、家の中に避難しているのね。
神殿の方が安全なのにそっちに行かないってことは、神殿へ向かう法の森に魔物が出ているってことか──。
「早くシルヴァ様と合流しなきゃ」
つぶやいて私が村を駆け抜けていくと、
「お嬢さん待ちな!!」
女性の切羽詰まったような声に呼び止められた私は、同時に足を止める。
ここは……。
【眼鏡をかけた、くるんと曲がった髭が特徴のくまさんマークのパン屋さん】。
そう、クレアの実家の前だ。
声の主を見れば、それはよく知った相手──クレアのお母さんだった。
「そっちは今危険だよ!! うちに避難しておいで!!」
おばさんが手招きをするその下では、空色の髪の小さな女の子が母親のロングスカートの裾をぎゅっと掴んでおずおずとこちらの様子を伺っている。
この子──クレア!?
えっと、10年前、ってことは……5歳の時のクレア!?
何これ可愛い!!
あぁ、このつり目の感じ、面影あるわぁぁぁ!!
まだ小さいながらももみあげが育ちつつあるし可愛すぎか!!
あぁもうギュッとしたいっ!!
「何ジロジロ見てんの。変態のお姉ちゃん」
へ・ん・た・い!!
5歳児に変態って言われた!!
この頃からクレアってツンデレだったんだ。
「変態じゃないですよ!! クレ……あなたがとても可愛いからつい見てしまっただけで」
「それを変態って言うのよ」
「ふぁっ!?」
お姉さん泣いていいですか!?
「これクレア、失礼だよ。お嬢さんあっちは今魔物がたくさん出てるんだ。騎士団長様も来てくれたから、もうしばらくしたら片は着くと思うけど……今はここで隠れていた方がいい」
心配そうに私を見て避難を進めてくれるおばさん。
その背後ではおじさんもうんうんと首を上下に頷いている。
見ず知らずの小娘相手に……。
この人たちは本当に温かい人たちだ。
「大丈夫。私強いんです。なんてったって、私の師は騎士団長の息子さんですから」
そう言ってふにゃりと笑ってみせる。
「シリュル・クロスフォード様?」
回りきらない口で噛みながら紡ぎ出された言葉が可愛らしくて、私は頬を緩ませながら安心させるように「えぇ。だから大丈夫ですよ」と応える。
なおも心配そうに顔を見合わせ、どうすべきかを考えるおじさんとおばさん。
まぁそうよね。
こんな子どもが一人で森に行こうだなんて。
側から見たらただの自殺行為だ。
それでも行かなきゃいけないのよ。
考えた末に私は懐からローズクォーツのペンを取り出すと、クレアの目線までしゃがんで
「じゃぁ、これ、預かっていてもらえますか?」
と言って彼女に手渡した。
「綺麗!!」
目をキラキラさせながら差し出された宝物を受け取るクレア。
「これ、私の大好きな人からもらった、大切な宝物なんです。私が帰ってくるまで、あなたが守っていてくれますか?」
「うん!! わかったわ!! 私、守る!!」
大切なものを任されたという使命感に、意気込みながら大事そうに胸に抱き締めるクレアに、思わず笑みが溢れる。
「早く帰ってきてね、変態のお姉ちゃん!!」
「はは、変態は余計ですよ。じゃ、行ってきます」
私は彼女達に言うと、再び森へ向かって地を蹴った。




