私と彼の1週間ー5日目ー近づく唇にー
珍しくシリル君が攻める……!!
いつも通りシリルくんと訓練をして、自室に帰る。
いつものルーティンのままにベッドに入ったのに、その夜私は寝ることができないでいた。
眠ろうと布団をかぶっても、昼間のエリーゼの話が脳裏にちらついてしまって……。
無性に先生に会いたくなって隣の部屋を覗くけれど、そこに先生はいない。
几帳面に本を並べた仕事机も。
コーヒー入りの魔法のポットも。
きっちりと整えられたベッドも。
先生の匂いがない、閑散とした部屋。
会いたい。
会いたいよ──先生……。
先生の面影に触れたくて、私は一人、部屋を飛び出した。
辿り着いたのはやっぱりここ──聖域だ。
私にとって、とても大切な場所だから。
先生に毎晩修行に付き合ってもらった場所。
初めてダンスのパートナーを申し込んでもらった場所。
私が桜を咲かせて、先生に思いを告げた場所。
どの瞬間の先生の表情も、声も、言葉も、しっかりと覚えてる。
いくつもの時を、思いを、重ね紡いだ私の宝物。
それが今は──。
先生もいなければ、桜の木も存在しない。
寂しい。
恋しい。
「会いたいよ……先生……」
言葉とともに一筋の涙が頬を伝う。
泣いちゃダメだ。
そう思って今まで耐えてきたのに。
溢れ出したら止まらない。
「先生……!! せんせ……!!」
想いも、言葉も、涙も──。
何もかも止められないまま、広い湖に吸い込まれていくかのように落ちていく。
風に触れた木々が音を立て、嗚咽を飲み込む。
その時だった。
「ヒメ──?」
私を呼ぶ声。
あぁ、彼だ。
びくりと肩が震える。
振り返ることができない。
こんな顔──彼には見せられない。
私は声の主を振り返ることなく、
「どうしたんですか? ──シリルくん」
と、いつも通りを装って言葉を返す。
「君こそこんな時間に──っ!! ……泣いてるのか?」
いつの間にか隣にまで近づいていたシリル君。
覗き込んだ私の顔を見て驚いたように目を見開いた。
「っ……見ないでください」
恥ずかしさから顔を背けるけれど、すぐに彼によって両肩を掴まれ、それを阻まれる。
「何かあったのか?」
声色だけでわかる。
彼がとても心配してくれていること。
「……大丈夫。少し、ホームシックになっただけですから」
私が無理矢理に笑顔を作ると、シリル君の眉間にグッと皺がよった。
あぁ……先生と同じ眉間の皺だ。
彼と先生の共通点を見つけて、少しだけ安心感を覚える。
「──先生ってやつに……会いたいのか?」
「え?」
シリル君がぽつりと呟く。
「私では、君の先生とやらの代わりにならないか?」
真剣なアイスブルーの瞳が月に照らされ鋭く光る。
先生の代わり?
シリル君が?
驚きながらも私の口から出たのは、意外にも冷静な言葉だった。
「誰も、先生の代わりになんてなりませんよ。それに……シリル君はエリーゼと結婚するんでしょう? そんな誤解を招くようなこと、言っちゃダメですよ」
自分で言った言葉に胸がズキズキと痛む。
ここで本人に肯定されたとしたら……私、立ち直れるんだろうか?
だけどそんな心配をよそに、彼の口から出たのは予想外の言葉。
「は? 私とエリーゼが結婚? 馬鹿も休み休み言えバカ」
辛辣……!!
いや待ってどういうこと!?
「だ、だってエリーゼが!!」
「だっても何もない。私はエリーゼと結婚するつもりはない。あれはただの幼馴染で、妹弟子だ」
今はそうでも、今後きっとあなたはエリーゼを好きになるんです!!
「大体、私の気持ちを君が勝手に決めるな。君は時々、どこか私ではない何かを見ているようだが、私は私だ。だから君は、今目の前にいる私の言うことだけを信じろ」
私は思わず彼を見上げ、彼のまっすぐなアイスブルーに囚われた。
青白く輝く冬色の瞳。
冬色なのに、誰より暖かい瞳。
「でも──っ!?」
私が口を開いた瞬間、私の肩が彼の方へとグッと引き寄せられ、そのまま彼の腕の中へとすっぽりと包まれてしまった。
え?
何?
なんで?
私……シリル君に抱きしめられてる!?
じんわりあたたかい彼の温もり。
彼の胸にピッタリとくっついた耳から鼓動の速さがダイレクトに伝わってきて、思わず顔が熱くなる。
「でも、じゃない。私は……私はなんとも思っていない相手にこんなことをするほど、軽い人間じゃない」
「えっ……と……それって、どういう……」
「もう黙れ」
私の言葉を遮って短く制すと、途端に彼の恐ろしく整った顔が私に降るように近づいてくる。
目が、鼻が、唇が近づき、互いの吐息が感じられるところまでになったその時だった──。
「ゴホンゴホンッ」
「「!!」」
不自然な咳払いによって我にかえった私たちは、飛び跳ねるように互いに離れ距離をとる。
「え〜っと、良い雰囲気のところごめんね? でもほら、時間も時間だからさ、部屋に戻ったほうが良いかなって思うんだ」
いつの間にか私たちのすぐ近くに現れた、ショタ姿の狸ジジ……フォース学園長がすっごく良い笑顔で言ってらっしゃる。
「え、えっと、そ、そうですね!! ワ、ワタシ、モウ、ネマスネ!! オヤスミナサイ、シリルクン、ガクエンチョウ!!」
私はどんどん熱がこもって溢れていく顔を隠すように両手で包むと、逃げるように自分の部屋へと帰ってしまった。
何あれ何あれ何あれ……!!
シリル君……。
あれじゃまるで──。
エリーゼじゃなくて、私のことが好きみたいじゃない……!!
悶々とし始めた私は、今度は別の意味で眠れなくなるのだった。
☆お知らせ☆
いつも人魚無双の応援をありがとうございます!!
前々から予告しておりました、10万PV&30万字突破記念番外編短編を明日公開したいと思っております。
公開されましたら、また後書きや活動報告、Twitterなどでお知らせさせていただきますね♪
久しぶりの大人シリル×ヒメちゃん!!
甘々な展開、そして甘々な挿絵もありますのでお楽しみに!!




