私と彼の1週間ー4日目ー賑やか幼馴染~ズー
「おーいシリルー。こっちこっち!!」
扉を開け食堂へと入ったタイミングで無駄に通る声が響きそちらを見ると、大きく手を振ってこちらを見る大型犬の姿が……。
「……戻るか?」
昼間のことがあったから気遣ってくれているのだろう。
シリル君、優しい……!!
好き……!!
心の中でゴロゴロと転げ回り悶えながら、表面上ではにっこりと笑顔を作り「大丈夫ですよ、行きましょう」と答えると、彼の手を取ってレイヴンの方へと歩き出す。
「お、おい!!」
シリル君の声もスルーし、食堂の喧騒の中を私は笑顔を蓄えたまま人の波をくぐり抜けていく。
「お!! やっぱりシリルと一緒にいたな? ヒメ」
レイヴンが私を見てニカッと爽やかに笑う。
今も昔もこの爽やかな笑顔は変わらないのね。
レイヴンのところまでたどり着くと、二つのテーブルを並べて一つにして座り寛ぐ3人の姿が目に映り込んだ。
立ち上がってこちらに手を振るレイヴンの隣にはレオンティウス様。
その向かいにエリーゼ。
そしてその隣には、彼女とよく似た男性がニコニコと笑みを浮かべて腰掛けている。
あれはアレン……なのかしら?
最後に会った、目の下にクマを蓄え、力なく微笑んでいた彼の姿を思い出す。
アレン、まだ大丈夫かな?
一応聖魔法の保護はかけてるけど、どうしても気になってしまう。
一方こちらは魔王を寄生させていない、病んでいないアレン。
朗らかな笑顔が眩しいけど、私は知ってるからね!!
アレンの腹黒具合を!!
「さっきはごめんな? シリルに聞いたんだけどさ、お前、学園長の知り合いなんだって? よろしくな、ヒメ。困ったことがあればなんでも言えよ?」
そう言って私に向けて右手を差し出す。
この気安さ!!
紛れもなく爽やか兄貴分のレイヴンだ。
そしてそこはかとなく漂うワンコ臭……!!
私の幻覚なのか、うっすらと耳と尻尾が見える気がする。
私は差し出されたその手を取ると「よろしくお願いしますね、レイヴン」とふにゃりと笑った。
「私もさっきはごめんなさいね。あまりにも可愛いものだからつい。レオンティウス・クリンテッドよ。仲良くしてくれるかしら? ヒメ」
レオンティウス様は立ち上がると、レイヴンと同じように私に手を差し出し、微笑む。
うあぁぁっ!!
色気が……!!
色気しまって!!
「よ、よろしくお願いします、レオンティウスさ……ひぁっ!?」
レイヴンの手を離して今度はレオンティウス様の手を取ると、私はそのまま腕を引かれ彼の腕の中へと閉じ込められた。
「ん〜、やっぱ可愛い!!」
笑いながら腕に閉じ込めたまま私の髪をサラサラと撫でるレオンティウス様。
なんなのこの人本当に15歳!?
初々しさの欠片もないじゃない。
「レオンティウス離せ」
シリル君が諌めるように低く彼の名を呼んだ。
「あら良いじゃない」
「よくない。みだりに淑女に触れるのはマナー違反だ」
「あんただって昼間ちゃっかり抱きしめてたじゃない。今だって手を繋いでご登場だったわけだし」
口のよく回るレオンティウス様に、シリル君はうぐっと何も言えなくなってしまった。
そんな中に割って入ったのは天使のような美声だった。
「こらこらぁ〜。そこだけで盛り上がらないのっ」
エリーゼがぷくっと頬を膨らませてこちらを見ている。
美女は何をしても美女……!!
「ヒメ、紹介させて。このぽやんとしてる人は私の双子の兄のアレン・ディオスよ。おっとりしてるように見えて実は腹黒だけど、仲良くしてあげてね」
エリーゼがふんわりと頬笑みながら隣のアレンを紹介すると、アレンもまた同じようにふんわりと、でも少しだけ困ったように眉を下げて笑った。
「腹黒は余計だよ、エリーゼ」
黒めのオーラを垂れ流しながら、笑っているようで笑っていないアレンが立ち上がり、私に向き直る。
「初めまして。アレン・ディオスだよ。よろしくね、ヒメ」
「よろしくお願いします、アレン」
“初めまして”という言葉がこれほどしっくりこない現象もなかなかないと思う。
今まで毎日のように会っていた人たちだから、もう生活の一部になっていたんだろう。
「紹介が済んだなら行くぞ」
そう言ってシリル君は私の手をとる。
「えー、私もっとヒメとお話ししたーい」
エリーゼが口を尖らせ挙手しながら反対の意を唱えて、
「はーい私もー」
「俺も俺も!!」
「じゃぁ僕も、かな」
とレオンティウス様、レイヴン、アレンが続いて手をあげた。
純粋に話がしたいからと手を挙げている3人とは違い、どこか便乗して私たちが困るのを楽しんでいるような腹黒魔王アレンに、私は心の中で舌打ちしてから諦めの境地を悟る。
「シリル君、シリル君が人混み大丈夫でしたら、今日はここで食べましょうか?」
もちろんシリル君の気持ちが最優先だけれど。
私の中の優先順位はこうだ。
一位 シリル君。
二位 シリル君。
三位 シリル君。
そして悩んだ後の方でその他の人物。
だからシリル君がいやなら、無理強いはしない。
私はシリル君の返答を黙って見守る。
「……君が良いのなら、ここで食べたらいい。私がどうこう言うことでもない」
その言葉が私の頭の中で素早く翻訳されていく。
「ふむふむ。“君がいるところが私のいる場所だ”だそうなので、ご一緒させてください」
「おい、勝手に変な翻訳をするな!!」
「事実じゃないですかぁ。全く素直じゃないんですからぁ」
「事実無根だ馬鹿」
そんな私たちの掛け合いをぽかんとした顔で見ている8つの目玉。
「あのシリルをたじたじにさせるって、すげぇなヒメ」
呆然としながらも感心したように言うレイヴン。
伊達に何年も一緒に暮らしてないからね!!
先生の言いたいことならなんでもわかっちゃうわ!!
それが愛ってやつよ……!!
──とは言えないのでお口の中でごっくんと言葉を飲み込む。
「推しのことならなんでもわかっちゃうんですよ!!」
代わりにそうドヤ顔で言うと
「訳のわからんことを言うな」
パシンッ──!!
と私の後頭部にシリル君の手帳ハリセンがクリティカルヒットした。
この感じ……!!
やっぱり心地よき!!!




