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三 赤い人魚姫の作戦

「……と思うの。だからお願い、手伝ってちょうだい」


 ――作戦が簡単に語られた後。

 赤い人魚姫の懇願に、それぞれがそれぞれの反応を示した。


「もちろんですよ」


「君の願い、僕が手伝ってあげるよ」


「言うまでもないことなの!」


「わたしも、ちょっと怖いけどお姉様の力になるわ」


「ガァ――!」


 金髪の少女は頷き、金髪の少年は人魚姫の手を握りしめる。

 黒髪の少女は元気よく笑い、プリアンナも勇気を振り絞ってくれた。チェルナまでもが乗り気で尻尾をぶんぶん揺らしている。

 ――なんていい仲間たちを持ったのだろうと、ヴァレリアは涙が出そうになる。

 それをグッと堪え、彼女は高らかに叫んだ。


「じゃあ早速行くわよ。皆で勝利を掴み取りましょう!」





「ブルノ、ありがとう。もう大丈夫よ」


 ヴァレリアの指示で前に出て、魚人の女の気を引いてくれていたブルノ。

 彼女に声をかけ、時間稼ぎの終了を告げる。


「わかったっ。でもアタシっ、見てるだけなんて嫌っ」


 藍色の髪を振り乱してごねるブルノだが、もちろん彼女にも協力してもらう。


「……だからプリアンナを連れて外に出て」


「了解っ。プリアンナ姫様っ、逃げようっ」


「うん。ブルノさん」


 そうして手を繋いだブルノとプリアンナは外へ。


「待ちなさい!」と魚人の女が停めに行こうとするが、そうはさせない。


「私が相手よ、キャメロン・イルマーレ。絶対にプリアンナのところには行かせないんだから」


「どこまでもどこまでもワタシの邪魔をするなあ!」


 ヴァレリアの鉄球とキャメロンの手にする鉄球がぶつかり、キンと耳障りな音を立てる。

 さすがはモーニングスター、威力はあるがオーロラの攻撃に比べて洗練されていないので、意外に避けられる。


「この! このこのこのこのぉ!」


 叫びながら女はやらためったら鉄球を振り回す。

 もう片方の腕で抱えるアントニオ女王のことが気がかりでならないのだが、そんなのを気にしている余裕すらない。


 あまりに執拗な攻撃をすべては避けきれず、三つの鉄球のうちの一つが赤い少女の胸めがけて飛んでくる。

 しかしそれを、小斧ががっしりと受け止めていた。


「僕の名前はトビー・アンネ。しがない人間の一人だよ。中将の息子のくせして臆病で、本当はやらなきゃいけない色々を姉に預けるような情けない奴だ。……でもヴァレリアだけは、何がなんでも守らせてもらう」


 それから巻き起こる衝突は、王の間にすさまじい風を吹かせる。

 武器と武器がぶつかっては離れ、かがんで攻撃をかわしては跳躍して相手の急所を狙う。

 その神級の戦闘っぷりに、「『ただのしがない人間』じゃないでしょ!」とツッコミを入れたくなるくらいだ。


 そしてその猛烈な戦いの渦中へ、勇猛果敢にも飛びこんだのはベルとチェルナだ。


「何がなんだかよくわからないけど、やっつけてやるの!」


 揉み合いになり、黒豹の牙に魚人の女の鱗が剥ぎ取られる。

 ベルの小金槌は避けられたが、彼女らは屈しずにふたたび魚人姫キャメロンへ躍りかかっていく。


「じっと見ているわけにはいかないわね!」


 そう言ってヴァレリアも輪の中に駆けこむ。

 紅の宝剣、小斧、小金槌、鉄球が宙を乱舞し、叩きつけ合われる。

 しばらくそれは続いたが、さすがに一対四では武が悪かったらしく――。


「きゃあ」


 悲鳴を上げて、小斧の柄に人間の下半身を強打されたキャメロンは、壁まで軽々と突き飛ばされた。

 そこへ、ヴァレリアたち皆が駆けつけ、追い詰める。


「わ、ワタシを傷つけたら、どうなるかわかってるんでしょうね? も、もう堪忍袋の尾がきれた。殺して、殺してやるわ!」


 怒りと焦りに顔を真っ赤にした魚人姫は、震える手で人質にナイフを向けようとした、その瞬間。

 彼女の手から、ナイフがするりと抜け落ちていた。


「申しわけありませんがそれはさせませんよ?」


 奪ったナイフをくるくると回しながら、金髪の少女――オーロラは、美しい微笑みを浮かべた。


 なんと彼女は魚人の女の死角から迫っていたのである。激しい戦いの中なりを潜めていたのはそのためだった。


「な、何を! なら、これで!」


「もちろんそれも無理です」


 急なことに慌て、鉄球を引っ掴んで女王の喉に突き刺そうとする魚人。

 だが、静かな否定とともにそれすらも阻止されてしまう。


 モーニングスターの鎖を手で絡め取るオーロラ。そしてまた綱引きがはじまるが、先ほどとは同じ結果にはならない。


「やあっ!」


「プリアンナ・イルマーレ参上っと!」


 逃げたはずの二人――プリアンナとブルノが、窓を突き破って王の間の中へ入ってきたからである。


「お母様を返してもらうね?」


 目を丸くするキャメロン。しかしその間に、彼女の腕から女王の体がひったくられた。


「――あ」


「こちらも疎かになりましたね。……遠慮なく、返して頂くとします」


 手が緩んだのだろう、同時にモーニングスターまでもが奪還されてしまった女はおろおろ。

 そんな彼女を、一瞬にして全員が囲んでいた。


 もう彼女に逃げ道はない。――作戦は見ごと、成功したのだ。


「堪忍しなさい。あなたは袋の鼠なの。私たちの勝ちね、これが数と友情の力というものよ」


 ヴァレリアがそう勝利を宣言すると、女は座りこみ、がっくりと項垂れた。

 こうしてイルマーレ王国での最後の戦いは幕を下ろしたのだった。

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