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二 現れた因縁の男

 ――城門を抜けて、兵士の群れと衝突。

 ヴァレリアは長い赤髪を揺らして宙を跳躍し、深紅の血の舞を踊る。

 鮮血が、肉が飛び散り、悲鳴が響き渡った後には、倒れ伏す帝国兵とヴァレリアたち四人しか残っていなかった。


「……意外とあっさりだったの」


「そうね。でも気を抜いたらいけないわ。いつどこから攻めてくるかわからないもの」


 頷き合い、前庭を突っきって城内へ。

 大扉を開くと、中にひしめいていた兵士どもの視線が一気にこちらへ集まった。


「うわっ、し、侵入者だぁ!」

「ええっ!? ってことはつまり……」

「取り押さえろぉ、取り押さえろぉ!」


 一瞬で城内は大混乱だ。

 今日は式典の日とあって兵がたくさん配備されていたのだろう。見渡す限りで二、三百人くらいはホールに集っていた。


 ホールの中央へゆっくりと進んで、そこに美しい黒豹が佇む。

 ――かと思いきや、チェルナは突然に周囲を蹴散らすようにして、走り出した。


「きゃっ」


 思わず悲鳴を上げるヴァレリア。

 しかしそんなことはお構いなしで、チェルナは広間を駆け回る。


「放て、放てぇ!」


 矢が飛んでくるが、一つとして当たらない。

 その間に先頭に座るオーロラがぶんと腕を振り上げ、


「わたくし、争いごとは嫌いなのですけれど……、仕方がありませんね」


 優美に微笑みながら、鈍器を敵兵へ打ちつけた。

 その一撃でなんと五十人近くもの頭が吹っ飛び、豪華なシャンデリアに照らされたホールは真っ赤に染まった。


「ひぃっ!」

「ひぇぇ!」

「な、なんだこいつ!」

「おおおお、おまえっ」


「やかましいよ。君たち、ちょっと邪魔だから――ごめんね?」


 少年の小斧が首を断ち次々と命を刈り取って、もう声を上げる者は誰一人としていなくなった。


「さてと……。どこへ進みましょうか?」


 ふぅと軽く息を吐き、何ごともなかったかのような態度で訊ねてくる少女――オーロラ。

 こんな惨状でこの落ち着きっぷりには逆に動揺してしまうヴァレリアなのだが、なるべく落ち着いてホールを見回した。


「え、ええ……。そうね……」


 進む道は三つ。

 中央に鎮座する階段、そして左右に伸びる細い廊下だ。

 どうしようかしらと迷っていると、ベルが倒れて泡を吹く兵士の一人を引っ掴んで鋭く問い詰めた。


「質問なの。式典を行う場所はどこなの?」


 兵士は怯えた目をしてガクガクと震え、掠れた声で何かを言った。


「そうなの。……ありがとうなの」


 ベルがそう言ってウインクをした瞬間、彼女にお腹を蹴られて兵士が果てる。

 それを遠目から眺めるヴァレリアたちに向き直り、ベルは得意げに微笑んだ。


「わかったの。階段の上の広間みたいなの。ささ、早く行くの」


 彼女の見てはいけない残虐な一面を見てしまったのじゃないかしら。

 そんなことを思いながらもヴァレリアは頷き、指令を飛ばす。


「チェルナ、階段へ向かいなさい!」


「ガァァァァ――!!」


 威勢のいい吠え声がし、美しき黒豹は階上を目指して、風の如く走り出すのだった。





 二階も見張りが多勢で大変だったが、見ごとな連携プレイでなんとか乗りきる。

 そして一行はさらに大階段を登り、三階へ着いた。


 レンガ造りの壁はぐるりと円形になっていて、絵画やランプがかけられている。

 向かい側には四階へ続く階段。そして漆黒の絨毯が敷かれたホールの中央、そこにたった一つだけ人影があった。

 女。女だ。短い栗毛を揺らす小太りの女が、そこに立っていた。

 そしてこちらへ顔を向け――不気味に笑ったのである。


「ぎゃははっ。あはっ。やっぱきちゃいましたかー。きちゃいましたよねー。ぎゃはっ」


「誰ですか、あなたは?」


 唇を噛み締め、鋭利な視線を投げかけるオーロラ。

 一目でわかる。明らかにこの女は、常人ではないと。


「そーんな警戒しなくても大丈夫でちゅよ? ぎゃははははははっ。あっ、ちなみにあたちの名前だけどね、エセル・ラッシュっていうんでちゅよ~。ロンダテーコクの上将様なんだって。可愛いし優しいしむっちゃ萌えるっしょ~」


 体をくねらせながら、こちらをおちょくるような言葉を垂れ流す女――エセル・ラッシュ。

 その声はキンキンと耳障りで、言葉を聞いているだけで頭がおかしくなりそうだ。

 それはともかくとして、彼女の発言の中、ヴァレリアは聞き逃せない言葉を耳にした。


「じょ、上将って……言ったわね」


「そうでちゅよ? え? あたち、どー見ても将軍様なんでちゅけど? もしかして、赤女ちゃんの目は節穴でちゅか? 腐ってまちゅかぁ? あははっ。まー、ちょっと前に昇格したってゆーかー、そんな感じー? 元々あたち才能大ありだからこうなって当然でちゅよ~。ぎゃはははっ! ……さてと。今日はディムきゅん――じゃなかった、コーテイヘーカの結婚式なんで、お邪魔虫を追っ払えって言われてましてー。死んでくだちゃーい」


 残酷に、獣のように高笑いながら、女がいつの間にか手にしていた棘だらけの大物の武器――金棒を、ヴァレリアたち目がけて叩き下ろした。

 黒豹は寸手のところでそれを避けたが、一瞬でも遅れていれば命はなかった。


「へぇ。なかなかやりまちゅねー。でも所詮は凡人。だってテーコク将軍はこの世界でイッチバン強いんでちゅよー? 逃げきれると思ったら大間違いだぁ!」


 次々と迫りくる、大金棒の追撃。

「ひぃっ」と悲鳴を上げるトビーをよそに、チェルナはそれらの攻撃を軽やかに避け、走り、飛び回る。


「黒豹ちゃぁん、待って待ってえ。ねーねー、一緒に遊ぼうよ~。ぎゃははっ」


 しかしこれでは埒が明かない。チェルナの体力だっていつまでももつわけではないのだ。

 だからと言って簡単に突破できる敵ではない。すでにたくさんの戦いを経験してきたヴァレリアには、それくらいのことはわかる。

 でも時間がない。一体どうすれば――。


「将はわたくしがお相手します。その間に皆さんは行ってください!」


 そのとき、チェルナからパッと飛び降りたオーロラが、そう言ってモーニングスターを振りかざしていた。


「オーロラ、でも!」


 こんな危険な異常者を、彼女一人だけで任せるわけにはいかない。

 だがしかし、状況はためらっている時間すらも与えてはくれないようだった。


「お邪魔虫はとっとと失せてくだちゃいよう! これじゃああたち、もうすぐはじまる結婚パーティーに出らんなくなっちゃいまちゅよう。どう責任取ってくれるんでちゅか? あはっ、あははははははっ!」


 おどけて笑い、身にまとう薄布を翻す女の攻撃は止まらない。

 鉄球と金棒が衝突する音が響き、オーロラとエセルは互いに睨み合った。


「悔しいけどここはオーロラが適任だよ。オーロラなら大丈夫、僕たちは先を急ごう」


 心配げではありながらもトビーがそう促すので仕方ない。上将はオーロラに任せることに決めた。

 と、そのとき、ベルが手を挙げた。


「でもベルはロラだけ残しておくのには反対なの。だから、ベルも戦うの」


「ベル!? だってあなた、あれは将軍なのよ? ただの帝国兵とはわけが違って……」


 ヴァレリアは大慌てでベルを止めようとする。が、彼女は聞く耳を持とうとせず――、


「レリアとビーは四階に向かうの。ベルたちもすぐ行くの! じゃあなの!」


 と言い残して、戦場へ飛びこんで行ってしまった。

 まったく、ベルは奔放な少女だわとため息を吐き、ヴァレリアは前を向いた。


「チェルナ、お願い!」


「がルゥ!」


 赤い少女の声で、美しき雌豹が風のように駆け出す。

 上将とオーロラの傍を通り過ぎ、ホールを突っきる。そして大階段を跳躍し、四階に足を踏み入れた。


 そこも三階と同様の、円形のホール。

 ただ三階との違いは、たくさんの帝国兵が目を光らせていること。そして、


「赤い人魚じゃねえかよ。よくぞここまでやってきたもんだなあ。さすがのおれも感心するぜ」


 因縁の男が、剣をぶんぶんと振り回しながら待ち構えていたことだった。


「下将!」


 野郎を目にした瞬間、ヴァレリアの胸の内の怒りが爆発する。

 下将はにやりと笑うと、こう言った。


「赤い人魚と中将とこの息子だなあ。ちょうど今、見張り番で暇してたとこなんだよ。……存分に痛めつけて遊んでから殺してやらあ」


「おりゃああああああああああ――!!」


 その瞬間、長い赤髪を揺らしてヴァレリアは、チェルナから飛び降りた。

 そして彼女は猛突進、下将と衝突する。


 イルマーレ王国を滅ぼし、中将邸を炎で焼いて双子姉弟の両親を殺した、憎き男。彼との激戦が、今、はじまるのだ。

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