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/聞こえるだろうか。私は、第980師団A戦略クローン局管理課の湯川だ。このテープに残す音声データは、君たちならば復元できるものだと思う。この冷涼都市で生まれて、兵器として育てられた君たちが目が冷めたのならば、役に立てて欲しい。 本心で言えば、このテープが無駄になることを期待している/
冷涼都市少女
見上げた空は、透き通った濃紺で月夜が儚く私達を照らす。遠くに見える大都市の光で打ち消されることもなく、澄み切った空気が私達とを隔てている。
フェンス越しに見えるその先の世界は、どこか暖かくて 私が知らない何かに満たされているような気がして仕方がない。だけれども、私がその先へと踏み入れては行けない気がしていて躊躇してしまう。だから、私は囁くのだ。
ー私は何者なの?
***
トンネル越しに吹き込んでくる風が、私のハーフアップの髪を少しだけなびかせ列車の接近を知らせる。
ーまもなく参ります列車は、副都心線準急 桜庭園町 行です。
私と同じ名字が入る駅名というだけあって聞くたびに嬉しいと感じてしまう。存在を認められている、認知されているようで...
「そういえば、凛? この後本屋さんに行くんだけど 一緒に行こうよ」
学校帰り、友人の彼女は微笑んでそう言った。
「うん 行こう」
何気ない日常というのだろうか、私にとっては非日常的な現象でいる。武器も持たず、思考を働かせずとも生きて入れるこの空間に、世界にだ。
「この本がさ面白いんだよ。二人の魔法使いが...」
友人が好きな本を必死に説明する中で、私は頷きながらも視線は別の方向を見ていた。
ー終末都市のノード。
そう書かれた小説には、一人の少女が悲しげにうつむいている様子が表紙に書かれていて ポップには、ボールペンで一言<<あなたが知らない事が、物語の設定になっているのです。>>と書かれていた。
「この本...」
友人は、手に持った本を見て言った。
「その本は、凛にとても合うよ。どこか闇を感じる人間性が...」
***
駅のベンチで、本を開く。
友人と別れた後、最寄り駅のベンチで開いた本は、想像を超えるほどに興味深いものだったと思う。
戦争によって崩壊した世界で旅をする少女の物語で、地下に残された遺構を冒険していると謎の生物「9(ナイン)」を見つけ一緒に旅をするのだ。
そして、崩壊した世界でも咲き誇る花や 生前に残したと思える映像データや音声、手紙などを見つけて 少女が成長していくのだ。 最終的に、自分ひとりでは生きていけないと自殺してしまうのだが、最後 記憶を思い返すシーンは泣けると思う。
「ちょっとキミ?終電出たから 改札出てくれないかな」
声をかけられ ふと見上げると駅員が不思議そうに私を見ている。
ーもう終電時か...
「はい、そうします」
改札を出て、私が暮らす 用意された部屋へと帰る。高層ビル群に併設する形で建っているマンションから、遠くに見える立ち入り禁止区域の明かりを眺める。
私が手にしている小説の世界があの先にはあるのだ。
「みんなはまだ寝ているの?」
頬を掠める風は少し冷たかった。