大地の加護が必要です。
ストック尽きて、更新遅くなりました。待って下さってる方いましたら、すみません。
新キャラ、イケメンでなくて女の子ですー。賑やか担当。ロリ担当。属性たくさんだよ。
アスグリンの街は、ガーデニアの北部に位置する。三方をグルッと森に囲まれ、希少種族と言われる妖精たちに守護されているらしい。
森の奥には大地の精霊王がいて、人々に加護を与える役目があるとのこと。私たちが目指すのは、精霊王がいるはずの大地の祠。
当然、今後の戦いや女王を助けるための力を得るためにも加護を貰わなければならない。大地の精霊王は気まぐれでイタズラ好きらしいから、最初のイベントとしては緊張してしまう。
「巫女様が到着されたぞ!」
「おぉっ! では、巫女様を護られておられるのが勇者様!!」
「何と神々しくもお美しい……」
またもや大賛辞祭りが始まりそうだ。水の魔力では、逆魅了魔法も作れないか……毎度この調子じゃ疲れて仕方ないから開発してみたかったのだが。
「気にしたら負けだ、瀬里香。ひとまず長老の家に行くぞ」
「うん、分かった。今なら慎の今までの心労が理解できるよ……だからといって、私は自重しないけど」
「しねーのかよ! そこは自重するとこだろうが」
アビオ様から預かっていたアスグリンの地図を広げ、方角を確認する。北東に向かって歩き始めれば、後ろから着いてくる女の子がいることに気づいた。
「君は――俺たちに、何か用事でも?」
張り付けた笑みを浮かべた慎が振り返って話しかけると、女の子は動じるでもなくニッコリと笑みを返した。
やっぱり、ティルローランドの顔面偏差値は高めだと思う。メリルさんとは違うロリ系美少女の笑顔は、女の私にも破壊力抜群だった。慎の方は、全く反応せずに張り付けた笑みのままだが。
「勇者様と巫女様ですよね? あたしは長老の館への案内を任されました、孫娘のシャーロットです」
「お孫さんだったんですね。ありがとうございます、案内してもらえるなら助かります」
「ふふふ。敬語はいらないですよ。巫女様とは年も近いと思いますし」
ニコニコ話してくるシャーロットさんだが、瞳の奥が笑っていないことに気づく。あ、この子、多分裏表のあるタイブだ。
「ねぇ勇者様、私、あっちの世界のこと聞きたいんです。教えて下さいませんか?」
「勇者様……はっ、俺か?」
「ふふっ。そうですよー。それともお名前で呼んでもいいですか? シン様?」
あっ、これはあれか。私に対する挑戦状か。よーし、受けて立とう!
甘えるような声で慎にすり寄ろうとするシャーロットさんだったが。私が威嚇するまでもなく、スルリと慎の方がそれを避けているのが見えた。うん、ちょっと冷静になろう、私。
「今はそういうのは後で。俺たちも遊びに来ている訳じゃないんでね。……だろ、巫女様?」
「そうですねー。何でしたら、後で勇者様の代わりに私が直々にガーデンの隅から隅まで教えてさしあげても構わないんですけどね?」
「えー。あたしは勇者様にお聞きしたかったんですけどぉ~」
分かってるわ、わざとに決まってんだろ。しかも、教える気もないしそっちだって別に純粋にガーデンの話聞きたい訳じゃないだろうが。
表面だけはにこやかに、穏やかに。端から見たら華やかな3人組――街の奥まで歩いた私たちを待っていたのは、いかにも長老、といった感じのご老人だった。
「シャーロット、お前はまたやらかしたのか」
「えー、何がぁ?」
「見目の良い男を見ればすぐにすり寄る悪癖は止めなさいと何度言えば……」
「だって勇者様、超イケメンだし。しかも王子様だし!」
それは否定しない。私も全力で同意する。だが、しかし。慎が真顔になっているし、いい加減に挨拶ぐらいは始めたいところだ。
「長老、悪いがそこの色ボケ娘には一片の興味もないので。放置して、話を始めさせていただけませんかね?」
「ふむ。そうじゃな。失礼いたした、勇者様」
クールな勇者様も素敵、とか目をハートにするシャーロット。もう呼び捨てでいいや。ちょっと冷めた眼で見てやると、やっぱり男限定猫かぶりタイプらしく、私には蔑むような目線を返してきやがった!
だよな、そうだよ。これだよ。大体、皆が皆、私を称えるなんて可笑しい話なのだ。むしろ待ってた、こんな展開。負けねーぞ、小娘!
「まずは、アスグリンの街へようこそお越し下さった。大地の祠については、大神官殿よりお聞きかな?」
「はい。祠に行くには、まずは長老である貴方に鍵を貰いうけるようにと」
「うむ。」
長老が頷くと、何処からともなく一振りの杖が現れる。私が持たされた水龍の杖とは違い、重厚な年季の入ったように見える木製の杖。いかにも、杖です、といった感じのソレ。
「大地の精霊王よ、守護者レグルスの名において聖なる鍵の解放を」
杖から淡い緑の光が溢れ出し、宙に浮かぶ神秘的な鍵が現れた。――これが、祠の鍵?
「さあ、巫女様。鍵をお取り下され」
「は、はい……」
おずおずと鍵に手を伸ばすと、鍵は私の手に吸い込まれるように自ら収まった。何これ、ちょっと怖いんですけど。しかも、ほんのり温かい。
「さすが、巫女様。鍵の方が、巫女様を選ばれましたな」
「えぇ……でも、何かこれ、怖いんですけど」
「瀬里香、諦めろ。ファンタジーに突っ込んだら負けだ」
「うう……理不尽!」
慎の開き直りも分からなくはない。私より、むしろ精神的にもキツいはずなのだ。私の異世界転移に巻き込まれただけかと思いきや、まさかの自分の出自にまつわるあれやこれやだったとは――。
「その鍵があれば、祠の入り口は開きましょう。ですが、祠自体は、隠蔽されておりまして、妖精の眼が必要になります」
「よ、妖精ですか? では、その妖精を捜すとか誑かすとか……」
「巫女様が誑かすとか言うな、オイ」
コホン、と長老が咳払いをすると。黙って私たちを見ているだけだったシャーロットが急に笑い出した。
「アーッハッハッ! 巫女様、最高!! 澄ました貴族令嬢みたいなの想像してたのに。ぜんっぜん気取ってないわ、やけに好戦的だわ。もう、好感度爆上がりなんですけど!?」
「へっ……?」
「あたしのことは、シャーロットって呼んで!」
「いや、もう脳内では既に呼び捨てにしてたけど……って、そうじゃなくて!!」
何が彼女の好感度を爆上げしたというのだ。乙女ゲームだったら、むしろ爆下げじゃないのか。あ、シャーロットが女の子だからか?
「シャーロット! いいかげんにせんか。巫女様が戸惑っておられるではないか」
「はぁい。ごめんなさい、お祖父様。だって、あたし好みの理想のお姉さまっていうか……是非とも従者にしていただきたいと思ったんですもの」
「だったら、なおのことだ。きちんとお前の言葉と態度で説明しなさい」
長老とシャーロットのやり取りを、黙って聞いていた私だったが……慎が何だか急に、遠い目になっているのに気づいた。
「やべぇ……男だけじゃねーのか。さすが天下の人タラシスキル」
「人タラシスキル、って何ソレ?」
「ん、何でもねぇ。気にすんな」
どうしよう。慎が何言ってるのか分からない……!
「巫女様、勇者様」
「へっ? あ、シャーロット?」
すっかり打ち解けた邪気の無い笑顔を向けられ、私たちは顔を見合わせ戸惑った。どうやら、慎に対する下心もなさそうだ。
「祠への道案内は、あたし、――シャーロット・アスグリンにお任せ下さい」
生では初めて見る――カーテシー(貴族令嬢の最敬礼?)を披露したシャーロットの身体が、淡い緑の光に包まれていく。さっき、長老が杖から出したあの光と同質のソレだ。
「シャーロット……?」
光が段々と広がりを見せ、眩しさに一瞬目を閉じると。
シャーロットの姿は見えなくなり――と思っていたら。
「な、な、な、なーっ!?」
「よ、妖精~っ!?」
ミニマムサイズに、背中から生えた虹色の羽。もちろん、見たことも会ったこともないが……どう見ても妖精、と分かる容貌のシャーロットがふわふわと目の前に飛んでいる。いや、浮いてる?
「わぁ~、2人とも気持ちいいくらい驚いてくれて嬉しいなぁ! 神出鬼没の可憐な美少女フェアリー、シャーロットちゃんとはあたしのことよっ」
「うわぁ……」
「何か、色々台無し……」
「えぇーっ。何でよぉ?」
「自分のこと、可憐だの美少女だの……何処のセーラー服戦士だよ」
「慎、それ異世界人に言っても分かんないから。あと、私たち普通に知ってるけど、若いヒトは知らないんじゃないかな?」
ただ、シャーロットの場合、ホントに美少女なもんだから洒落になんない。いや、でも、自分で言っちゃダメだろ。
「勇者様、巫女様。シャーロットは私の孫娘ですが、精霊王の血を引いた妖精族の末裔でもあります」
「末裔、ですか?」
「母様がね、妖精とのハーフで。あたしは、クォーターって言うの?」
「異世界でもハーフやらクォーターって言うのね」
突っ込むのそこかよ、と、慎の呟きが聞こえるが……まあいいや。要するに、シャーロットの案内で私たちは大地の祠に行けるらしいのだから。
「巫女様! 肩にお乗りしてもよろしいでしょうか!?」
「あぁ~そうね。妖精なら、そのポジションでいいわ。でも、どうせなら慎の肩にしたら? 勇者様に美少女妖精なら絵になるんじゃない?」
「そんな~巫女様、酷い。あたしは巫女様の一番傍にいたいのにぃ」
「いやいや。お前、最初の慎に対するアプローチ何処行ったのよ!?」
私の突っ込みなど、関係ないとばかりに。シャーロットはちゃっかり肩に乗っかってきやがる。待て待て。私は許可した覚えないからね!
「麗しい巫女様に美少女妖精、というのも十分過ぎる程絵になるかと思いますが」
「長老、あんた親バカならぬ祖父バカかよ」
どうしよう、もう突っ込む気も起きやしねぇ。
何かシャーロットは超絶ご満悦だし。慎は妙に疲れてるし。
「巫女様……」
うるうるした瞳で、ミニマムサイズのシャーロットが私を見つめてくるのが分かる。妖精……この異世界に来たからこそ出会えた、レアな存在だ。しかも、自他共に認める美少女だ。
うん。認めてやろう。
萌え、しかない。性格はアレだが、私は美少女も大好物なのだ。
「シャーロット」
「はいっ!」
「瀬里香、でいいよ。従者、になりたいんでしょ? 従者は、家来じゃなくて、共に闘う仲間、なんだから。堅苦しいのなんか止めて」
「はうっ……! 尊い、セリカ様っっ」
「様、も止めなさいっ!!」
――アスグリンの街に着いた時、こうなることを予想できただろうか? いや、絶対無理。慎を狙う気、満々のシャーロットを威嚇しまくるはずだったのに。
どうして、こうなった?
「おい、シャーロット。男好き設定は何処にやった?」
「男関係ないもーん。セリカは別格。はあ、お美しい上にお強いだなんて……さすが、私の女神様」
「シャーロット、キモい。鼻息荒い」
「蔑む氷の視線も素敵です。もっと下さい!」
「助けて、慎」
「いや、もう、俺の手には負えない。頑張れ、瀬里香」
「見捨てないでーっ!!」
ちょっと、これホントに大地の加護なんて貰えるの!? 精霊王様が、このなんちゃって妖精、認めてくんなかったらどうするのよーっっ!
あ、見えてきましたよ♪なんて、呑気に前方を指差すシャーロットはやっぱり可愛くて、萌えてる場合じゃないのは分かっているのだけれど……。ゲームだったら、絶対スクショだ。ヤバイ、私が男だったら推し確定。
プルプル震える私を残念そうに、可哀想な子を見るような慎の表情。多分、脳内煩悩まみれなのを見透かしているのだろう。
「あー、何かもうどうでも良くなってきた……」
「ちょっと、シン。初イベントはこれからなんだから。気合い入れてよね」
「ハイハイ、分かりましたよー。勇者様ですからねー」
慎の周りをフヨフヨ飛ぶシャーロットも可愛いなぁ……。まだまだ萌えの収まらない私は、シャーロット以上に呑気というか、まるで危機感に欠けているんだと思う。うん、自覚はあるんだよ。
妖精って、こんなんでいいのかしら?
設定だけで迷子になりそうです(笑)
百合に感じられたらゴメンナサイ。ただの美少女好きです。愛でるだけ。恋愛のソレにはなりません。