チートな2人。
ブックマーク、ありがとうございます!
異世界といえば、バトルだよね!という訳で。旅が始まりま……す?
「瀬里香、杖の使い方……それで合ってんのか?」
恐らくは、この世界ではスライム的な初心者向けの弱さであろう魔物を、反射的にアビオ様から託された【水龍の杖】で撲殺――攻撃したところ、慎の突っ込みが入った。
「うー、だって下手に剣での戦い方が身についてるのに、いきなり水の魔法使えだの防御魔法で護り固めるだの……私、巫女様なんて向いてないと思うんだよね、切実に」
「いや、まあ、うん。イメージではないよな。お前のこと知ってる俺から見れば」
「だよね。むしろ、戦う巫女様なら、別に剣握ったっていいんじゃないの? 大体、慎なんかチート全開の最強勇者なんだから、初心者巫女様の防御魔法なんて全然必要ないし。回復なんて、自動回復スキルあるから、疲労癒やすくらいで足りてるじゃん」
「まあ、否定はしねぇが、それはここら辺の魔物が雑魚の中の雑魚だからってのもあるだろ?」
さっきから2人で呑気に話しているが、ここはゲームでいえばフィールドに当たる、魔物が普通に闊歩する街道沿いの平原だったりする。
ゲームみたいに、エンカウントとか知らせが来る訳もなく、突然襲いかかってくる魔物を慎が同じくアビオ様から貰ったライトニングソードを一振りするだけで、その剣圧で魔物が消滅してしまうのだ。
本当に、ただのチート。さすが血統書つきの王子様だ。
そんな最強勇者様とパーティーを組んでいる新米巫女様の私が役に立つことは、大軍勢に囲まれたりボス級の強敵でも現れない限りはないと思う。
せっかくだから、まだ使ったことのない水魔法やら防御魔法の試し撃ち(?)はしてみたのだが。
「私、今はどう頑張ってもお飾りの巫女様にしかなれないじゃん。だったら、序盤は巫女様関係なく向こうで培った戦闘力を試したいというか……」
「黙って護られてるタイプじゃねぇからな、瀬里香は」
「慎だって、そんなお姫様みたいな私なんか気持ち悪いだけでしょ?」
そこまでは思ってないけど、と前置きして。私の背後から奇襲をかけようとしていた鳥型の魔物に剣を突き刺した慎の不適な笑みに、腰が砕けそうになってしまった。
待て、私。さすがに、戦闘中にときめいてる場合じゃないから!! そのぐらいは空気読める子だよね、私!
「何か、心の声駄々漏れなんだけど。お前さ、こっちの世界来てから酷くなってねぇか? イケメン好き、ってかイケメン萌え」
「えっ。声に出てたの!? マジかっ。でも、安心して。私の萌えが発動するのは慎限定だから」
どや顔で胸を張って、ビシッと人差し指を突きつければ。一瞬固まって、安心って何だよ……と苦笑いしている。
慎のこの反応は、一体どう判断すればいいのか。
ティルローランドに召喚される前は、慎の好きな人が姉だと知っていたから片想いで満足していたところがあった。
姉には義兄がいるし、慎も姉への想いを打ち明けようとは考えてなかったみたいだし。知っていながら一番近くにいられるポジションに甘えていた私は、ズルい女なのだろうか。
姉より女として好きになってもらう自信なんて欠片も持っていないが、幼なじみにプラスして付随した勇者と巫女というポジションを有効活用して、このまま慎の一番近くにいさせてもらいたいものだ。
「なあ。俺限定ってことは、他にイケメンが現れても浮気しないってことか?」
「何を今さら。正義くんだって細マッチョイケメンだけど、萌えはしないよ? お姉ちゃんとセットで並んでるときは素敵夫婦に萌えちゃうけど」
「あー、正義ね。お前ら仲いいよな、本当に兄妹みたいだもんな」
聞き流してしまったが、浮気……して欲しくないのか、慎は。妬きもちみたいで、何か嬉しくなってしまうんだけど。
「乙女ゲームあるあるだと、新しい場所に行ったりイベントが起き度にるイケメンが出て来るはずだよね」
「俺以上に萌えが発揮されるイケメンが出てきてもおかしくはないよな。アビオ様だって、なかなかのイケオジだったんじゃねーの?」
「アビオ様はね……もう賛辞が過ぎてお腹一杯。胸やけするよ、あんなに語られたらっ」
アビオ様が私を讃えまくっていたのには、水の女王様を崇拝している大神官だから、というのも大きかった。
ガーデニアの正門近くに、若かりし日の巫女時代の女王様の彫像があったのだが、確かに同じポニーテールにしているせいか私とよく似ている気がした。
彫像の巫女様は、何処か神々しくて慈悲深げな表情をしていたけれど。
「考えないようにしてたけど、女王様って慎のお母様なんだよね。何か複雑……旅を続けてれば会う日も来るんだろうけど」
「瀬里香。それだと、まるで旦那の母親に会いに行く嫁みてぇだぞ」
「はーっ!? ダ、ダンナにヨメ!」
ニヤニヤ笑いながらの慎のふざけた発言に、私の頭は爆発寸前だ。分かっててからかってやがる、コイツ……!!
「そうだ、話変わるんだけど。さっき、虫型魔物払ったときに擦りむいた傷出来てたみたいなんだよな。ついでに、回復魔法の練習してみるか?」
「――からかったかと思えば、いきなり何なの、あんたはっ!」
「んで。やるの、やんないの?」
「やるわよ! やりゃあいいんでしょ、コノヤロー!!」
黙っていても、向かってくる敵は一掃してくれるもんだから、小さい傷のことは考えていなかった。
巫女としては、今後はフォローしていかなきゃならないかもしれない。今は2人だけだけど、いずれは仲間を増やしていく必要があるのだし。
ブチブチ文句を言いながらではあるが、頭を回復魔法のことに切り替える。
まずは杖を水平に構え、意識を集中していく――コツは、無意識の中にある。何回か試してみて、分かったことだ。
「ヒールウォーター! からの、ヒーリングシャワー!!」
「うわっ。何で重ね掛けなんだよ?」
「一応、単体回復から全体回復の重ね掛け練習をしてみたんだけど」
「それ、普通ひとつずつじゃねーの? しかも瀬里香、詠唱時間とか何処にやったんだよ。何、そのチート能力。無詠唱とあんま変わんなくねぇ?」
「私としては魔法の名前もいちいち言わなくても発動する方法とか、イメージだけで無限の可能性のあるこの魔力とやらを有効活用できないかと思ってて」
「こえーよ、瀬里香。俺よりチートじゃん。その適応力と学習能力あれば無敵なんじゃね?」
慎はそう言ってくれたが、まだまだ攻撃魔法の方が研究不足なのだ。やるからには徹底的に、完璧に、最大限の精度を以て威力を上げなければ巫女様の名が廃る。
「基本的に瀬里香は負けず嫌いだもんな、あと逆境に滅法強い」
「慎だって人のこと言えないじゃん。中学から剣道日本一譲ったことないくせに」
やっぱり勇者の血を引いてる上に、師範があの鷹沢京一郎だからなぁ。強くならない訳がなかったのだ。
「俺の剣が実戦で何処まで通用するかは分からないけどな。このチート能力だって序盤しか発揮されないかもしれねーし、瀬里香を見習って俺も実戦レベル上げといた方がいいか?」
「ほーら、やっぱり負けず嫌いじゃん。だったらさ! 魔法から剣のスキルで連携とか、広範囲無双技の開発とか試してみようよ」
「何それ、滾る」
「でしょー!!」
後に増えていく仲間たちに、このスキル開発の楽しさを教えたところ。みんな青ざめてドン引きしてしまうのだが、それはまだ大分先の話。
今はただ。未知なる自分たちの力を試したい欲望に刈られ、ガーデニアから次の目的地であるアスグリンの街までの道中にいる魔物を殲滅する勢いで突き進むのだった。
チート、何それ美味しいの? 私たちが目指すのはチートの先にある自力で掴む歴代最強の勇者&巫女のパーティーなのだ。
与えられたものに頼りきるほど虚しいものはない。どうせなら利用して更なる高みを目指した方が楽しいに決まっている。
すっかり戦闘脳が全開になってしまった私たちは、甘い雰囲気などという言葉からは遥か遠いところでレベルアップに励むのだった――ステータスとかレベルの概念があるかは、まだよく分かっていないのだが。
アスグリンの長老に尋けばいいみたいだから、まあ何とかなるだろう。多分。
バトルとかチートとか、割と適当な感じで、勢いで突き進みます。多分、ずっとこんなノリ。
ラブメインなんで、気にしない。