第11話 近衛・元国王vsエレノア、ティア、マリア、レオニカ、オーデン
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「そんな感じに私は冥界の主になりました。貴方が来たのはそれより前の段階だから、知らないのも当然だけどね」
伊織の話を聞いて、誰も口を開けない。情報量が多すぎたのだろう。
そして、柊が
「話は分かったんだが、若干雑じゃね?」
素直な感想を漏らす。
「それは、アルカのせいよ。あのこ、かなりめんどくさがりなの」
「いや、伊織もなかなか」
「むしろ、伊織の方が」
伊織の言葉に被せるように、テミアとイリスが話す。
「それより、どうしてアイツが母さんを喰えないんだ?」
ラグシアを警戒したままの柊が、肝心な質問をする。
「単純な話、相性とタイミングの問題よ」
「相性とタイミング?」
「そ。死者を管理する者に死者の力を操る者が勝てる?私の力なら、死者の力を剥がすこともできるの。それが冥界の主の権能の一つ、死者の簒奪。と言っても制限はあるけど」
「それで、タイミングってのは?」
「アイツは、この世界に来るときに神の情報をある程度、インストールしているの。そうしないと、勝てないかもしれないからね。つまるところ、情報のある敵には強いし、喰らうこともできる。けど、そうじゃない相手には弱いし、喰らうこともできないの。神伐の徒なんて言ってるけど、大したことないのよ」
今の話でラグシアが震えている。神伐の徒のことを馬鹿にされたことが原因だろう。
「それに、私以外にも柊や配下契約の子たちは喰えないわよ?」
ここでまた驚きの発言だ。
「エレノア達の方はなんとなくわかるが、なんで俺まで?主神の情報は同じだろ?いくら代が変ったからと言って」
「そこが重要なの」
柊の言葉を遮り、伊織が説明を始める。
「代が変ると、その情報もラグシアに渡るんだけど、柊の場合情報が多いうえに、複雑過ぎて全てが渡らなかったの。今持ってる情報はたぶん、アルカの能力と権能、あとは抜刀術に魔術の情報くらいじゃない?」
「確かに情報としては少ないけど、肝心な抜刀術の情報渡ってんのかよ」
聞きたかったような、そうでないような情報だ。抜刀術に対応されたらほとんど何もできなくなるぞ。
「さて、そんなわけでどうするの?」
伊織がラグシアを挑発する。
「ならば、他の神を喰らい強化するまでだ!」
イリスに強襲するラグシア。そこに割り込むように柊が立ちふさがり、
「抜刀術天衣」
二刀を以てして、ラグシアの軌道を逸らす。そして、
「無縫」
繋ぎ、放つ
「屍填式!」
ストックしてあるバレットを刀に纏わせ放つ威力重視の一撃。
その攻撃を受け、ラグシアが後退する。
「抜刀術以外の情報は無いわけか。それに、抜刀術の情報も完全じゃないんだな」
「小賢しいぞ!」
今度は柊に飛び掛かる
「そうだ!お前の敵は俺だ!」
「柊の奴、熱くなってるな」
「仕方のないこと。いろんなことがあったから」
「では、此方はこちらで始めましょうか」
エレノア、ティア、オーデンが残った近衛と対峙する。
「紗耶香」
「分かってます。術式展開、略式発動、天雷」
忍術と言ってはいるが、習得する物は多岐にわたる。その一つが魔術。
「略式発動。防いで」
ティアが言葉を紡ぐだけで、防御術式が起動。『天雷』を防ぐ。
「あれは私がやる」
「なら私は薙刀を」
「なら自分は拳術の人を」
言葉を交わし、自身の得物を定め、激突する。
「飛来せよ!」
紗耶香が叫ぶと同時に、ティアの周りに数百の小太刀が出現。取り囲んだ。
「落ちろ!天雷!閉ざせ!結晶!」
不純物を多く含んだ水の結晶による結界に、『天雷』が直撃。
結界が割れるのと同時に、小太刀が飛来する。
「貫き、引き裂け!」
全てが直撃するわけではないので、いくつかが地面にぶつかり、土煙があがる。
紗耶香は勝利を確信していた。今のコンボであれば、近衛最強のバルトスや皇帝のグレアムさえも倒すことのできる一撃なのだから。
そして、味方の援護に移ろうとした紗耶香は絶句することになる。
「その程度なの?」
「そんな・・・」
土煙の中から、全てを無傷で受けきったティアが現れた。
「っ!撃ち滅ぼせ!雷電砲華!」
紗耶香の正面に華の形をした、雷の塊が出現。ティアに飛来する。
「クトゥグア」
略式発動。引き起こすは破滅。『雷電砲華』は効果を発揮する前に消滅した。
「本当の魔術を見せてあげる。撃ち滅ぼせ!雷電砲華!」
術式を解読したティアが紗耶香を真似て放つ。しかしそれは、紗耶香の物とは威力も速度も規模も段違い。更に滅びの力が付与されている。
「さようなら」
迫る一撃に紗耶香は、
「たすけ」
命乞いや助けを呼ぶ声も満足に発することができずに、塵も残さず消滅した。
「拳術壱ノ型砲拳連弾」
「聖鎧」
絢の放つ一撃を、聖鎧を以てして完璧に防ぐ。
「次!弐ノ型崩拳瓦解」
「逸らせ、聖鎧」
次の一撃を、直撃の寸前に横に逸らし回避する。
「参ノ型蒼々拳」
絢の体を蒼い炎が包む。
「秘術拳王!」
絢が編み出した、オリジナルの強化術式。
「奥義!蒼炎拳・爪!」
拳を覆う炎を爪の形に変える。
たいしてオーデンは、新たな力を開放する。
「開きなさい。エインヘリアル」
オーデンの背後に、柊の幽世の門に似た物が現れる。
「柊さんに教えてもらった知識をもとにこんなことができるようになるとは」
柊が教えた、オーデンの契約神霊の秘密。
「神々の王ならば、その他の神の力も使えるですか」
試しに、神霊に聞いたら可能と言われたのだ。
「神槍展開グングニル。宿れ、バルドル、ヘイムダル」
更に、柊から借り受けた力を開放する。
「ティンダロス付与!神格拡張!副武装全開放!戦神と王の庭園!」
そして、両者の最大の一撃が衝突する。
「秘拳!蒼炎悪鬼!」
「敵を滅ぼせ、神霊槍グン・グニル!」
拮抗することなく、オーデンの一撃が絢を飲み込み、消滅させる。
「神の力とは、怖いものですね」
そんな呟きを残し、オーデンは仲間の下へと向かう。
「エレク!リヴィア!プロクス!トゥルム!」
エレノアが叫ぶと、四本が自立して動き始めた。
「武器を手放すとは!」
「誰も手放してはいないさ」
そう言うエレノアの手に雷と炎が集まり、剣を形どる。
「柊みたいには出来ないからな。これが私の戦い方さ」
「これくらい!」
瑠璃がエレノアに急接近する。
「薙刀術四ノ型飛撃蓮々華!」
瑠璃が放つ『飛撃蓮々華』は終わりが存在しない連撃。相手が弾くか、使い手がやめない限り続く、天咲流お得意の連撃だ。それをエレノアは手に持つ二本と自立させた四本で受け流していく。
攻めきれないことを察し、距離を取る瑠璃。
それを追撃しないエレノア。膠着状態に陥った結果、
「一撃で決めます」
「望むところだ」
お互いが、短期決戦を望んだ。
「狙い穿て!我は汝を貫くものなり!」
近衛の中で女性最強の瑠璃。近衛騎士第三位の彼女は、他の誰にも真似できない物を得ていた。それがこの一撃。
「ゲイ・ボルグ!」
迫る絶死の一撃を前にエレノアは、手に持つ二本を消し、神の力を開放する。
「アザトース付与。神霊解放!神格拡張!」
四本全てに付与を施し、一つで国を亡ぼせる一撃を4つ解き放つ。
「プロメテウス・深紅の焔。リヴァイアサン・神霊の大波。シュトゥルム・神の空襲。タラニス・乱反射する太陽光」
大波が足を止め、焔と光熱に体を焼かれ、暴風が水をまき上げ、その水で切りつける。
結果、絶死の一撃はエレノアに届く寸前で効果を失い消えた。
この3人、決着はほぼ同時であった。
「派手」
「お互い様だろう」
「まぁ、一番派手なのはエレノアさんですけどね」
軽口を叩きながら、3人は他の決着を見守るために移動を始める。
元国王に対峙するのはマリアとレオニカの2人。
「父上・・・」
悲しげな表情を見せるマリアに国王は、
「爆ぜろ」
事前に設置した術式を省略起動。2人を爆炎が包む。
「姫様」
「分かっていますわ。分かっては」
心配するレオニカに、未だ気持ちの整理ができないマリアが返事をする。
自分の手で裁かなければいけない、と思っているものの、実の家族それも父親。簡単に気持ちの整理ができるはずがなく。
「竜炎」
爆炎が竜の形を取り、マリアを襲う。
「水龍」
マリアが水の龍を呼び出し、応戦する。
「術式展開。竜園」
国王が展開した術式から、数十の竜が召喚される。
「息吹」
号令を掛ければ、竜達がブレス攻撃を放つ。
「二ディア属性開放。障壁」
その攻撃は、レオニカが二ディアの力を使い防御。反撃に出る。
「フレイムサイクル、アクアサイクル」
ブレス攻撃の炎と水をそのまま利用。打ち返す。
「姫様、私がやりましょうか?」
一瞬、レオニカがマリアに声をかけるが、
「…いえ、私がやりますわ」
マリアはそれを拒否。自身が終わらせると決断する。
「術式展開。神格拡張。サジタリウス」
杖の神格を拡張。天より小さな星が飛来する。
国王はそれを、
「アスクレピオス」
大地より、巨大な蛇を召喚し防御する。
「展開。龍の里」
国王が竜の召喚術式の上位互換。龍召喚を行う。そこから呼び出された数、百数十。
「滅ぼせ」
先程の竜と召喚された龍の本気のブレス攻撃が迫る。
マリアは、過去の父を思い出しながら術式を組み上げる。
「術式展開」
組まれる術式は、柊と楓、あの2人が編み出した守護術式と同じ物。
無意識のうちにマリアは、魔術師の最高峰に辿り着いた。
「来なさい。神龍・劫火」
呼び出されたのは、炎を司る龍の神。バハムートや柊でも召喚することのできない、劫火の神龍。
「防いで」
その一言で、迫るブレスをすべて消滅させる『劫火の龍』。そしてこの龍は、二つの顔を持つ。一つは、術者を守る『劫火の龍』。もう一つは
「すべてを焼き尽くせ。神龍・業火」
対象を灰すら残さず焼き尽くす、地獄の炎。『業火の龍』
『業火の龍』のブレスにより、召喚されたすべての竜と龍が消えさる。
「やはり、怖いですね。レオニカもお願いしますわ」
「はい」
そして二人は、この戦いを終わらせる一撃を放つ。
「ハスター付与」
マリアは『業火の龍』にハスターを付与する。
「神格再拡張。纏え!」
「ショゴス付与。神格拡張、天災展開。属性選択。終末の業火」
レオニカが放った一撃が、マリアの『業火の龍』と合わさり、さらに燃え盛る。
「「滅ぼせ!龍神・業火!」」
その一撃は、国王を焼滅させ、その後ろの山々を焼滅させた。
「父様、母様にしかられてください」
祈るように、呟く。その姿に何も言えないレオニカ。声を掛けようか悩んでいると、
「エレノアさんより派手ですね」
「ここまで派手なのは逆にすごい」
「私たちも合わせればやれるか?」
オーデン、ティア、エレノアが合流する。
「これは、私とレオニカだからできることですわ!」
3人の言葉に自慢げな笑顔で返すマリア。その笑顔は、憂いを帯びていたが、誰も何も言わず、柊の下へと歩き出す。
「怪我人は1か所に集まって!重傷者は近くの人がここまで連れてきて!」
戦いに加わっていない、騎士団、魔術師団、学生達はイリスとテミア、皇によって治療されていた。手伝える魔術師と学生も治療する側に回っていた。そのおかげで、五割程の損失で済んだ。戦力が3万6千。その五割・・・
「多いとみるべきか、少ないとみるか」
「少ないといっていいと思います」
騎士団長の呟きをイリスが拾い、答える。
「本来なら、全滅してもおかしくなかったんです。いくらあの子たちが居るといっても、所詮は人です。体力の限界が訪れていた。それでもあの子たちは戦った。貴方達も。その結果なんです。今は胸を張りましょう。帝国との戦争には勝ったんです。此処で誇らなければ、死んでいった仲間に失礼ですよ」
「そうだな・・・」
全員が、勝利をかみしめるように空を見上げる。
そこには結界の効果があるとはいえ、太陽が眩く輝いていた。
「しかし、彼は勝てるのだろうか」
騎士団長が思い出したように、柊のことを聞いてくる。
それにこたえるのは
「まぁ、普通に考えれば負ける。でも、私の息子は常に成長している。多分、一つの極地に立つことで勝利を勝ち取るわ」
伊織がそう予想する。
「極地・・・。しかし、そんな簡単にたどり着けるものなのですか?」
「無理よ。普通なら。でもあの子、あと一歩のところまで来てる。抜刀術の極み。天藤家の誰もが目指し、到達しえなかった極地」
「天藤の者は全ての者が到達できた極地が、追い影。影が付いていくことができない速度で振るう。そして、誰も到達しえなかった抜刀術の極地が時間も空間も超えて対象に届かせる、全てを断つ一閃、時空超越神速抜刀。過去誰一人も辿り着くことができなかった極地。私も、時を超えることはできた。でも、そこ止まり。空間を超えて斬撃を飛ばすことができないの。今、冥界の主になったのに成功しない。だけどあの子の格と技量なら、」
伊織が話し終わると同時に、柊が戦う戦場を見据える。それに続くように、他のメンバーも戦場を見据える。
そして、エレノア達も合流したその目の前で、柊対ラグシアの対決が決着を迎えようとしていた。
次章辺りでこの世界での物語を一旦終わらせたいと思います。
但し、このお話はまだ続きます。
次の更新は早い段階でできると思います。