第5話 使節団と目的
最初にスタンピードが起きた日から二週間が経過した。あれからスタンピードも発生せず、神帝国も動きを見せないでいた。そのため、序列メンバーや騎士団では戦争は嘘だったのでは?と噂までたっていた。
「楓さん、どう見ますか?」
「何とも言えませんが、戦争は仕掛けてくるでしょう」
私達9人は今現在、王宮の会議室に来ている。今後の行動方針をいくつか定めるために。
メンバーは楓、フウちゃん、エレノア、ティア、マリア、レオニカ、オーデン、皇、騎士団団長だ。
「戦争を仕掛けてくるとして、動向が全く分からないのは何故だ」
「国内のみで準備しているとすれば分かるが、周辺国との小競り合いは続いている」
「可能性があるとすれば・・・」
「すでに準備は出来ていて、何かの時期を待っているか」
「騎士団長、いつでも動けるように指示系統の確認と周辺警戒をお願いします。オーデンさんは、学園長と序列メンバーと協力して国の周辺に城壁の展開を」
「はッ!」
「了解しました」
「こちらは籠城戦に持ち込みます。食料や回復アイテムの備蓄には気を付けてください。これ以上のことは、帝国が動き出してから決めます」
そう締めくくった瞬間、廊下から慌ただしい足音が響き、扉が勢いよく開かれた
「いきなりとは無礼だぞ!」
騎士長が怒鳴るがマリアが制す。
「待ってください。緊急事態なのですね?」
「っはい!北西より帝国旗を掲げた一団が接近中!」
「ばかな!」
「距離は!?」
「凡そ10キロです!」
「探知結界をすり抜けられた?」
「もしかしたら、結界を展開する前に侵入されてた可能性も」
「考えるのはあとですわ!すぐに向かいますわよ!」
あ、堅苦しい口調が外れていつもの感じに戻った。
その場にいた全員で城壁展開予想地点に向かう。
到着から数分。
「こちらの到着時間も異常だったが、向こうの方が異常だぞ」
「私たちは、空間転移を使って来てますから早いのは当然です」
「だが、向こうは徒歩だぞ。約7キロを10分もかからず移動できるものなのか」
「普通なら無理です。でも、私の考えが当たってしまった場合は可能です。さらに言えば、もっと早く移動することもできます」
多分あの一団は白夜の配下だろう。しかもパンドラ付きの能力付与。この戦争、死者の数が大変なことになる・・・
「姫様!攻撃の許可を」
「わかりました。攻撃を許可します!」
「全体攻撃用意!」
マリア様が攻撃許可を出し、騎士長が指示を出し、弓兵部隊が弓を構える。
迅速な指示により、構えるまで凡そ10秒。標的を定める時間も込みと考えるとかなり優秀だ。
「!攻撃を中止して!」
「え?」
「マリア様!早く止めて!」
「は、はい。攻撃中止!」
「攻撃中止!」
マリア様が指示を出せば騎士長が復唱する。
しかし、すぐに攻撃中止の理由を問い詰めに来る。
「何故攻撃をやめさせる!」
ここ数週間の間に、ここにいるメンバーは騎士団と魔術師団に顔を覚えられているため、ある程度の指揮権を持っている。まぁこれはあくまで念のための物。
「あの一団、攻撃を仕掛けに来たわけじゃない。奇襲をかけるなら、もっといいタイミングはあったはず。そうじゃないなら何か理由があるはず」
「しかし…」
「騎士長、ここは楓さんを信じましょう」
「・・・姫様がおっしゃるのであれば」
騎士長はそう言って下がった。すぐに外から、「このまま警戒態勢を維持!指示があれば即攻撃開始!」と叫んでいた。
「何かあるとして何だと思う?」
「私は何かの宣言をしに来たように見えますわ」
「私もマリア様に同意です」
「何の宣言だ?」
「宣戦布告?」
「いまさら?」
宣戦布告じゃない、和平交渉でも、休戦協定の提案でもない。なら、このタイミングで来るとしたら何が考えられる。
思案していると、声が聞こえた。
「我等は帝国からの遣いである!皇帝陛下からの手紙を届けに上がった!代表者の方は受け取りに来ていただけないだろうか!?」
ん?何て言った?皇帝からの手紙?馬鹿な、それに何の意味がある。
「楓さんどうしますか?」
変装魔法を使い柊の姿になる。
「行こう。メンバーは俺とマリア様、エレノアの3人で。他のメンバーは何かに備えて後方待機。マリア様とエレノアはすぐ下がれるように、転移魔法の転移先の座標固定をしといて」
「「「「「「「了解」」」」」」」
「あなた方が代表でよろしいですね?」
「はい。ここにいる3人がこの場の代表です」
「後ろは許してください。こんな状況で敵国の者が来れば警戒もしますから」
「それは承知の上です。では、こちらが皇帝陛下から預かった手紙でございます」
「受け取りました。今拝見しても?」
「構いません。私達は確認が済みましたら帰らせていただきます」
手紙を開く。そこに書いてあったのは衝撃の内容だった。
『初めまして神帝国皇帝のグレアムだ。まず最初に、この手紙を届けた者達は殺さないで欲しい。神帝国の人間ではなく、周辺諸国の人間なのだ。戦争を仕掛けておいて、虫がいいとは思うが頼む。
それでは本題だ。貴様らの元国王が神帝国に亡命してきた。亡命は受け入れず、人質として捕縛したが、聞いた話によればこいつは殺されるそうじゃないか。そこで、此方から条件を出してこの男を雇わせてもらった。貴様らの国の情報は包み隠さず教えてくれた。それ以外にも、協力者のおかげで万全の準備が整っている。今降伏するのであれば、虐殺はしない。神帝国の属国として扱ってやろう。だが、抗うというならば覚悟することだ。貴様らが賢明な判断をすることを願うよ。
追伸
天咲皇、そして風神、雷神そしてその術者よ覚悟しておけ。貴様らは必ずこの手で殺す。
神帝国皇帝 グレアム二世』
「…こちらから返信の手紙を書きますので、少しお待ちいただけますか?」
「かしこまりました」
そう言って仮拠点に戻る。
「この手紙」
「嘘は一切ない。真実のみが綴られている」
もう一つの魔眼で確認済みだ。
「お父様…そこまで堕ちられたのですね」
「返信はどうする?」
「…決まっていますわ」
「この手紙は必ず皇帝陛下に届けさせていただきます」
「お願いします」
「それでは失礼します」
そう言って使節団は音もなく消えた。
「・・・空間転移。でもかなり条件が厳しいみたい」
使節団が消えた後は、会議室で指示されたことをこなしていった。
俺やエレノア、ティア、レオニカは周囲の魔物の討伐。楓には母さんイリス達のところに行ってもらった。
「スルトにアポロン、それに加え白夜と天咲流門下生に強化人間…」
心の中である決意を固め1日が終わった。