第8話 決戦前夜
とりあえずこれが連続投稿の最後です
決戦前夜・ローズ学園学園長室
「遂に明日か…」
椅子に腰かけ、夜空を眺めながら学園長のシルヴェルト=ヴァン=ベールがつぶやいた。
「儂らに出来ることがあまりに少なすぎた。儂らにもう少しできることがあれば…」
自分の非力さを感じ、悔しさを滲ませる声に
「そんなことはないですよ。学園長はやれることを全力で最大限こなしてくれました。それだけで十分です。それに、明日にはもう一仕事あるじゃないですか」
学園長が、入口の方を振り返ればそこには
「楓さん、それにオーデンも。どうしてここに?」
「神域から戻ってきたらこんな時間なのに、この部屋の明かりが点いているじゃないですか」
「ですから、何かあったのかと来たんですが、」
そこで一区切り、溜息を吐いてから言葉を繋ぐ。
「さっきも言いましたが、学園長は出来ることをしっかりやってくれました。他にも役に立ちたい、その気持ちわからないこともないですが、私たちはこれで十分です」
「王都の対策を取ってくれたおかげで、戦う相手に集中できます」
「学園長一人の力じゃないとしても、それに協力してくれる人が集まるのは学園長の人徳ですよ」
「神の討伐は任せてください!だから明日のもう一つの計画、お願いしますね!」
会話もそこそこに一方的に切り上げ、二人は自分の部屋へと戻る。
「孫やその友人、自分の生徒に気を遣われるほど老いぼれていたとは…」
感慨深く、そしてやはりどこか悔しそうな声音で
「老い先短いというのがここまで寂しいものとは…」
涙をこらえ、再び顔を上げ、少し無理をした笑顔で
「やはり、オーデンには早く結婚して孫娘を連れてきてほしいな!」
ハハハハハ!ハハハハハ!決戦前夜の学園に学園長の笑い声が響いた。
決戦前夜・神域
楓達が修行を終えて、自分たちの世界に戻った後、神殿の上に二人の人影が佇んでいた。
「やっぱ申し訳ないな」
「珍しくシリアスですね、バハムート」
「茶化すなよイリス。確かにあいつらは強くなった、倒せる切り札もある。だがな、死ぬかもしれないんだ。…誰かの犠牲の上に成り立つ勝利はもう懲り懲りだ」
「…そうですね。そうならないように努力はしましたが、正直不安でいっぱいです」
楓は生き残る。他の五人はどうか、エレノアとティアは生き残る可能性が高い。次いでオーデン。しかし、レオニカとマリアは死ぬ可能性の方が高い。これが二人の、いや神々の見解だ。
そんな二人の暗い雰囲気を壊すように一人の人物が現れた
「心配しなくても大丈夫ですよ~。秘策を用意しておきましたから~」
振り返ればそこには、酔ったナズチがいた。
「安心してください。この秘策は、勝利を絶対にするものです!」
自身を以て言うナズチに二人は、疑問をぶつけることなく微笑んだ。
そよ風が三人の髪を揺らし、神域を流れていく。フェンリルの遠吠えを乗せて。
決戦前夜・学園寮楓の部屋
学園長室に寄った二人が戻ると全員が集まっていた。
「あれ?帰ってなかったんですね」
私がそう言えば
「なんだか緊張してな」
「眠れそうになかったから」
「エレノアと同じくだな」
少し恥ずかしそうに答えた。しかしマリア様は
「私怖いんですわ。明日の戦いが、その後のことが」
「…マリア様」
レオニカさんが名前を呼ぶ。
「私は明日死ぬかもしれない。以前に比べて実力もけた違いになりましたわ。けれども、死ぬかもしれない。この戦いはそれほどまでに危険なのですわ。生き残ったとして、そのあとの計画で私に何かあるかもしれない。そんな考えがずっと巡っているのですわ」
初めて聞くマリア様の本音。強く明るく振舞っていたが、それは自分の負の感情を隠すため。
気付かなかったわけじゃない。なんとなく感じてはいた。でも、どう言葉を掛ければいいのかわからなかった。私にはマリア様にかける言葉は見つからない。少なくとも私には。
「マリア様」
またレオニカさんが名前を呼ぶ。
「安心して頂くのは無理かもしれませんが聞いてください」
皆の視線が、マリア様の視線が体がレオニカさんを向く。
「私も同じ気持ちです。明日死ぬかもしれない、けれども、自分にしかできないことだから私はここにいますし、今日まで修行についてきました。マリア様はどうして、今日まで頑張ってこられたのですか?」
「私は…この国に住む皆を守りたいと思ったから…」
「それは王族としてですか?それとも一人の人間として?」
「王族としてですわ。王は民を守るものです」
「そうですね。俺も最初は、マリア様のお着きの騎士としてこの戦いに挑むつもりでした。マリア様を守るためなら自分の命を捨てる覚悟で」
レオニカさんの考え。それは騎士としては当然かもしれない。当たり前のことなんだ。けれど、マリア様の騎士は一人だけだ。死ぬことなんて許さない。
「そうしたらある時楓さんに、命を捨てる覚悟なんていりません!生きて戦い抜く覚悟がないなら帰ってください!好きな人のそばにいられるように努力しない人は嫌いです!って言われました」
全員の視線が私に集まる。
「命を捨てる覚悟も決意することは難しいです。ですが、好きな人のために誰かのために生き抜く覚悟ほど強く、美しく、難しいものはありません。困難だからこそ、それを成すために努力を積む。そうして強くなった人の方がかっこいいじゃないですか」
恥ずかしそうに頬を掻くレオニカさん。
レオニカさんが紡ぐ言葉は
「だから俺も、好きな人のために生き抜く覚悟を以て戦うことにした。そのおかげでここまでついてこられた。マリア様、俺がいます。ずっと貴女のそばに寄り添って歩いていきます。
どんな時でも俺が、あなたを守って見せます。貴女の騎士として」
決意とマリア様への愛に満ちていて。
差し出される右手。しばらく逡巡した後、自分を見つめて動かないその瞳を正面から見かえし、応えを紡ぐ
「こんな時になんてことを言ってるんですか」
最初に飛び出したのは呆れ、しかし
「でも、おかげで気が楽になりました。怖くなくなったわけではありません。ですが…」
言葉に詰まって下を向いてしまう。
それでもレオニカさんは、マリア様をじっと見つめる。
そうして、顔を上げたマリア様の顔は真っ赤に染まっていて
「ですが、その怖さも貴方と一緒なら乗り越えられそうな気がしますわ」
レオニカの手を取り、
「レオニカ、私の騎士として、そして私の将来の夫として隣を歩いてくれますか?」
問う。貴方の答えを聞かせてほしいと、もう一度教えてほしい
「はい。私は貴女と共にどこまでも」
その答えに満足したように微笑み、目を閉じる。
その意味を察したレオニカがマリアを抱き寄せ…
「感動的」
「それにしても、途中から私達のこと忘れているな」
「まぁ仕方ないですよ。それよりも、あの二人を祝福しなくては」
「そうですね。明日の戦いにすべて勝利して、めでたく盛大に祝いましょう」
そうして、寮の屋上にいた四人は部屋へと戻り明日の決戦に備えて就寝するのだった。
どうでしたか?読みにくい?そこは精進します。
次回から神との戦いに入ります。
外なる神ですが、そうです。某SAN値ピンチのあの神です。
勝てるかって?ハハハ。
それではまた次回!