第6話 最終調整・壱
連続です。後二話程立て続けに出します。
唐突だがこの世界の一年について説明しようと思う。
私の記憶の奥にある、別の世界では一年365日を12ヵ月に分けている。この世界では一年420日で12ヵ月に分けている。つまるところ月35日一週間7日。この日数になったのに理由はないらしい。しかし、とりあえずこうすればなんか区切りやすいだろ、みたいな軽いノリだったと神々は語る。
こんな話をしたのは、今が修行を始めて4週間目の半ば。修行も選挙も大詰めを迎えている。
「今月も終わりに近くなってきたし、全員かなりの修行を積んだことだし、最後のメニューに移りますか!」
「お、てことは全力全開本気の勝負ができるわけだな?」
「私もお酒飲んでいいんですね!?」
「イリスが許可出せばいいんじゃないか?楓は最初からそうさせるつもりのようだし」
「私は、楓がいいなら許可しますよ。最悪の場合、楓が止めればいいわけですし」
「確かに、楓1人でも俺達4人に勝てるだけの力があるもんな。ナズチ一人止めるのは簡単か」
「4人がかりで楓1人に勝てないとか、神としてどうなんだ?」
「それは言わないでくださいよ。自信なくします」
「私が特別なだけだから、気にしなくていいんじゃない?それに、他の神なら二桁束になっても、私には勝てないんだしいいじゃん」
私のおこなった修行の一つに、イリス達4人以外の神との模擬戦もあった。殺しはしないが、全力の神を20人相手にしてどれだけやれるか、それを調べるつもりが…
翌日には倍に増えて、さらに翌日も増えて…わかったことは、イリス達4人が別格で私が異常なこと。
「衝撃発言が飛び出ましたわ」
「神が二桁…捌き切れるもの?」
「楓だから、と納得するしかないな」
「楓さんは、規格外ですね」
「まったくだな!」
エレノアさん達からも驚きの声。…半分は納得のいかない評価だが
「さて、皆さんの実力もついてきましたし、残り時間もあんまりありませんから、最後のメニューに入りましょう」
最後のメニュー、ご存知の通り
「私、イリス、バハムート、フェンリル、ナズチパーティー対エレノアさん、ティアさん、マリア様、レオニカさん、シルヴェルト先輩パーティーでの模擬戦です。全力でやりますが、死なないので安心してください。むしろ、殺す気で掛かってきてください」
メニューの発表が終わると、エレノアさん達は緊張に包まれた。今までは、手加減していた神との修行だった。しかし今日から手加減なし、全力の修行だ。それも5人同時に相手取る。いくらパーティーで、お互いの助けができるといっても、そこまでの余裕はないだろう。
「パーティー戦ではありますが、この人を相手取りたいとかあれば言ってください。要望には応えますよ」
挑発ともいえる余裕な発言。誰が相手でも、此方は誰にも負けないと宣言したようなもの。
イリス達も笑みを浮かべて、余裕の佇まい。エレノアさん達は少しの相談の後、
「楓、私の相手をしてもらう」
「分かりました」
エレノアさんVS私
「他のメンバーは自由に動く、それでいいかな?」
「へぇ~」
エレノアさんは私との一騎打ち。他のメンバーは一騎打ちをせず、状況に応じて戦う。最初はそんなもんか。
「分かった。早速始めるけどいいかな?」
イリス達もエレノアさん達も頷く。
「じゃあ始めようか」
お互いに距離を取り、武器を構え、深呼吸を一つ。
「模擬戦始め!」
合図とともに、私、ナズチ、フェンリルが飛び出し、それに相対するためエレノアさん、レオニカさん、シルヴェルト先輩が飛び出す。
バハムートが飛び出さないのは、今回の模擬戦で彼は、前衛を務めない。神龍魔術を用いた後衛だ。前衛3後衛2同士の戦い。先に前衛が崩れた方の負け。後衛がどれだけその補助に回れるか、面白そうだ。
「久々の全力!楽しむよ!」
「「「「了解!」」」」
「封爪抜刀一ノ型疾風迅雷、ケルビム納刀一ノ型金剛衝」
「封爪解除。狼爪展開!狼王降臨!」
「お酒補充!酔いも回れば力と成る。招来!酒呑童子」
「疾風迅雷(仮)」
「ニディア属性展開!」
「神槍展開!グングニル」
飛び出した六人が同時に身体能力を向上、武具の開放を行う。
「龍術展開遠雷」
「装填。囲め、遠雷結界」
バハムートの展開した龍術をバレットで装填し撃ち出す。
「術式展開雲海」
「装填。散らせ、雲海結界」
マリア様の展開した術式をバレットで装填し撃ち出す。お互いに、バレットをうまく用いた戦術。前衛の支援は簡単には行わせない、という気迫の迫る魔術の撃ち合いが始まる。
「龍術展開。バレット装填。穿てメテオディザスター!」
「術式展開。バレット装填。阻めメテオディザスター!」
「術式複数展開。バレット装填。発射待機」
「術式複数展開。バレット装填。発射待機」
バハムートとティアさんのディザスターのぶつかり合い。マリア様とイリスの補助魔術の展開・待機。ここから、神の力が示される。
「バハムート」
「おうよ!」
「「術式展開。龍術展開。バレット装填。回転。穿ち貫けドラゴディザスター」」
ドラゴディザスター本来の形。龍術と魔術の混合技。省略術式でも本来の火力を以て飛来する。
「術式複数展開。バレット装填。術式発動。遠雷障壁、雲海障壁、金剛招来防御障壁」
「バレット装填。撃て!ドラゴディザスター!」
内心焦りながらも防御術式を展開。威力を抑えるためディザスターで対抗。とっさに行える対策を取る。
そして、直撃。威力を抑えきれず、余波を食らい吹き飛ぶ二人。
「派手にやってるね!龍刃二ノ型風雷旋閃・雷鳴!」
「そうだな!拒めトゥルム、エレク」
私の技に合わせて二本の剣に呼びかけ、ガードさせる。遠隔操作は完全ではなく、呼びかけることによってのみ、操れる。
「狼爪尖刃!」
「ニディア展開!グランドウォール」
フェンリルの爪を、ニディアの力で展開した壁で防ぐ。
レオニカさんは修行の中で、新しいニディアの使い方を覚えた。周囲の属性を利用し攻守に活かす。成長したレオニカさんとニディアだからできる戦法。属性変換の制約もなくなったようだ。
「酒池!乱舞!」
「神槍副武装展開聖鎧!弾け!」
ナズチの一撃を、騎士王の力を使い弾く。弾いた先には
「バレット装填!」
ティアさんが、ちょうど術式を展開したところだった。
「狙ったね?」
「もちろん。誰かの一撃を弾いて、ティアさんに託す作戦です」
「マリア」
「ええ!」
「「術式展開。バレット装填。沈め!狂い酒!」」
酔った鬼の力を使うとそうなるのか。
「ナズチ、飲むなよ?」
飛び出そうとしたナズチをバハムートが止める。しかし、
「それは、振りというものだな!」
そういって飛び込んだ。結果
「すまん。私はもう無理だ」
倒れた。完全に酔いつぶれている。自分の力を返され、酒におぼれて倒れる。あいつが神でいいのかな?
「神槍展開。副武装聖槍展開!穿て!グングニル!ロンゴミニアド!」
「属性展開。属性開放。模倣!ニディア、グラン・ゼ・カタストロフ!」
レオニカさんとシルヴェルト先輩の技がフェンリルに襲い掛かる。
「あ、やばい。受け流せな」
ド――ン!! そんな音を響かせ直撃。
煙が晴れたそこには、目を回したフェンリル。
「イリス…」
「言いたいことは分かりますが言わないでください」
「これが神でいいの?」
頭を押さえるイリス。半笑いのバハムート。目を回してるフェンリル。酒に溺れたナズチ。
まともなの一人だけじゃん。バハムート?微妙かな。
あっさりと二人脱落したことに、エレノアさん達も驚いているようだ。あの二人、若干ふざけてる部分があったな。
「二人とも後で私と稽古ね」
抑揚のない声でナズチとフェンリルに告げる。当人たちは、寒くもないのに震えていた。なんでだろうね?
「イリスの弟子なだけあるな。抑揚のない声で喋られると、背筋が凍るぜ」
「あなた達の弟子でもあるんですから、しっかりしてください」
後ろの二人も、もう少し本気になってほしいんだけどなぁ~
「まぁ、四人の分も私が全力でやればいいかな。イリス、バハムート、フェンリル、ナズチ、少しだけいいかな?」
「最初からそうすればよかったのでは?」
「その方が効率いいよな?」
「やられた意味よ」
「あなた達が不甲斐ないから、それを叩き直そうとしたんですよ」
四人の言葉を了承と受け取り、開放する。
「抜刀、解魂」
6本の刀に封じられた力を開放する。
「精霊刀楓、鬼呪ナズチ。舞ノ型、鬼神ノ舞壱、炎舞・朱雀」
2本の刀と私の腕が炎に包まれる。
「では皆さん、死ぬ気で掛かってきてくださいね?」
刀が閃く。同時にエレノアさん達の体に無数の斬撃が走る。
「速い!」
「痛いですわ!」
「反応できませんでしたね」
「これ防げるの?」
「現人神の力なのかも」
いつもティアさんは正解を的確に当ててくる。洞察力すごいなぁ~。
「次行きますよ。精霊刀楓、龍刃・帝王。舞ノ型、龍王ノ舞、弐ノ龍・氷帝」
ナズチを納刀。代わりに龍刃を抜刀。即座に舞ノ型移る。背後に吹雪を纏う龍の姿が出現。
距離をとっても寒さに襲われ、刀を受ければ受けたところが凍り付く。
「レオニカ!ティア!マリア!」
「承知!ニディア属性開放!炎熱地獄!」
「「バレット装填!阻め!炎熱結界!」」
「プロクス!黒釜!」
エレノアさんの呼びかけに応じ、炎の結界を四重に張る。反応できれば、このくらい対応できるか。
「次」
「まだあるのか!?」
「少なくとも、六種類はありそうですね!」
「組み合わせがあるみたいだから、五種類!」
「後三種!耐えてみせますわ!」
強気な五人。未だ脱落者が出ていないのは、修行の成果が出ているからか。朱雀の傷は決して深くはない。一つ一つの傷は浅いが数が多い。それなら、すぐに直せる。
「精霊刀楓、封爪/グレイプニル。舞ノ型、爪牙ノ舞、参ノ獣・創牙」
朱雀と正反対の性質の連撃。数は少なかれども、一つ一つの傷は深く残る。それも、治療不可能な傷となって。
「これも速い!」
「そのうえ、傷がふさがらない!」
「無茶苦茶ですわ!」
「武闘祭が茶番のようですね!」
「今の楓からしたらその通りだろう!」
これを食らってもまだ折れない。強くなってるようで何より!さあ!次だよ!
「精霊刀楓、血呪・眷刀。舞ノ型、始祖ノ舞、肆ノ始祖・エンプサ」
これは、男のみに効果を及ぼす。女は攻撃を食らっても、ただの傷にしかならないが、男が食らえば傷口から血があふれ出す。
舞ノ型はどれも連撃技。舞とは名ばかりではあるが、攻撃にも手順があり、それをなぞって発動する。ある手順さえなぞれば、軌道変更も思うがまま。
ケルビムにも舞ノ型は存在するが、補助系の物のため今回は使わない。
流石にこの技を受けたレオニカさんとシルヴェルト先輩は脱落。
「レオニカさんとシルヴェルト先輩はイリスのところに。治療してもらってください」
二人の治療を任せ、残った3人と対峙する。
「舞ノ型は終わりか?」
「ケルビムは使わないの?」
「背中の大太刀も使わないんですの?」
まだ続けるだけの胆力があるのか…今日はそろそろ終わりにしたいし、
「その2本は使いません。けど、次で終わりにします。かなり痛いので、気絶しないでくださいね?」
そう言って、精霊刀と血呪を納刀。しかし、血呪には手を添えたまま。
「二人とも気を付けて」
「ん。バレット装填。拒め、血界」
「バレット装填。術式複数展開。阻め、氷炎障」
ティアさんとマリア様が結界を張る。けど、
「ティアさんの方は悪手かな」
血呪に手が添えられた状態で、血を用いた結界はダメでしょう。
「しまっ」
「血呪・眷刀、抜刀、終わりの太刀壱番、抜血・劍山」
抜刀、納刀。瞬きの間に済まされた抜刀。その効果は
「斬り裂いた相手の体内外問わず、周囲の血を使い劍山を作り出し、串刺しにする。今日はこれでおしまいです」
血が劍の形を成し山となる。その頂上にはエレノアさん、ティアさん、マリア様が。ついでにフェンリルとナズチも刺さっている。
「解除」
一声の後、エレノアさん達3人が落ちてくる。それをイリスと私とフウちゃんで受け止める。
「帰って食事にしますか」
「私が作っておきましたので、3人が目を覚ましたら食事にしましょう」
「イリス様の手料理ですか!?」
「光栄です!」
5人は後ろから聞こえる声を無視して進んでゆく。
レオニカさんとシルヴェルト先輩は、何か言おうとしたがすぐさま順応した。流石だ。
「「待って!楓!おろしてよ~!!」」
皆の食事が終えた後、二人はちゃんと降ろしてもらえました。
「本気とか言って、半分遊んだでしょ?明日からは本気でお願いね」
「「仰せのままにお姫様」」
「…もう一回劍山行く?」
「「ごめんなさい。ふざけすぎました」」
神のほれぼれするような土下座。泣きたくなる。