第2話 校内の反応と楓の寝顔
生徒会会長立候補者
・天藤楓 総合戦術棟二年
公約・ただシンプルに、
この学園が創立された意味を果たすために全力を尽くします。
それが果たされたなら、生徒が有意義な学園生活を過ごせるように尽力します。
それが、翌日掲示板に張り出された、楓の表明だった。
「この学園の創立の意味?」「そんなの、俺たちを指導するためだろ?」「それに、その後のことも漠然としすぎてるんだよな」「まぁでも、ほかに立候補者いないんだよな」「可愛いからいいんじゃないか?楓ちゃんなら、何かやってくれると思うぜ!?」「楓ちゃんだからって信用しすぎだよお前。わからなくないけど」
掲示板の周りには多くの人が集まっている。その注目は当然立候補者の公約に集まる。
今後、自分たちを引っ張っていく存在だ。どんなことをしてくれるのか気にならない方がおかしい。
「さらに言ってしまえば、今回の役員立候補者を見るに、何でもできそうなメンバーそろってるから、結果は見えてるよな」
「そうだな。マリア様にエレノアさん、ティアさんにレオニカ。この四人が示し合わせたかのように別役職に。…会長がだれになろうと全力でサポートし、彼女が一人ですべてを背負わせないようにする、か。彼女って言ってる時点で、だれが会長になってほしいかがわかるよな」
昨日、花畑から戻ったシルヴェルト先輩は学園長のもとに向かった。そしてほかの四人は、自分の出した公約を変更しに生徒会室に向かった。彼女が何かをしようとしているのに、何もできず、彼女を見送ることしかできなかった。だから、彼女が困ったときに少しでも力になれるように。どんな些細なことでもいい。力になりたい。まだ出会って数日ではあるが、彼女は皆にそう思わせるものを持っているのだろう。
「私は楓ちゃんが生徒会長でいいと思うな」
「楓ちゃん派のやつはみんなそう言うだろ」
「レオニカやマリア様、エレノアさんが会長に立候補しないのは意外だったな。何かあるにしても違う形があっただろう」
「そうかもしれませんね。でも、そうしなかった」
「シルヴェルト先輩!?」×多
「この公約を提出しに来たのは、彼女の精霊です。本人が直接来ないのはあまりよろしくないんですが、彼女は今、その何かに対応するために行動しています。マリア様達も詳しい話は聞いていません。ですが、彼女の去り際の表情を見て何か思ったのでしょう。その結果がこの公約です。ちなみに、立候補する役職を決めたのは、町の飲食店で軽く済ましてましたよ」
「軽く済まして…?先輩もしかして」
「はい、僕が皆さんに提案しました」
「「「「……」」」」
「優秀な人材は確保しておきたいでしょう?あ、それと、なるべく多くの生徒に知らせてください。明日、楓さんから立候補に関しての大事な話があるから、できるだけ闘技場に集まってほしいと。学園長からの許可も得てますので」
そう言葉を残して、シルヴェルト先輩はどこかに向かっていった。
「大事な話、しかも学園長の許可が必要?」
残された生徒は、その言葉を繰り返し、多くの生徒の知らせていった。
その日の放課後。マリア、エレノア、ティア、レオニカ、オーデン、学園長の六人は、楓の部屋の前に来ていた。
「入っていいのじゃろうか?」
「ノックすればよろしいのですわ」
「そうじゃったな」
コンコン……
「反応がありませんね?」
「もう一度」
コンコン……
「留守?楓は今日、学園に来ていないから留守の可能性はある。だが、」
「自分が呼んでいて、留守にするなんてるのか?」
「何かあったのか?」
「楓に限ってそれはないと思う」
「ですが…」
「なら、入ってみましょう」
このままでは埒が明かないと判断した、オーデンの判断で部屋に入ろうとした、その時
「あ、皆さん。もう来たんですね」
背後から声を掛けられた。それも聞いたことのある声で
「「「「「フウちゃん!!」」」」」
「…フウちゃん?」
「どうしてそうなったんです?怒らないんで教えてください」
「楓って『ふう』って読むでしょ?」
「楓精って語呂悪かったから、昨日相談して決めた」
「なるほど。まぁそれは置いておいて、部屋に入ってもらって大丈夫ですよ」
「楓は中にいるの?」
「いますが、今はたぶん寝てます」
「「「「「「寝てる?」」」」」」
「昨日のあれから、少し前まで、力の使い方の練習や儀式やらなんやらで、寝てませんでしたから」
「そんなに…」
「気にすることはないですよ。姉様が選んだ結果ですから。さあ、どうぞ」
再度、フウちゃんに促されて部屋に入っていった。
そこに先ほどの通り、楓が寝ていた。
「…可愛いな」
「可愛いですわね」
「可愛い」
「男が見ていいかわからんが、確かにかわいい」
「オーデンよ。儂、孫娘が欲しい」
「学園長落ち着いて。皆さんもですよ。可愛いのは分かりましたから」
ベッドに丸まるように眠る姿は、部屋に入ってきたものを魅了した。中身は男だが。
「姉様~皆さんが来ましたよ~」
フウちゃんが呼びかけるが起きる気配がない。
「姉様~」
フウちゃんが揺すりながら呼びかけるが、起きる気配がない。
「…姉様~御飯ができましたよ~」
フウちゃんが物で釣ろうとするが、起きる気配がない。
「…エレノアさん。エレクの電撃で起こしてください」
「え、いやしかし」
「構いません。やっちゃってください」
「…はい」
満面の笑みで迫るフウちゃんに押し切られる形で、エレノアはエレクを呼び出した。
「ごめんね、呼び出して。彼女を起こすから、少し強めに電撃お願い」
「姉様~今起きればケガをしなくて済みますよ~」
………
「エレノアさん」
「はぁ~。すまん楓」
謝罪を一言。ためらいなく、電撃を楓にあびせる。しかし
「スゥ~スゥ~」
「起きませんわ」
「なんで今の受けて寝てられるんだ」
「さすが超人」
「何か違う気がするのじゃが?」
「ある意味では、超人ですね。確かに」
電撃を食らってもなお眠る楓。その姿を前に皆、あきれていた。
「…姉様…ケルビム抜刀一ノ型一番鉄槌!」
フウちゃんが怒りをあらわに刀を振り下ろす!
「「「「「「フウちゃん!?」」」」」」
その叫びは刀がぶつかる音にかき消された。
「ねえフウちゃん?起こしてくれるのはいいけど、ケルビムを使う必要はないんじゃないかな?」
「電撃食らって起きない姉様が悪いです」
振り下ろされた刀を、とっさに抜いた封爪で受け流し、言葉を交わす二人。皆はその技に目を奪われる。
刀が直撃する寸前、封爪を振り下ろされる軌道上に置き、直撃の瞬間その力を受け流す。
直撃の瞬間に刀を逸らすだけだが、実際にやるのはかなりの難度だ。かなり刀になれていないとできない。それを寝ころんだ体制から、片手で目を閉じたまま行った。さすがに驚くだろう。
「皆さんもすいません。お待たせして」
刀を納刀しながら身を起こし、謝罪する。
「では、昨日の私たちが見たもの、そしてその後のことを話しましょう」
「姉様、その流れで始めるのは…」
「いいじゃん別に~」
「…楓、雰囲気変った?」
「ティアさんよくわかりますね」
「雰囲気?」
「雰囲気というより、纏う気配?言葉にするのが難しい」
「それについても説明します。私に起こったこと、そしてこれからこの国に起きるであろうことを」
おまけ
寝ている楓を見た皆の心情
エレノア
…正体は男のはずなんだが…オリジナル魔術を使って、フウちゃんを基礎に変装してるらしいが、だからってここまで可愛くなるのか?男の、柊もかっこいいと思った。正直言えば一目惚れした。元から女の子は好きだった。男に価値はないと思っていたところに、柊がやってきて、男に惚れたと思ったら、この美少女。もう!ほんとにどうすればいいんだ!?
…いっそのこと、告白してしまうか。いやでも、武闘祭の時に…
ティア
可愛い。マスコットみたい。私より若干身長も低い。丸まってるから小動物に見える。多分エレノアは心の中で悶えてそう。
シルヴェルト先輩
女性の寝顔を覗くのは良くないんですが、可愛いですね。確か、正体は男のはずなんですが、そんなことどうでも良くなるほどに、可愛い。小柄で丸まって寝ているから保護欲を掻き立てられますね。
マリア様
か、可愛いですわ!!欲しいですわ!相手は人だから欲しいじゃなくて…私専属の付き人にしたいですわ!頼んだら受けてくれないかしら。
レオニカ
以前彼女に告白しようとしたが、これは…自分のものにしたいな。どうして彼女はこんなに可愛いんだ!?楓ちゃん派に入って正解だった。
学園長
………オーデン、早く彼女作って結婚しないかな。それで早く可愛い孫娘を…
可愛い孫娘を!?
選挙はおまけなんです。
演説も楓自身のもの以外は割愛して、文化祭の方に時間を割きます。
今週中には文化祭のための会議が始まります。多分。最悪来週の頭には。