女の子の胸ポケットの中で
「たけしさん!たけしさん!」
気がつくと僕は、かおるちゃんの手のひらの上で腰を抜かして気絶をしていたようだ。
「たけしさん起きてください!えっと…。驚きましたよね…。お願いですから目を覚ましてください!」
しばらくすると、やっとかおるちゃんの声が耳に少しだけ入ってきた。僕は薄っすらと目を開けた。
「良かった…。たけしさん、見えますか?」
目の前で、かおるちゃんがもう片方の手をブンブン振って、僕の意識を確かめようとしていた。
すると、ハッと突然我に帰った僕は、かおるちゃんの手のひらの上で、大きく息をした。息は吸える。うん。でも、やっぱりかおるちゃんの手は大きい。
僕が現状が理解できずにアタフタしていると、途端にかおるちゃんの顔が近づいてきて、目の前に大きな目玉がギョロリと動いた。
「ひぇ〜!」
とっさにたけしは、女の子のような高い声でビビった声を出してしまった。
「あ〜驚かせてしまってごめんなさい。小さなお人形みたいなたけしさんも可愛いですね。」と、
かおるちゃんは冷静な口調で話し、うふふと笑っていた。
すると、かおるちゃんが僕を軽々とつまみ上げ、カバンの中に突っ込んだ。少々僕の扱いが荒いので驚いた僕は、もう少し優しくしてよ…と心の中で叫んだ。
「今日はこのままで学校まで行きましょう。」
かおるちゃんは張り切って歩き始めた。
つまり、かおるちゃんが巨大化したままで、僕は小さなままで学校へ向かう?ということか…。
「……。」
僕はいろいろと心配で、鞄の中で無言になってしまった。
かおるちゃん電車に乗れるのかな?改札の通り方、知ってるのかな?制服が違うけど…どうすんのかな?というか、僕小さくなってるし学校行けなくないか!!!?
鞄の中で頭を抱えた。
そんなことは知りもせず、ズンズンと歩いて駅へ向かうかおるちゃんであった。
しばらくすると、駅に着いた。
「たけしさん。お〜い。たけしさん。」
こしょこしょ声で鞄の中に向かって話しかけるかおるちゃん。
「カードはどこですか?」
あぁ、定期券のことか…。僕はすぐに鞄の内ポケットから定期券を手渡した。そして、
「ピッてやるんだよ。」と教えてあげた。
「知ってますよ!毎日見てましたもん!」
かおるちゃんは得意げに定期券をピッとやってから改札を通り抜け、電車に飛び乗った。
そして、学校の最寄りの駅に無事に着き、電車を降りた。ここまではスムーズだった。まさか、妖精とは思えないほどの人間と同様の動きを見せた、かおるちゃんであった。
「たけしさん!お昼ご飯買いますか?たしか今日は、忙しいからお弁当買って行ってねってお母さんが言ってましたよね?あそこのいつものコンビニで買いましょう!!」
完全にかおるちゃんのペースに飲み込まれている僕は、「そうだね…。」と答え、身も心も小さくなった気持ちになっていた。
コンビニに入ろうとすると、
「たけしさん!出てきてください!お金!お金がわからないです!」と、
焦った顔で言うかおるちゃん。
そうか、妖精さんの世界ではお金なんてないのか…。と僕は気がついた。
するとかおるちゃんは、
「ここに入っていてください!」と言って、僕を持ち上げ、制服の胸ポケットの中に入れた。
女の子の胸ポケットの中に入るなんて、人生で初だ。というか、世界初なんじゃないかと考えると頭がクラクラしてきた。クラクラしてきたと思ったら、ユラユラ揺れている。地震か?いや、違うなぁ。トランポリンかな?いや、違うなぁ…あぁ…ここは女の子の胸ポケットの中か…。たけしは、あったかくて、ユラユラ揺れて夢見心地になりながら、ああだこうだ考えていた。
「たけしさん!たけしさん!お金!これが100円ですか?これであっていますか?」
かおるちゃんは、一生懸命お金の計算をしていた。女の子が持つにはちょっと趣味の悪いお財布と、女の子にしてはやけに地味で臭そうな僕の鞄を持って、コンビニで格闘していた。そんな姿もまた可愛いらしい。
コンビニで、何とかお会計を済ませ、お弁当を買うことができた。さて、学校へ向かおう。いや、待てよ…と、僕は思った。
僕の体は小さいままだ。かおるちゃんは大きいままだ。
一体、今日は一日、どう過ごせばいいのか。