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かおる小町*連載版  作者: 風奈多里
かおるさんと僕
3/27

タイミングとセンスはスローモーションから

「おはようございます。たけしさん。」


「お、おはようございます。」


朝一のかおるちゃんはやっぱり緊張する。最近、ちゃんと目を見て挨拶できるようになってきた。




朝起きると僕は、顔を洗って、朝食を食べにキッチンへ向かった。




あれ?なんだかいつもと違う?


なんだかスムーズだ。


いつもと違う異変に気がつき、かおるちゃんの顔を見ると、いつも以上にニッコリ笑っていた。


「あの…。何か変わったことありましたかね?」


僕は、なんとなく不気味だったので早めに聞いてみた。


「朝、起きる時間を5分早めました。ほら、少し早めた方が妹さんとも洗面所で落ち合わないし。」


なるほど。そういうことだったのか。


この不気味ないつもと違う感じは、朝から妹と顔を合わせていないから感じていたのか。


いつもなら、朝から妹と喧嘩をして、僕は不機嫌だもんな。


朝から妹と落ち合わなければ、こんなにも穏やかに朝を迎えられるのか。


それにしても、それを逆に不気味に思ってしまったとは、僕の心は病んでしまったのか。


かおるちゃんは、変わらずニッコリと微笑んでいた。






「いただきます。」


今日の朝食は、パンだった。


いつも通り無言でムシャムシャと食べる僕。


すると、かおるちゃんがパジャマのポケットからひょこっと顔を出してこう言った。


「たけしさんのお母さん、今日は様子がおかしいですね。不機嫌なようです。」


ん?そうかな?僕は、自分の母親のご機嫌などは、気にしたことがなかったからわからなかった。だって、お母さんはいつも優しいから。とても穏やかな性格の両親だと思っていた。


すると、かおるちゃんは、朝から、むむっと顎に手を当てて、僕の母親をよく観察していた。






今日もいつも通り学校へ向かう。もちろん、かおるちゃんに注意されたあの日から、イヤホンはちゃんと付けてはいない。


通学中、イヤホンをつけない代わりに、かおるちゃんがとてつもなく話しかけてくるようになった。


「あの、イケメンたけしさんはどこに住んでいるのですか?」


かおるちゃんは、朝から、僕に質問ぜめだ。イケメンたけしくんのことやナチュラル系美女のかおりちゃんのこと。でも、そのほとんどが答えられない質問ばかりであった。


「わかんないです。あまり仲良くないもので。」


僕は、そんなのわかんないよ…と、弱気になりながら返事をした。それでも、かおるちゃんは、いろいろと聞いてきた。女の子ってすごいな。




「そういえば、消しゴム返してもらいましたか?」


かおるちゃんが、急に思い出したように聞いてきた。


「あっ、いや、まだ返してもらってないです。」


僕は、貸したことも忘れていた。イケメンたけしくんとは、特に関わることもないし、話すこともないから返してもらおうとなんてしていなかった。


「それはいけませんね。今日返してもらいましょう。」


別に使っていない消しゴムだし、返してもらわなくてもいいのになと、僕は少しだけ思った。




朝、いつものように学校へ着くと、かおるちゃんがすぐに僕をツンツンと突っついてきた。


「たけしさん。ほら、イケメンたけしさんが来ましたよ。消しゴム。」


僕は少し面倒くさかったから、体が重かった。仲良くもない人に話しかけるのは、とても恥ずかしい。自然とモジモジした動きをしてしまった。


たけしは、恐る恐るイケメンたけしくんの背後に近づいて行った。そろりそろりと、まるで、何分も時間が経ち、目に見える教室の風景が、スローモーションに感じた。




そして、勇気を出して声をかけた。


「あの…。」




すると、イケメンたけしくんが、クルッとたけしの方を見て、すぐに返事をしてくれた。


「あっ、おはよう。この消しゴムありがとう。」


イケメンたけしくんは、爽やかでとてもキラキラしているように見えた。




消しゴムを返してもらったイケメンではない普通の方のたけしは、その日は一日中、イケメンたけしくんに話しかけてしまったことが脳内リピートされてしまい、授業中もなぜか上の空であった。




帰り道、また、かおるちゃんが話しかけてきた。


「消しゴム、返してもらえて良かったですね。たけしさん、とてもナイスなタイミングで話しかけてましたよ。」


そうかな?と僕は疑問に思った。正直、話しかけるタイミングなど気にしたことがない。


「ほら、話しかけてもタイミングが合わなくて、なかなか気づかれないっていうこともあるじゃないですか。今日は、曖昧な感じが全くなくて、コミュニケーションできてるって感じがして、見ていてとても安心しました。まぁ、センスの問題もあるのかもしれませんね。たけしさんは、とてもセンスがありますよ。」


僕は、かおるちゃんが言っているようなことは、何一つ気にしたことはない。ただただ恥ずかしくて、話しかけることだけが精一杯だったからだ。



でも、タイミングがいいとか、センスがあるとか、かおるちゃんは沢山沢山褒めてくれた。


「あ、ありがとうございます。」


僕は、褒められると気分が良くなった。うじうじと気にしていた小さなことが嘘のように消えていった。




「たけしさん、ノート。今日のこともノートに書いておきましょう。」


「あ、はい。」


僕は、今日の出来事をノートに記した。








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