表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつかの君を、救いたい――  作者: 三日月 和樹
3/26

3

 日曜日。先生方の手伝いで、ある意味活動内容の薄い部活『動』よりも『動』しているのではないだろうかと思ってしまう日々の疲れを癒す大事な休日にボクは……妹の由奈(ゆな)とカフェに来ていた。

「新しくできたカフェに行ってみたいから、付いてきてくれよ兄さん!」

 と言われたがためである。ボク一人では、絶対にこういう店には入らない。ていうか、おしゃれな雰囲気が漂っていて入りづらい!!

 粗暴な性格の我が妹だが、こういうおしゃれなカフェに来たいと思うのは、やはり女子だからだろうか?それとも、ボクがこういう店に興味がないのがおかしいのだろうか?

「お客様、ご注文はお決まりですか?」

 そう聞かれ、妹はすぐにカフェモカを頼んだ。ボクはこういうのはよくわからないので、「同じのください」と頼む。

 店内は、女子高生やサラリーマン。特に、若い人たちが多かった。よく見たら、ボクと同じ高校の生徒もいる。

 ……ん?あれはたしか、加納さんだっけ?

 加納さんは、端っこの席に一人で座っていた。

 友達と一緒に来ている人が多いこの店で(ボクは家族とだけど)、一人だけ端っこ。しかも窓側の席に座っているその姿は、なぜか格好よく見えた。

 ボクがずっと加納さんの方を見ていると、ボクの注文した分も持って、妹がやってきた。

「もう、兄さん。勝手にどこか行っちゃったら困るよ。まぁ、あたしが誘ったから奢ってあげようかな。うん、奢ってあげるよ兄さん」

「え、あ、うん。ありがとう」

「あー、さっすが兄さん!あそこの窓際の席の横の席。空いてるじゃん!行こうよっ」

 うん、分かった。じゃあ、そこに……ん?もしかして、その席って加納さんの席の隣じゃね?

 ボクと由奈は、加納さんの席のとなりの席に座った。

 どうやら、加納さんはボクには気づいていないらしい。

 二日連続(翌日も短時間だったが、残りの物の整理をした)で会っていたはずだけど、すでにボクのことは忘れてしまっているのだろうか?

 ボクがチラチラと加納さんに目を向けていると、

「どったの兄さん……」

 そこからは、何かに気付いたように由奈が声を小さくした。

「兄さん、あの人のこと気になってるの?」

 突拍子のない由奈の言葉に、少し焦ってしまう。

「別に、そういうわけじゃないから。断じて違うから」

 なぜ変に焦ったのか自分にも分からないが、こういうことを聞かれたのがあまりなかったからだと思う。

「え~、絶対そうだと思ったのにー」

「思い付きで判断するなって……マジで」

「あら、えっと……」

 店から出ていくところだった加納さんが、ボクに気付いた。顔は覚えていてくれたようだが、名前は出てこないらしい。

「久しぶり、加納さん」

 そんな、なにも親しくはないが、ボクはまるで友達化のように声をかけてしまった。が、声をかけ、そこで自分の発した言葉のおかしなところに気が付く。ていうか、こういう時はどう言えばよかったのだろうか?本気で分からん……。

「ごめんなさい。あなたの友達の赤井君の印象が強すぎて、あなたの影が薄いってわけではないんだけど……」

 ボクは次の言葉が見つからず、加納さんは必死にボクの名前を思い出そうとしてくれている。ごめんなさい……影が薄くてごめんなさい!

「才川です。才川正規。私は、才川由奈って言います」

 助け舟を出してくれたのは、我が妹だった。

 昔から、ヒトとしゃべるのがあまり得意ではなかったボクを助けてくれたのは、由奈だった。そこに関して、ボクはすごい感謝している。

「妹さんだったのね。てっきり、才川くんの彼女かと……」

「それは絶対にないんで!!」

「うん、ないんで」

 勢いよく、瞬間的に答える由奈と、淡々と答えるボク。

 そんなボクたちを見て、何を思ったのか加納さんは優しく微笑んだ。

「そう。でも、やっぱり兄妹ね。顔つきも行動も全然似てないけれど、それでもどこか似てる」

「……あの、加納さん。いえ、加納先輩って呼んだ方が良いですか?」

「どちらでも」

「じゃあ、加納先輩と呼ばせてください。……加納先輩は、ごきょうだいは?」

「いるわ。いまはもう大学生の姉が一人」

「へぇ~、私にもいるんですよ。どうしようもなくおじさんくさい兄が」

 待て妹よ。それってまさか……。

「それって、もしかして才川くんのこと?」

「もちろん!」

 何がもちろんだよ!?今日来たのだって、ボクが優しく頼れるお兄ちゃんだからだろうが!

「ほら、そういうとこだよ兄さん。兄さんの考えてることくらい簡単にわかっちゃうんだからね」

 コイツ……!!

「ふふっ、それじゃあ、また。才川くん」

 そう言って、加納さんはカフェから出て行った。

「兄さんに女子の友達がいたなんて、びっくりだよ!」

「友達ではないよ。まぁ、知り合いってとこ」

「ふぅ~ん。それにしては、向こうから気づいてくれたりとか……もしかして兄さん、モテ期でもきたんじゃない?」

 それを聞いて、ボクも突っかかっていた何かが取れた気がした。

 経った二日間、先生を手伝った仲。だが、そんな関係なら別にわざわざ話しかけなくてもいいだろう。しかも、よく考えたら二日目は量が少なかったから、加納さんは用事があるからと先に帰っていた。

 ボクの突っかかりは、疑問へと変わった。

 別に変なことじゃないんだろうけど、なんでわざわざはなしかけてきたんだろう?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ