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いつかの君を、救いたい――  作者: 三日月 和樹
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「先生!!」

 突然、長谷川先生の後ろから彼女を呼ぶ声がした。

 先生は後ろ、倉庫の入り口の方を見る。そこには、夢さんと千穂さんがいた。

「あなたたち、どうして……」

「ボクが呼びました。先生も一緒に捕まるとは予想してはいなかったけど、加納さんみたいに、最終的にはボクもこの倉庫に連れていかれるんじゃないかと思いまして」

 そもそも、この作戦は捨て身だった。いや、作戦でも何でもないのかもしれない。加納さんの『再生』について、彼女がこうなってしまった始まりを知りたかった。頭を使った作戦ではまったくないが、もしかしたらが的中した結果だったのだ。これに関しては、ただ運が良かったと言う他ない。

「先生!どうか、その銃を下ろしてください。話は聞いちゃいました。私たちも妹さんを助けたい」

 夢さんの隣には、決意を胸にしっかりと両足を地面につけて立っている。

(加納さん……決心してくれたのか)

 先日、ボクが加納さんに抱いていた違和感の正体がボクには分かっていた。、死んでも蘇る自分の能力や面倒くさいくらい懸命なボクや中野さんを見ていて疲れてしまったのだろうか。きっと加納さんはもう『諦め』ていたんだと思う。だけどこうして、彼女はここに来てくれた。ということは、向き合うことにしたんだ。

 自分の置かれている状況と、その試練に。

「夢さん。許してはもらえないと思うけど、私はあなたたちを騙して、取り返しのつかないことをしてしまいました。ですが、もうあなたたちを巻き込みたくない」

「千穂さん、あなたにはきっと謝ることも許されないでしょう。私には、あなたたちと話すこともあなたたちに許される権利もありません。そんなことをされては、残忍なことが出来る私は死んでしまうでしょうから」

 そう言うと、先生はボクに向けていた銃を下ろし、千穂さんを見た。

「全員を殺すことは出来ないわね。だって、一人は生き残ってしまうのだし」

 千穂さんは俯き、姉の左手の袖を力強く握った。そして、決意した顔で先生を見る。

「私は、先生を恨んでいます。もちろん、許すこともできません。この“呪い”に気付いてから、いつか気が狂ってしまうのではないかとか、ちゃんと寿命で死ねるのかとか、そんなことばかり考えてしまうようになりました」


「でも……私がこうなってしまってまで先生が救いたかった妹さんのことを、私は恨めません。最後までやらなくちゃ、私がこうなった意味がない。それに――私も妹です。先生の妹さんが想っている姉への気持ちは分かると思います!」


 静寂が、倉庫内を包んだ。しかし、それを破ったのは意外にも先生の笑い声だった。


「ふふっ、フフフフ……そんな風に、思ってくれていたのね。ありがとう、ちゃんと私を恨んでくれて」

 言って、先生は銃口を夢さんと千穂さんの方に向けた。

「おかげで、頭の中の整理が出来たわ。あなたが生き返るのにはあの子が持っている薬が必要なはず……だとしたら、逃げられる前にあなたたち二人を殺す」

 次は俺を見る。

「最後に才川君、あなたよ。一番出入口から遠い位置にいるのだし、まさか施設に逃げ戻るってことはないでしょう」

 そして先生は、加納さんたちの方に向き直る。

「動かないでよ、才川くん。倉庫内で走ったりしたら音で気づきます」

「ダメ!!」

 千穂さんの前に夢さんが立ちふさがり、千穂さんを抱きしめた。

「妹はもう殺させない!」

「お姉ちゃん、でも私は……」

「関係ない!私は姉よ。妹を守ることもできないなんて醜態は晒さないっ!!」


「……ええそう、それでいいのよ。妹を守るのは姉の使命なんだから、しっかりと守りなさい!!」

 走っても、後ろを向かれたら撃たれて死亡。ゆっくり近づいている暇はない。この状況を打破することが、ボクにはできない。出来るのは……

 ボクは自分が出てきた施設の出口の方を見る。そして、目を剥くことになった。


 バンッッッッ!!


 倉庫で反響する鼓膜が破れてしまうくらいの大きな音。

 加納姉妹はさらにきつく抱きしめ合い、先生は予想外の方からの銃声に身をすくませた。

 その場にいた誰もが唖然とする。

 でも、一人だけ、ボクだけが違った。

 ボクだけが、被害者に“なれた”。

「才川さん!?」

 次の瞬間、ボクは口から血を流しながら崩れ落ちた。その身体には、一発だけ銃痕があった。

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