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いつかの君を、救いたい――  作者: 三日月 和樹
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 この道が最後に整備されたのはいつなのだろうか。

 車の通れるほどには整備されているが、車が蔦や木の棒を踏むたびに振動が伝わってくる。

「ありがとうございます。夢さんからいい心霊スポットがあると聞いたものですから」

 助手席に乗っているボクがお礼を言うと、運転席の先生はため息を吐いた。

「本当はこんなところに生徒を連れてきちゃいけないんだけどね」

「それは、どうしてですか?」

「危ないからに決まってるでしょ。あなたくらいの男の子は高校生になったからって、中学生の時よりも自由が聞くようになったから危険なのよ」

 ボクが、一人では行かないですよと言うと、何人で行っても関係ないのと言われた。

 腕時計を見ると、針は夜の11時くらいを指していた。

 もう一時間くらいは、車のヘッドライトの明かりで照らされた変わらない鬱蒼とした森を見ている。

「全く、まぁ、私に言ってくれただけまだ君はマシね」

 マシって……。

「もうすぐだから、懐中電灯は忘れずにね?グローブボックスの中にあるから」

 言われた通り、ボクは懐中電灯を取り出し、しっかりと手で握る。

「……こんな風に、あの日もここにやってきたんですか?」

 ――キッ

 車は止まり、先生は自分の懐中電灯を持って外に出た。

「着いたわよ。もう遅いし、ちょっと見たらすぐに帰りましょ」

「もちろん、あまり遅いと親に怒られちゃいますしね」

 その建造物は蔦に埋もれ、真っ暗な視界ではどのような形状なのかも分からない。

 中に入ると、これが廃墟の建物だと分かりやすかった。壁を伝う蔦、そこら中に落ちている落ち葉、どこから入ってきたのか分からない土。

 ボクと先生は懐中電灯を点け、上に上がる階段を目指した。

「だ、大丈夫かしら。崩れてきたりとかしないわよね?」

「分かりませんけど、大丈夫なんじゃないでしょうか」

「才川くん、適当に言ってるでしょ」

「適当じゃないですよ……フラグが立っちゃいますから、もうこの話はやめにしましょう」

 ボクがそう言うと、先生はそうねと言ったきり、話すのをやめた。

 探していたのは数分間で、ボクと先生は上に上がる階段を見つけた。

「ありましたね」

「ええ、でも、さすがにこの建物の二階に上がるのはやめておいた方が良いかもしれない」

「同感です。それじゃ、戻りましょうか」

 呆気なく二階に上がることを拒否したボクに、先生は驚いていた。ここに来てみたいと言っていたボクが意外に興味が薄いのが不思議なのだろう。

「もしかして才川くん、こういう所は苦手?」

 どうやら、ビビっていると思われたらしい。だが、別にそれでもよかった。

「そんなことはないですけど…」

 ボクは時計に目を落とした。

「そろそろ帰りましょう」

 ボクが先生に提案すると、先生は賛成してくれた。ボクたち二人は出口へと向かう。

 すると突然、窓のない通路を煙が立ち込めた。

(暗くてよく見えなかったが、出口とは別の通路を通らされたか!)

 少し前に気が付いておけばよかった。この通路には、先ほど見た、落ち葉や蔦がない。もっとしっかりと懐中電灯を当てれば、土も入ってきていないことに気が付けただろう。

 あまりにも浅はかだった。長谷川先生一人ならばボク一人でも取り押さえて、尋問することができると思っていた。加納さんがいなくなった時、その手を握っていたのは長谷川先生だ。ここから離れた場所にある倉庫で見つけたのも長谷川先生。そして、お姉さんにこの廃墟を教えて、興味を持ってもらうように仕向けたのもきっと長谷川先生。話を聞く限り、誰にでもわかった。加納さんの『再生』についても、詳しく知っているのは長谷川先生しかボクは知らない。

 しかし、謎の少女を使ってあの薬を加納さんに飲ませていた奴らが存在する。どう考えても、知ってはいけない類の奴らだろう。でも、ボクはそれを聞き出そうとした。

 見る見るうちに視界は真っ白になり、長谷川先生の姿は見えなくなっていた。

(うっ、これは…)

 頭が働かない。どんどん、闇の中へと落ちていく感覚。

(眠らせ…つも……か……………)

 誰の仕業かは予想が付く。加納さんを『再生』できるようにさせた奴らだ。状況から見て、長谷川先生も“グル”だろう。

 真夜中の廃墟の中、策があったことすら敵に気づかれずにボクは眠らされてしまった。

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