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いつかの君を、救いたい――  作者: 三日月 和樹
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 放課後、図書館――

 大量の本が並んだそこにボクが足を運んだのは、これが初めてではなかったが、ほぼ初めてのようなものだった。来たことがあるのは、先生たちの手伝いでのみ。だから、来たことはあるけどどんな場所なのかは分からない。

 唯一、いつも静かだということは知っていた。まぁ、図書館なのだから、当たり前ではある。

 ボクは、図書館の中でも奥の方。大きな棚によって、係りの人がいるカウンタ―からも見えにくい席に陣取っていた。

「遅いな、加納さん……」

 まさか、逃げたんじゃないだろうな。

 変に感情的になって、また会えなくなってしまったらどうしよう。

 そんな考えばかりが、ボクの頭にあった。

「お待たせ。ふざけて大道具を壊しちゃった人のせいで、修理してたら遅くなっちゃった。ごめんね」

 両手を合わせて謝ってきたのは、手がペンキのインクで汚れていた加納さんだった。

「ううん、全然待ってないよ。さ、座って座って」

 時計は、すでに午後の五時を指していた。

「本当にごめんね」

「いいって、無理に呼び出したりしたのはボクなんだから」

 椅子に座り、向かい合うボクたち。

 少しの静寂の後、ボクが口を開くよりも早く、加納さんがしゃべった。

「ごめんね」

「いや、もういいって。ボクもさっき来たばっかりだし」

「そのことじゃなくて……今までごめんね、って。才川くんからも、一美からも逃げてた。だから、謝りたくってさ」

 このとき、ボクは少しだけ、加納さんへの違和感の正体に気が付いたような気がした。

「あ、ああ。うん」

 だが、そんな事よりも気になる点がある。

 なぜ、必要以上に加納さんのことを調べているボクたちに謝罪を? むしろ、見方を変えればボクたちはただのストーカーなのかもしれない。

「もしかして、分かってない?……これは才川くんたちを巻き込んじゃってごめんねっていう謝罪なんだけど」


「――つまり、私の再生の件のこと」


 だけど、なぜか気分は良くない。なぜだか、分からないけれど……。

「私の再生について、まぁつまり簡単に言うと」

「ちょ、ちょっと待って」

 ボクは慌てて、加納さんを制止する。

 確かにボクはその『再生』というものを知りたい。だが、別のことも気になっていた。

 誰がその『再生』を知っていて、一体何人の人がこの件に関わっているのか。

 人が死んでも、蘇る。そんな非現実すぎる光景を目の当たりにして数日後、当たり前のようにボクは気づいた。

 これは、ボクのようなただの高校生が近づいていいようなものじゃない。裏で大きなものが動いて、それに対抗するためには何十、何百の仲間と共に立ち向かうようなお約束展開が無ければいけない。

 だから正直、この質問をしていいのか最初はすごい悩んだ。

 だけど、中野さんとか夢さんと話して、ボクの腹は決まった。

 聞こう。この場で、このタイミングで。

「そんな怖い顔しないでよ。私だって、心を決めてここにいるんだから」

 彼女の決意は口だけではないと、ボクには分かる。彼女の唇が少しだけ震えていたからだ。

 それだけ彼女は自分にとって不都合なことをしようとしてる。それは、自分の『再生』をボクというこの件に関わってしまった無関係な人間に教えるということだ。だが、そこまで察して、ボクは確信に迫りたい。

「一つだけ、聞きたいことがあるんだ。君の『それ』を知っているのは、ボクと中野さん、君のお姉さんに……もしかして、先生も知っているんじゃないか?」

 ボクの質問に驚いて、加納さんは後退りする。椅子に座っているから、後退りの雰囲気ということ。

「そ、それは……なんで、そう思ったの?」

 なぜそう思ったのか。いや、ボクは今、そう思っているのではなくそう確信しているのだ。

「前に加納さんがボクに『再生』のことを話そうとしてくれていたとき、長谷川先生は最初から見張っていたんだろ。加納さんもそれを知っていてボクに教えようとした」

 だいたい、ボクにそんなことを教えようとすること自体がおかしいんだ。一度の『再生』を見て、それについて調べ始めたボクは、はっきり言って邪魔な存在のはず。なのに、加納さんはボクに教えようとしてくれていた。いや、本当に『再生』の話をしようとしていたのかどうかは分からないけど……。

「ううん、違うの。私はあの時、別のことを言いたくて」

「分かってるよ。君が無関係なボクを“巻き込んだ”理由。それは、状況からの脱出を目指したから。ボクという何も知らない者の介入によって、何かが起こると信じていたんじゃないか?」

 ボクの妄想がここまでに至った訳。それは、ただ単純にこの件には悪者がいるのだろう、と。

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