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いつかの君を、救いたい――  作者: 三日月 和樹
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「あなたは、どこまで知ってるの?」

 自分がどこまで知っているのか。それ自体がよく分からないボクにとって、その質問はボクを困らせることしかできないものだった。

「……」

「そう、まぁ、何も知らなくても問題はないわね。むしろ、知らない方が問題はなかったんだけど」

 ボクが無言でいると、加納さんが口を開いた。

「今起きている状況、それを一番手っ取り早く分かるには、まず理解してもらわないといけないことがあるの。それはね、私はすでに死んでいるということよ」

 分かっていた事実の、再確認。というよりは、夢が現実であったような感じがする。

「分かってはいるとは思うけど、私は一度ではなく何度も死んでいるの。これは『再生』と呼ばれているの」

 再生か。

 確かに、何度も死んでいると言う割には、身体がきれいすぎる。いや、服の上からしか確認はできないけど。

「なんなら、見る?」

 そう言って、彼女は全く顔色を変えずにワイシャツを脱いだ。

 少し躊躇しながらも、この状況をまだうまく呑み込めていないのせいなのか。それとも、ボクが少しおかしいのか。とにかく、脱げた彼女のワイシャツは床へと落ちた。

 おそらくボクの人生で最後だと思う、女子高生の背中が、そこにはあった。ブラのホックも外され、繊細な背中が見えている。

 少し痩せすぎな気もするが、彼女の身体には傷一つない。

「再生、か」

 確かにこの場合。この、加納さんの身体を元に戻してしまう力の呼び方は『再生』の方があっていた。

「ね、分かったでしょ?とにかく、これはそういうもの。もちろん、能力とか魔法とかそんな男の子が憧れるかっこいいものじゃないけどね」

 彼女は、魔女でもなければ魔法少女でもない。一般的な女子高生。

 そんな彼女の背中は、再びワイシャツで隠された。

「ご、ごめん。ボクなんかが見ちゃって……」

「? なによ、見せたのはコッチよ。そうね、私は、私の身体に自信があった、だから見せた。はい、そういうことで良いでしょ?」

 なかなかに強引だが、まぁ、加納さんがそれでいいのなら……。

「別に露出が好きってわけじゃないけど、見せたところで減るものじゃないしね」

 それはきっと、自分で言うセリフではないと、ボクは思った。

 でも、何だろう、どうしても今の、この加納さんは前に会った時とは違う人のように思える。

 なにか、なにかがあったのだろうか。いや、あったはずだ。

 そのくらい、雰囲気が違う。

 では、一体何が変わったのだろう。どこがどのように変わっているのだろう。

「知りたいことはそれだけ?ううん、違うでしょ。あなたが求めていることは、この状況の理解。正解に辿り着く答えの、隠された質問のはず」

 そんな加納さんの言葉に、思わずボクの口は閉じてしまう。

 知りたいこと?状況の打破??答え!?

 そんなこと、そんな質問。ボクが知っているはずがない。今でも分からないことしかない現段階で、ボクの頭はそこまで気の利いた答えなど思いつくはずがない。

 もし、思いついていたなら、すぐに言ってしまうはずだ。ボクの頭が拒んでも、口が勝手に言ってしまうだろう。

 だが、それがない。

 ならば、いまだボクはその答えへと至ってはいないのだ。いや、まずもってボクはそこまで行けるのだろうか。

「それじゃ、打ち明けたかったことの一つ目。二つ目は、君が質問をしてきたときに教えるってことで……。君たちは、多分勘違いしていると思うんだ」

 勘違い?いったい、何が。

「あなたたちは、小さい女の子に渡された薬。あのせいで私が再生しちゃったって思っているんでしょ?ごめんなさい!あれね、実は、最初から仕掛けてあったことなの!」

「仕掛けて、あった……?」

「ええ。この身体はあの薬を所望してるの。だから、あの薬は言ってしまえば――危ない薬。あの薬で再生のできる少数の人間、私も含めてだけど、そんな人たちは薬を飲んで再生できる代わり、あの薬を飲まないと生きていけない身体になってしまうの。それが、今の私なの」

 そんな……あれは、ボクと中野さんが薬を飲ませたことは、仕組まれていたことだというのか?

「ごめんなさい。でも、今日はこれだけでも伝えたかったの。これだけ分かれば、あなたはもう少しで分かる」

 ――ガラッ

 加納さんが言い終わったと同時に、音楽室の扉が開いた。

 もちろん、加納さんではなく、ボクでもない。

 放課後の音楽室。入ってくるのは、別場所で活動していて、楽器を取りに来た吹奏楽部の部員か、またはその関係者。

 扉が開き、音楽室に入ってきたのは、長谷川先生だった。

 必死に走ってきたのか、額には汗が伝っており、体は、手でどこかに捕まっていないと立っていられないような状態だった。

「ま、待ちなさい!」

 それは憤り。と言うよりは心配の顔のように見える。

「な、なんですか?先生……」

「いえ、お姉ちゃんから電話があってね……あなた、才川くんにしゃべったの?」

 息が途切れながらも、必死に言葉を紡ぐ長谷川先生。

 お姉ちゃん?というのは、きっと、夢さんのことだろう。夢さんから教えてもらったってことは……長谷川先生も、再生について知っているということなのか!?

 先生はボクの方を向いた。

「才川くん、もう帰ってもらえる?千穂ちゃんと、話がしたいから」

 あまり強くない、その口調とは裏腹。長谷川先生はボクの背を押して、ボクを音楽室から追い出す。どうしても出て行ってほしいようだった。

 すぐに扉は締まり、鍵もかけられ、ボクは完全に音楽室から追放された。二人の会話は気になるが、長谷川先生も事の真相を知っているのなら、長谷川先生は、いまだボクが知らないことを分かっているのだろう。

 聞き耳を立てても別に良かったが、それではきっと、ボクをここに呼んだ加納さんの意思に反してしまう。変に興奮状態に陥っているようだった長谷川先生に怒られるのも、別に良い。だが、それで真相にたどり着けなかったら、加納さんの言っていた質問にたどり着けなければ、最悪、そこでアウト。残された時間が少ないというわけでもなし。

 だが、ボクは分かってしまった。

 すでに時遅しの到着。残念ながら、長谷川先生は遅かった。

 何故なら、ボクはすでに分かってしまったのだから。

 ボクたちのこの状況を作った人の存在を……。

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