15
私には、嘘がある。
というかもう、この体自体少々どころではないほどの嘘で出来ている。
失った身体、奪われた未来、掴むことのできなくなった夢。
「なんで、私なんだろう……」
あの時、私の生は終了した。
そして、再起した。
ロボットではない。心はあるし、誰かの命令を受けているわけでもない。
幽霊でもない。皆には私が見えているし、話したりも問題なくできている。
これは、奇跡だ。
神様、いや、あれはどちらかと言えば天使か。
微笑む天使。その身体には、穢れなど一切ないのだと思う。
既に生命の危機であった私の目が勝手にアレをそう判断したのか、それともアレは本物だったのか。
その正体が分かったのは、私の生の終了から二日後の事だった。
学校からの帰り道、子供の頃に遊んだ公園のベンチに、彼女はいた。
それは紛れもない少女で確かに可愛いが、一般的な少女であった。
「迷ってる。うん、あなたはそういう人だもん」
「あなた、あの時の……」
「あの時あなたが天使って言っていた、ただの女の子だよ。ただの無力な、ね」
無力?とんでもない。あんなもの、世界を二、三度ひっくり返してしまうものであるはず。
それを持っているこの娘が、無力なはずがなかった。
「あなたは、一体何者なの?」
「何者?ううん、何者でもないよ?あっ、もしも名前を付けたいのなら、それこそ天使ならうれしいかな」
「本当はこんなことを言うのはおかしいけど、あなた今からうちに来てくれない?聞きたいことが山ほどあって――」
少女の顔には、笑みが浮かべられていた。それは、子供本来の無邪気な笑顔ではなく、邪悪な嘲笑に似ている。
「それはこっちのセリフだよ。うん、今から話そう。だけど、話は別の場所でね?」
街頭の光の届かない公園内。
少女は、常闇の中に消えていく。
「ま、待って!」
私は、その後を追うように闇の中へと走り、潜る。
外を歩いていたわけだから、目が暗闇に慣れていたとは言え、この暗さは尋常じゃなかった。光という概念はなく、ただただ暗闇が広がっていた。
その時、少女の小さな手が私の手を握った。
「大丈夫大丈夫、怖がらないで。……だけど――」
「――だけど、覚悟はしておいてね」
そう、彼女は言った。
「うん」
「分かっているとは思うけど、あなたが今生きていることは自然じゃない。ただの奇跡なの」
それは、自分でもわかっているつもりであったが、やはり、人から言われると、またそれはそれで思い知らされたようで悲しい気持ちになる。
「でも、私はあなたの味方だから……うん。信用して」
『行くな』という心と、『行かないと』と急かす答え。
私の現状を知るには、この娘に付いて行くことは必須だ。むしろ、義務でさえある。
だが、このまま簡単に付いて行ってしまって良いのだろうか?
「さあ、ついてきて?」
もう完全に目が暗闇に慣れた頃、ついに少女の顔が見えた。
少女の顔は、少し悲しそうで、寂しそうで……なんだか、昔、お姉ちゃんと遊べない時の私を見ているようで……。
「うん、分かった」
そこで私は”真実”を知った。
…………
今思えば、あの顔は罪悪感によってできる表情だったのだろう。
あそこで私が断れば、あの娘はどんな顔をしたのだろう。
気にはなったが、今となっては後の祭りだ。
だから、私は何も考えずに過ごせていればよかったのだろう。……本当に?
心の内から、声が聞こえる。
全く、これだから人間というのは……。
ため息をつき、私は、彼との待ち合わせ場所に行く。
断ち切らねばならない。幸い、彼はきっと、その信念から、黙っていてはくれるだろう。
ならば、彼にだけは伝えてもいいと、そう思った。




