絶対に開けてはいけない扉
小さい時から気になっている大きな扉。私の家の中にある。何度も何度も開けようと試みた。すると、いつも、タイミング悪く、
「やめなさい!」
と大きな少し透き通るような声。母だ。
「いつも、言ってるでしょ!この扉は絶対に開けてはいけないって!」
と怒る。
「なんで?」
と尋ねると、
「危ないから!危険だから!」
と怒る。私は、気になって気になって仕方がない。
でも、一度も誰も開けたことがない。
その扉には、ある噂がある。呪われるだとか、入ったら絶対に出てくることが
できないだとかと。私の家の先祖が自殺したという噂まで。
そんな扉には、実は鍵がしてある。鎖でしっかりとそう簡単に取れないように頑丈に巻かれている。
実は…この扉の奥に入ったのは…私の父。父は、私と同じようにこの扉が気になって入ったらしい。しかし、その後、父は消えた。その扉から出てくることはなかった。
そんな扉を目の前にした今現在。この扉の前に立っている。気になって仕方がない。開けようと頑丈に巻かれた鎖を丁寧に解く。なかなか、解けない。私は、真剣な顔で丁寧に迷いながらも解く。なかなか、解けない鎖にイライラとし始めた。そんな時…
「何、やってるの?」
と買い物から帰ってきた母が言う。
「絶対にダメよ!ダメよ!お願いだから!」
と泣き崩れながらも鎖を解こうとすることを止める。私は、惨敗したかのように、
「ごめん!ごめん!」
と誤った。そして、母をキッチンのところまで連れて行った。でも、やはり、気になる。この大きな扉。父は、なぜ、この扉を開けたのだろう。そして、この扉の向こうには何があるのだろう。その夜、気になりすぎて眠れなかった。
次の日、太陽の日差しがカーテンを遮り、私の顔を照らす。
「まぶしい…」
とまだ目が開かない私は、ベットの上です寝たままの状態でつぶやく。そして、目覚まし時計が鳴る。
チリリチリリ。
時計を見ると、長い針が6を指していた。
「やばい!」
と跳ね上がり、急いで支度をはじめた。下を降りると、大きな扉。やはり気になる。私は、その扉の前に止まった。「開けたい…」という欲望。「ダメだとわかっているけど…」と混乱した欲望が私を動かす。
しかし…
「早くしないと遅刻するわよ!」
と透き通った声。母は、
「早くしなさい!」
と大きな声になる。私は、ふと、
「あ、やばい!」
と慌てて、口に母が焼いてくれたパンを加え家を出た。
学校のチャイムが鳴り、終わった。すると、友達の萌ちゃんが、
「今日、みんなでクレープ、食べに行こうよ」
と誘う。他の人たちは、
「いいね!」
と騒ぎ出す。
「苗も行くよね?」
と萌ちゃんは言う。私は、勿論、
「行くー!」
と友達と騒いだ。みんなでクレープ屋に行き楽しんでいた。世間話やテレビ番組の話をしながら、馬鹿笑い。
そんな帰り道のこと。前から歩いてくる男の人。見たことがある。だけど、誰だかわからない。あの人を見るたび、あの大きな絶対に開けてはいけない扉を思い出す。その男は、私の横を通りすぎる。ゆっくりと。なんか、違和感を感じた。少し、怖くなった。一体…
そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に家の前にいた。私は、あの男の人が気になる。そして、あの大きな扉が気になる。
家に入ると、
「おかえり!」
と透き通った声。母だ。母は、
「今日帰り遅かったね!」
と言う。私は、
「あ、今日、友達と寄り道して来て…」
と答えた。
「夕飯は?」
と尋ねる。
「あ、どうしようかな。友達とクレープ食べてきた!」
と答えると、
「じゃあ、まだ、いいわね?」
と確認するかのように私に聞いた。
「うん…」
と曖昧な返事をして部屋に行き、ベットの上にバタンとなった。そして、目を閉じて眠ろうとした時、ふと、あの大きな扉が頭の中に浮かぶ。私は、目を開け、ベットの上でごろごろとしたまま、
「あの扉…」
とつぶやいた。ふと、小さい頃の記憶が蘇った。
まだ、小学2年生の時のことだった気がする。
父が急にあの扉を開けたのだ。なかなか、解くことができなそうなくらい強く巻かれた鎖なのに、父は、元々最初からわかっているかのように簡単に解き、中に入っていったのを見た。その時、私は、柱から隠れて見ていた。なかなか出てこない父。すると、急にドアが勢いよく閉まったのだ。父が閉めたのかなと思っていたが…それは…違ったのだ。父はその扉から出てくることはなく、私は、それからこの扉が気になるようになった。父が出てこなったため、私は、閉まったあの扉を開けようとしたが、びくっともしなかった。
それから、開けることに試みた。
そして、時を現在に戻す。
あの扉は、一体…なぜ、開けてはいけないのか、父はなぜ、消えたのか…
私は、夕食を済ませ、2階に行きあの扉の前に立つ。そして、鎖を解く。簡単に解けてしまった。あんなに頑丈に巻かれてあったのに。それから、その大きな扉を開けた。その扉を開けると、扉を開けた光で前が見えない。まぶしい。少しすると、その部屋の光景は、至って普通の部屋。たくさんの種類の書籍が並んだ大きな棚があり、窓のところには、植木。花がきれいに咲いている。窓から日差しが入っている。真ん中には、大きなテーブルがあり、椅子が4つ並んでいる。少し埃が掛かった大きなグランドピアノが端に置いてある。ピアノの上には、どっさりと束がある紙が散らばりつつ、山になっていた。その楽譜なのか、音符がたくさん並んだもの。どこか寂しそうな音楽ぽかった。紙で隠された小さな箱。その箱の中には…あの違和感を感じるあの男の人の写真。そして、父からの手紙。封を開けてその手紙を読んだ。
その手紙には…
絶対に開けてはいけない扉の意味が明らかになった。そして、父が残したたった一つのことで、全てが明らかになった。
それは…
父があの大きな扉を開けたのは…私の祖父、太郎が関係していた。祖父もこの大きな扉を開けたのだ。その時は、私の父が柱に隠れて見ていたらしい。私と同じように。父も、それから気になりある日突然開けたのだ。そして、父もこの手紙を読んだのだろう。その手紙には、知ってはならないこと。私は、知ってしまった。すると、扉は閉まった。急に暗くなる。私は慌ててドアを開けようとした。開かない。ピクリともしない。
「どうしよう…」
とつぶやく。
そう、この扉は、開けたら出れないのだ。次この扉を開けることができるのは、開けてから3年経たないと絶対に開かない。もし、30分間の間にこの部屋から出れば、閉じ込められることはなかった。扉の向こうに、
「お母さん!お母さん!」
と叫ぶ。届かない。私は、再び、
「お母さん!お母さん…」
と泣き崩れた。すると、ガタンという音…ピアノのところからそっと男の人が…見覚えがある。その男は、私に近づいてくる。そして
「誰?」
と尋ねる。私よりも背が高くすらっとしている。顔は程々のイケメン。
「あなたこそ、誰?」
と私は尋ねた。彼は、私の顔を見て
「おねちゃん?」
「え?」
と聞く。
「おねちゃんだよね?」
と涙ぐんでいる彼。
確か…私には、弟がいた気がする。記憶は曖昧だ。
まだ、5才の時だった。
泣き虫の弟。よく、何かというと泣いていた。そんな弟が消えたのは、あの時だった。
「おねちゃん!かくれんぼしよう!」
と家の中でかくれんぼをしていた。じゃんけんをして、最初、私が隠れるほうだった。
「1.2.3…」
と数え始める弟。私は、急いで隠れた。すると、数え終わった弟は、
「おねちゃん!もう、いい?」
と言う。私は、大きな声で
「いいよ!」
と答え、すぐ、見つかってしまった。
「見つけた!」
その後、私は、鬼になり、弟を探した。そして、弟をすぐ見つけ、再び弟が鬼になりと楽しんでいた。
だけど…何度目か私が鬼になった時、弟を探した。なかなか、見つからなかった。
「どこ?」
と大きい声で叫ぶが見つからない。
「悟、どこ?」
と何度も何度も叫ぶが出てこない。
「もう、出てきて!降参!」
と叫ぶが声が返ってこない。出てこない弟に困惑していると、母が買い物から帰ってきた。私は、母に、
「お母さん…悟がいなくなちゃった…」
と言うと、母は、
「悟って誰?」
と言う。私は、その時、
「え?お母さん…」
と言うと、
「え?何言ってるの?」
と言う。私は自分の耳を疑った。
「なんで…?」
と。
「お母さん!悟だよ!」
と叫ぶと、
「だから、知らなってば!」
と、怒る母。私は、悟を探した。でも、探しても探しても見つからない。
そのまま、月日が流れ、今、目の前にその弟がいる。手紙の通り、この大きな扉に入った人たちのことを元々存在していない人のようになってしまっている。私の記憶の中に弟は消えていたのだ。
しかし、母は、父のことを覚えている。不思議だ。なぜだろう。
弟は、私に抱きついてきた。
「おねちゃん!おねちゃん!」
私は、目から涙が溢れた。
「ごめんね!ごめんね!」
と何度も何度も誤った。そして、
「おねちゃん!おねちゃん!」
とただ、弟は、泣いた。
さらに、弟は、
「おねちゃん!そういえば…」
と言い出す。
「うん?」
と尋ねると、
「お父さんが…お父さんが…」
と泣き出す。父は、自殺したのだ。その理由は…お父さんは、弟のことを見て
「悟…」
と泣いた。父曰く、
「家族を守るために自殺したらしい。その要因は不明だが、私は、多分、その理由を知っている。
でも、なんでだろう。父は、私にあの扉に入る前に、
「おね!ごめん!」
と言って消えた。父が母に残した手紙があるらしい。だから、母は父のことを覚えているようだ。
父は、会社を首になり、家族を養うことに負担になっていたのだと思う。それが、多分、始まりだった。自分が消えたら、家族を守ることができると。何かしらのトラブルに父は巻き込まれていたのだ。お金だろうか。細かいことはわからない。
弟は、ただ、私のところで泣いている。
そして、ここから出られる方法が1つだけある。
それは…
この扉にかけられたおまじない。そのおまじないを行った後、唱える。「開きますように。開きますように。」と声に出して強く。すると、扉は自動的に開くらしい。
私と弟は、手紙の通りにやった。まず、父が教えてくれたおまじない。
コロコロリン。コロコロリン。ナナナナリンナナナナリン。カラカラコロリン。カラカラコロリン。
そして、弟と強く声に出して唱えた。
「開きますように。開きますように。」
と。
すると…
扉が自動的にゆっくりと開いた。扉から入った光がまぶしい。私と弟は一緒に喜んだ。
「やったー!」
「出れた!」
と弟がうれしそうに言う。
出れた…
とても、ほっとした気持ちになると、
「ぐっーー!」とお腹が鳴った。2人して。それから、微笑みあった。
しばらくすると、母が、
「夕飯、できたよ!早く、降りて来なさい!あね!悟!」
と。私たちは、下に降りていった。私は、
「お腹、空いた!」
と言うと、悟も、
「僕も!」
と。その後、何事もなかったように、あの扉の存在を忘れていた。
あの絶対に開けてはいけない扉は、元々なかったかのように消えた。