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邂逅の一

色々と影響を受けているので、どっかで見たことあるなぁと思ったら、そっとしておいてください。

稚拙ではありますが、生暖かい目で見ていただけると幸いです。

 ―――後悔先に立たずとは誰が言ったのか。


 後悔すると解っていても、人って生き物はそんなことお構いなしに動いてしまうものだ。そんな当たり前のこと、今まで忘れてしまっていたらしい。


 それはいつもと変わらぬ仕事のはずだった――。



 きっかけは幼少の頃に出会った理不尽な存在。それに大切なものを奪われたのだ。突然に。一瞬にして。どうしてと嘆いた回数は数え切れない。

 その時から後悔しないようにと手に入れた力は、まだガキにとって分不相応な代物で、案の定厄災を撒き散らしていく。気付いた時には肉親と呼べる人はいなくなっていた。


 そんなガキが一人で生活するなんて事は到底無理な話であるわけで。つまり何が言いたいのかといえば、生活を維持することさえままならない状況に陥ったという話だ。


 そんな施設送りにされそうになったガキでも拾う神はいたらしい。出来損ないで役立たずの俺に食い扶持と寝床を紹介してきたのは、遠縁の知り合いだという全くの赤の他人。他に選択肢などあるはずもなく、一も二もなく厄介になることに決め、俺はその仕事を引き受けたのだ。


 仕事は至って単純なもの。頭の悪い俺でも出来る肉体労働。依頼に従い、追い詰め、殺す、ただそれだけ。全くありがたい話である。


 なぜ俺のような出来損ないがこの仕事を紹介されたのかと問われれば、普通では視認すらできない不純物を見ることができたからだろう。ちょっとした某仮面ヒーローのような改造手術によるものだが、現実はただの成れの果て。体を弄られ、地獄のような苦しみから、クソみたいな道具として改造されたモノ。

 そんな道具としての利用価値が、どうやらお気に召したらしい。

 標的はちょいと目を凝らせば途端に姿を簡単に曝け出し、俺はソレを気付かれないようにズドンとやれば依頼は完了。


 必要とされるのは嬉しかったし、成功すれば褒められた。そこに善悪などは必要なく、効率性が全て。

 俺は何度も何度も繰り返し、ただただ無駄な動作を省いていった。


 数千繰り返した動作は自動的に。ただただ反射で動く機械と化す。感情はあったが、そこに意思はない。


 そんな仕事も20年近くも従事すれば、自ずと先は見えてくる。つまり擦り切れるか、トチッて死ぬか。結局そのどちらにもなれなかった俺はある意味不幸だったのかもしれない。


 長い年月は、そこに至った経緯や理由も希薄にさせる。そこに例外はなく、自分もまた存在理由を過去に置き忘れていった。


 そこに舞い降りたいつもの仕事。


 それはいつもと変わらぬ仕事のハズだった。



 いつものように無駄のない足取りで標的を追い詰める。狙撃はいつも背後から。気付かれる前に終わせるのだ。気負いも無ければ慢心も無い。予定とは少しずれて標的が動いているようだが問題ない。伏射の態勢でライフルを構える。

 標的はすぐそこ。俺はゆっくりとスコープを覗き、



――そして、再度行き逢うことになる。自分と同じ成れの果て。



 瞬間、驚愕と怨嗟が体を巡り、思考が狂喜へと反転した。血が沸騰し逆流していく感覚を覚える。体は歓喜に打ち震え、これまで薄れ始めていた激情はまるで昨日の事のように火を点したのだ。


「…やっと」


 念願叶えるために人としての機能を捨てた事を思い出す。あれから二十年、ただこの時のためだけに生き汚く歩んできたことを。

 そして感謝する。思い出させてくれてありがとう、と。


 意識は全て目の前に。

 耳元で喚き散らしていた無粋な機械は投げ捨て、幾度となく繰り返した動作はすでに完了していた。


距離はおよそ八百といったところ。


外す気はしない。


スコープのレティクルは奴の頭へ。


心臓が早鐘を打ち、汗が滲んでいく。


悲願も後悔も、悲哀も絶望も、


俺を形作る全てをトリガーに乗せて、



スコープ越しに視線が交わった。



そういえばこんな顔だったな、なんて関係のない感慨を抱く。


今の今まで忘却していたくせに。


目の前で奪われた怒りも悲しみも、無意識に忌避していたくせに。


あれだけ焦がれた存在を一瞬でも忘れて生きようとした罰。


向けられた視線への動揺は数瞬の硬直を生み、震える銃口は弾丸を明後日の方向へと誘う。


その隙はあまりにも致命的。


つまり念願は硬直を招き、悲願はそれを許さなかっただけの話。


嘲笑ったかのように見えた時には、既にアイツを中心として世界は存在を無くしていく。


目が、脳が悲鳴を上げるように軋み、三半規管が激しく揺れる。


視界がチカチカと明滅を繰り返し、臓腑は掴み押し上げられ、耐え切れないのか脳が勝手に感覚を遮断していく。


何もかもが消失していく中、俺は目の前の悲願を嘆き、後悔が怒濤の如く押し寄せながら、


「あぁ、失敗し―」


渇望していた存在。見つけた喜び。

俺の口元はどうしようもなく歪んでいることに気付いたのだった。



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