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No.-

No.20 シャイターン・シャイターン

作者: 夜行 千尋

出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第二十弾!

今回のお題は「マナーモード」「内股」「爆竹」


1/5  お題出される

1/10  真っ白であるという現実に直面

1/11  同時進行で別作品のプロット作成も行う八面六臂に見えててんてこ舞い

1/12  案の定締切ブッチ。だが筆がノリノリで書いた


しかし、ほぼ何も考えずに書いちゃったが大丈夫だろうか?

 最初の印象はずばり「こいつなんかムカつく」だった。

 高校二年になってちょうど中二病が止んで、何もかもがシュールで失笑の的になる高二病を発症したその年度初めに、そいつはうちのクラスに転校してきた。


秋鮎あきあゆ つかさです……よ、よろしく、お願いします……」


 見るからにどんくさい、運動神経の欠片も無さそうな、内股で俯きっぱなしのこのこじんまりした細っこいのが……本当にこの世界を守る存在なのかと、当時の俺は思わずに居られなかった。



 転校生自体が珍しいのもあり、またその華奢で中世的な外見故に女子にさっそくちやほやされ、となれば、男子どもからはさっそく“洗礼”を受けることになった。

 いじめの内容は様々だったが、大抵はトイレの小部屋に閉じ込めるだとか、あからさまに教室の席を移動させるとか、まぁ……そこまで過激なのは無かったと思う。が、そんな連中の行動より俺をイラつかせたのは秋鮎の反応だった。

 笑ってた。いつでも、困ったように、どうしたらいいかわからないと言う風に。どんなに邪険に扱われても困ったような笑顔でいた。怒らず、泣かず、悔しがりもせず。当時の秋鮎は、常に俯き気味で眉間に皺を寄せていたから、普段と大差が分からなかったのかもしれないが。その反応がより一層、俺は気に入らなかった。


 そういえば、一度大ごとになりかけたことが有る。

 うちの高校では携帯電話は禁止なのだが、そんな中着信音を授業中に響かせて秋鮎が携帯に出たのだ。先生はさも当然と言わんばかりに、廊下で話す様にジェスチャーし、秋鮎も周りの目も気にせず携帯で話しながら廊下へ出ていった。

 この事に腹を立てた一部の生徒が、秋鮎から携帯を取り上げて体育館のロッカーに閉じ込めたのだ。せめてマナーモードにしておけば、目も付けられにくかっただろうに。

 思えば、秋鮎が何者なのか忘れていたのだろう。秋鮎がどうして禁止されている携帯を持ち歩き、また授業中に出たのか。秋鮎の転校の理由……『エンゼル』が街に現れ、秋鮎が何者なのか、すぐに思い出すことになった。


 その日現れたのは、全長およそ130mの鈍色の円柱形の柱だった。直径はニュース曰くおよそ50mで、夕日に照らされながら動かずに居た。なにやら一瞬でその場に現れたらしい。

 学校から帰った俺は、まず家族の様子を確認した。家においてある携帯には、親父と御袋はそれぞれ避難すると書かれていた。妹は病院で定期検診を受けているらしく、病院の方で避難をすると連絡が来た。俺は夕日に照らされた『エンゼル』を見ながら、避難所へと向かった。


 避難所は飽和状態だった。元々こんなに人が来ることが想定されてないのか、それともこんなずさんな設計だったのか。ともかく、俺は避難所で知人を探した。


「あれ? がくの避難場所ってここなのか?」


 がく……とは俺のあだ名だ。楽敏がくとしを半分に切ったものだ。声をかけてきたのは同じクラスの大見得おおみえ 里士さとし、あだ名は眼鏡。小学校からの付き合いで、その後に至るまでなにかと腐れ縁の仲だと言える間柄だ。


「ああ、この避難所の地域の最北にギリギリ引っかかる」


 というより、妹の病院がここの方が近いからだ。両親が共働きで有る事もあり、生まれつき免疫機能系の病気の妹の面倒はほとんど俺が見てきた。ふと視界の端に病院の患者たちの避難場所が見え、そこに妹の、まいの姿が確認できた。

 という目線を里士が目ざとく見つけて言う。


「ははーん。さすがはシスコンのお兄ちゃん」

「お前に兄と言われる覚えはない。今後も無い」

「えぇー、って冗談だよ、本気で睨むなよ」


 笑って距離をとる里士だったが、ふとどこへともなく目線を投げて言う。


「今回も件の“対抗策”……なんだっけ? が倒してくれんだろ?」

「ああ、そのはずだな。……ん?」

「なに? どした?」

「……秋鮎、たしか体育館の倉庫に閉じ込められてなかったか?」

「え? ……ええ!? そ、それまずいよ! いやでも、携帯持ってたしそれで……」

「携帯が原因で閉じ込められてたんだから、普通に考えて携帯取られてんじゃねぇのか?」

「……だ、誰かに言った方が……良くない?」


 その時だった。避難所のシェルターの非常口に“如何にも”な連中が複数人現れたのは。厳つい男どもの指揮をこれまた気の強そうな女性がとっている。かなり強い口調で命令をする。そいつらは、何事かと動揺する人々を押しのけて、何か、いや、誰かを探している様だった。俺は里士が止めるのも聞かずにその者たちに近づいて、秋鮎がどこにいるかの見当を伝えた。案の定、連中はさっさと避難所から去っていった。


「なんだ? あいつら。爆竹で脅かしてやろうか?」

「持ってんのか?」

「ああ、何かに使えるかも、ってな」

「……いや、何も言うまい」

「ちょ、おい、なんでそんなアホを見るようなめで見てんだよ」

「ノーコメント」


 その後、地震にも似た大きな揺れが連続して起き、約一時間後には避難解除になった。

 外に居た『エンゼル』……鈍色の柱は、グロテスクな液体を吐き出しながら、大きく削げ落ちて拉げたその身を街の裏山に投げ出して止まっていた。その様子を複数のヘリが、ライトアップしながら夜の闇の中監視をしていた。曰く“対抗策”の出動が遅れ、あわや避難所の一つに『エンゼル』が突っ込むところだったらしい。ともあれ、大事には至らなかったようだ。



 後日分かる事だが、秋鮎が“任務”から逃げたのではないかと、避難所を虱潰しに探しに来ていたらしい。

 翌日、頬にガーゼを張って秋鮎は登校してきた。……なかなか、厳しい場所らしい。

 無理もない。人類が初めて『エンゼル』と出会った時、世界人口のおよそ5%が死んだと言われている。それほどまでに『エンゼル』は危険な存在らしい。


 『エンゼル』はどうやら大気圏外から来るらしい。遥か空の上から、金属系の光沢色か、あるいは純白や真珠色をしており、時には中世ヨーロッパの巨匠が作った大理石の彫像の様な“顔”が有る時もあるらしい。一説には宇宙人であるとされている。その特徴は様々で、毎度毎度別の個体が来ている様である。共通しているのは“飛来した後数時間は動かない事”、そして“絶対的に人類を殺そうとする事”

 対して対抗できるのが、一部の人間のみが適性があるとされる“対抗策”……人型戦略兵器『シャイターン』である。『適合者』を乗せて未知の『エンゼル』から市民を守る。そんなSFだかファンタジーだかの存在だが、当時の俺はこれがどんなものかも深く知らなかった。無理もない。一般人は『シャイターン』が戦うところなど対岸の火事、見えない悪夢、過ぎ去るのを待つ荒風だ。実際『シャイターン』と『エンゼル』の戦いは一般人が巻き込まれて良いものではない。『エンゼル』の攻撃は無差別で広範囲で有る事がほとんどだし、味方であるはずの『シャイターン』も小回りが利くわけじゃない。いざという時に傍に民間人が居た場合……それは……






 後日、また『エンゼル』が現れた。街の上空に、妊婦のような大きな腹を抱え込む女体の様な外見の、大理石のように真っ白で巨大な、前回より更に巨大な異物がそこには浮かんでいた。現れたのが昼前とあって、学校は少なからずざわついた。無駄に「おれは怖くない」アピールをする連中ばかりなのは、今思えばとても学生らしい気がする。

 正直どうでも良い空間になりつつあるのを感じながら、俺は家族の事が心配になった。学校の避難指示の元、家に寄って携帯を確認することもできず、何より心配になったのは妹、舞の事だった。事なかれ主義の両親の事だ。「きっと病院がなんとかしてくれてる」というに決まってる。だが、俺は舞の性格からして、病院で何かしたいことが有れば、そのまま避難指示から逃げるような奴だと知っている。俺は何とかして、舞の安否を確認したくなった。


 避難所に着くなり、俺は病院の避難者を確認した。妹の名前を呼びながら探し回り、看護婦を一人一人捕まえて聞いた。だが……


「おい、楽! 落ちつけって……なんか……別の避難所に居るかもだろう?」

「これが落ち着いて……このっ……ええい! ちくしょう!」


 俺は避難所に押しかける人々の流れに逆らって、入り口を目指した。背後から里士が必死に呼び止めようとしていたが、止めてくれるなと先を急いだ。避難所から出て五感で感じた、青空と新鮮な空気、異様に静寂に包まれた街……それらは今でも覚えている。あの異様な、それでいて胸に沁みるような静寂さ……そんな感傷に浸る間もなく、俺は病院に行く方法を模索していた。

 そんな俺に背後から里士が声をかけてくる。


「おい待てっての」

「止めるならお前は避難所に戻れ……俺は舞を」

「いやだから、病院行くなら必要かな、ってさ」


 そう言いながら里士はポケットから車のキーの様なものを取り出した。


「車か!? お前、運転できるのか?」

「え? いや……」

「いや、この際なんだっていい、頼む! 車を出してくれ!」

「その……これ……」


 そして、俺は里士と原付で二ケツすることになった。


「車なわけがねーじゃん。常識的に考えろよもっと」

「すまん……なんかすまん……」




 原付で静まり返った街を行く。『シャイターン』はまだ来ない。

 俺はふと上空に停滞する『エンゼル』に目をやった。どうやら里士もまた『エンゼル』のその異変に気付いたらしい。


「おい、あいつなんか動いてないか?」

「ああ……もう動き始めるんだろう……飛ばしてくれ。落ちないようにしがみ付いてるから」

「ちくしょう! なんで男に抱き付かれなきゃならないんだよ! 言われなくても出せる限り急いでやるよ!」


 『エンゼル』は自身の大きく膨らんだ腹をさすり、聖母のごとき微笑みを浮かべている。そして、その微笑みのまま、その大きな腹が突然裂け、中から大量の赤黒い何かが噴水のように吹き出し、空を赤く染めた。

 その赤黒い液体は街中に土砂降りの雨のように降り注いだ。錆びた鉄の匂い……血の様な雨のなか、俺たちは病院へと急いだ。里士がなにやら騒ごうとしていたが、騒ぐと口に入ると忠告してやると大人しくなった。

 雨はすぐに止んだが、更に『エンゼル』には異変が見られた。先ほどの腹に空いた穴から今度は白色の何かが大量に這い出して来る。遠巻きには蛆か芋虫の様にも見える。そしてそれらは、羽ばたきながら街中に降りていく。


「なあ……あれやべえよ。どう考えてもやばいって!」

「ああ、早く舞を助けに行こう」

「ちくしょう、このシスコンめ!」


 最悪の想像通り、俺たちの前にもその白い物体が二体、舞い降りた。

 陶器で出来たかのようななめらかで光沢のある、美しさを持った鳥の様な外見だ。だが、鳥の喉元にはこれまた微笑みを浮かべた人の顔が有り、それが異質で有る事を現す。だがその実に優美な事。純白の姿は先ほど降った血色の雨に濡れて、妙な紅潮にもにた絶妙な色香を出していた。だがその美しさに囚われるか囚われないかのタイミングで、その存在は異形さを露わにした。縦にくちばしの先から真っ二つに裂けて、汚泥がごとき色合いの巨大な口が現れ、耳をつんざくばかりのけたたましい絶叫を上げる。その外見は先ほどの鳥の様なものとは違い、ある種ヒトデのようだと思った。


「うっ、くっせ! めっちゃ臭い!」

「避けろ! ぶつかる!」


 急ハンドルをかけて必死に避けようとするが、先ほどの雨で路面は濡れ、容易に原付の足を絡めとった。世界が真横に流れ、そのまま足元に地面が無いように落ちていく。そしてある程度投げ出されたところで、すぐ脇でアスファルトが体を荒っぽく受け止める。要するに横転したのだ。


「里士、大丈夫か! 走るぞ!」

「ちょ、ちょっと待って……」


 痛みでうめきながら立ち上がった里士を、俺の目の前で異形の者が覆いかぶさる。里士の絶叫がその純白の半球状の物体に包まれてくぐもる。里士の恐怖と対照的な、幸せを感じさせる温和な微笑みを浮かべながら……


 その時だった。

 5mほどの巨人が現れた。漆黒の外見。両手には銃、アスファルトを削り取る様なドリフトを二本の脚で行い、背中から青白い炎を吐いて迫る。そして間髪入れずにその左腕に持つ銃が火を噴いた。銀の煙を上げながら音を置き去りに、異形の者どもを吹き飛ばしていく。地面で動けない俺たちの頭上を軽々と飛び越え、尚も立ち上がろうとする異形の者どもに殴りかかる。銃を脇の個体の異形の口に突き刺し、背中から刀を抜き放ち意図も軽々真横に両断する。その体の返しでそのまま脇の個体に突き刺した銃の引き金を引き、その血肉を飛び散らせる。更に刀を突き刺してとどめを刺す。

 ところがそこで、斬られたはずの奴が今一度奇声を上げて襲い掛かろうとする。だが刀も銃も引き抜けず、異形の者に巨人が圧し掛かられる。と、ここで何を思ったのか、里士が立ち上がり、異形の怪物に何かを投げた。それは煙を上げ乍ら高い破裂音を繰り返し、怪物と巨人の間に滑り込んだ。怪物が咄嗟に少し離れる。その隙を逃さず巨人は拳で怪物を殴り、距離が離れたところで、はまって抜けない銃を怪物の亡骸ごと振り回し、踵を返して里士へ向かう怪物を打ち抜いた。


『そこの二人! 原付が動くならそれを動かして! 後からついてこい!』


 巨人は怪物の亡骸を足で踏みつけ、銃と刀を引き抜きながら俺たちに言った。秋鮎だ。機械を通しての声だが、間違いなく秋鮎の声だった。かなり焦っているようで、声からは余裕が全く感じられない。俺たちは彼の言うことに従うことにした。


 病院へ着くまでにも何度か遭遇したが、間一髪のところで毎回助けられ、難なく病院へとたどり着いた。

 病院へ着くと、巨人の背中が開いて中からピッチリとしたスーツを着込んだ秋鮎が出てきた。手には拳銃、腰には大量の手榴弾。もはや学校に居た時のあの感じはなく、ピリピリした空気とその異色な外見から感じさせられる異物感だけが強調して感じられた。

 秋鮎は俺たちを一瞬見て、何かを言おうとしてやめた。そして病院へ足を向け乍ら俺たちに言った。


「行こう。その……病院、でしょ?」


 口を開いたそれはいつもの秋鮎のそれだったことに、なぜか俺は安心を覚えた。


「ああ、妹が居る。12階の1205室のはずだ」

「うん。病院で避難してない人が居るって聞いて、それで僕が来ることになったんだ」

「そうか……すまん。兄妹そろって迷惑をかけちまって……」

「いいよ。僕でも、そうしたと思う。だから、その」


 とここで秋鮎の首元から女性の声がする。たしか、先日の避難所に厳つい男どもを連れて来て支持を飛ばしてた女生と同じ声だ。


「秋鮎くん、民間人と行動を共にしているの? それは規約で認められないわ」


 これにずいぶんとイラついた様子で秋鮎が答える。


「ならどうすんですか? 今から皆さんが病院に二人を迎えに来るまで僕が護衛して、その間街を放っておきますか? ああ、病院の人の救助もそっちのけですかね」


 皮肉だと言わんばかりに怒りを隠さない様子の秋鮎に女性も声に怒気がこもる。


「そうは言ってないでしょう。でも院内にも連中が来るかもしれない。そんな狭いところでは『シャイターン』は使えないのよ。もしそうなった時複数に囲まれたら、いくらスーツの補正が有ってもあなたは一般の16歳と変わらな」

「うるさいな!」


 秋鮎が大声で女性の言葉を遮った。尚も怒鳴り続ける。


「僕だって好きで『適格者』になったわけじゃない! それにあなたたちの人形でも兵器でもないに決まてるだろ! すっこんでてよ! 命令しかしないなら代わりに戦えよ! 誰かを助けようとしてるんだからそれで良いだろう!」


 すこしの間、秋鮎が肩で息をし、それを俺と里士が見守る構図が続いた。

 そして、女性の声はぽつりと言った。


「そう……じゃあ勝手になさい」


 秋鮎はそのまま無言で病院へと入っていった。俺たちはその後を少し離れてついて行った。




「さっきは、ごめん」


 病院のエレベーターの中、秋鮎はまた俯きながら言った。


「その……余裕が無くて、怒鳴っちゃって……」

「ああ、その……なんだ……な」

「原付がこけた後も怒鳴っちゃったし、さっきも……」


 どう答えていいかわからず、咄嗟に里士に答えを振ったが、里士もどぎまぎするだけだった。里士が必死に言葉を紡ぐ。


「え? ああ、その……秋鮎くんも苦労してんだな。はは……いや、気にしてないって。おまえが居なきゃ俺、マジに死んでただろうし……本当に、さっきは助かったよ」

「……うん。ありがとう」

「へ? いや、御礼を言うのは俺たちの方じゃ?」

「そんなことないよ。爆竹で助けられたし……それだけじゃない」


 エレベータは12階にたどり着き、ドアは何の問題も無く開いた。秋鮎はすぐにドアを抜けて階を見渡し、背中越しに手招きをする。

 俺はかすかに、この時秋鮎が泣いていたような気がした。



 病室の前まできて、かすかに足音が聞こえた。重い足音に合わせて、かなりはやい速度でメトロノームが刻まれるかのような音がしている。

 秋鮎は俺たちにここに居るようにジェスチャーし、何時になく重い表情で俺たちの前からいなくなった。直後銃声が響き、耳をつんざくような例の異形の叫び声、そして爆発音。何かが倒れ込むような重い音がしたが、尚も銃声は止まなかった。俺は恐る恐る顔を出して確認した。

 秋鮎は必死の形相で、すでに動かなくなった『エンゼル』に発砲し続けていた。その表情はどう見ても恐怖の表情だった。『エンゼル』を倒せる『適合者』に選ばれて戦てきても、恐怖は今なおこいつを蝕んでいるんだと、その時思い知った。

 弾切れをおこして軽い音をたてている拳銃を尚も引き続ける秋鮎の腕を俺は掴んで、声をかけた。


「大丈夫か?」

「あ、え? ……あ、ああ、うん……ごめん。戦いは……戦う事だけは慣れなくて」

「おわっ、相変わらずグロテスクだなぁ。と、大丈夫か?」

「ん? あ、おい」


 と里士が合流して、秋鮎から拳銃を取り上げる。が、


「あっちい! 火傷したぁあ!」

「え、え!? だ、大丈夫!?」


 銃を床に投げ出して熱がる里士を脇に、俺は銃を拾い上げた。重い銃だ。かなり重い。本物の拳銃が重いとは聞いたが、これほど重いとは思わなかった。


「……阿呆だな。アニメの見すぎだろう。発砲した後の拳銃が熱いことぐらい知っとけ」

「普通は知らねぇよ!」

「知っとけ。一応常識だ。そもそも爆竹なんて火薬持ってるくせになんで重火器の知識が無い」

「誰の常識だ! シスコンの常識か?」

「シスコンにとっても常識だ」

「せめてシスコンを否定しろ!」

「ぷっふ、ふふふ」


 唐突に、声を上げて秋鮎が笑い出した。大きく口を開けて、無理してない笑顔で。そんな顔を初めて見た気がする。


「あ、ごめん。おかしくって、つい」


 目に浮かんだ涙をこすりながら、秋鮎が言う。


「おう、笑えるよな」

「こいつの非常識っぷりになりな」

「いや、お前に言われたくねぇよ!」


 少しお互いに黙った後、俺は銃を秋鮎に返した。秋鮎は銃のリロードを慣れた様子で行いながら、病室へと先導してくれた。

 ……戦いには慣れてないが、戦いの行動には慣れている……つまりは、そういうことなんだろう。




 病室に入るなり、俺は舞の名前を呼んでベッドまで駆け寄った。


「舞! どこに居る!」

「お兄ちゃん! ……ご、めんなさい」


 案の定、舞はベッドのすぐ脇で縮こまっていた。俺の顔を見るなり感極まったのか顔をくしゃくしゃにしながら泣きはじめた。


「そうか、居たか。良かった。もう大丈夫だ。一緒に帰ろう。な」


 どうやら、今度手術が控えた友人の為に千羽鶴を折ろうとしていたが、時間が足りず無理やり折るために残ったらしい。だが、途中で院内に『エンゼル』が入り込んでいたのに気付いたため、必死に息を殺していたらしい。

 ともかく、この場を早く去った方が良いだろう。


 病院のエレベータが見える場所まで出た時だった。病院全体が大きく揺れた。と同時に秋鮎の首元から例の女性の声が聞こえる。


「秋鮎くん! 病院に『エンゼル』の母体が取りついたわ。そのまま民間人を先に退避させて!」

「退避ってどこにですか!」

「すぐ病院の下まで私の部下が装甲車で行ってるわ。装甲車なんて『エンゼル』たちにとってはハリボテでしょうけど……無いよりマシよ。急いで!」


 秋鮎は非常階段の扉の金具をかなり遠い距離から走りながら射抜いた。


「早く! みんなは外に!」


 だがそれを阻止するように、病院の窓の外からやわらかな狂気の笑みが覗き込む。その温かみのある眼が縦に開き、中からグロテスクな複数の目玉が出てくる。

 それだけでなく、病院の壁を突き破って真っ白で可憐な外見の腕が現れる。


「走って! 早く!」

「お前はどうするんだ!?」

「僕は……すぐに『シャイターン』が来る。分かるんだ……だからここは戦場になる。巻き込まれる前に行けって!」


 その言葉を言い終えるかどうかの間に、『エンゼル』とは逆側の窓から、漆黒の甲冑の様な、悪魔の様なフォルムの顔が覗き込み、それが病院の天井を両手で引きはがした。頭上に黒い巻き角を持ち、骸骨がごとき顔をした『エンゼル』に劣らぬ巨大さの『シャイターン』……俺らにとっては希望の存在。秋鮎にとっては……


 俺たちは『シャイターン』の差し出す手に乗り込む秋鮎を脇目に、階段へと急いだ。微かに俺は、秋鮎が「ありがとう」と言ったように聞こえた。



 その後、揺れる病院を後にした俺たちは黒の巨人と白を被った錆色の怪物の戦いを、逃げる装甲車の中から見ていた。怪物と取っ組み合いをするあの巨人には、さっきまで一緒に居た、あんなに戦いにおびえた奴が乗っているのかと思うと、俺は複雑な気持ちになった。





 その後、俺たちは見聞きしたことの全部を墓まで持っていくようにとの誓約書を書かされた。そして、検査入院という名の幾日かの謹慎。街には人的被害はなし。建物がいくつか損壊したらしいが、被害はそこまでだったと後々調べて知った。



 後日、謹慎処分が解かれて学校に行った俺は、秋鮎が転校することを知った。秋鮎は相変わらず、俯き加減だった。

 俺は秋鮎に近寄って言った。


「おい」

「あ、先日はどうも。色々助かったよ」


 心なしか、秋鮎は最初見た時の様な「イラッとさせられる」感覚は無くなっていた。


「転校てのは……仕事か」

「うん。もうこの地域には出ないって言う話だったから」

「ん?」

「あ、いや、そういう予測だってさ」


 クラスメイトが何食わぬ日常を送る中、俺は秋鮎に提案した。


「よかったら、連絡先を交換しよう」

「え?」

「上司に怒鳴るぐらい鬱憤がたまる前に、友達に吐き出せ。ああ、あと、あの阿呆の連絡先も勝手に教えとく。一方入れてやれ。あいつ『エンゼル』に向かって行った分、謹慎が長いらしいから、まだ帰ってきてないんだよ」

「ああ、そっか……」


 連絡先をノートの切れ端に書いて渡す際、俺は言おうと思っていた事を言った。


「あと、今度から携帯はマナーモードにしておけ。それから、ゆっくりでいい。明るく振る舞う努力をしろ。無理にとは言わないが、いじめられない為にもな。……手っ取り早く髪を切ったらいいかもな」

「え……う、うーん。考えてみるよ」

「無理にとは言わない。だが、大声で怒鳴れるぐらいなら、明るいお前も今のお前のどっかに居るはずだ。それを怖がらずに出してみろ」


 秋鮎もまた、携帯の連絡先を寄越してきた。プライベートと仕事用と引っ越し先の住所まで添えて。

 そして、俺はひたすらに言うか迷っていたことを最後に言った。


「ああ、あと……伝言なんだが……」


 言いよどむ俺に疑問の表情を浮かべて促す秋鮎に、俺は何とか伝言という蓑隠しを得ながら言った。


「舞が、な……うちに今度遊びに来るように呼べと……いうんだが……いや、舞じゃなく両親が、だ。舞が誘うように言ってたら俺は呼ばない。うん、うん」


 秋鮎はまた吹き出して大声で笑った。クラスメイトが何事かと見る中、秋鮎は無理のない笑顔で言った。


「……うん。遊びに行くよ。必ず」



爆竹、無理やりじゃね?


……いや、もう最後の方を書いてる時に思い出してねじ込んだんだもの


爆竹、湿ってないの?


……いやほら、一応湿ってるバージョンも考えたんだけど、それダメっぽかったからね



なんて脳内会話が行われたとかなんとか


裏設定は結構多分にありまして

実は『シャイターン』は『エンゼル』を改造して作っており

『適合者』とは何らかの理由で外宇宙から来た『エンゼル』たちとのハーフみたいな存在であるだとか

『シャイターン』は実は喋るだとか、小さい方の『シャイターン』とは性格が違うとか

『エンゼル』が人間を襲う理由は眷属として肉体改造する為とか、実は『エンゼル』は予定表に合わせてどこに来るか決まってるとか、秋鮎の上司の女性の更に上はそのことを知ってるとか


とまぁ

ここまでくるとお気づきの方もいるでしょうが、元ネタはずばりエヴァです

そこにエンゼルギアが入ってこんな具合になりました。

7好き勝手やった結果がこれだよw


ここまでお読みいただきありがとうございました

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