出会い
暑い夏の日でございました。太陽の光がアスファルトを焼き、視線の先の景色はたゆたい、路肩から這い出たミミズは焦げ、顔から流れ落ちる汗は止まることを知りませんでした。
三十分ほど歩いた所だったと思います。それは突然と姿を現しました。
――いや、これは間違いです。私の視線は夏の暑さに挫けて下を向いておりましたから、ただ私がふいに顔を上げただけでございます。それは、ずっとそこにあったのでしょう。しかし、その時の私にはどうしてもそれが突然現れたものと疑わなかった。そう思ってしまうほどに、暑い日でございました。
大きな、大きな館でございました。扉などは私の倍ほどの高さがあり、誰ともなしに感嘆の声を漏らしたものでございます。ともかく私は、すがるような思いでその扉を叩きました。ごめんくださいまし、ごめんくださいまし、と。
一寸して大きな扉が開きました。現れたのは優しそうな顔をした、皺だらけのお婆様でございまいた。私と目が合うとにっこり笑って、いかがなさいましたか、と問いかけてくださいました。
道に迷ってしまいました。どうか一杯の水をくださいませんか。
それは大変でございました。どうぞ、中へお入りくださいまし。
そんな会話をしたと思います。
私は彼女に促されるまま、館の中に入っていきました。
ああそう、こんなことも言っていたはずです。
秋津館へようこそ――と。