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第3章:強迫観念?ただの厨ニ?1

 2年D組前の廊下は、蛍光灯が壊れてしまっている。


この時間帯になると、既に真っ暗だ。


光がほとんど届かないこの場所においても、


その廊下の前に佇んでいる男の頭は、金色に輝いていた。


「それよりも、武力担当がせめてもう一人くらい欲しいわね」


武力担当が欲しい、か。


男は、自身の握られた右手の拳を見つめた。






 白川舞の依頼が解決してから3日が経った。


曇天だったが、雨が降り出しそうな雰囲気はなかった。


「僕には双子の兄がいます」


依頼者である加納大は、霊兎寺高校の1年だった。


顔立ちが少しばかり女性っぽく、少しばかり背の低い、どちらかというと気の弱そうな外見だった。


「兄さんは家に引きこもっていて、


『俺が外に出てほしいのなら、俺を倒してからだ!』といって耳を傾けようとしません」


「……え?」


狐につままれたような話で、嶋村は思わず聞き返した。


加納大の話をまとめると、こういうことだった。


加納大の双子の兄である加納力は、空手の有段者だった。


そんな彼だが中学校の時、学内でのカツアゲ現場を目撃した彼は、


カツアゲした連中をノシてしまった。


実力者だった彼に打ちのめされた連中は皆、全治1ヶ月以上の大怪我を負ってしまい、


加納力も一定期間の停学という厳しい処分を受けた。


「停学している間に、兄さんは変な方向に行ってしまった。


自分が魔物かなんかにとりつかれてしまってる。


そう、錯覚してしまってるんです」


長い謹慎期間を経て、中二病を発症してしまったのだ。


「さすがにそんなわけないって、薄々勘付いてはいると思うんです。


でも、引くに引けない状況で……。


『俺を外に出したいならば、俺を倒してくれ。


そうしなければ、俺の中に潜んでる魔物は消え去らない』って言ってるんです」


「つまり、簡単にいえば、


お兄さんを倒して、お兄さんの目を覚まさせろ、ってことだね」


加納力は中二病を発症した影響で、出るに出られない状況になっている。


そこで、建前となっている『俺を倒せば』というのを実践しようというわけだ。


「はい。


兄さんは今までケンカでは無敗でした。


どんな手を使ってでも兄さんを打ち負かすことができれば、


妙な呪縛から解放されるかもしれません」


興津が満面の笑みを浮かべた。


「それなら私に任せなさい。


空手の有段者といえど、私だって武道の心得が……」


「女の方ではダメです」


加納力は、女とはケンカしないという主義を持っている人だった。


「つ、つまり、俺か嶋村か、どっちかが倒せってこと?」


「まあそういうことだ。


加納大君だったかな、了解した」


嶋村も内心では焦っていたが、必死に覆い隠した。


幸い彼には、自身の心をひた隠しにする程度の演技力は持ち合わせているようで、


「はい。


それではお願いします」


加納大は安心した様子で教室を後にした。






 加納大が教室を去ると、すぐに作戦会議となった。


「考えられる方法は3つ。


1つ目は、興津が僕か東海林を徹底的に鍛えて、空手の有段者とも渡り合えるようにする。


もう1つは、興津が男装して、興津が加納力を倒す。


もう1つは、男の実力者を新入サークル員として獲得する」


しかし、1つ目の方法はほとんど現実味がなかった。


嶋村も東海林も、それほどスポーツは得意ではない。


しかも興津曰く、空手の有段者は短期間の付け焼刃でどうこうできる相手ではないらしい。


2つ目の方法も不可能に近い。


ショートカットの遊佐ならともかく、長髪でボディラインも割とはっきりしている興津が男装するのには無理があった。


「……となると、結局は3つ目の方法が唯一の策」


遊佐がポツリと呟く。


しかし、誰も異論はいない。


「まったく、変な意地はってないでさっさと外出ろってのに」


思わず興津がぼそりと呟いた。


「まあ、そういうな」


引きこもりについて専門知識があるわけではなかったが、


加納力が意地だけで閉じこもっているわけでもないように、嶋村は感じた。


「外に出たいとは思っている。


でもそのキッカケが掴めないとか、そんな所なのかもしれない」


「そういえば東海林、」嶋村は東海林の方を向いた。


「昨日いったこと覚えてるか?」


「有力なデータを持った新人候補を探せってやつだろ?


実はさ、1人いるんだ。


我が『ミレーヴァ』第2の武力担当の有力候補が」


そういって東海林は写真を取り出した。


写っていたのは、金髪で人相の悪い男。


霊兎寺高校2年の中でも札付きの不良と言われる、駒田太助だった。


嶋村自身、窓の外を眺めている時によく校門前にいる顔でもある。


「中学校の頃はボクシングをやっていた。


だが中3の秋頃になって、突然パッタリとやめちまったらしい」


「ボクシング、ねえ……」


興津はボクシング特有の軽いジャブを虚空に放つ。


興津の通っている道場は特殊な流派らしく、


空手やボクシングなど、様々な格闘技の利点を集めているそうである。


「しかしこいつは不良だぞ?


確かに戦力になるかもしれないが、果たして変なことしないだろうか……」


「それは、あなたが見極めることじゃなくて?」


「うっ」


嶋村は、苦い顔を遊佐に向けた。


「『不良タイプは苦手だ』、か。


でも他にいい策はあるのかしら、統括役さん?」


「……わかったよ」


「ま、いざとなったら私がいるから大丈夫!


さあ、レッツ勧誘!」


興津は、自分と同じ武力担当が増えそうなことを喜んでいるようだった。


嶋村は興津に引っ張られる形で勧誘しにいった。


「……あんま心配してないのね、嶋村のこと」


遊佐は東海林の方を向いていった。


「ああ、あいつ、普段から不良タイプは苦手だ苦手だとかいってるけど、


どんな人間でも、なんやかんや巧く手なづけちゃうから」


求心力は、天賦の才能ではないかと東海林は考えている。


「あいつは頭もいいが、何よりすごいのはリーダーシップだ。


なんつうか、『あっ、こいつについてけば間違いない』っての?」


「すごく信頼してるのね」


「まあな」


自分で言っておいて恥ずかしくなってきたのか、


東海林は顔を窓の方に背けた。






 一方、嶋村や興津は未だに2年D組教室の前にいた。


彼らが探しにいくまでもなく、


彼らが探していた新人候補は教室の前にいたのだ。


「ええと、単刀直入に言おうか」


嶋村が口を開いてもなお、新人候補はこちらを睨み倒そうと言わんばかりの目つきを二人に向けている。


「僕たち『ミレーヴァ』は、君の力を必要としている」


「……フン」


小柄な金髪の駒田は、両腕を組んでソッポを向いた。


そもそも駒田は、愛想が悪いことでも知られていた。


「俺に言うことを聞いて欲しければ、


俺を倒してから言いな」


拳を突き出した駒田を見て、


嶋村は心の中で鬱屈した気持ちになった。


(まーたこれか。


実力主義っていうか、ただのノータリンっていうか。


もう少し頭のいいこと言えないんだろうか)


「そんなこと言ってる割に、なんか戦意が感じられないのよね」


興津の疑問めいたトーンの声が、辟易した嶋村の耳に入った。


「ん、どういうことだ?」


駒田は、構えた右腕をブランと降ろした。


瞬間、興津の拳が駒田の顔面めがけて飛んだ。


「ウワッ!」


駒田は仰向けに倒れた。


それも、かなり呆気なく、である。


「くっ、くっそーなかなかやるじゃないか」


「……え?」


これに驚いたのは、興津だった。


「だって私、当ててないんだけど」


「え?」


駒田は、およそ突っ張った人間とは思えないような腑抜けた声をあげた。


「あ、いや、」


「まさか拳の風圧で倒れました、なんて言わないわよね?」


「えー……」


「そもそも顔面に攻撃受けて『ウワッ!』なんて普通言わないわよ?」


「……もしかして、わざとか?」


嶋村の何気ない一言が止めとなったようで、


駒田は首の骨が突然消えたかのように、頭を前に大きく倒した。


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