表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/46

最終章:堕天使の断罪5

 ―――






 「あれま、バレちゃったよ」


東海林たち一向は、ひったくりに扮する鳴瀬川に誘導される形で、


栗山藍の拉致監禁された場所に辿り着いていた。


しかし、連中には、そう簡単には栗山藍を渡す気はないようだ。


数人の男の後ろには、椅子に縛られた栗山藍がいる。


「せっかくお前らがビル霊兎寺でノサれてる間に愉しもうと思ってたのによおおおお!」


男のうち一人は目線が安定していなかった。


時折足元がおぼつかなくもなっている。


「まさか君らが退院してるとはな……。


ところで確かお嬢ちゃんは、この前俺が後頭部を突いてやったよな?


今度は殺しちゃうかもよ?」


棒切れを持った小男が、その角材を遊佐の方に向けた。


「想奈ちゃん、みんな、帰って!」


小男の後ろで、栗山藍の悲鳴が聞こえた。


「私のせいであんな怪我を負わせちゃって。


今回だって、私が不注意で拉致されなければ!」


栗山藍の懺悔は東海林によって寸断された。


「悪いが栗山藍さんとやら、それはできない相談だ」


東海林は自身の目の前にいる悪漢を眺めた。


その眺める目は、我が子を殺された獣のように鋭く、怒りに満ちたものだった。


「俺はな、後輩をヤク漬けにされたんだ。


そのヤク漬けにした奴らを許すわけにはいかないんだよ」


「ゴチャゴチャうるせえぞ!」


悪漢のうち1人が東海林に襲い掛かってきたが、


駒田のストマックブローが、悪漢の1人に深く突き刺さった。


「俺はな、」


駒田は素早くステップを踏んで、もう1人の悪漢の背後に立った。


「貴様らをぶちのめす為にボクシングを再開したんだ!」


腎臓狙いのキドニーブローを食らい、もう1人の悪漢も力なくその場に倒れこんだ。


「藍、」


その隙に遊佐が藍のもとへと駆け寄り、その縄を解いた。


解いてやると、藍は顔をくしゃくしゃにさせて遊佐にもたれかかった。


「ごめんね、怖かったでしょ?」


「ううん……ありがとう」


「この野郎、いつのまに!」


小男が角材を栗山藍に向けて突き刺そうとしたが、


その腕は途中でぴたりと止まった。


「それ以上、その汚い棒を藍に向けたら撃つわよ」


遊佐の左手にはピストルが握られていた。


玩具だが精巧に造られており、嶋村でさえも偽物と気づけなかった。


当然、小男が見破れるはずもない。


「そうそう」


東海林はポケットから、折りたたまれた紙を取り出した。


紙を開くと、A4サイズの文書だった。


「俺も病院にいる間、暇つぶしにお前たちの悪事を色々調べてみたんだ。


窃盗やら万引きやら、おお、レイプや傷害致死なんてものまである」


「ざんね~ん!」


目線の安定しない男が、紙切れを持った東海林を思い切り殴った。


「柳井のじいちゃんが政治家でなあああ、父ちゃんも会社の社長でなああああ。


俺たちのやることぁぜええええんぶ見逃してくれるんだああああ!」


「何だと?」


殴られた頬をぬぐいながら、東海林はよろよろと立ち上がった。


警察には実力者の二者からの圧力がかけられていた。


だから柳井征の一向は何のお咎めも受けてこなかった。


「つまり俺たちにとっちゃあ、日本て国は無法地帯ってことだぜええええ!」


突如、扉から轟音が響いた。


その場にいた全員の目が扉へ向くと、鉄のバケツが扉の近くで転がっていた。


そのバケツの近くにはサバイバルナイフを持った男が立っていた。


「その会話、全て録音させてもらったぜ」


右手にサバイバルナイフを持った男は、左手にはペンのようなものを持っていた。


「円威……」


円威邦孝は、不気味な笑みを浮かべながら目線の不安定な男を睨んだ。


「てめええええ! 殺されてえのかああああ!」


目線の安定しない男が円威めがけて襲い掛かったが、


東海林の懸命のタックルで横に倒れた。


円威は、起き上がろうとする男の目の前に、サバイバルナイフを突きつけた。


「さっき仲間が警察に電話した。


数分でこっちに来るってよ」


「ハッ! さっきこいつが言ってたことを聞いてないのか?


俺たちはな、警察のお咎めを受けないんだよ!」


「残念だが、その可能性はなくなった」


高らかに叫ぶように言い捨てる小男の奥の方から野太い声がした。


その声を聞いた途端、駒田は全身の毛が逆立つのを感じた。


声がした方から、1人の男が大股で歩いてきた。


彼は180はあろうかと思われる大きな図体の持ち主で、白いバンダナを巻いていた。


「ヒザマ……貴様!」


「つい先程、」


ヒザマは駒田の声には耳を貸さず、自身の仲間を眺めるように見た。


「柳井の祖父である柳井茂雄が賄賂譲渡の疑いで警察に逮捕されたそうだ。


その影響かは知らんが、柳井のおやじさんの会社も家宅捜索されている。


いまや警察の圧力を止めるものは何もない」


「ク、クソッ!」


小男はヤケになって、棒を栗山藍めがけて突き刺そうとした。


それより前に、ヒザマの裏拳が小男の顔面を砕いた。


「ああああ、てめええええ!


何しやがんだああああ!」


目線の安定しない男が吼えた。


「俺は昔からこの小男が嫌いだった。


だから倒した、それだけだが?」


ヒザマは無表情のまま、目線の安定しない男に返答した。


「薬物に溺れた弱者に興味はないが、


仲間の仇をとってみるか?」


「このデカブツがああああ!」


男は時折ふらつく足でヒザマに向かって歩き、思い切り右手を振り上げたが、


ヒザマの正面蹴りで後方に激しく吹っ飛んだ。


「おい小僧」


取り巻きを薙ぎ倒して、ようやくヒザマは駒田の方を向いた。


「俺も恐らく牢屋に入れられる。


そしてしばらくそこから抜け出すことはできないだろう。


せめて最期に、強者と一戦交えたい。


最期の相手として、お前を選んでやる」


駒田は身体の震えが止まらなかった。


かつて自身を圧倒し、ボクシング引退まで追い込んだヒザマが目の前にいる。


この前も、一撃で下された。


「まさか、そこで寝てる小男や薬物中毒程度では終わらないよな?」


「オラァッ!」


駒田が繰り出した拳は、ヒザマの腕に阻まれた。


ヒザマの腕に阻まれ頭まで到達しない駒田の拳。


それでも駒田は拳を振るい続ける。


左、右、左、右、左。


無数の拳がヒザマの腕に空しくぶつかっていく。


しかし突如ヒザマが後退した。


「なるほど、考えたな」


ヒザマは左手で自身の鼻を軽くこすった。


その左手は少し赤くなっていた。


「ああ。


腕で防御されるなら、その腕自体を狙えばいいってことよ」


ヒザマに自身の強さを実感させることができている。


駒田はそれだけで、自身の成長を感じることができた。


「まだ行くぞ!」


正面に突進してくる駒田を見てヒザマは「フッ」と笑うと、


力強く前蹴りを繰り出す。


ヒザマの左足が空を切る。


ヒザマの足の裏の近くに駒田はいた。


「ボクシングのフットワークってのは何も、前進だけじゃねえ」


蹴り出した左足を戻す。


左側に回り込んで右耳付近に拳を当てる。


右手で防御する。


左手で応戦する。


左回転して左肘を当てる。


ヒザマの左肘と駒田の左拳が衝突した。


人間の骨で最も硬い肘の骨を拳で受け止めた駒田だったが、


左肘を押さえるヒザマとてただでは済んでいないようだった。


「どうよ、ヒザマ?


もはや初対戦の時の俺とは違うぜ?」


左拳を軽く撫でながらも、手応えを感じていた駒田は軽く笑っていた。


「……そのようだな」


ヒザマは突然身体を折り曲げた。


一瞬ヒザマが視界から消えた駒田は、突然左の米神に衝撃を感じた。


ヒザマが左回転して回し蹴りを繰り出したのだ。


思わず倒れこむ駒田を見て、今まで無表情を通してきたヒザマが笑った。


「……愉しい」


それは柳井征が浮かべるような下劣なものではなく、


誕生日に親に買ってもらった玩具で遊ぶ無邪気な子どもが浮かべる笑顔だった。


「とても愉しい」


「ああ」


起き上がる駒田の顔も笑っていた。


「俺も愉しいぜ!」


駒田の右拳がヒザマの顔面にめり込んだ。


ヒザマは後ろに数歩下がったが、倒れはしなかった。


「もっとだ! もっと俺を愉しませろ!」


ヒザマの掌底が色んな角度から駒田を襲い掛かる。


ステップやガードだけで全てを対処できず、数発もらう。


「今度は俺の番だ!」


駒田の左拳が、右拳が、ヒザマを砕く。


ヒザマも負けじと、多角度の掌底を繰り出す。


2人の汗が、熱気が、そして返り血が辺りに迸った。


二者は打ち合いをやめ、一旦距離をとる。


2人の肩が上下している。


「どうやらお互い、そろそろ潮時のようだな」


「認めたくはねーが、そういうことだ……」


次の一撃で決まる。


駒田が、ヒザマが。


東海林が、遊佐が、栗山藍や円威邦孝が。


この場にいた誰もがそう確信していた。


「これで終わりだ!」


「俺はお前に勝つ!」


ヒザマの拳が、駒田の拳が宙を舞う。


無音に関わらず、大音量で飛んでいくかのような2つの拳。


ヒザマの拳が駒田のいた位置に到達する。


その拳は空気を打った。


「フェイントだぜ」


駒田はヒザマの懐に入っていた。


ヒザマは慌てて左手で防御しにかかったが、


間に合う前に駒田の右アッパーがヒザマの顎を砕いた。


白いバンダナの大男は声もあげず、後ろ向きに倒れた。


「警察だ! 大人しくしろ!」


同時に、紺色の制服を着た屈強な男数人が部屋に入ってきた。


その場でノビていた小男や目線の安定しない男、その他数名の悪漢も錠に繋がれる。


ヒザマの屈強な両腕にも、法の枷がはめられた。


「ヒザマ……」


駒田は血の流れる自身の口をぬぐいながらヒザマの方を向いた。


「小僧、」


ヒザマは「フッ」と軽く笑った。


「強くなったな……」


他の悪漢が顔を土色にしながら警官に連れられるなか、


ヒザマだけは充足感に満ちた顔を浮かべながら連行されていった。

栗山藍の方は無事解決しました。

でも、嶋村たちの方の運命はいかに……?


最近雨ばっかですね。

洗濯物が溜まって大変です(汗)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ