ふらりフラフラ金曜日1.1
「あーあ。お爺さんたち、いなくなるのかー。つっまんねーの」
学校帰り。
カズは嘆きながら、道端の石ころを蹴った。石は2~3回バウンドして車道に転げ込む。続けて蹴るものが無くなったので、他の獲物を探すが適当なのが見当たらない。
そんな彼に稔が追い打ちをかけた。
「我が物顔に入り浸っているから、嫌がられたんだろ」
よくよく考えなくても他人の家である。
いくら優しくしてくれるとはいえ、モノには限度というものがあるだろう。カズがあまりにも自然に通っていたから感覚が鈍っていたけれど、住人にしてみれば大迷惑な事この上なかったはずで。あの不気味な男は、ある意味、いい機会になった訳だ。カズが迷惑なら稔も同罪。
それでも、やはり諦めきれないのだろう。お騒がせ者はもごもごと言い訳しはじめた。
「だって、結構面白かったんだもん。大きい家だったし、草でギッシリの裏庭だってすごかったぞ、しかもお化け屋敷の異名付!子どもだったら誰だって・・・はいはい、僕が悪かった。悪うございました!
ところでさ、2階にあったオルガンみた?学校にあるのより古かった。りんねさん弾いてたりしたのかな」
「歴史は嫌いでも、骨とう品見んのは好きなんだな」
ちなみにこれは皮肉である。その古物趣味を『班新聞』に活かしていりゃあ、余計な気をもむ必要もなかったわけで(レアアイテムも無事だったはずで・・・ああ、根に持つぞ。しつこいんだ俺は)
もともと言葉の裏を読まないカズは、素直に稔の言葉を受け止めた。
「んー・・・。骨董って、死んだ人の物だろ?そうじゃなくて、今生きてる人のそれを見るのが好きなんだよ。知りたいの。たとえば阿倍仲麻呂の好物は興味ないけど、そこ歩いてるおばちゃんの趣味とかは気になる。そんな感じ」
おぉ、早速、今日習った昔の人物を引き合いに出してきた。覚えたてだから使いたいんだな。けどさ、どのみち古いってのは同じだろ?さらに言えば、おばちゃんより仲麻呂の方が『歴史的価値』も『勉強的意味』も上だ。カズの興味ポイントが分からん
「・・・悪ぃ、けど、わっかんねーわ」
「けけけ、そうだろー」
稔の発言に気を悪くする様子もなく、カラリと笑う。
「でもさ、色々とヒントになるだろ・・・人間知らなきゃ、宇宙人なんてもっと理解できないんだぞ。上手く言えないけど、そういうこと」
「結局、そこか」
若干、呆れた口調になったもののカズが『そっち方面』で真剣なのは分かっているので、稔はそれ以上ツッコミを控えた。誰でも混ぜ返されたくない事はある。
そうしているうちに、分かれ道にたどり着いた。カズも自宅に帰るんなら一緒の道だけれど・・・
「まぁいいや。俺、今日従姉が来るからさ、夕方まで子守してなきゃなんねぇんだ。だからまっすぐ家に帰るけど、カズどうする?」
聞くまでもないなぁ、と思いつつ、稔はカズの返事を待った。案の定、きっぱり答えが返ってくる。
「僕はまっすぐお爺さんとこ行く。今日最後かもしれないしー・・・お前これないの?」
稔は頭を働かせた。
正直言って、自分だって行きたい。なんだかんだいって、ここ最近楽しかったのは確かだし、お別れをできるものならしたいし・・・ではどうするか?
そうだ、兄は今日、少年団がなかったはずだ。まっすぐ帰ってきてくれれば、子守を押しつけることができるかもしれない。いや、押しつけよう。
「・・・多分、行ける。兄貴次第だな。遅くなるかもしれないけど」
「OK、じゃ稔の分のオヤツは残しておいてやるよ」
「そりゃ、ありがてーな」
それから手を振って、お互いの道を歩き出した。
時刻は夕方とはいえまだ日は高い。明るいうちに合流できるといいのだけれど。