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問題ちらほら月曜日

 結局。



 なんとか生活班は、期限内に壁新聞を提出することができた。

 もっとも、内容に文句がつかなかったわけではない。昼休みに担任の先生が、ワザワザ廊下に貼ってあった生活班壁新聞を持って、「なんだ、この『驚愕!寺でもないし人もいた!』という記事は」と怒りに来るぐらいには。


 「お寺だと思って調べていたら違ったよ、という記事です」

 先生には何かしら言われるだろうな、と覚悟していた稔が簡単に答えた。隣の席で落書きをしていたカズがうるさそうに顔を上げる。

 日曜に皆で集まって考えたものの何も思いつかなかったので、結局ありのまま(面白おかしく)空白を埋めたのだ。ついでに、せっかくだからと悪ノリも入り、他の班に比べて、外見も異色なら内容も異色、どこをどうとっても『社会科の宿題』に見えないシロモノができてしまった。

 

 「先生は、『町の歴史』を調べろと言ったんだ。そうわかった時点で別のものを書けばいいだろう」

 当然、先生の言い分はもっともである。稔が上手い返事を考える間もなく、班長が口答えした。


 「あの家だって昔からあるんだ、歴史の一部みたいなものじゃんか。『仙神町重要文化天然保護記念建造物』に指定したっていいくらいだろー」

 「何だそれ」

 絶対色々混ざっているだろ・・・呆れ顔の稔をよそに、カズは持てる知識を総動員して屁理屈を並べ立てる。(こういう時の彼は頼りにはなるが、敵にしたくないと思う瞬間でもある)


 「それとも先生は~、『歴史』は名産品とか観光地とか自然とかそういうもので見るものであって~、そこに住んでいる先人の営みや俗習文化は当てはまらない、と仰るわけですかー?」


 うっわ、こいつかわいくねー。俺だったらこんな奴の担任嫌だわ。


 案の定、先生の顔がピンクから赤へゆっくり変わっていく。ケンカを売ってどうするんだ。稔はあわてて口とはさんだ。

 「せんせー、今回は俺達がんばったんだ。美香子たちが書いた他の記事とかよく書けてるでしょ」

 「・・・確かに、他のは、な」


 先生は苦虫をかみつぶした顔で答えた。とはいえ、やや顔の赤みは薄くなっている。稔はここぞとばかりに、真面目な頑張りを訴えた。

 「かなえだって珍しく本読んで調べてたし、カズも裕也も一生懸命寺の調査したよ。ここまで全力でやるのなんて、めったにない!真夏に雪だるまが降ってくる確率よりも低い!すっげー完璧だったんだよ・・・ちょっと、まぁ、ただの家だったっていう結果だったけど」

 「・・・」

 「ほら、結果より過程が大事って校長先生も言ってたし」

 「・・・」


 ほとんど泣き落としの様な調子で、稔は切々と先生に訴えた。目の隅で、カズが再び落書きして遊んでいるのが見える。俺にまかせっきりか、このやろう。何はともあれ、やり直しだけはご勘弁を・・・オダイカンサマ。



 貴重な昼休みはこうして潰れたのである。

 「へぇ・・・『内容』の指摘でよかったじゃない。紙がラメパウダーまみれなのを注意されたのかと思ったわ」とは、美香子の弁。いいわけないだろ。


 大体、生活班メンバーは根はいいんだけど不真面目な奴ばっかりだ。意外と美香子だって本気で活動しないし、かなえは人任せだし裕也は気が弱いし、カズに至っては!!

 ただでさえ、クラスで変な意味で浮き気味な班なのだから、おかしな目立ち方は避けたいところだ。アイツラがどうかしらんが、俺は避けたい!


 ま、そうなると・・・稔がフォローに回る他なくなるのだけど。


 カリカリしててもしょうがないよなぁ・・・。


 ほとんどイライラ状態の上の空で帰りの会を過ごし、ようやく落ち着いてきた稔は出しっぱなしの教科書を片づけ始めた。

色々考え事しているうちに、今日も終わった。非常に疲れた。早く帰って家でダラダラしよう。カバンを持って立ち上がると、待っていたかのようにいそいそとカズがやってきた。

 「でさでさ、稔。今日は僕用事あるからダメだけど、明日一緒に行こうな」


 昼休みの戦いをまったく気にしていない、お気楽な調子だ。稔は急に話の続きをされ、あっけにとられて班長の顔を見た。


 「・・・行くってどこへ?」

 「どこへって、あそこだろー。お寺・・・じゃなくてお爺さんの家」


 「うぇあおお爺さんの家ぇ?本気だったのかよ、っていうかなんで俺まで!一人で行けよ。やだよ、あんな怖いとこ」


 「僕だけじゃ寂しいじゃん。なー?ま、詳しくは帰り道で相談しようぜ」


 稔は誰か他に巻き込める相手(たとえば、裕也とか裕也とか)を目で探したが、教室には掃除当番のレク班以外、すでに誰も残っていなかった。





※※※

 

 ・・・やっぱり、ついてきてくれるよう頼めばよかったかなぁ

 

学校帰りにまっすぐ、ボクは『あの』家へとやってきた。寺でもなく無人でもないとわかっていても、やっぱり気味の悪いものは気味が悪い。できるなら、回れ右して帰りたいくらいだけど・・・。


いつもお守り代わりに持っていた時計がないことに気付いたのは、昨日の夜。家中探したけれど見つからず、半分泣きそうな思いで頭の片隅に浮かんだのは、追いかけられて正座したあの土曜の事だった。逃げたときに落としたんじゃないだろうか?おばあちゃんからもらった大事な懐中時計だから、心当たりは探さないといけない。


けど、やっぱり一人だと怖いなぁ・・・


カズ君は「今日は用事がある」とか言ってたの聞こえたし・・・稔君に頼むのも・・・。いや、多分一緒に来てはくれるだろう。用事がなければカズ君も、きっと。けれど断りにくいだけだったら?ボクは友達だって思いたいけど、ひょっとしたら向こうはそう思っていないかもしれない。ただ一緒の班だから・・・そうだとしたら、無理を言ってきてもらうのも悪い気がする。


 いつまでもここに立っているわけにもいかないので、恐る恐る敷地に足を踏み入れた。まっすぐ裏庭に回る。あ、でも挨拶しておいた方がいい、かな?けど怖いもんなぁ、また怒鳴られたらどうしよう?

 いや、大丈夫。この庭で落としたに決まってる。だから見つかる前に探してしまえばいいのだ。不法侵入じゃないもん、用事があるから、こっそり中に入るだけだし。


 ボクはあの時の行動を思い返しながら、地面に目を走らせた。





 「ない・・・」



 ずっとしゃがんでいたから腰が痛い・・・いや、それよりも!

 ボクはその場に呆然と座り込んでしまった。


 ということは、もう一つの心当たり・・・あの正座した場所を探さないといけない。こっそり家の中に入らなきゃなんない?いや、ムリムリムリ、どうしたらいいんだろう?あのお爺さんとはもう会いたくないよぅ。



 ガサリ



 突然の物音に、ボクは恐る恐る後ろを振り返る。丁度、雑草がぎっしり密集しているあたり。何か動いたような?息をひそめて草の隙間を見つめていると、赤いものがチラリと見えた。それほど大きくもないようだ。ボクはほとんど四つん這いで、それに近づいていく。

 いつもなら、速攻逃げていただろう。それをしなかったのは、よそのお宅に忍び込んでいるという開き直りなのか、それとも好奇心だったのか?


 なるべく音を立てずに手前の草をかき分けると、1メートルほど奥にゴロンとした丸い物体があった。


 置物?

 ・・・じゃない!動いてる!!!


 その時、赤丸いのがこちらを振り返った。


 丁度『だるまさん』に手が生えたような、変わったロボット!ちゃんと顔のあたりに半円形のモニターのようなものがついていて、『目』を表しているようなランプが点灯している。


 え、なんなのコレ?!


 向こうもボクに気付いて、ピタッと止まる。もう、何をどうすればよいのかわからない・・・半分パニックになっていたボクは、一瞬で我に返った。

 そのロボの手に、鈍く光るものを見つけたからだ。


 「・・・あ、あの、それ・・・」


 探してた懐中時計!!!


 丸っこいのは、時計をじっと見た後にボクを見て、ちょっと斜めに傾いた。

 小首をかしげているつもりなんだろうと判断して、なるべく脅かさないようにそっと近寄りながら、もう一度話しかける。


 「うん、それ・・・ボクの。・・・返してくれる?」


 尚も、赤丸いのは時計を見て、それから手をボクの方へ伸ばした。

 届きっこないと思ったのもつかの間、見る見るうちに2倍3倍とホースが伸びて、ぽんっと時計を渡してくれた。手のひらに金属的な冷たさと重みが加わる。


 「ありがとう」

 これは大事な大事な時計だもん、無事に戻ってきてよかった。


 丸っこいのは動かずにまだこちらを見ている・・・あの腕のホース?じゃばら?に見覚えがあるような。

 そうだ、カズ君が逃げてた時に体に巻きついていたの、コレじゃないだろうか?ということは、この丸いのに引っかかって転んだんだ。あの時は、何に躓いたのかなんて考える余裕がなかったから、それがロボットなんて気が付かなかった。


 「・・・ねぇ、君、ロボット?」


 声に出してから、少し恥ずかしくなる。何言っているんだろう?見ればわかるじゃないか。

 いつもこうだ、ボクは言いたいことがうまく言葉にできない。できても面白味のあることが言えないし、相手を退屈させてしまう。多分、このロボもすぐにどこかへ行ってしまうんだろう。


 けれど、ロボはこちらのそばにやってきて、ボクの隣に落ち着くと、ボクに座るようにジェスチャーをした。たいして拒否する理由もないのでボクも腰を下ろす。あっという間に視界は草の壁で覆われた。

 どこからか聞こえる車の通る音、風が木の枝を揺らす気配。ボクの横を蝶が横切って、それを追うように視線が上へと移動する。空は薄い水色だった。


 「ここ、君のお気に入りなの?」

 

 返事なのかわからないけれど、ロボはゴロンと横になった。後で起き上がれるのかちょっと気になったけど、ボクもマネして寝っころがる。草と空と、視界にかすかにひっかかる電線、そして大きすぎず聞こえてくる生活音。本当にこれだけしかない。


 「なんか、いいね。ここ」

 

 それでも情報が少ない世界は、自虐的になっていたボクの心を落ち着かせていった。



挿絵(By みてみん)







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