プロローグ2
※昨年、書きかけの同名小説を、書き直したものです。
次の日。稔・カズ・裕也の3人は、例のお寺の前に集まった。
3丁目は仙神町の中でも古い方の住宅地で、大き目の庭を持つ一戸建て住宅が整然と並んでいる。そんな中、やけに広い敷地をぐるりと塀で囲んでいる古寺は、車通りの多い町道に面しているにもかかわらずやけに静かで、木は生い茂り草はボウボウで背丈ほどもあり、昼なのにどこか薄暗い雰囲気だった。1階の玄関や窓は板があてがわれ、2階の窓からのぞく黒いカーテンは少しも動く気配もない。
実際、本当に人が住んでいたことがあったのだろうか?建てられてからずっとこの状態なのではないだろうか?
あまりにも静かで動きのない佇まいに、稔は嫌な気分になった。オカルトやホラー系の嫌さではなく、場違いなところに来てしまったいたたまれなさというか。
「わかってると思うけど、中には入らないからな」
稔は普段よりもやや大きめの声で、2人に宣言した。
「石碑とか石像とかの写真撮ったり、後は近所の人に聞き込みしたり、そういうことをするんだからな。さっさと終わらせてさっさと帰るぞ」
「・・・はい、わかりました」「わかりました、長官」
「では、始める」
3人はこそこそと、古寺の敷地に侵入した。
建物に沿って裏に回ると、ぽっかり空いたやや広めの空間に出た。まるっこい石像が5~6体、すみっこの方に並んでいた。塀に持たれるように建っているその周囲には、雑草は少くないけれど、この庭の中心部はカズ達の身長をはるかに超える大きさの草で埋め尽くされ、まるで枯れ草色の分厚いカーテンのように向こう側が何も見えない。
「すごいな、ここ」
止める間もなく、カズが草の中へ突っ込んでいった。あっという間にその姿が飲み込まれる。
「まるで秘密基地じゃん?すっげー、なんで今まで来なかったんだろ。ほらほら、キミらの方から、僕見えないだろ」
「おい、遊ぶな。こっちからだってなぁ、草の間からお前の服がちらちら見えてんだよ」
「ばっ!!!」
「うぎゃ!」
突然、目の前草の中から顔が飛び出して、裕也が悲鳴を上げた。
「ははは、成功成功」
「お 前 は ・・・」
眩暈がしてくる。
稔は黙って、笑っているカズの頭を草の中に押し込んだ。こいつは別行動させる。決めた。今決めた!
「いいからそのまま奥に行って、何か探してこい。裕也、俺達はそこのお地蔵さん調べるぞ。ついてこい」
裕也と草をかき分け石像の近くまで寄ってみると、長年の雨風ですっかり彫りが浅くなっていたお地蔵さんが6体、2人を出迎えた。よく見ると、それぞれ大きさや体格が違っているように思える。稔はそっとお地蔵様の表面を撫でてみた。ゴツゴツした荒い手触りが、風化を実感させる。
「お地蔵さんにも種類があるんだってさ。けど、どこを見たらどれだってわかるのかな」
「・・・あ、あの、とりあえず、全部、写真撮っちゃおうか。後で図書館で調べてみようよ」
裕也はデジタルカメラを持ってきたらしい。いいな、稔なんか使い捨てカメラだ。しかも使いかけの。後でいじらせてもらおう。
色々な角度からカメラを構える。シャッターの電子音に混じって、遠くの方で、カズの声が聞こえた。
「なんだよ稔、やめてくれよー」
「おぅい、何言ってんだ?何か見つかったのか?」
稔が叫び返すと「え?」と一言聞こえた以外、そのまま5分ほどたっても音沙汰がない。さすがに心配になって裕也と一緒にカズのところに行こうと足を向けた途端。
「皆逃げろ!」
体に変なホースを巻きつけたカズが、茂みの中から飛び出してきた!
「え?」
ガランと音を立てて、赤い『業務用掃除機の様なもの』が足元へ転がり込み、カズはバランスを崩して稔と裕也の目の前ですっ転ぶ。どうやら、あのホースは赤いものとつながっているようだ。
と、ここまでわかったところで、稔と裕也の思考が止まった。
続いて現れた禿げ頭の男。
骨に皮がかぶさったかの様な細い体系に、顔を真っ赤にして目をひん剥き、何やら大声で叫びながらこちらへ向かってくる!!
「妖怪だー!」
「ぎゃー!」
※※※
「今頃カズ達、何してるかな~」
かなえは鉛筆の手を止めて、ポテトチップを頬張った。塩味もいいけど、コンソメだったらもっと良かったなぁ~。
実は、今日は朝から乗り気ではなかった。せっかくの土曜日なのに、朝から図書館に行って調べものしなきゃならないなんて!
どっちかといえば、古寺探検でギャーギャー騒いでいた方が面白そうだ。どの本見たら何が載ってるか、なんてわかんないし、美香子とそんなに仲良くもないしな~(一緒の班だけど)・・・とかなんとか思っていたけれど、そんな思いは杞憂に終わった。
あまり本を読む習慣のない彼女に、美香子が薄くて写真の多いものを2~3冊選んでくれたので、なんとか「それっぽい調べもの」をすることができた。
その後行った美香子の家は、大きくて綺麗で(ひょっとして、お嬢様なのかな?)その上オヤツまでいっぱい出てくる!2人でいても、話すことがなくて気まずい空気になることもなく、たまにはこういう休みもいいかな~、なんて思えるほど良い気分で過ごすことができたのだ。
「あの3人はあんまりあてにならないから、私たちだけで新聞作る勢いでやらないと・・・『・・・みんなに親しまれています。』っと、よし、書けた」
「美香子まじめ~。私全然終わらないんだけど」
かなえは手元の紙を見やる。調べた大体の内容は書いたものの、もっと長くした方がいいのかまとめた方がいいのか、まったく見当がつかない。
「どれ、見せて・・・ここで区切ればいいんじゃないかしら?」
美香子はかなえの紙を覗き込んで、鉛筆で軽くちょいちょいと印をつけた。
「え、こんな短くていいの?」
「いいのいいの。私たちの記事で2つでしょう?あと男子の記事、3つもあれば十分だと思うわ。字を大きくして、空いてるスペースにイラストでも入れればごまかせるわよ」
「・・・じゃぁ、私もこれで終わりっと」
やった、もう終った~。あ、そこのチョコもらお。それにしても、勉強のできる美香子と一緒にいると、自分も少し賢くなっていくみたい。
「ねえねえ、時間がもったいないね~。まだ2時だよ?できちゃった記事さ、もう清書した方がいいんじゃない?きっと今日中にできるよ」
「そうしたい所だけど、模造紙はカズが持っているのよね」
あ~、あの筒がそうだったのか。
かなえは、昨日の下校時にカズが長い筒を振り回していたのを思い出した。どっからそんなの見つけたのだろうと思っていたけれど、律儀に持って帰ったのね。・・・ということは、今、家に置いてあるはずだ。
「じゃぁ、連絡してみようか~。私、ケータイ番号知ってるから」
「え、誰持っているの?稔?カズ?」
真面目なお嬢様が、意外だと言わんばかりに聞いてくる。
無理もない。この田舎な小学校でケータイ持ってるのなんて塾行ってるコとか、チャラ系のコとかそんな感じ、それほど多くない。当然、生活班にそんなキャラはいない。
「ゆ~や君だよ。あそこン家、心配性だからね~親に持たされてる部類?」
私も『理由:親』の部類だけど、意味合いが違う。甘いか・心配か。どっちがいいのかね、こういうのって。
そんなことを考えながら、裕也君の番号を呼び出した。
「・・・あれ」
「どうしたの?」
一回切って、もう一度かけなおす。
「留守電になってる・・・おっかしーな~いつも繋がるようにしてるって言ってたのに」
※※※