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欣快の至り金曜日1.2


 カズを探す&逃げた犯人を捜すために、稔達と先生、りんね、それに3丁目町内会のオジサン達という総計15人もの大集団で動いていた。

こんなに人数がいるのだから手分して動けばいいのに・・・と稔は思うのだけど、警察も動いているということもあり本気で探す気はないのだろう。


 「なんかさ、ツアー客みたいじゃね?こんなゾロゾロゾロゾロ」

 「ぷくく、なぁにその顔~、稔すっごいサルになってる~」

 「うるさいな。聞けよ」


 かなえに愚痴るのが間違いだった。それにしてもサルはないだろう。なんとなく手で表情を確認していると、横からオジサンが口をはさむ。


 「しゃーないさ。だって単独で行動して犯人に会ったらどうする?この人数いても勝てないかもしれないんだから」

 「そんなに強いんすか」

 「並み居る俺等をちぎっては投げちぎっては投げ・・・」

 「そこだけ聞けば正義の味方みたいなんだけどね~」


その時、遠くの方を歩いていた2人組とその後ろの1人が急に一塊になったかと思うと、バラバラとこちらに向かって走ってきた。大きな塊を両手にかかえ走っている男を追いかけているようだ。


 「お?もしかしてアイツじゃないか?」


 強盗だーという叫び声が聞こえて一団に緊張が走る。こちらに気が付いたのか、犯人はすぐ角を曲がった。2人組も怒鳴りながら横道に消える。


 「奴だ、追え!」


 オジサン達が一斉に男が消えた方へ走り出す。稔もそれに混ざって後を追った。先生が後ろで何か叫んでいるけど、聞こえない聞こえない。

 一気に角を曲がると、男を追いかけていた2人組がただ突っ立って上を向いていた。なんか見覚えがあるような・・・って兄貴じゃねーか!珍しくじっとしてる。その視線の先を追って顔を上げた稔は、それこそ絶句した。


 男が宙に浮かんでいた。しかもなんか光っている!


直立して更に両手を広げているんなら、ある種の威厳があってかっこいいのだが、残念ながら彼はぐるぐる回転しながら手足を大きく動かしてもがいていた。

 ・・・ベルトをはずそうとしているのだろうか?ガンガン叩いたりひっぱったり、必死の表情で手を動かしている。けれど、男の自体めちゃくちゃに回っているので、思うようにいかないようだ。稔は、その真下に茶色い道具袋が投げ出されているのに気が付いた。


 「こら稔、待っ・・・?!」


後から追いついてきた先生たちも、訳もわからずこの状況を見上げるしかできなかった。

だんだん回転が速くなってくる・・・おぉ速い、速い。これ、どうなるんだろうと心配になったころ。


 突如、ぴゅっと豆粒に見えるほど高く飛び上がったかと思うと、大きな放物線を描いて遥か東の方へ飛んで行って(落ちて行って?)しまった。





 「・・・」




 「なんだ、ありゃ」


 しばしの沈黙の内、どこかのオジサンが口を開いた。

バカみたいに空を見上げていた一団はやっと我に返る。どこにでもある住宅街。ついさっきまで怪奇現象が起きていたなんて考えられないほど、あたりは静かで平和だった。


 「・・・おい、清見が丘の方へ落ちてったぞ。追うか?」

 「あの高さからじゃもうダメだわ」「南無阿弥南無阿弥」「いや、一応行ってみるか、警察にも連絡して」

 オジサン達はぞろぞろと丘の方へ動き出した。稔も先生に『自分もついて行きたい』という視線を送ったが、渋い表情で返されてしまう。さすがに、これ以上譲歩するつもりはないらしい。お堅いの!


 「りんねさん?」

 美香子の声に振り向くと、りんねさんが満面の笑みで空を見上げていた。

 「・・・いやぁ、ちょっとね。打ち上げ花火みたいだなーって思って」

 「アレすごかった~!随分豪快に飛んでったねぇ~」


 どっちかっていうとロケット花火だよな、あの飛び方は・・・それはともかく。稔は美香子たちの輪から離れると、さっきから視界の隅でゴソゴソしている人物へ近づいた。

 「兄貴、何やってんだよ、こんなとこで」


 「知らねーよ。ていうか、アイツどこいった!30ぐれぇ言いたいことあんだけど!ったく、せっかく手入れしようと思ってたのに。傷ついてたら弁償もんだぞ!10万以上すんだかんなコレ!」

 うぉ、ご機嫌斜めか。グチグチ騒ぎながら稔兄は、地面に打ち付けられた袋から防具を取り出して一つ一つチェックしていく。


 「ふー、なんとか無事のようだな」


 大体そんな重いモノ持ち歩かないで、家に置いてから遊びにでりゃあいいのに・・・。言葉に出すと後々面倒だから冷ややかな視線で兄の動作を見ていると、兄の友人が思い出したように稔の肩をつついた。


 「そういや、稔。お前の友達に会ったぞ。なんだっけ、カズイ・・・?」

 「お前達、カズに会ったのか」

 「うわ先生?!なんでこんなところにいんの?」

 「いいから!どこで会ったんだ?」


 稔兄と悪友はちょっと考えた後、聞き分けの良い優等生風に明るくハキハキ答えた。


 「そこの角まがった奥の方。そうそうアイツ変な荷物持っていたから、俺達助けてあげたんです、なー?」

 「そうそう。身軽になってすっごく喜んでましたー」


 なんだろう、絶対喜んでない気がする。2人の無邪気な笑顔がとってもアヤシイ。けれど先生はその目撃証言を聞いて安心したようだ。眉間のしわが消えている。


 「どうする?」

 カズを探しに行くべきかどうか迷って、稔は美香子へ問いかけた。


 「とりあえず、犯人は飛んでいってしまったしカズも無事じゃないかしら?カズは缶を持って逃げたと言っていたけれど・・・」

 「花火になった人、缶持ってなかったもんね~」

 「上手くかわして戻ったのかもしれないね。行き違いになったかも」


 一応先生の顔色を見てみると、特に異論はないようだ。


 「・・・じゃぁ、お爺さんの所に戻るか」


 なんとなく疲れを感じて、稔は足をお爺さんの家の方角へ向けた。女子は歩きながら、先ほどの超現象についてキャピキャピ喋っている。主にかなえが。ただでさえミーハーなのに、あんなもん目の前でみちゃあ・・・この先1ヶ月はうるさいだろうな。


 「なんか、腹減った・・・」


 空がゆっくりと赤くなっていく。なんか今日は長かった気がする・・・強盗騒ぎに集団散歩、おまけに変な空中浮遊。裕也やカズ(多分いるんだろ)と合流したら早く家に帰ろう。



 先生が思い出したように足を止め、反対方向へ歩いていく稔兄達へ叫んだ。


 「お前たちも、早めに家に帰れよ」


 「はーい」


 



お読みくださりありがとうございます。


今回の件で、稔たちは振り回されただけっていう、ね。


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