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欣快の至り金曜日1.1


 相も変わらず古めかしい家の中。以前正座させられた時は薄暗く埃っぽかったけれど、今回は、綺麗に掃除された床に、窓をふさぐ板を片づけたのか明るい光が差し込んでいて、あの冷たい嫌な感じはしなくなっていた。

 そして裕也は今、廊下に正座ではなく居間のソファに座っている。時がたてば置かれる状況も変わる、という事だろう。


 居場所は変わるには変わったが、あの時と同じように裕也は困っていた。


 先生は、連絡待つ合間に自分のケータイにかけろって言っていたけれど…相手がロボでは、たとえ電話に出ても話ができないではないか。


 (・・・ん、まてよ?)


 ただ喋らなかっただけで、本当は話せるのかもしれない。なにせ、あんなに人懐こくてかわいいロボットなのだから、その気になれば何か言うのかも。


 声を聞いてみたい。

 億劫だった気持ちが好奇心に変わり、裕也は電話台の受話器を取った。一昔前の黒い電話の受話器はどっしりとした手触りで何か重大な任務を遂行するかのような気分にさせてくれる。



 ジーコロロロロロロロロロロ、ジーコロロロロロ・・・・・・



 「・・・?」


 何も音が聞こえてこないので、裕也は受話器を振ってみた。カラカラと小さな音を立てるだけで、再度耳に当ててもうんともすんとも言わない。受話器置きをガチャガチャやっていると、外から戻ってきたお爺さんが呆れ顔で裕也に声をかけた。


 「何やっとんだ?」


 「・・・あ、あの、コレ・・・電話、使えないんですけど・・・」

 「ん?なんだ、黒電話の使い方も知らんのか。これはな、数字の下の穴に指を入れてこうやって・・・」

 「・・・い、いえ、あの・・・つながらないんです・・・」


 「そんなはずはないだろう。かしてみろ」


 裕也をわきによけて、お爺さんは電話機を逆さにしたりコードを調べたりしていたが、やがて大きく頷いて立ち上がった。


 「なるほど、そうか。長年住んでいなかったからな。電話料金払わないと・・・とはいえ、どのみち黒電話で携帯にかけられないけどな。アナログ回線だし・・・」


 「えぇー、そんなぁ」


 「まぁそんなこともあるさ。そうだ、そこに座っていても暇だろうからちょっと手伝ってもらおうか?」


 そこの袋も持ってついてこい、とお爺さんはもう一つの買い物袋を提げてスタスタ奥へ歩いて行く。反抗するまでもなく、裕也はおとなしく後を付いて行った。


 到着した台所はいわゆる昔ながらの構造で、カベに沿って設置してある流し台は結構小さ目だ。それを補うように、作業・食事両用活用できる大きなテーブルが真ん中にドカンとおいてあった。

 お爺さんは、裕也に座るよう目で促すと、水の入ったボールとジャガイモ山盛りのボールを目の前に置いた。


 「明日には引き払うからな、ご馳走してやろうかと思っとったんだ。・・・まぁ、こんな騒ぎになってしまったが。そら、このジャガイモの皮向いて4分割、芽を取るのも忘れるなよ」

 「・・・はぁい・・・」


 裕也はあきらめまじりでジャガイモに手を伸ばした。


 これでフライドポテトを作ったら、さぞ食べごたえがあるだろう。薄く切ってパリパリにするのも良いけれど、やや厚めに切り分けて外はパリの中ホクホクも捨てがたい。

 もっとも、4分割の時点で・・・お爺さんは玉ねぎと人参を炒めている。カレー作るつもりなのかな。それにしてもコンロにのっかっている鍋のデカいこと。20人分は楽に入りそうだ。




 「時に、裕也」

 「・・・は、はいぃ!」

 突然の名前呼びに、あわてて姿勢を正す。そのひょうしに持っていたジャガイモを落としそうになって両手で受け止めた。皮むき器を握ったままだったから、手にぶつかってちょっと痛い。

 お爺さんはその様子を横目でちょっと見て、言葉を続ける。


 「お前、盗まれた一斗缶に心当たりあるんじゃないか?」


 「・・・あ、あの・・・ありま、せん」


 嘘じゃない。一斗缶 に は 心当たりはない。けれどお爺さんはそんな返事なんかまるきり当てにしていないようだった。特に表情を変えず、フライパンの中身を鍋に移し替えていく。


 「さっき何か言いかけてたろう、別に責めたりしないから言ってみろ」

 「・・・」


 それきり会話が途切れる。裕也が何か話すのを待っているのだろう、お爺さんの料理する手は止まらない。

 それはそうとカレーを作っていると思ってたが、今、鍋に入れたものはなんだろう?なんか豆腐のように見えたんだけど・・・?そうして冷蔵庫から豚の薄切り肉を取出して、何やら茶色い粉をまぶし始めた。匂いからいってカレー粉の様だ。


 このまま黙って料理を見ていても仕方がない。



 「・・・・・・ろぼが・・・」


 思いのほか低い声が出て自分でもびっくりしたが、それが後押しになって、裕也は思いつくままに喋り出した。


 「お爺さんの裏庭にいたロボが・・・さらわれたってメールがきて・・・赤くて丸くって、すごいものだって思うし、価値ないって言ってたけど、あると思う。ボク仲良くなって、けど勝手に庭に入ったからカズ君とか稔君とかにも話せないし・・・本当は謝んなきゃいけないんだけど・・・犯人は、ロボだって知ってると思う。見た目はそんなにかっこよくないし・・・」


 自分でも何を言っているのか、はたして伝わっているのかわからなくなってしまい、やや中途半端に口を閉じた・・・いや、それではダメだ。とりあえずこれだけは言っておかないと。


 「あの・・・ごめんなさい」


 顔を上げると、お爺さんは手を止めて話を聞いてくれていた。 


 「いいさ」


 それから、裕也の前のボールからまだ剥き終っていないジャガイモをとって、ささっと処理した後、すでに四つ切り済みの物と一緒に流し台へと持っていく。


 「お前が知っているロボはいったい何なのか、知りたいか?」

 「はい」


 お爺さんは肉を2~3枚適当に掴むと、クシャクシャにまるめて鍋へ放り込んでいった。その上から、さっき裕也がむいたジャガイモを入れて、水を入れる。肉の玉がプカプカ浮き上がった。「ゆでた感じのが好きなんだ。いいだろう、俺の家で俺が作ってるんだから」お爺さんは言い訳じみたことを言って、ガスに火をつける。強火。


 「あれは、介護用のロボットでな、俺が造ったものだ。一通りの家事はこなせるし力も強い、どんな電気製品も修理できる」


 丁度ひと段落ついたのだろう。2人分の麦茶をついで、お爺さんも裕也の向かいに腰を下ろした。氷がカランと音をたて、グラスが薄らと白く曇っている。裕也は目の前の冷たい麦茶を一口飲んで、そういえばしばらく水分を取っていなかったことを思い出した。


 「お爺さんが創ったの?!すごい!」

 「凄くはないさ。やる気と学ぶ気持ちさえあれば誰でも作れる。時間はかかるかもしれないが。それに、アレはいわゆる失敗作なんだ」


 「失敗?なんで?」


 「ロボにしては人好きすぎるんだ。決められた毎日の仕事、緊急時対処の方法。これだけできれば用は足りる。逆に言うと、他の余計なことは求められていないんだな。

時間にとらわれず話を聞いたり寄り添ったり、規則にとらわれず主人の希望をかなえようとしたり、はたまた、好奇心だけで行動をとったりする事もある」


 「ボク、その方が好きだな。だって用事がないのに一緒にいてくれるのは嬉しいから」

 「しかし、仕事の上では障害になる」


 テレビで案内役のお姉さんロボがニッコリ笑顔で問合せに答えているのを見たことがある。あれは『その場にいて質問に答える』というのが仕事だ。際限なく誰かとおしゃべりしたり気ままに持ち場を離れたりするならば、ロボットを使う意味がない、というのは裕也だってわかる。けどなんというか・・・介護用のロボなら、もっとゆるくてもいいんじゃないかなぁ。

 裕也の納得がいかない表情を見て、お爺さんは言葉を付け足した。


 「バランスの問題だよ、バランス。悪いとは言っていない。

まぁ、まだ完全ではないんだ。子どものようなものだ。もっと色々な人間と触れ合うことができたなら、アレももっと成長するだろう。年齢も性別も問わず沢山の人と接すれば、時間はかかるかもしれないが学習していけるから。

 今の時点では時期が早すぎるから・・・それで、人前には出ないように、敷地内だけで行動するよう言いつけておいたんだが」


 そこで一旦区切って、残りの麦茶を一気に飲み干す。つられるように裕也も自分のグラスに口をつけた。氷がとけて、ちょっと薄くなってる・・・。


 「ま、見つかったのが裕也でよかったよ。ほかの者だったらたちまち大騒ぎになるところだったからな」


 「・・・でも、最初、カズ君達だって見てるはずなんだよ。体に巻きついたまま走ってたし。なんで僕しか気が付いていないんだろう?」


 鍋がコトコトなりだして、お爺さんは立ち上がった。お玉片手にアクを取っていく。


 「リバーシブル、みたいなもんさ。ロボットの形態を知らない者がいる場合、裏返しになって普通のドラム缶の様に変わる。どこにでもある古い缶に。この仕様は苦労したなぁ。だから、裕也がロボットを見れたのも偶然、事故みたいなもん・・・あ」


 ふいに、おじいさんは黙って考え込んだかと思うと、クツクツ笑い出した。お玉を持ったままなので、水滴がシンクに落ちる。

 「思い出したぞ。そういうことか」



 急に笑い出したお爺さんにどう反応すればいいのかオロオロしていると、けたたましいチャイムの音が部屋に響き渡った。かなりの連打だ。しかもドアまでドンドン叩いている。



 「おーい、お爺さーん。いるー?」



 カズ!



 「無事だったのか。開いているから、あがって来い」


 連打するチャイムの音に負けないように、お爺さんが声を張り上げた。

 ガスの火を止めて、テーブルの上に乗ったままの買い物袋をごそごそさせる。と、顔を上げて、裕也に目配せをした。


 「いいな。さっきの話、内緒だぞ」

 「はい」


 ドタバタとにぎやかな足音を立てて、カズが台所へ駈け込んでくる。お爺さんを確認し裕也を見た後、ちょっと表情が柔らかくなった。


 「あ、ゆーやも来てんじゃん。何々、僕が大変な目にあってたのに料理なんかしてたの」

 「カズ君、よかった無事で」



 「お前には大事なシメをさせてやる。ほら、割って入れとけ」

 お爺さんはカレールーの箱を2個、カズへ放り投げた。





※※※※



 気配を消して、足跡も消して、不審者に見えないように。


 注意しながら距離を詰めて、ようやく2人組に追いつくことができた。さて、どうやろうか・・・件の少年は、左肩に袋と棒状のものをひっかけていて、右手にカバンを持っている。紐のかかり具合から見るに、棒の袋を背負った上から茶色の袋をかけているようだ。この順番は目的の物をひったくるにはちょうどいい。どうせ、穏やかに会話して譲ってもらう、なんてできっこないのだから、さっさと強奪するに限る。


 それにしても一時はどうなるかと思ったが、最終的に上手くいきそうでよかった。これで、あの時間渡航機の中の『移動記録』を調べれば、Hajiの隠れ家が掴めるだろう。

じじいの件に関しては知ったことか。どう考えても、こちらの方が実績にハクがつく。


 仕事の依頼もわんさとくるだろう。今でこそ官庁の汚れ役のようなことをしているが、元々自分はネット犯罪専門の探偵である。不景気だからといえ、こんな過去までやってきて、土にまみれ汗だくで走り回っているのはうんざりだ。綺麗な事務所でコーヒー片手にモニター眺めている方が性に合っているのさ。


 まぁ、それはいい。そろそろ始めるか。


 両手を伸ばして袋をつかむと、一気に引き寄せた。持ち主は、歩いているところをいきなり後ろへ引っ張られて、その上、荷物で片腕が自由にきかないものだから、みごとに地面に尻をたたきつける。

 自分はさっさと袋を奪い取ると、元来た道を一目散に走りだした。


 よしっ・・・あれ、なんか重いような・・


 紐を緩めて中を覗こうとしたその時


 「このやろ、返せやコラー!!」

 「ハゲぐぉらあぁあぁ!!」


 後ろから怒声が聞こえて、紐から手を放す。落ち着いてからゆっくり確認すればいいことだ。


 ・・・と、前の方から、大人数の一団がこちらに歩いてくるのが見えた。走る方向を変えようとする間もなく、後を追いかけてくる少年達が口ぐちにその集団に向かって叫ぶ。


 「そこのおっさん、捕まえてー!!」

 「強盗だ、強盗―!!」


 自分はすぐ角を曲がったが、前にいた集団の一部がこちらへ走り出したのがチラリと見えた。この町の道路はほとんど碁盤の目だから、少年達ならなんとか撒けるが、あの集団が加わったら・・・分散して追いかけてこられるとたまったものじゃない。


 目的は果たしたのだから、もう引き上げるか。

本当は、現地人の見えないところでやるべきなのだが、追われている以上仕方がない。


自分はベルト型の時間渡航機のスイッチを入れた。ブゥンと振動が腰に響く。


 「待てって言ってんだろがテメエー!」


 ガキどもの声が近づいてくる。ふん、でももう遅い。自分の体はもう薄っすらとした光に包まれている。目の前で人間が消えるんだ、この時代の奴には理解できないだろうな。魔法とか言い出したりするかもな。


 おや、パチパチと聞きなれない音が聞こえる・・・と思ったその瞬間


 「うわっ!!」


 とてつもなく大きな力で頭上に引っ張られ、自分の体は回転しながら空へ舞いあがった!

 その余りの勢いに、茶色の袋から手を放し、両手で装置を止めようとするが操作を一切受け付けない・・・


 なんだ、どうしたんだ?!


 上に下にと視界がくるくる変わるため、今、上昇しているのか落下しているのかさえも見当がつかない。風が頬を切る感覚だけを最後に、意識が途切れた。





お読みくださりありがとうございます。



以下、駄文



金曜日、長!

次の次(?)『土曜日』で終わりです。必死で短くなるようまとめています。

ただ、爺さん側の話があんまり挿入できていないんですよね。

小学生組にはロボの事情含め一切説明しない予定でしたが

あまりにも爺側の動きが見えないためロボの話だけさせることにしました。

急に料理しているのは会話をさせるためです。

どっちもソファに座って語り合うタイプじゃないし・・・


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