I lost my sense of days.
俺はこの街にはうんざりしていた。
高齢化対策の一環として、一定の年齢になれば必ずこの地区に暮らすこととなった。
もちろん人権問題があるから、それはそれは丁寧に扱われる。病気になっても介護が必要になっても、即座に対応してくれる。孤独死なんてありえない。
(そりゃそうだ!老人が一か所にまとまっているのだから、やり易いのにきまっている)
各人に与えられた家は2LDKのきれいな部屋で、全館暖房・空気清浄器内臓の上、定期的にホームケアサービスが顔を出す至れり尽くせりな環境だ。ここの住人の義務はただ一つ。できる範囲で、この『老人の国(勝手に俺がそう呼んでいる)』の治安維持や運営に協力することだ。とはいえ、町内会程度のものだ。基本的にはのんびり暮らしていればいい。
・・・のんびりか。人によっては天国のようなものだというのだろうな。
アメリカのどこだかの町をモデルにしているらしい…「コクーン」とかいう映画の舞台にもなったんだっけか?忘れた。まぁ、それはいい。
だけど、ここは、ア メ リ カ じ ゃ な い !!!
大体、米国のそれは、お金持ちが自分から進んでそんなシニアライフを送っていた。だからこそ、年齢に関係なくやってやろうという意欲だって湧くんだろう。趣味にアルバイトにと活発に動くものが多いと聞く。
けれど、ここは違う。
半強制的に、老人街に閉じ込められるのだ。思い出の家や慣れ親しんだ町から離されて。
いくつかある老人街にランダムに振り分けられるから、知人とも離れ離れ。ここに来る際に持ってこれるものは、自分専用の介護ロボ1体とトランク2つ分。思い出の品も持ち込めない。収集癖のある人は悲惨だろう。こんな状況で、明るく活発に暮らせる奴は、よっぽどの苦労性か楽天家かどMだ。
何より俺が気に入らないのは、違う年代と会えないということだ。
子供や孫と会う場合は、事前申請をして、街の入り口に設けられた面会所で落ち合う。それだけ。彼らはお爺ちゃん・お婆ちゃんの部屋にすら入ることができないのだ(米国の街では行き来自由。なんでそこもモデルにしないっ)
基本的に若者はケアサービスの人間だけで、彼らも就業時間が来るとさっと姿を消す。そうして、街の外の事務所で、監視カメラごしに中の我々の様子を『見守っている』わけだ。
どこを見ても老人だけ!果たしてこれは『街』といえるのか?社会から隔離されているのではないか?
その昔、「老人ホーム」が「現代の姥捨て山」と揶揄される時代があったらしい・・・それではこの「老人の国」は「老人専用監獄」とでも言ったところか。それとも、動物園かな?
面白みのない日々が続く。どの曜日も変わりはなくカレンダーの数字も意味をなさない。
りんねの話だと「老人の国」の外では、社会情勢の漠然とした不安から、過去の時代へ移住しようとする人々が後を絶たないらしい。何もかも便利になりすぎた現在、あえて不便でも人間らしい生活をしたいという思いが出てきたのだろう。それを手助けするグループも存在するらしい。
「それってね、どうなのかなって思って」
面会所にて、りんねが意味ありげに目配せをする。
表向き、ここには盗聴器などはついてはいない事になっているが、それを信用するほど住人も面会者もバカじゃない。逃げ出したい人間は山ほどいるのだ。
「俺は、知らない過去に住むって気持ちがわからないな」
「だよね。でも、本当にそんな密航グループ、実在するのか怪しいものよ。どこかの町じゃない町にあるんだって。端っこにあるからHajiって言われてるんだって」
「へぇ。厳しい監視をかいくぐってよくやるよ・・・管理局も大変だわ」
「ずっと見張ってるわけじゃないでしょ、交代制で勤務してるの。それが仕事だもんね」
ここまで思い返していて、俺は慌てて時計を見た。
17時28分・・・よかった、丁度いい具合だ。
この時間になると老人街通用門付近に人気はない。通常、17時15分頃に働いていたケアサービスが集まり、住人を門の近辺から追い払ってしまう。そうして30分に彼らも外に出て門を閉じる。
そして今、大部分のケアサービス員が外に出て、最後の1人が周囲の最終確認をやっている。
「今だ、いくぞ!!」
俺とマルダは木陰から一直線に門へとかけだした!
できるだけ門に近い場所で待機していたのだ。遅くても20秒ほどで外に出られるだろう。
「?!」
―と、足がもつれ倒れ込みそうになった俺の服の裾を、マルダが素早くつかむ。
地面の衝突をさけられ、俺もなんとか体制を立て直した。まずい、今ので遅くなったか?!
たった50mかそこらの距離なのに、随分遠く感じる。
後ろを向いていたケアサービスの人間がこちらに気付く。
かまうもんか、そのままソイツに体当たりしてしまえ!!
……バターン……
お読みくださりありがとうございます。
本文にも入れましたが、サンシティは面会に制限はないです。居住するのに年齢制限が有ったはず。
あくまで自由意思で住めるとして、日本でこのような『街』は存続していけるでしょうか?住民自身が自治する街は?初めはブームになるとして…。
個人的には、サンシティとか吉里吉里人のようなミニ独立系は好きなんですけど。
※最後の数行は、半端で終わった同名小説の一部を単語を変えて使用してます。




