プロローグ1
※昨年、書きかけの同名小説を設定変更で書き直したものです。
われらが住む町、仙神町の歴史をまとめ、班ごとに壁新聞を作成する…カズはそういう作業は大嫌いだった。もちろん他の班員もそうだ。どうして学校というやつはなんでも調べさせようとするのだろう。
小学生が調べたって、学術的発見があるわけでもないのに。
「大体、興味ないんだよなー歴史なんて。僕的には宇宙には人間がいるかどうかという事を・・・」
「意味不明なこと言ってないで、何か考えろ!」
ノートにグリグリ落書きしつつ愚痴るカズに、稔がビシリと黙らせた。
そもそも、この宿題が出たのは先々週のことである。その間、カズは全くやる気がないし(こいつ班長なのに!)他の班員も『後ででいいや』とお気楽だったため、稔はずっと一人でやきもきしていたのだ。
とうとう締切4日前(つまり今日だ)、怒りの稔の呼びかけで一同相談する運びとなったわけだが・・・
「もう、時間がないんだよ。土日抜かしたら後2日しかないんだぞ!」
ほとんど悲鳴のような声で稔は叫んだ!壁新聞の清書に1日かかるとして・・・今、何についてやるのか決めてしまわないと、完全に間に合わなくなってしまう。
「いいじゃん、もう諦めようぜ」
「だから、班長のお前が言うな」
それきり話も進まず、誰も声を出さずにたっぷり10分は経った頃、相変わらずの重い空気の中、恐る恐る裕也が口を開いく。
「あ、あの・・・他の班はどんな内容でやっているの?・・・知ってる?」
「体育班は、『どうして牛肉が特産になったか』ってテーマでやるんだって~。新聞班は『ワインの歴史』。町のワイン工場のことや、ワインの品種とか調べてるらしいよ」
かなえがスラスラと他班の情報を話すと、ちょっと意外そうな顔で班長が反応した。
「あ、なんだ、そんな感じのでいいの?僕、本格的なのじゃないとダメかと思ってた。そしたら、ブドウについてやろう。いつワイン用ぶどう栽培を・・・」
「ほとんどパクリじゃねーか」
「えーだって、ワインやるならブドウだって調べるだろ、あいつらに見せてもらえば早く終わるし楽じゃん?」
「真面目にやれ!!」
「あの2人はほっといて、私たち3人で考えましょうか」
先ほどから黙って成り行きを見守っていた美香子が、ため息をついてかなえと裕也の方へ向き直った。
すでに時刻は5時30分。遠くの方で、吹奏楽クラブの練習が聞こえてくる。もうそろそろ、教室の電気をつけた方がいいかもしれない。
「・・・あ、あの、学校が今年創立99年だから・・・」
「小学校の歴史は~文化班がやってるよ」
「それじゃあ、仙神町の名前の由来とかどう?」
「レク班が調べてた。そうそう、飼育班なんかすっごいよ~明治時代から今に至るまでの農作物の分布とか種類をまとめるんだって!」
本格的だよね~と腕をブンブン振り回して、かなえは言った。飼育班には、クラス1勉強のできる石岡がいる。いかにも彼の班がやりそうなテーマだ。
「残りの生活班は・・・あぁ、僕らか。」
「そうだよ、何も決まってないからこんな時間まで残ってるんだ。俺さ、あれほど皆に言ってたじゃん、早くネタ決めようぜって。カズはともかく、かなえも裕也も美香子だってなぁーんも動かないんだもんな。もう知らないからな。俺は悪くない」
「愚痴はいいから、稔もアイディア出してちょうだい」
稔の心からの叫びは、しかし美香子にさくっと流されてしまった。
「もう考えてる。ほら」稔はカバンの中から1枚の用紙を取り出した。
「といっても、去年は何やってたか兄貴に聞いただけだけど」
そこには、去年の5年生が同じ題材で作った新聞のテーマが、10個ほど書かれていた。稔の兄が真面目だからなせる業である・・・念のためにと頼み込んだまではよかったが、このリストから記事書くのなら使用料&手数料としてゲーム内のレアアイテムを2~3個渡す、という約束をさせられたのだ。
そんなわけで、何かしらネタがでるなら出さないでおこうと思っていたのだけど仕方がない。
同じクラスのパクリをして反感買うよりも、俺のレアを犠牲にする方がましだ。
そんな悲しみを知ってか知らずか、班長と班員たちは頭を寄せ合って紙を覗き込んだ。
「へぇ~『現在の橋になるまで』か。確かに何回か建て替わってるよね~」
「・・・あ、この、『清見が丘の変化』って面白そう」
「ありがとう稔。せっかくだし、この中から決めてしまいましょうよ」
「そだね、賛成~」
よかったよかった・・・稔はほっとしてため息をついた。
やることが決まれば、後は記事を書きさえすればいい。内容の良しあしなんか知ったことか。明日の夜には野球観戦に連れて行ってもらうんだから、心置きなく楽しむために余計な心配事はなくしておきたい。
―と、カズがリストの中の1行を指差した。
「お、これいいじゃん。これやろうよ、コレ!」
「どれ、『仙神町の神社・お寺』?ん~なんでコレ?」
かなえの質問に、目をらんらんと輝かせ、班長はとてもいい笑顔で答えた。
「3丁目に古い寺あるだろ。空き家になっているのが。僕、前から気になってたんだよね。ああいうとこってさ、未確認生物とかなんかすっげーモンいそうじゃん?」
なんでやねん!!
「いるか。一人で行って来い。大体そういう意味でリストに入っているわけじゃないぞ」
そんな稔の反論などおかまいなしに、班長は落書きノートを脇に押しやり、身を乗り出して班員に訴える。
「幽霊出たら嫌じゃん。なーなー皆でいこうぜ、皆で行けば絶対面白いって!な?」
「・・・あ、怖いんだ」
「ゆーやは平気なのか?じゃキミ、僕の前でいい?僕は後ろを守るから。後方支援も結構大変なんだよ」
「仕方ないわね・・・」
もう別の案にする気も失せたのだろう、美香子はあきらめの視線でもって稔に向き直った。
「それじゃあ、私とかなえは『町の神社・お寺』関連の記事2~3つ担当するわ。男子3人はその古寺について記事書いて。それで月曜日に、皆あわせて清書ってことでどうかしら」
「古寺に3人もいらないだろ?」
「いるわね」
「・・・」
言外に『探検したいだけのカズを見張ってろ』の意を感じ取り、稔は先ほどとは違う意味でため息をついた。お楽しみの前には苦難を超えなくてはならない。