13.エルフの決意
「大魔王アム。当年とって御年十歳。イントルーダー候国の第三王女。四人兄弟の末っ子。父にして現候王ムトは傀儡。姉のササは十九歳、長兄のクローソーは十六歳、次兄のモブは十三歳」
これだけを聞けば、バランスのとれた家族構成に見える。
「姉のササは魔法使い。長兄クローソーが持つ槍はミスリル製。次兄モブは魔法剣士。三人の姉弟は、三人とも力で魔族の各族長を抑えている。おそらく人間ではあるまい」
「よくそこまで調べたな。……あれ、母ちゃんは?」
「王妃ミヤマ様は、今朝殺された」
ォキナはミカボシの問いに即答した。
ミカボシを始め、モコ助やサーデル達まで目を丸くしている。
「どうやって今朝の話を知り得たか……、不思議でござろう?」
いたずらっ子の目をするォキナ。若い頃は、さぞやんちゃだったのであろう。
「エルフの身分を隠し、人の里に住まわす。人と交わり子をなす。その子は人の社会に溶け込んでおるが、エルフの里に忠誠を誓う、影の中の影……」
ある意味、もっとも恐ろしい事を平気で言うォキナ。すごい目力でミカボシを見つめている。
「……その者、人呼んでハーフエルフ!」
「いや違うだろ! ハーフエルフは……もっと違う存在だろ!」
手にした小枝で地面をペシペシと叩くミカボシ。なんだか悔しそうだ。
「それも言うなら草だな。ワイスとヒックマンに謝れ!」
モコ助の突っ込みが連続で入った。
突っ込みに委細かまわず、居住まいを正すォキナ。正座している。
「ミカボシ殿。我らと共に戦ってくだされ!」
ォキナが頭を下げた。俗に言う土下座である。
両脇に控えていたィナリとムカデ丸も、同じように頭を下げている。いつもの様にすぐに飛びかかれる姿勢ではない。両足を折り曲げた、人にものを頼む姿である。
「雑魚共は、我らダークエルフがお引き受けいたす。イントルーダー三姉弟は、上級エルフのィナリ達が相打ち覚悟でお引き受けいたす。故に……」
ォキナは言葉を切った。こみ上げてくる物があるのだろう。
「大魔王アムを討ち取ってくだされ! 我ら一族の、死にたもうた者どもの敵を取ってくだされっ! 森の正義を取り戻してくだされっ!」
地に額を擦りつけるォキナ。
「息子さんの事かい? 恨みかね? 正義ってなんだい? 悪ってなんだい? オレに頼むのはお門違いだ。召還勇者は、そこのモコ助君だぜ」
天の悪星、天津甕星。にべもない。
「勇者殿のお力を軽んじているわけではありませぬっ!」
激しく否定するその口調。口の端から唾が飛ぶほどに。
「ゲアガ・リングにおいて、4万の兵力で10万の魔族を散々に蹴散らしたその工夫。破壊神メラシーナ様に頼らず、人力のみで二倍以上の敵をものともしなかったその御力。けして、決して侮ってはおりませぬ!」
ォキナの頭頂部しか見えない。
「だがしかし、今度ばかりは人やエルフの力や知恵でどうにかできる相手ではござらぬ! ――お気づきでござろうッ!」
気がつけば、太鼓とベースの音楽が止んでいた。
見渡せば、全てのエルフが頭を地につけていた。
ミカボシは手にした盃を飲み干した。
「不味い酒だ」
そして立ち上がる。
「オレ様が何者か? 知っているか?」
「人を遙かに超えた存在ッ! 悪神・天津甕星殿! ゲアガ・リングの爆炎を儂はこの目で拝見させていただいたっ!」
ミカボシは、手にした小枝で肩を叩きながら、ォキナの背後へと回り込む。
「ララシーナやメラシーナを否定する存在かも知れねぇぜ?」
「力のある者、それが神でござる!」
ォキナの背後からィナリやムカデ丸を見据えるミカボシ。その先のサーデルをも視野に納める。
「戦いの後、ゴンドワナ・ワールドが焦土と化したら、おまえ、どうするね?」
「一心不乱に働いて、元の森を取り戻しまする!」
そしてミカボシが見つめるのはサーデル。ォキナを通り越してサーデルを見ていた。
「元の森ではないぞ。神が創りし森ではない。人が造りし森ぞ? それでよいのか?」
ミカボシの口調が変わった。
「何世代も、何百世代も超えれば、人が造りし森も、神が創りし森を超えるものとなりましょう!」
ォキナが即答した。
「それでよいのか?」
小枝をプラプラさせるミカボシ。同じ事をもう一度聞く。
「望むところ!」
自分に聞かれたと思ったォキナは、二つ返事で答える。
自分に向けられた問いだと感じたサーデルは、決意を目の光りに代える。
「オレ様は正義や悪から最も遠い存在。オレ様は従わぬ神。そして誰からも従われぬ神。やりたいことが正義。やりたくないことが悪。それでも良いなら勝手に付いてこい」
「それでは!?」
「遅れるヤツは放っておく!」
「オオオッ!」
ォキナ、ィナリ、ムカデ丸、そして広場に集まる全てのエルフから感嘆の声が上がった。
「ふんっ!」
小枝を振るミカボシ。風切り音を立てる。
ミカボシの手には一振りの長刀が握られていた。小枝が変化した物だ。
片刃の直刀。握りの部分に豪奢な絹糸が巻かれていた。
「ほらよ!」
ミカボシは、無造作に放り投げた。
「はっ!」
慌てることなく手を出すィナリ。しっかりと柄の部分を受け止めた。
「えーと、天之枝振太刀だ」
今名前を考えた。
「そいつは地獄への片道切符。ふふふ……受け取れるか?」
「喜んで頂戴致します!」
両手で押し抱くィナリ。有り難そうに受け取る。
「切れ味はお前の腕次第。……後でムカデやカタメにも何かやろう」
改めて居住まいを正すォキナ。
「我らエルフ一族、天津甕星様に付き従いまする! どうか、我らを武器としてお使いくだされ!」
「お願い致します!」
全エルフが唱和した。
「ずいぶん柔らかい武器だな、オイ! 武器は自分で作るタイプだからいいや」
ミカボシは茣蓙に腰を下ろした。
「よーし、後は美味い酒とうまい飯を食い続けるのみ! ついでだが、オレは星の神様という扱いにしろ。星の神様がマイブームなんだ」
さっそく骨付き肉を手に取るミカボシであった。
「皆の者! 祭りの続きじゃ!」
ォキナが手を叩いて皆を促す。
言われるまでもなく、肉に食らいつくリーン。ウワバミのように酒を喉に流すフェリス。可愛いエルフの娘を口説きまくるサーデル。
大太鼓が激しいビートで打ち鳴らされ、ベースが乱れ髪のようにかき鳴らされる。
エルフ達は踊り、勝利の歌を歌った。
木々の隙間から宝石をこぼした夜空が見える。
かがり火はいつまでも赤々と燃え盛る。
宴は最高潮に達しつつあった。
「襲撃だー!」
広場の向こう。森の回廊へ通じる方角から叫び声が上がったのだ。
次話「脱出」
脱出するのは森からか、肛門からの何かか!?
襲撃者は、魔族か? 魔獣か?
エルフは略奪者を許さない。
お楽しみに!
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