4.大宴会
オロチ改作戦が終了した。
とたんに、昨夜から、だれ一人として物を口にしていないことに気がついた。
気がついたときには、勇者一行の目の前に、ご馳走が並べられた後だった。
役に立たなかった村の男衆に代わって、村の奥様方が気を利かせて炊き出しを進めていたのだ。
肉家畜として家々で育てられていた兎が供された。
粗塩をよく揉み込んだ兎肉を香草と一緒に蒸し焼きした、原始的な料理だ。
にこにこ顔のミカボシが、肉を豪快に噛みちぎり、旨そうに咀嚼している。
ディーグ村に着くまで、堅いライ麦パンを水でふやかして食べるという食生活が続いていた。そりゃ嬉しいだろう。
油分の少ない兎肉は香草によって臭みを消され、噛むほどに肉の味が口いっぱいに広がっていく。
次に出てきたのは油の滴る豚の丸焼き。
テカテカときつね色に光る表面が食欲をそそる。パリパリとした皮の食感がすばらしい!
貴重な豚の肉、ふんだんに焼かれていた。
真っ白なパンは、小麦で作られている。酸っぱいライ麦パンなどテーブルには乗らない。
余った肉汁をパンに吸わせて平らげていく。
温暖化したとはいえ、北の国である。酒は火の酒、燃える酒。透明になるまで芋酒を蒸留した酒だ。
それは蒸留酒。この村では、命の水=アクアヴィテと呼んでいる。
原液を飲んだらすぐ、水を同量飲む。それがこの地方での正しい飲み方。なぜなら、水を飲んで薄めないと胃を痛めてしまうからだ。
勇者一行、大いに食った。大いに飲んだ。
村人と肩を組んで歌い、大声で冗談を言い合う。
「おーい! 誰か芸やれ、芸!」
ミカボシがアクアヴィテの入った木のジョッキを掲げて何か言ってる。
「一番、リーン」
手を上げて立ち上がるリーン。
「倒れます」
どうと床に倒れ込むリーン。飲み過ぎた模様。ただちにベッドへ運ばれた。
「ちっ! これだから子供は! 二番、天津甕星、イッキ行きます!」
おぶおぶとジョッキを空けていくミカボシ。
口元を拳で拭き取り、どや顔で決める。
酔っ払いから拍手が巻き起こる。
「ミカどんにだけ良い思いはさせねえ。二番勇者モコ助、聖剣を呼ぶぜ! 聖剣よ酒の席に空気読んでからこーい!」
パリパリと煎餅を噛み砕く程度の音を立てて、聖剣が現れた。
「ふっ! これがオイラの――」
「三番、フェリス。聖剣を研ぎます」
しゃこしゃこしゃこ……。
流れる動作で、腰の袋から研ぎ石を取り出し、聖剣を研ぎ出すフェリス。
「あの、フェリス姐さん……」
過去に何があったのだろうか? フェリスは、鬼気迫る表情で一心不乱に聖剣を研いでいる。
声、掛けづらい。
「四番、天津甕星、イッキ行きます!」
んぐんぐとジョッキを空けていくミカボシ。
口元を拳で拭き取り、どや顔で決める。
酔っ払いから拍手が巻き起こる。
「その絵面、ある意味ヤバそうだな……」
モコ助が、細い目でミカボシを冷静に眺めていた。
「五番サーデル。フェリスを寝かせます」
サーデルは、砥石の上でハゲシク動くフェリスの両手を掴みあげた。
聖剣を取り上げられてもカクカク動いているフェリスをつれて、リーンの隣へ転がした。
怯えていた村人の間から拍手が起こった。
「六番、天津甕星、イッキ行きます!」
おぶおぶとジョッキを空けていくミカボシ。
口元を拳で拭き取り、どや顔で決める。
酔っ払いから拍手が巻き起こる。
「だからその絵面はヤバイっつってんだろ!」
モコ助がミカボシに噛みついた。
昼から始まった宴会。日が沈む頃には静かになった。
村の男衆すべてが酔いつぶれ、累々と体をなげうつ部屋。だがそこにミカボシとモコ助の姿はなかった。
二人はというと、村長宅の屋根の上でのんびり並んで腰掛けている。
なぜそんなところにいるのか? 単に、沈みつつある夕日が綺麗に見える場所がここだったからだ。
太陽の反対側から、十六夜の月が顔を出した。
「こうやって月を見ていると、ツクヨミのガキを思い出すなぁ。しょっぱい子供だった」
「ミカどんよ、月読様と知り合いなのかね?」
「ああ、つい先だって、ドンパチやらかしたトコだ。オレ様の圧勝だったがな! もうちょっとで宿敵アマテラスに手が届くとこだった。吸血鬼と口の減らないガキに邪魔されていなければ!」
「吸血鬼ね、はいはい、その時も酔ってたんだな。まあいい、ミカどんよ、この世界、見たところ太陽は一つだ。月も一つだし、律儀に月イチで満ち欠けしている」
「そうだな」
「ミカどんよ、……この世界に神はいるかね?」
「……メコ助、三日月はよ、なんでミカヅキって呼ばれているか知ってるか?」
「モコ助な。ナニ話変えてるかな? ……まあいい、そりゃ新月から数えて三日目の月だからだろうぜ」
「なんで三日目じゃなきゃならねぇんだ? 古代日本人の観測技術で、二日目と四日目との区別ついてたのかね?」
「何だ、ミカどん。ミカヅキって三日目の月じゃないってことかい?」
「これは秘密なんだが、古代日本語でミカってのは、身が輝くって意味なのさ。沈みゆく太陽と代わるようにして輝くから身輝月と呼ぶ。……なにも三日目の月って意味じゃねぇ。ほら、三日月は太陽の側でしか見られないだろ? 満月は太陽の反対側にしか現れないだろ?」
「……なるほどね。ミカヅキ、ミカボシ、よく似た語呂だ」
「あ、ストップ! ちょっと喋りすぎた!」
「宵の明星ってのは太陽が沈む直前から出てくるよな? まるで太陽を蹴落とすかのように。おまけに惑星だから不気味に見えたことだろうよ」
「ああ、いい夕日だ」
「もう沈んだぜ。ミカヅキしか見えねえぜ」
「メコ助よ」
「モコ助な。なんだいミカどん」
「この世界に神はいる」
「……ほう!」
「それからな……」
「なんだい?」
「ミカどん言うな!」
これは、我らが勇者モコ助(犬)達の熱きマイソロジーである!
「暑いけど、勇者南へ」編、終了。
次回より「ヴェクスター公国」編がはじまります。
大規模戦争勃発か? 勝利の鍵は「フェリス」
しばらくの間、生暖かく待て!




