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1.イノさん、帰還!

「我を崇めよ! そして敬え!」http://ncode.syosetu.com/n0614bc/

の続編的位置づけです。


その前のお話が「ファーストコンタクト」

http://ncode.syosetu.com/n8627bk/

全てはここから↑始まった!


「我を崇めよ! そして敬え!」をご一読頂ければ、より一層面白いかとw。

 町はずれにある小高い丘の中腹で奇跡的に開けた土地。そこに黒岩神社はある。


 神社の周辺は、森と呼んでも差し支えない立派な原生林が乱立している。見ようによっては、パワースポット。言ってしまえば、原初的な風景。人によっては、納涼お化け大開を開催したくなる場所。


 神社には、身の程にそぐわないまでの、大きな神殿がどんと居座っている。護摩たき兼、とんど用の加持場には、黒い焦げ跡が目立つ。広いだけが自慢の境内は、氏子達の努力により保たれている手入れされた砂利が、綺麗に敷き詰められている。武家の時代には書物に現れている、そんな古いだけが密かに自慢の神社。


「おーい! 誰かいるか!」

 黒岩神社の古びた本殿を壊さんばかりの大きな声がした。

 ブラック・レザーの上下を着込んだ大男が、これまた背の高い女を肩に担いでいた。


 この男、目つきがとても悪いのだが、なぜか瞳が澄んだ青。チックで固めたオールバックの髪が後ろに長い。

 やけに胸板が厚く、肩幅も広い。引き締まった腹部も相まって、見事に逆三角形の体型。黒革の上下姿が、漫画から飛び出したかの如く似合っている。

 主人公の後ろで「フッ!」とか言って、クールに解説する役がピッタリなキャラである。


 そんな大男が焦りも醜態も隠さず、声を張り上げながら神社本殿の引き戸を開けた。


 中は、四~五十人は集まれる、ちょっとした講堂になっている。本殿はテンプレ通り、南向きに作られた祭壇があった。この祭壇、神社の外見に比べ、立派な作りになっている。


 本殿の板の間には、二人の人間と一匹の座敷犬がいた。

 何らかの祭事が終わった直後なのだろう、二人の内、一人は巫女装束のままの少女。


 年の頃は十六歳。あと二年もすれば驚くほどの美人に成長する。

 ただ、残念なのはやや黒目が小さい事。全体に目が大きいので、白目対黒目の比率がそぐわなくなっているだけなのだが。

 華奢な体につやつやの黒髪。ショートヘアーなのが、実に似合っている。


 もう一人は、やせた中年のオヤジ。人の良さそうな細い目を持っている。少女の父親である。神官服の上に安物のベストを羽織っていた。


 そして犬。

 モコモコでココア色をしたテディベアカットのトイプードルが、少女の膝で甘えていた。


「おい、いたなら返事しろよ!」

 長い犬歯を剥き出して、大男が吠える。


 少女はいやな顔丸出し。

「返事したところでやっかい事が無くなるわけでなし。あんた誰よ?」

「私の名は国津神、タケミナカタ――」

「あー聞きたくない聞きたくない!」

 少女は両耳を手でふさぎ、目をつぶって頭を振った。

「いや、聞けって!」

「どうせなんかやらかしたんでしょ? 神様がらみ事件でしょ? 聞きたくないの!」

「なんで?」

 でかい図体にそぐわず、情けない顔をするタケミナカタ。


「背中に背負(しよ)ってる一夜越しのカップ麺みたいに伸びまくってるの、一ヶ月まえあたしがつけたペンネーム常陸イノリ。本名、天の悪星・天津甕星(アマツミカボシ)でしょ?」

「あ、ああ、正解だ。……てか、イノさんの正体知ってるあんた誰だ?」

「あたしの名は志鳥(しとり)(しずく)。志鳥家の長女にして退魔業者。こいつがいると事故ばっか起こるんで困ってる者よ!」

「そ、それは確かに……、いや、いやいやいや! そんなことより大変なんだよ! イノさん大怪我して危険な状態なんだよ!」

 タケミナカタは、イノさんをどさりと床に投げ出した。


 意識不明のイノさん。

 茶色がかかった短い髪。前髪が変な切り方でダンチになっている。銀の棒ピアスが片耳で揺れている。変な柄のTシャツに変な色の綿七分スパッツ。やたら背が高い女だ。

 そんなのが、だらりと四肢を投げ出してノビていた。


「こないだ八岐大蛇促成養殖型と戦ったところじゃない。なにやって――」

 雫が言葉を無くした。


 イノさんの後頭部から赤黒い液体が染みだしてきたのだ。

 茶色い髪の毛が、真っ赤に染まっていき、床の赤い色の面積が広がっていく。


「おをぉぉ! イノさんしっかりしろわたしゃぁどうすりゃいんだ!」

 頭をかきむしってうろたえるタケミナカタ。

「雫! 177番だ! 救急車だ! 救急箱だ!」

「お父さん、落ち着いて。それとミナカタさん、こいつ何と戦ってこうなったわけ? 波動砲でも喰らったの?」

 天津甕星に対してだけは絶対的なまでに冷静な雫であった。


「ルーマニアから来た吸血鬼だ。人狼も一緒だ」

「ふーん」

 指で眉毛を整える雫。狐に眉の毛の数を読まれて化かされない為の工夫である。あからさまに疑っている。

 小さな鼻先をクンクン鳴らして、イノさんの匂いをかいでいる可愛いトイプードルという絵が牧歌的だった。


「いや、狐に化かされたんじゃないって! 本当だって!」

 眉をハの字にし、両腕に力を込めるタケミナカタ。

「あたしが怪我を治してあげましょう」


 雫はそう言うなり、祭壇へ大股で歩いていく。そして、黒岩神社ご神体である諸刃の剣を手にした。

 鈍い銀光を放つ諸刃の剣。手入れが行き届いてよく切れそうだ。

 イノさんの枕元へ戻ってきた雫。

 逆手に持ちかえた御神剣に(しゆ)を込める。すると、剣身が黄色く光った。


「ふん!」

 そして無造作に突き降ろす。

 ゴロっと転がるイノさん。握りの部分まで深々と床に突き刺さる、霊験あらたかな破邪の剣。


「何しやがるかな、このアマ!」

 元気なイノさんがファイティングポーズを取っていた。

 髪の毛に赤い色素は見られない。床に広がっていた染みも、今はない。


「イ、イノさん!」

「ふふふ、無敵のミカボシ様が、コンクリブロック後頭部直撃くらいで――」

 イノさんの黒目が、くるりと後ろへ回転した。俗に言う白目を剥く、という症状。

 イノさんは、糸の切れたマリオネットのように倒れ込んだのであった。






 天津甕星(あまつみかぼし)。それは、(まつろ)わぬ神。


 天孫降臨のおり、天津神平定軍に屈しなかった、唯一の神。

 高天原より派遣された建御雷(タケミカヅち)經津主(フツヌシ)という二柱の軍神は、豊葦原中つ国の長者・大国主命、その長子・事代主(コトシロヌシ)、次弟・筋肉ダルマ建御名方(タケミナカタ)を一蹴した。

 二神は、天津神に(まつろ)わぬ国津神はもとより、草や木、石のたぐいまでも成敗し、地上界の悉くを平定しつくした。


 ただし、天津神軍は、星神・天香香背男(アメノカカセヲ)こと、悪しき神・天津甕星だけを、どうしても平定する事ができなかったのである。


 この話、古事記――一つの流れとして記述された物語――には語られていない。

 なぜか、日本書紀――本文の他に様々な異伝を記載している、古代史研究書の匂いがする官撰正史――でのみ語られる話。それもたった数行のこと。


 日本書紀は、芦原之中つ(にほん)の征服者である天津神サイドの勝手な歴史書なので、この不祥事を完全に消し去ってもよかろうものなのに、わざわざ書き記した。


 後世に残したのである。


 これはいかなる事であろうか?


 無敵の天津甕星討伐の為、高天原より使わされたのは、武神でも軍神でもない。何故か文化系、織物の神である倭文神(しとりがみ)建葉槌(タケハツチ)だった。


 結果、落ち着くところに落ち着いたのだが、決して平定された(成敗。または殺された)とは書かれていない。

 「祭祀」した。または、「天に上がった」と表現されている。言葉が素直ではないのだ。


 織物の技術を供与する事で和睦・取り込む事に成功した。さすが和の国よと、解釈する説もある。それを否定する根拠を見つけられない。だから否定はしない。




 ここに不思議がある。

 織物の神・タケハヅチは「建葉槌」と書く。だが「武刃槌」と書けば軍神の意味になる。「槌」は元々が破壊するの意。

 漢字の無い時代。音読みでのみ伝えられる時代。書き記したのは侵略軍。

 この、奥歯に物の挟まったような記述。


 重ねて言う。これはいかなる事であろうか?

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