秘密5
「どうだ、信じられない話だろ。でも俺の身の上に起こった事実なんだ」と直人はニヤッと笑って言った。
「運よく俺たち母子は父の負債を引き継がずに済んだから、それからは母子二人きりで幸せに暮していたのさ」
そう言うと直人は突然苦い顔になった。
「でも、本当にそれだけのことなのだろうか?他にお袋が隠していることがあるに違いないんだ」
そう言って「じゃあ、今日はここまで」と言って直人は去っていった。
「一家心中」という重々しい言葉が僕の心に刺さった。僕はもう生きることに失望し、死んでもいいと思っている。でも自殺したいとまでは思わなかった。ただ消えてしまえばいいと思っただけだ。それも誰かを道ずれにしたいなんて絶対に思わないだろう。
直人の父親は家族を道ずれとして、この世を去ることを望んだ。でも直人も直人の母親も死にたくなかったのだ。なんて人生は複雑なんだろう。だた、僕みたいな人間を病気にしてくれた神様にお礼を言いたいほどだった。直人の父親も神様が不治の病にしてしまえば良かったのか?そう頭の中でぐるぐると考えが浮かんだ。
直人は何故、そんなことを親しくも無い僕に話したのだろう。僕が人形のように何も意見もせずに、無関心に聞いてくれるからだろうか。しかも、僕が近いうちに死んでしまえば、話したことは全て消えてしまうのだ。だからこそ直人は話し相手として、僕を選んで話しをしていくのかも知れないと思った。
僕の病室にはもう精気がみなぎったひまわりは無い。無機質のがらんどうの病室になっていた。がらんどうの僕にぴったりの場所になったのだが、直人の存在、いや、直人の話の結末だけが、今の僕の生きる意味のたった一つの理由になっていた




