秘密2
この病気は、じわじわと僕を蝕んで弱っていることも日に日に実感しているし、近い将来、命を落とすのだろうと容易に予想できたが悲観よりもむしろ安心したものだった。
僕の気持ちを知った人がいたとしたら、きっと不思議に思うだろうが、嘘ではなく本心なのだ。
ただし、直人に出会ってから、直人の話の結末を聞くまでは、生きていたいと思うようになっていた。
直人は大学の同級生だった。たびたび講義で一緒になったが、たいした会話も出来なかったのを覚えている。一言二言、言葉を交わした程度だった。直人の仲間が「なおと」と声をかけているのを聞いて、彼の名前は直人であることを知った。
その直人にある日、病院で再会したのであった。僕はその日、比較的、体調が良かったものだから、病院の売店で雑誌などを物色していたところに、直人が何かを買いにやってきたのだ。僕はパジャマ姿でいたものだから、直人は僕が入院患者であることがすぐ分かっただろう。
「おう、田中君じゃないか」と直人は声をかけていた。直人は訃報があったのか、黒い喪服で着ており、ネクタイははずしていた。病院で喪服は良くないのかと思っているのか、病院の中でも喪服を隠すように上着を脱いでいた。
「君が入院したのは知らなかったよ。大学で見かけないと思っていたら」と直人が尋ねてきた。
「ああ、病を患ってね」と僕はいつものように言葉少なく答えていた。
「俺はお袋がこの病院に入院していてね、週に何回かはここに来ているんだ」と直人は話した。
「そうなんだ」
「そのうちに、田中君の病室にも、顔を出すよ」
「いいよ」と直人の快い提案にも、直人の顔も見ず、雑誌を選びながら、拒絶をしていた。
「そんなこというなよ。今度行くからな」
直人はそう言い捨てて、その場を去っていた。
そのときは直人が本当に見舞いに来るようになるなんて思っていなかった。




