秘密1
夏の暑い、暑い日だった。
僕は病院のベッドの上で、ぼんやりと、ベッドサイドのひまわりを見つめていた。ひまわりは昨日見舞いにやってきた母親がいけたものだった。だが、鮮やかな黄色がこの病人にとっては目に痛いほどだった。しかし、殺風景な病室とあっては、このひまわりだけが、精力に満ちたものであり、その他の物は無機質な物体でしかないのだ。
僕の病室は他一名の同室であるが、この隣人も身体が弱っているせいか一日中、ベッドの周りのカーテンを閉めて会話をすることはない。
音がするとしたら、空調のざわざわした音と、時々廊下を歩く看護師の足音しかないのだ。
静かなのは嫌いではない。僕はいつだって静かな場所に独りいた。
元来、話すのが得意ではない。得意ではないのは、話すことだけではなく、生きていく上での人間関係全てにおいてだった。
僕は幼い頃から独りでいることを好んだ。学校に通っていても周りの同級生に気の利いたことをすることは一切無かった。よくよく人生を振り返ってみたら、人にものを尋ねることでさえ、要領を得なかったし、尋ねられても、きちんとした返事をすることができなかった。しゃべり方もぼそぼそと小さな声で話すものだから、授業中に先生に叱られることもあった。また、異常なほどに不器用だったから、工作も出来なかったし、子供たちの遊びの輪に入ることが出来なかった。当然、そんな子供に友達なんて出来るはずも無く、いつも一人ぼっちだった。
でも学校のペーパーテストは人並み程度に点数が取れていたから、奇跡的に大学に進学することができた。
でも大学に入っても、相変わらず友達は出来なかった。そんな自分に失望をするものの、自分の性格はもはや変えることが出来ないほど凝り固まって自分を形作っていた。
このまま人生を過ごしていてもろくな就職口が見つからないことも目に見えていたし、一体どうしたものかと思案していたときに、僕は難しい病気にかかっていることが分かった。
今までの僕の人生は何だったのだろうと思案もしたが、反面このまま生きていく自信がなかったものだったから、ほっとしたのも事実だった。




