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異世界の動物園に丸裸で展示されてるんですけど!? シリーズ

美人エルフ飼育員、ナターシャの追憶

掲載日:2026/09/30

きらきらと輝く魔法の光の粉が舞う、美しいエルフの森。


周囲では色鮮やかな小鳥たちが、彼女の恋を祝福するように美しい声で歌い奏でていた。


遠くに見える白壁のお城を背に、純白のたてがみをなびかせた白馬がゆっくりと近づいてくる。


乗っているのは、非の打ち所がない優しき黄金の髪の王子様だ。


王子様は白馬から優雅に降り立つと、彼女の前でそっとひざまずき、まるで世界で最も価値のある宝物を見つめるような瞳で囁いた。


「さあ、共に行こう。我が愛しのナターシャ」


スッと差し出される、白く滑らかで美しい右手。


ナターシャは胸のトキメキを抑えきれず、夢見心地のまま細い指先を伸ばし、うっとりとその手を取ろうとした——


その瞬間だった。












王子の顔が、ぬるりとハダカザルこと冴えないおじさんの佐藤創太のニヤケ面に変貌した。











「え……?」










困惑と恐怖でフリーズした瞬間、


その美しい世界が音を立てて崩壊し、夢から覚めた。


◇◇◇


時は遡る。





これは私が初めてハダカザルと出会った、「運命の日」の出来事だった。





◇◇◇


佐藤創太(サトウ・ソウタ・39歳)は、足元に浮かび上がる巨大な魔法陣の中にいた。


淡い光。


複雑な幾何学模様(きかがくもよう)。


(間違いない。これは小説でよくある異世界召喚ものだ……!転移したのか!)


胸のワクワクが止まらない。


胸のドキドキが収まらない。


ついに自分にもテンプレ展開が訪れたのだ。クソみたいな満員電車とサビ残の日々におさらばして、剣と魔法の世界へ。


周りを見ると、人間以外の種族の2人が、何やら深刻な顔で話している。


言葉は分からない。


(定番の魔王討伐か?王様やお姫様はどこだろう?期待と興奮が止まらない。これから大冒険が始まるんだ!)


しかし、創太が期待に胸を膨らませている一方で、召喚室のオオカミ主任とトカゲ係長の間では、会社の存続を揺るがす大パニックが起きていた。


彼らが展開しているのは、地球(異世界)から主に動物を召喚することに成功し、人気を博している「異世界動物園」ビジネス。


いつも通りの流れ作業で、地球の動物を召喚していたはずだった。


ところが、出てきたのは





――人間。





「おい係長! この個体、服を着てるぞ……!?」


オオカミ主任がトカゲ係長を怒鳴りつけるように指をさす。


「恐らく野生動物ではないですね……知性体かと思われます」


「知性体だと……!? どうする!? 上に報告するか!?」


トカゲ係長が頭を抱える。


「もし本社の役員たちに『会社の利益にならない』と判断されたら……恐らく、処分されてしまいますよ」


「しょ、処分……!? 異世界から召喚されて処分されるだと!? 可哀想過ぎないか? そ、そうだな、しれっと元に戻そう」


「バカなことを言わないでください。異世界に戻す方法なんてないんですよ」


主任は何とかしてやりたいと思った。


「じゃあ国に保護してもらうのはどうだ!?」


「それこそ処分でしょう。一体誰の予算で保護するんですか?この会社がやらかしたポカなのに、国が税金で面倒を見てくれるわけがありません!」


「そ、そうだったな……。仮に保護してくれたとしても、もし今後もこんなことが続いたら、異世界召喚事業自体が法律で全面禁止されるだろうな」


「そうなると、うちの会社は終わりですよ」


オオカミ主任は言葉に詰まった。係長の言う通りだ。


よし、主任は呟いた。


「逃すか」


「はぁー、そもそも、うちが国から異世界召喚を許可された時の条件を忘れたんですか?【召喚対象を外に放すのは一頭たりとも厳禁】なんですよ。もしコイツを外に逃がしたなんてバレたら、その時点で営業停止、一発で終わり(倒産)ですよ!」


彼らにとって、この人間は会社を倒産に追い込みかねない恐怖の爆弾だった。


だが、そこでオオカミ主任がふと目を細めた。


「待てよ。一応、念のため言葉が通じるか確認してみるぞ。もし話が通じるなら、こいつはただの動物じゃない。新しいビジネスのネタになって、会社の大きな利益になるかもしれん」


「そうですね、確率は低いと思いますが話が通じるなら……」


オオカミ主任は創太の前にドカドカと一歩踏み出し、偉そうな態度で問いかけた。


「おい、お前。俺たちの言葉が理解できるか?」


そんなこととは露知らず、創太は完全に「チートな主人公妄想モード」に入っていた。小声で「ステータス」とか「大いなる精霊よ」とか「ウォーターボール」とか何やらぶつぶつ呟くのでいっぱいいっぱいになっていた。


ハッと我に返る。偉そうな態度をした狼の獣人が、自分に何かを聞いている。


創太は精一杯の丁寧な対応を心がけ、笑顔で頭を下げた。


「すみませんが、お言葉が分かりません」


異世界の言葉は一切分からない。だが、誠意は伝わるはずだ。ペコペコと何回もお辞儀をした。


その様子を見て、オオカミ主任はあからさまにガッカリした顔になり、トカゲ係長と顔を見合わせた。


「……チッ、やっぱり言葉は通じないか」


「ですね。妙にペコペコ頭を下げて鳴くだけの、ただの珍しい生き物です。話が通じないとなると、仕方ありませんね」


二人の顔に、フッと諦めの顔が浮かび、やがて悪い顔に変わっていった。


「処分は残酷、外に放すのも禁止、言葉も通じない、ビジネスにも使えない……となると、やるべきことは一つしかないな」


「ええ。これは知性体ではなく、ただの『ちょっと小綺麗な動物』です。そう割り切りましょう」


トカゲ係長は伊達メガネをクイッと上げて、さらに続けた。


「会社にとってもコイツにとっても、動物園で展示されて暮らす方が、処分されるよりはよっぽど幸せでしょう。外に放り出しても規約違反で我々が困るだけですし、コイツだって言葉が通じず行き倒れるだけですから」


「違いない。住む場所と食事は保証されるんだ。むしろ処分の運命から救った俺たちに感謝してほしいくらいだな」


完璧な自己正当化を済ませた二人が、ニヤリと冷酷なアイコンタクトを交わす。


何やら最終決定が下されたようだ。


創太のワクワクとドキドキは最高潮に達する。


(いよいよ、王様との謁見か!?)


ところが。


その時、創太が顔を横に向けた瞬間、視線の端に誰かがあるのに気がついた。


召喚室の後方の隅に、静かに佇む一人の女性がいた。長い銀髪が光を柔らかく反射し、透き通るような白い肌。切れ長の瞳は淡い翡翠(ひすい)色で、耳は長く尖っている。完璧に整った顔立ちは、まるで絵に描いたような美しさだった。


創太の首は、まるでねじ切れるかと思うほどの勢いで、そのエルフの方を向いた。


(……え? あの人、エルフ……? めちゃくちゃ綺麗……)


創太の心臓が一気に高鳴る。


魔王討伐も冒険も、今はそんな事はもうどうでもよかった。


あの綺麗なエルフに見とれ、思わず口が半開きになり、顔が緩んでデレデレしてしまう。


エルフの女性は、その熱っぽい視線にすぐ気がついた。


翡翠色の瞳が冷たく細められ、低い声で吐き捨てるように呟く。


「……フン。コイツ、発情してるわね」


創太にはその言葉の意味が全く分からない。


ただ、彼女の冷たい口調と、明らかに軽蔑を含んだ視線だけが突き刺さり、一瞬で背筋が凍りついた。


それでも、綺麗なことに変わりはなく、視線を外せずにいる。首は相変わらず真後ろを向く勢いのままだ。


オオカミ主任が女性の方へ振り返り、命令を下した。


「ナターシャ、拘束魔法を頼む」


「……了解」


ナターシャが淡々と詠唱を唱え、杖を軽く振る。


(あの綺麗なエルフさんはナターシャと言う名前なんだ。ん、何だ。魔法か?あの流れは、ナターシャさんが祝福の魔法をかけてくれる?!嬉しい!)


だが次の瞬間、淡い光の鎖が創太の手足を絡め取り、動きを完全に封じる。


冷たく、容赦のない拘束魔法だった。





「え?」


「あ、あれ……?」





そのまま頑丈なケージに押し込まれ、馬車で動物園へと輸送される。


抵抗する間もなく、着ていたお気に入りのスーツを脱がされて、裸にされ、冷たいコンクリートのバックヤードへと放り込まれた。


ガチャン!と重い鉄格子が閉まる。


(え……?王城の客間……じゃなくて、ここ、飼育小屋……!?)


すっぽんぽんのまま、藁が敷いてあるだけの冷たい床に座り込む創太。


異世界に転移してきたのに、定番の神様からの説明も無い、チートスキルも無い、そして、剣と魔法の世界に来たのに魔力も無いときた。


ただのおっさんが、

人間が存在しない、

異なる種族が暮らす獣人の世界に、

ただ、転移しただけだった。


頭の片隅には、まだあの綺麗なエルフの冷たい視線だけが残っていた。もちろん、言葉の内容は一切分からないままで。


◇◇◇


頑丈なケージから容赦なく押し出され、通路を歩かされた。鉄格子の扉が開くと、創太はよろめきながら光の中へ足を踏み出した。


(……なんだ、この場所は?)


そこは人工的な岩場と数本の枯れ木が配置された、見覚えのある空間だった。


そう——日本の動物園の猿山だ。


外からは、モフモフした獣人たちが、物珍しそうに自分を見ている。


ハッとして、すぐに手で股間を隠した。


(え?なになに?フルチンはきついんだけど)


困惑する創太の視線が、隣の似たような展示スペースに留まった。そこにいたのは——見慣れた赤ら顔に、茶色い毛並み。


(あれは……ニホンザル……!?)


日本の動物園で何度も見た、紛れもない地球の猿だった。


その奥のエリアには、だらけた様子で笹を齧るジャイアントパンダの姿も見える。


(間違いない……。ここは異世界の『動物園』だ。地球から召喚した動物を展示している。そして俺は……展示物として檻に入れられたんだ……!)


チート能力も大冒険もない。ただの展示動物。完璧に理解した瞬間、強烈な絶望感が創太を襲った。


咄嗟に逃げ出そうとしたが、外との境界にある見えない壁にぶつかり、派手に転がった。


「いてっ、何だこれは? 魔法か!?」


ガラスも柵もない。


だが、よく見ると半透明な淡い青の魔法陣のような壁——結界魔法が、逃亡を完全に不可能にしていた。


観客の子供たちが、全裸で転がった創太を指さしてケラケラと笑う。


惨めだった。


理不尽にも異世界に召喚され、

理不尽にも服を脱がされ、

理不尽にも動物園にぶち込まれた。


どうやら定番の異世界転移でよくあるチートも無いみたいだ。


だが、創太は39歳のアラフォーだ。クソみたいな理不尽と戦い続けてきた元社畜である。四つん這いのまま、彼の瞳にふっと奇妙な光が宿った。


(待てよ……。ここは動物園だ。ビジネスなら、資本主義のルールが通用するはずだ)


日本の動物園を思い出す。


客を呼べる花形スターになれば、待遇は跳ね上がる。冷暖房完備の個室や、美味い飯が与えられるはずだ。


(もし俺が圧倒的なトップスターになれば、待遇も良くなる。ゆくゆくは言語も覚えて、ここから出してもらおう……!)


絶望の沼から、一筋の希望の火が見えた。


元々の性格が楽観主義でマイペースの創太は切り替えが早かった。


(よくよく考えてみれば、煩わしい仕事から解放されて、のんびりスローライフをエンジョイ出来るのでは?)


まずは何とかお股を隠さなくては恥ずかしすぎる。とりあえず岩山の陰に隠れ、大量に積み上げられている藁を使って即席の藁スカートを作った。我ながら上手くできたな、と満足する。


動くたびに、自作の藁スカートがカサカサと音を立てる。


カサカサ


カサカサ


その時、ガチャンと音がして、ナターシャから展示スペースに「食事」が差し入れられた。鉄製のボウルに入った水。見た事もない果物と野菜。ピチピチ跳ねる生の魚。うっすら青い血が浮き出た生の肉。そして、脱穀前のモミ殻がついたままの米。





「…………」





「無理だろ……」





アラフォーの胃袋で生肉や生魚を食べたら、間違いなく寄生虫か食中毒で腹を壊す。米も生で食べるのは厳しい。


——この異世界において、米とは主に家畜に与える餌であり、知性を持つ獣人たちが口にするような代物ではなかった。


創太は覚悟を決めて、すくっと立ち上がった。


展示スペースにある一本の枯れ木に駆け寄り、バキッと細い枝をいくつか折る。


これできりもみ式火起こしだ!


床の上で猛烈に木の棒同士を擦り合わせ始めた。


「ハァッ、ハァッ、ナメるなよ……!俺のサバイバル能力を!」


全裸の男(藁のスカート有り)が、必死の形相で木を擦り合わせる。


「なんだあいつ?」


観客達がざわつき始めた。


◇◇◇


——気づけば、すっかり夕方になっていた。


ふと見上げると、異世界の空は、息を呑むほど鮮やかなピンク色に染まっている。燃えるような夕焼けが、ゆっくりと夜の闇に飲み込まれていく。傾いた太陽の光が、数本の枯れ木の影を長く引き伸ばし、結界の檻の中へと冷たい影を落としていった。


体力の限界は——


——とうに超えていた。


手には潰れたマメが——


——あちこちに出来ていた。









その時だった。





木屑の奥から、細く、頼りない一筋の煙が立ち上った。


創太は息を止め、壊れ物を扱うようにそっと乾草を添え、祈るように優しく、優しく息を吹き込んだ。

小さく爆ぜる音が響く。


次の瞬間、赤い小さな、だが力強い炎がパッと弾けた。


ゆっくりと、焚き火に火が灯る。


あたりは、厳かなほどの静けさに包まれていた。


創太の頬を、熱い一筋の涙が静かに伝い落ちる。チート能力も大冒険もない。だけど、自分の知恵と力だけで、この世界の理不尽に一矢報いたのだ。胸の奥から突き上げるような、圧倒的な達成感だった。


静寂を引き裂くように、結界の向こうから、誰かが小さく手を叩く音が聞こえた。





パチ、



パチ、パチ、


パチ、パチ、パチ、パチ……。


その音は一つ、また一つと徐々に増えていき、やがて地鳴りのような、激しい拍手と喝采となってこだました。


「おい、あいつ……今、火を生み出したぞ……!」

「なんて気高く、美しい野生の証明なんだ……!」


感動に震え上がった異世界の住人たちが、一斉に魔導携帯(スマホ)を掲げた。


パシャパシャパシャパシャパシャ!!!


無数のフラッシュが夜の展示スペースを照らし出す。それはまるで、創太の頭上に広がった満天の星空のように、目も眩むほどの輝きで彼を包み込んだ。


「よし……。火はできた。あとは、この肉と魚を……!」


創太が涙を拭い、意気揚々と生の魚と肉を手に取った、その時だった。


背後から、重い鉄格子が開く音が響いた。


「ガチャン」







「――よく頑張ったわね、見直したわ」


(?!)


振り返ると、そこにいたのは美しい銀髪のエルフ


――ナターシャだった。


背後からの美しい夕日をバックに浴びて、彼女のシルエットは息を呑むほど神々しい。


ナターシャは、創太の起こした焚き火の炎を見つめ、それから創太の涙の跡を静かに見つめた。その翡翠色の瞳には、もう軽蔑の色はなかった。あるのは、ひとりの誇り高き生き物への、心からの敬意だった。


ナターシャはそっと胸に手を当て、夕日のなかで、優しく感動的なスピーチを静かに語り始めた。


「言葉も通じず、服すら奪われ、外の世界から切り離されてなお、お前は尊厳を失わなかった。自らの知恵で闇を照らし、火を灯してみせた……。お前のその強き魂に、私は今、深い敬意を表します」


その神々しいエルフの姿と、音楽のように美しい声、まるで壮大な映画のエンディングのような感動的なシーン。


だが、創太は異世界の言葉は全く分からない。


お腹を「グゥゥ〜」と情けなく鳴らし、完全にポカンとした顔で首を傾げていた。


(……え? ナターシャさん、夕日バックにめちゃくちゃ良いこと言ってそうな雰囲気だけど、マジで何言ってるか1ミリも分からん、ちょっと今は忙しいと言うかこらから食事なんだ。ちょっとだけ待っててくれるかな?)


ボケっとしてる間にナターシャはテキパキと動いた。


せっかく長〜い長〜い時間をかけて起こした火は一瞬で消され、手に持っていた肉と魚は問答無用に回収され、食料のトレーはあっと言う間に下げられた。


(は?今日一日かけて起こした火なんだけど?手もマメが潰れるほど頑張ったのに?)


(えええーーーぇ?ていうか、閉園時間だからって、 嘘だろ? まさかの時間切れ!?ちょっ、これからが本番なのに。 俺の肉や魚がぁああー。まだ今日は何も食べてないんですけどぉぉぉおー。)


(ニクガァァァァァァァァァァ!!)

(サカナガァァァァァァァァァ!!)


創太の心の悲鳴が夕空に溶け、消された焚き火から細い煙が昇る。銀髪を夕陽に染めるナターシャは、檻の中の男を静かに見つめていた。


翡翠色の瞳に宿る、かすかな光。


言葉は届かずとも、彼女は男が灯した火の意味を胸に刻む。背を向け去っていくナターシャの記憶の中で、その小さな炎は永遠に燃え続けるのだった。


◇◇◇









――と、これが私とあのハダカザル様との初めての出会い、最低で最高な『運命の日』の記憶だ――







The End & To Be Continued...

本編への導入として、本編の1話と2話で短編を作りました(少しアレンジを加えています)。


【異世界の動物園に丸裸で展示されてるんですけど!? 〜「お、おい見ろよあれ……」自炊と奇行でなぜか爆バズり中! 快適スローライフですが服だけ下さい〜】


続きは本編の2話の最後からつながるようになっています。


また、冒頭のシーンは、シーズン2の後半に登場する『白馬の王子様』(未投稿)のエピソードのものです。


いずれ、ナターシャの過去やオオカミ主任とトカゲ係長の名前が出てこない訳(わけ)などを書く予定です。

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